賃貸物件からの立ち退きを求められた場合、引っ越し費用や損失を補填するための立ち退き料を請求できます。
貸主との立ち退き交渉は専門的な知見が必要になるため、弁護士や法テラス、公益社団法人などの窓口で相談しましょう。
弁護士に立ち退き交渉を依頼する場合、相談料や着手金、成功報酬などの費用がかかります。
弁護士費用は、固定額の報酬や経済的利益に応じた報酬など弁護士によって基準が異なるため、依頼前に確認が必要です。
ここでは、立ち退きを求められたときの相談窓口や弁護士に依頼するための費用などを解説します。
目次
立ち退き交渉の代行とは、弁護士に立ち退き料の交渉を本人の代わりに行ってもらう方法です。
立ち退き交渉は専門的な知識や経験が必要なため、自分で交渉するケースは少なく、一般的には弁護士に依頼します。
不動産会社が立ち退き交渉の代行を行う場合もありますが、法律上、立ち退き交渉は弁護士のみが行える行為です。
弁護士法には、弁護士以外が法律行為をし、報酬を業として受け取ってはいけないと規定しているためです。
不動産会社が無報酬で立ち退き交渉をした場合も、仲介手数料などで間接的に対価を取得しているときは弁護士法違反になる可能性があります。
正当事由とは、借主に契約違反がないにもかかわらず、賃貸借契約を終了させてもやむを得ないと認められる理由です。
借地借家法では「借主の保護」を原則としており、貸主から一方的に契約の解約や更新の拒絶はできず、正当事由がなければなりません。
たとえば、次のような事例が正当事由に該当します。
上記の理由があり、さらに次のような事情も含めて、総合的に判断されます。
立ち退き料が支払われるケースは、次の通りです。
上記のケースに限らず、ほとんどの判例では一定の金銭的補償をしなければ正当事由と認められていません。
特に借主が店舗営業をしている場合、別の場所で営業を再開できるまでさまざまな損失を被る可能性があります。
立ち退き料には借主の損害補填や慰謝料としての意味があり、貸主と借主の利害を調整する方法として用いられてきました。
貸主から立ち退きを求める必要性が弱い場合、相応の立ち退き料の支払いが正当事由として認められる条件となります。
原則として立ち退き料は必要ですが、次のようなケースでは不要です。
たとえば、
借主に家賃の滞納や無断転貸などの契約違反がある場合、貸主は賃貸借契約を解除できます。
定期建物賃貸借とは、契約上の期間が満了すると確定的に賃貸借契約が終了する制度です。
建物が極端に老朽化し、倒壊など重大な危険がある場合、正当事由として認められた事例があります。
この事例では、現況の確認により、単なる老朽化だけでなく倒壊による周囲への危険があるために正当事由と認められました。
通常、次のような流れで立ち退き交渉を行います。
貸主からの立ち退きが必要となった理由の説明後に、正当な立ち退き料がいくらになるか調査を行いましょう。
住居の場合、引っ越し先の家賃と引っ越し費用をもとに交渉します。
店舗営業をしている場合、営業上の損失補填となるため金額はケースバイケースです。
交渉がまとまったら、金額や支払時期などを合意書にまとめます。
立ち退きの相談窓口は、以下の通りです。
それぞれの窓口について見ていきましょう。
弁護士は法律トラブルを解決するための専門家です。
貸主から立ち退きを要求された場合、どう対応したらよいかわからないケースもあるでしょう。
弁護士に相談すると、貸主への対応やトラブルの解決方法などのアドバイスをもらえます。
弁護士事務所は、インターネットや日弁連のHPで検索できるほか、法律相談を実施する行政機関が紹介してくれる場合もあります。
立ち退き交渉代行の実績が豊富であり、親身になって相談にのってくれる弁護士に依頼しましょう。
法テラス(日本司法支援センター)は、国民の法的なトラブルを相談するための窓口として国が設置した機関です。
無料の法律相談や、経済的な事情で弁護士費用を用意できないときの立替払いなどを実施しています。
利用するための条件として、収入や資産が一定以下であり、勝訴の見込みがある案件でなければなりません。
個人的な感情による報復目的など、法テラスの趣旨に反する案件は利用の対象外です。
同一の無料相談は3回までの制限がある点にも注意しましょう。
次の公共社団法人では、立ち退きに関する無料相談ができます。
公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会(ちんたい協会)
ちんたい協会は賃貸住宅経営に関する豊富なノウハウがあり、賃貸トラブルの無料相談窓口を設置しています。
回答は一般的な商習慣の情報提供にとどまるため、専門的な内容は弁護士に相談しましょう。
「無料相談のご案内」(安心ちんたいコールセンター)
東京共同住宅協会
立ち退き要求を含む全国の賃貸トラブル全般の相談を無料で受け付けています。
