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立ち退きの正当事由|築年数はどこまで考慮される?判例一覧で解説

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。イギリス(ロンドン)出身。
立ち退きは、人生という演劇における「幕間のセットチェンジ」のようなものです。次の新しいステージへスムーズに、かつ最良の状態で進むためには、適切な準備とプロフェッショナルによる調整が欠かせません。
私は都内の大規模・中堅法律事務所で培った高度な法的知見を活かし、居住用から事業用まで、数多くの「立ち退き料増額交渉」や「建物明渡し」の問題に取り組んできました。
「どれくらいの金額が妥当なのか」「いつまでに明け渡すべきか」といった不安に対し、法律の専門家として明確な見通しをスピーディーに提示いたします。皆様が正当な権利を守り、納得して次の一歩を踏み出せるよう全力でサポートいたします。ぜひ一度ご相談ください。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

立ち退きにおける正当事由は、双方の使用の必要性や賃貸借の経過、建物の現況(築年数など)、補償内容などを総合的に考慮して決定されます。立ち退き料に納得できない場合には、弁護士に相談して増額交渉を行うべきです。正当事由が認められるかどうかを適切に判断するため、築年数に言及した判例一覧を紹介します。

この記事でわかること

  • 建物の老朽化(築年数)が正当事由の判断にどこまで影響するかがわかる
  • 立ち退きの正当事由で築年数に言及のある判例の詳細を知れる
  • 立ち退きの理由に納得できない場合の対処法がわかる

老朽化や築年数の経過を理由に立ち退きを求められ、「古い建物なら出ていかなければならないのか」と不安を感じている人も多いでしょう。

賃貸借契約では、契約期間が満了しても当然に退去義務が生じるわけではなく、立ち退きを求めるには借地借家法上の「正当事由」が必要です。築年数は重要な要素の一つですが、それだけで直ちに正当事由が認められるわけではありません。

本記事では、築年数が正当事由に与える影響や判例の傾向、退去理由に納得できない場合の対処法を弁護士がわかりやすく解説します。

立ち退きにおける正当事由とは?

立ち退きにおける「正当事由」とは、貸主が建物の賃貸借契約を終了させるために必要とされる、法律上の合理的な理由をいいます。居住用建物の場合、借主は生活の本拠を守る必要があるため、法律は借主を強く保護しています。そのため、貸主が「契約期間が終わったから」「建物が古くなったから」という理由だけで一方的に退去を求めることはできません。

正当事由の有無は、借地借家法28条に基づき、貸主と借主それぞれの建物使用の必要性、賃貸借の経過、建物の利用状況や現況、さらに立ち退き料の提示内容などを総合的に考慮して判断します。つまり、単一の事情ではなく、複数の要素を積み重ねたうえで、最終的に契約終了が相当かどうかを検討します。

立ち退きの ”正当事由” が認められやすい事情

  • 建物の老朽化が進み、耐震性や安全性に重大な問題がある
  • モルタル落下など具体的な事故が発生し、危険性が顕在化している
  • 修繕では対応困難で、建替えの必要性が高い
  • 貸主側に強い使用必要性(自己居住・再開発計画など)がある
  • 建替え・再開発計画が具体的かつ実現可能性が高い
  • 借主の居住・営業期間が比較的短い
  • 相当額の立ち退き料(引越費用・営業補償含む)を提示している
  • 代替物件の提供など十分な補償措置を講じている
立ち退きの ”正当事由” が認められにくい事情

  • 築年数が古いだけで、具体的な危険性が立証されていない
  • 修繕や補強で安全性を維持できる状況にある
  • 貸主の建替え計画が抽象的で実現性が不明確
  • 借主が長年居住・営業し、生活や事業の基盤となっている
  • 高齢者や転居困難な事情がある借主である
  • 賃料の滞納や契約違反がなく、適正に利用している
  • 立ち退き料が低額で、補償が不十分
  • 貸主側の使用必要性が弱く、単なる収益向上目的にとどまる

