賃貸人から賃貸物件を売却したいので立ち退いて欲しいと言われたとき、立ち退きを要求された賃貸人は素直に立ち退くケースが多いでしょう。
しかし、実は賃貸人が賃貸物件を売却する行為だけでは、賃借人を立ち退かすことはできません。
ただし、売却する理由によっては立ち退きを認められるケースもあります。
本記事では、どのような売却理由なら立ち退きを認められてしまうのか、立ち退き料の相場、立ち退きをしなければならないときの交渉方法などを解説します。
この記事を最後まで読み進めて頂ければ、どのような売却理由の場合に立ち退きしないといけないのかを理解することができ、いざ立ち退き要求交渉をするというときの知識を得ることができます。
目次
賃貸人が賃貸物件から賃貸人を立ち退きさせるには、正当事由が必要になります。
正当事由とは、賃貸人に立ち退き要求をするに十分な理由のことです。
この正当事由が認められることにより、賃借人を立ち退きさせることができます。
一般的に物件を売却するだけでは、正当事由に該当しないとされています。
物件を売却する理由まで明確にされている必要があり、この売却する理由によっては正当事由が認められることがあります。
ここからは、物件を売却するときに正当事由が認められたケースと、認められないケースを紹介していきます。
遺産分割をするための売却の場合は、正当事由と認められることがあります。
遺産分割とは、亡くなった人が遺言を残さなかったときに相続者全員で共有した財産を、話し合いで分配する行為のことです。
相続税が課税され、その相続税を支払うための売却の場合は、正当事由と認められることがあります。
実際の事例でも、相続税の大半が相続したビルの評価であったときに、このビルを売却するための立ち退きを認めたという判例があります。
借金返済をするための売却の場合は、正当事由と認められることがあります。
ただし、このケースでも立ち退きが認められなかったことはあります。
認められなかったケースでは、以下の条件が重なり、裁判で正当事由がないとされました。
高く売るためだけに立ち退きを要求した場合は、まず正当事由としては認められません。
賃借人の賃貸物件に住む権利は、借地借家法により認められています。
そして、この借地借家法の権利は強いため、よほどの理由がなければ正当事由にはなりません。
そのため、ただ単に高く売るために賃借人を立ち退きさせることはできません。
賃貸人が賃貸物件を売却しなくても、立ち退きの正当事由が認められるケースがあります。
ここからは、売却以外で立ち退きの正当事由が認められるケースを紹介していきます。
建物が老朽化し住み続けることが危険な状態にある場合に、建物を建て替えるなどの理由で立ち退きを要求するときは、正当事由が認められることがあります。
ただし、建物の老朽化は築年数が古くなっただけでは正当事由と認められません。
耐震性がまったくなく、大地震が起きたら建物が崩壊するなどの危険性が必要となります。
そのため、建物が老朽化しても耐震補強がしてある賃貸物件や、建物構造がまだしっかりしている場合には正当事由と認められにくくなります。
賃貸物件に住んでいる賃貸人に介護の必要性が出て、賃借人を退去させたところに介護のための家族が住む場合には、正当事由が認められることがあります。
賃貸人に賃貸物件以外の住まいがなく、どうしても賃貸物件で介護を受けるために立ち退きさせるのが妥当であるなどのケースです。
逆に、賃貸人に賃貸物件以外の住まいがある場合、正当事由が認められにくくなります。
売却による立ち退きで受け取ることができる立ち退き料相場は、家賃の5ヶ月前後です。
その理由を、実際にシミュレーションで計算していきます。
立ち退き料は、賃借人が立ち退くにあたり必要な費用を補填する役割があります。
そのため、次のような費用は立ち退き料として補填されます。
立ち退き料の目安を計算するときには、上記金額を算出し合計します。
立ち退き料で補填される費用が分かったので、次に実際どのくらいの立ち退き料がもらえるのか計算してみます。
【シミュレーション例】
※家賃の差額は2年間補償で計算
自宅と新居の賃料の2年分の差額を計算