専門の資格を保有した相談員が対応してくれるのが特徴ですが、あくまで中立的な立場からの回答になります。
「協会へのご相談」(東京共同住宅協会)
弁護士に立ち退き交渉代行を依頼する理由は、以下のように代行依頼するメリットが多いためです。
本章では、弁護士に立ち退き交渉代行してもらうメリットを詳しく紹介します。
契約解除や更新を拒絶する理由が常識的に納得できる事情であれば立ち退き料が少なくなり、納得しづらい事情であれば立ち退き料が多くなります。
正当事由の内容が立ち退き料の金額に影響するため、正当事由の強弱の判断が非常に重要です。
しかし、一般個人が立ち退き交渉をする場合は正当事由の強弱を判断しづらいでしょう。
賃貸人からの立ち退き料提示額をそのまま受け入れてしまう場合も少なくありません。
弁護士に立ち退き交渉代行を依頼すれば、正当事由を判断してもらえる、適正な立ち退き料かどうかがわかります。
立ち退き交渉は賃貸人だけでなく、賃借人にとっても大きな問題であり、交渉には相当の負担がかかります。
もし立ち退き要求をされたら、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。
以下のように弁護士に代行依頼をするデメリットも一部あるため、把握した上で依頼する必要があります。
ここからは、立ち退き交渉を弁護士に代行してもらうデメリットを見ていきましょう。
弁護士に依頼するとより、賃貸人の態度が硬化して大きなトラブルに発展してしまう可能性もあります。
交渉は対応する人の立場や雰囲気、話し方などによって、交渉がスムーズに進む場合もあれば、スムーズに進まない場合もあるでしょう。
弁護士が交渉現場に現れると、賃貸人は賃借人が立ち退き交渉する意思を持っていると考えます。
賃貸人の態度が硬化しやすくなり、紛争になっている場合は激化してしまう恐れがあります。
もともと紛争に発展していないケースでは、賃貸人も態度が硬化する可能性は低いため、すでにトラブルになっているときの注意点と考えてください。
立ち退き交渉を弁護士に依頼すると、弁護士費用が発生します。
弁護士費用にはさまざまな項目があり、どの項目でどのくらいのお金が必要か知っておくのが大切です。
弁護士費用については、次章で詳細に解説します。
弁護士に立ち退き交渉代行を依頼したときの一般的な弁護士費用は、次の表のとおりです。
費用項目 | 金額目安 | 備考 |
---|---|---|
相談料 | 30分5,000円~1万円 | 弁護士に法律相談するときの費用 事務所によっては初回無料などを実施している場合がある |
着手金 | 定額の場合や経済的利益の割合 | 定額か利益の割合かは弁護士事務所による 割合も弁護士事務所の規定による |
成功報酬 | 経済的利益の割合 | 弁護士事務所ごとに割合は異なる |
実費 | 弁護士が支払った金額 | 交通費や書類のコピー代、切手代、書類郵送費用、裁判で必要な印紙代など |
弁護士費用は立ち退き交渉代行を依頼する事務所によって異なるため、依頼する前に確認しておきましょう。
立ち退き交渉の代行を任せる弁護士を選ぶ際は、以下のポイントをチェックしましょう。
それぞれのポイントについて解説します。
立ち退き料の交渉には、法令や裁判例の調査が不可欠です。
弁護士に依頼する際、立ち退き交渉に精通した弁護士を選ぶと、不当に低い立ち退き料を提示された場合に根拠を持って対応できます。
不動産取引の内情を熟知し、専門的見地から対処してくれる弁護士に依頼するようにしましょう。
弁護士事務所によっては、初回相談を無料で実施しています。
弁護士の対応によって、受け取れる立ち退き料や解決までの期間が大きく変わる可能性があります。
立ち退き交渉は長期間にわたるケースもあるため、依頼した後の弁護士による対応の柔軟性も重要であり、初回相談時に確認しておきましょう。
弁護士に相談するときは、あらかじめ事実関係や経緯がわかる書類などを用意して正確に伝えるのが重要です。
たとえば以下のような情報を提供すれば状況を正確に伝えられるため、的確なアドバイスを受けやすくなります。
具体的には、賃貸借契約書や重要事項証明書、貸主から受領した立ち退き通知書などを持参するとよいでしょう。
立ち退き交渉には専門的な知見が必要になりますが、一般的には立ち退き料の算定や交渉には慣れていない方がほとんどでしょう。
立ち退き料の相場や妥当な金額がわからないと、本来もらえる立ち退き料より大幅に減額されてしまう可能性があります。
立ち退き交渉は時間や手間がかかるケースが多く、貸主との関係によっては冷静な話し合いが難しい場合もあるかもしれません。
貸主から通知を受けた後、時間が経過すると関係の悪化などより状況が悪くなる可能性もあるため、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。