正当事由に関する5つの判断基準|借地借家法28条

建物の賃貸借契約を終了させるための「正当事由」は、借地借家法28条に基づき、複数の事情を総合的に考慮して判断します。条文上も、特定の一要素だけで決まるものではなく、以下の事情を総合評価する枠組みが採られています。

双方が建物の使用を必要とする事情

まず重視されるのは、貸主と借主のどちらがどの程度その建物を必要としているかという点です。

たとえば、貸主が自己居住のためにどうしても建物を使用する必要がある場合や、建替えを行わなければ安全性に重大な問題がある場合には、貸主側の必要性が強いと評価される可能性があります。

一方、借主が長年居住し、他に代替住居を確保することが難しい事情がある場合には、借主側の必要性が強いと判断されやすくなります

単に「使いたい」という抽象的な理由では足りず、具体的・現実的な必要性があるかが問われます。

建物の賃貸借に関するこれまでの経過

契約締結から現在に至るまでの経緯も重要な判断要素です。

賃貸期間が長期にわたり、借主が継続的に賃料を支払ってきた場合には、借主の信頼は強く保護されます。反対に、契約更新時に将来的な建替え予定が説明されていたなどの事情があれば、貸主側に有利に働くこともあります。

また、過去に更新拒絶の通知がどのように行われたか、誠実な協議がなされたかといった点も評価対象になります。

建物の利用状況

建物が実際にどのように使用されているかも考慮されます。

借主が適切に使用しているのか、無断転貸や用途違反がないかといった事情はもちろん、長期間空室状態であるかどうかなども影響します。居住用建物で安定した生活の拠点として利用している場合には、借主保護の必要性が高いと判断されやすくなります

利用状況は、形式的な契約内容ではなく、実態に即して評価されます。

建物の現況

建物の老朽化や耐震性の問題など、物理的な状態も重要な要素です。

築年数が相当程度経過していることは一つの事情ですが、それだけで直ちに正当事由が認められるわけではありません。実際に安全性に問題があるのか、修繕による対応が可能か、建替えの必要性がどの程度切迫しているかといった具体的事情が検討されます。

賃借人への補償内容(立ち退き料・代替物件の提供)

貸主が提示する補償内容も重要です。

借地借家法28条は、金銭の給付などの条件を考慮要素として明示しています。立ち退き料の額が相当か、引越費用や営業損失への配慮があるか、代替物件の紹介がなされているかなどが判断材料になります。

他の要素だけでは正当事由が弱い場合でも、十分な立ち退き料を提示することで、総合判断の結果として正当事由が補完されることがあります。もっとも、補償を提示すれば必ず認められるわけではなく、あくまで総合評価の一要素にすぎません。

建物の老朽化(築年数)は正当事由の判断にどこまで影響する?

建物の老朽化や築年数は正当事由の判断において重要な要素ですが、それだけで直ちに立ち退きが認められるわけではありません。築年数は正当事由の判断基準のうち「建物の現況」に関わる事情の一つにすぎず、単独では決定打になりません。

たとえば、築40年・50年を超えている場合でも、適切に修繕が行われ、安全性に問題がない建物であれば、老朽化を理由とする正当事由は弱いと評価されることがあります。反対に、耐震性に重大な問題がある、雨漏りや構造劣化が深刻で大規模修繕では対応できないといった事情があれば、建替えの必要性が強く認められる可能性があります。

裁判例では「老朽化している」という抽象的な主張だけでは足りず、具体的な劣化状況や改修費用の見込み、建替え計画の実現性などが検討されています。単に「築年数が古い」という理由のみで更新拒絶を行った場合、正当事由が否定されるケースも少なくありません。

築年数はあくまで判断材料の一つです。実際にどの程度影響するかは、建物の具体的な状態や他の事情とのバランスによって決まります。立ち退きを求められた場合には、「築◯年だから仕方ない」と自己判断せず、法的な枠組みに照らして慎重に検討することが重要です。

立ち退きの正当事由で築年数に言及のある判例一覧

ここでは、「一般財団法人 不動産適正取引推進機構 RETIO」がまとめている、正当事由に関する主な裁判例を紹介します。判例の詳細や正当事由に関するほかの判例も確認したい方は、RETIOのウェブサイトで確認してください。