(新居の家賃9万円 – 自宅の家賃8万円) × 24ヶ月 = 24万円
自宅と新居の敷金の差額
新居の敷金9 万円 – 自宅の敷金8万円 = 1万円
計算した項目とすべての項目を計算すると、以下のようになります。
そして、計算した金額に迷惑料や慰謝料を気持ち程度追加した金額が、立ち退き料になります。
この迷惑料や慰謝料が多額になるかどうかは、賃貸人の正当事由の強弱により変わります。
一般的には計算したとおりの、家賃約5ヶ月分が立ち退き料となります。
立ち退きする賃貸物件が店舗やオフィスの場合は、立ち退き料の計算が住居のときとは変わります。
店舗やオフィスを立ち退く場合の立ち退き料計算方法は、次のとおりです。
立ち退き料 = 工作物の補償費用 + 動産の移転補償 + 借家人の補償 + 移転のときにかかる雑費補償 + 営業を休止することへの補償
計算式のように店舗やオフィスへの立ち退き料は、各店舗などの営業状況などによって変動します。
一般的な立ち退き料計算方法がないため、店舗やオフィスの立ち退き料交渉をするときは、必ず弁護士に交渉代行依頼をして進めるようにしましょう。
立ち退き料交渉を行うときには、交渉を成功させるコツがあります。
ここからは、立ち退き料交渉を成功させるコツを紹介していきます。
立ち退き交渉をするときには、冷静に対応しながら進めていくことが大事です。
立ち退き要求をされたときには、感情的になってしまう場合があります。
しかし、交渉をするためには冷静でいる必要があります。
賃貸人も賃借人と同様、揉めたくはないと考えているため、冷静に交渉を続けていくことにより話し合いが解決する可能性が高くなります。
また、感情的に話をしてしまった結果トラブルに発展してしまうと、明け渡し訴訟や調停などを起こされてしまうこともあります。
明け渡し訴訟や調停などを起こされると、出廷などの手間がかかり、非常に面倒なことになってしまいます。
立ち退き交渉では、交渉をして賃借人に有利な条件を引き出します。
有利な条件を引き出すためには、立ち退きをする条件を付けることが簡単な交渉方法です。
交渉をするにあたり、有効になる譲歩案は次のとおりです。
立ち退き交渉で上記のような項目を提示し、立ち退き料受領以外にも自分に得となる条件を賃貸人に認めてもらいます。
賃貸人はトラブルなく立ち退きを完了させたいと思っているため、あまりにも無理な交渉ではない限り認めてもらえることでしょう。
立ち退き交渉をするにあたり、最もよい方法は弁護士に交渉を代行してもらうことです。
立ち退き交渉をするには、まず賃貸人に正当事由があるのかどうかが大切になってきます。
しかし、一般個人では正当事由があるのかどうか、なかなか判断することができません。
正当事由があるか判断することができなければ、賃貸人が提示してきた立ち退き料が適正価格なのかも分かりません。
そのため、適正な立ち退き料を受け取るためには、弁護士に交渉代行を依頼しないと難しいということになります。
また、弁護士に交渉代行を依頼すると、賃貸人側が無駄な交渉をしてこなくなるため、交渉がスムーズに終わることもあります。
自分自身で交渉しようとすると、相手側も自分に得な条件を引き出すためにこちらの足元を見てくる可能性があります。
弁護士に交渉代行を依頼することにより、無駄な時間もストレスも省くことができるようになります。
立ち退き要求が成立するためには正当事由が必要となるため、賃貸物件を売却する理由によっては立ち退きをする必要があるのか、また受け取ることができる立ち退き料が変わってきます。
そのため、どのような売却理由であれば正当事由が認められやすいのか知っておくことが大切です。
また、立ち退きをしなければならないときも、自分に効果的な条件を引き出すように立ち退き交渉をしていきましょう。
立ち退き交渉をするときには、冷静に対応しつつ、退去することを条件に自分に得が多い内容を引き出すようにしていくことが大切です。
ただし、立ち退き交渉は非常に難易度が高い交渉のため、できる限り弁護士に交渉の代行を依頼する方がよいでしょう。
弁護士に代行依頼をすることにより、スムーズに交渉が進み、満足いく結果になる可能性が高まります。