【立ち退きの正当事由で築年数に言及のある判例一覧】

判決日概要
東京地判令和3年12月14日築50年超のアパートの貸主が、借主に対し、建物の老朽化、以前に賃貸契約が終了することに合意したことを正当事由として、立ち退きを求めた事案において、家賃6カ月分の立ち退き料を支払うことを補完的事由として立ち退きが認められた事例
東京地判令和2年2月18日築後45年を経過し老朽化したアパートに係る、賃貸人の賃貸借契約解約申入れについて、正当事由の補完として立ち退き料100万円をもって認容した事例
東京地判令和元年12月12日築後57年を経過した木造平屋建て戸建住宅に係る、賃貸人の賃貸借契約終了・建物明渡請求について、賃借人には自己使用の必要性があり、老朽化による建替の必要性も認め難いとして、正当事由が認められなかった事例
東京地判平成30年8月28日築40年超のビルで飲食店を営む借主に対し、貸主が建物の老朽化およびホテル建設計画を理由に立ち退きを求めた事案において、当初は補修可能として正当事由が不十分と判断されたものの、その後にモルタル落下事故が発生し耐震性の悪化も確認されたことから建物の危険性が具体化したとして正当事由が認められ、営業補償を含む約2億円の立ち退き料の支払いを補完的事由として明け渡しが認められた事例
東京地判平成26年7月1日近接する自己所有ビルの一体開発を目的として、建築後約40年を経過した都心ビルを購入した賃貸人が、本件ビルの賃借人に対し、建物の老朽化、再開発、自己使用等の必要性及び立ち退き料の申出を正当事由として、賃貸借契約の解約、建物の明渡しを求めた事案において、賃借人の自己使用の必要性につき、十分な金銭的補償がなされれば移転は可能であるとして、適正な立ち退き料提供を条件に建物明渡し請求を認容した事例
東京高判平成24年12月12日建築後約40年を経過した建物の所有者である賃貸人が、賃借人に対して、賃貸借契約の解約申入れには正当事由があるとして、立ち退き料の支払と引替えに明渡しを求め、一審がその請求を認めたため、賃借人が控訴した事案において、賃貸人の解約申入れには正当事由がないといえ、立ち退き料の給付申出によっても正当事由は補強できないとして、原判決を取り消し、賃貸人の請求を棄却した事例
東京地判平成24年11月1日賃貸人が、貸室賃借人及び占有会社に対し、明渡し及び賃料相当損害金支払を求めた事案において、竣工後50年以上を経ており、老朽化が相当に進行し、耐震性の点でも危険性を否定することができず、耐震補強を行うには相当の費用がかかり、不利益を一定程度補うに足りる立ち退き料を支払うことによって、正当事由が補完されるとして、311万円余の支払を受けるのと引換えに、明渡しを認めた事例
東京高判平成12年3月23日築後40年を経過した共同住宅の、建て替え等を理由とする賃貸借の解約申し入れにおける立ち退き料の額を巡って争われた事案において、いわゆる借家権価格によって算出することは相当ではなく、引越料その他の移転実費と転居後の賃料と現賃料との差額の1〜2年分の範囲内の額が移転資金の一部を補填するものとして認められるべきであるとされた事例

引用:建物賃貸借に関する紛争 - (1)契約 - 契約の解除・解約申入れの正当事由・立退交渉|一般財団法人 不動産適正取引推進機構 RETIO

立ち退きの理由に納得できない場合の対処法

貸主から立ち退きを求められても、その理由に疑問を感じるケースは少なくありません。築年数や建替え計画を理由に提示されても、直ちに応じる必要があるとは限りません。まずは感情的に対応せず、法的な枠組みに沿って冷静に確認することが重要です。

契約書と借地借家法上の正当事由を確認する

最初に行うべきことは、賃貸借契約書の内容を確認することです。契約期間や更新条項、特約の有無などを把握します。

そのうえで、借地借家法上、貸主に「正当事由」が必要である点を押さえておきましょう。契約期間が満了しても、正当事由がなければ更新拒絶は認められません。

貸主の主張が、法律上の判断基準に照らしてどの程度の根拠を持つのかを整理することが、次の対応を考える前提になります。

立ち退き理由の具体的な説明と資料の提示を求める

「老朽化している」「建て替える予定がある」といった抽象的な説明だけでは十分とはいえません。

耐震診断結果、劣化状況の報告書、建替え計画書など、具体的な資料の提示を求めることが重要です。実際に建物の安全性に問題があるのか、修繕では対応できないのかといった点を客観的に確認します。

口頭の説明だけで判断せず、書面や証拠に基づいて状況を把握する姿勢が、交渉を有利に進めるうえで大切です。

立ち退き料の算定根拠を確認し増額交渉を検討する

立ち退き料が提示されている場合は、その金額がどのように算定されたのかを確認します。

引越費用、転居先の初期費用、営業損失(事業用の場合)、長年居住してきたことによる生活基盤への影響などが十分に考慮されているかを検討します。相場と比べて著しく低い場合は、増額交渉を行う余地があります。

正当事由の有無は、補償内容も含めた総合判断で決まります。適切な補償が提示されていない段階で安易に合意せず、自身の事情を踏まえて慎重に判断することが重要です。

立ち退きに納得できない場合に弁護士に相談するメリット

立ち退きの通知を受けても、その理由や提示された立ち退き料に疑問がある場合、自己判断で対応すると不利な合意をしてしまうおそれがあります。早い段階で弁護士に相談することで、法的な見通しを踏まえた対応が可能になります。

正当事由が認められる可能性を法的に分析してもらえる

立ち退きが有効に認められるかどうかは、借地借家法28条の枠組みに沿って総合的に判断します。築年数や建替え計画が示されていても、それだけで直ちに正当事由が成立するとは限りません。

弁護士に相談すれば、貸主の主張や提示資料を法的観点から整理し、正当事由が認められる可能性がどの程度あるのかを具体的に分析できます。交渉に応じるべきか、条件面を争うべきかといった方針も明確になります。

立ち退き料の相場や増額の見通しを具体的に把握できる

立ち退き料の水準は、居住年数や物件の種類、地域性などによって大きく異なります。提示額が妥当かどうかを判断するには、裁判例や実務の相場を踏まえた検討が欠かせません。

弁護士に相談すれば、類似事例をもとに増額の可能性や見通しを示してもらえます。引越費用や転居先の初期費用など、見落としがちな項目も含めて整理できるため、適切な補償を受けるための交渉につなげやすくなります

調停・訴訟になった場合も一貫して対応できる

交渉がまとまらない場合、調停や訴訟に進むことがあります。手続きが始まってから慌てて対応するよりも、初期段階から弁護士が関与しているほうが一貫した主張・立証が可能です。書面作成や期日対応を任せられるため、精神的負担を抑えながら手続きを進められます。

立ち退き問題は生活基盤に直結する重要な問題です。不安や疑問がある段階で弁護士に相談し、適切な見通しを立てることが、納得できる解決への第一歩になります。

まとめ 立ち退きの理由に納得できない場合は弁護士に相談を

建物の老朽化や築年数の経過は、立ち退きにおける正当事由の判断要素の一つですが、それだけで直ちに退去義務が生じるわけではありません。借地借家法28条に基づき、双方の使用の必要性や賃貸借の経過、建物の現況、補償内容などを総合的に検討して判断します。

貸主から「築年数が古い」「建て替える予定がある」と説明されても、その内容が法的に十分かどうかは別問題です。提示された立ち退き料が相当かどうかも、具体的事情を踏まえて検討する必要があります。

立ち退きは住まいや事業の基盤に直結する重大な問題です。理由や条件に少しでも疑問がある場合は、自己判断で合意せず、早い段階で弁護士に相談することが重要です。法的な見通しを踏まえたうえで対応することで、納得できる解決につながります。

相談先に迷ったら「VSG弁護士法人」にお気軽にご相談ください。親身に状況を伺いながら、最適な解決策をご提案いたします。

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