再開発とは、既にある市街地をより快適で安全な環境に改善するために行う公共工事です。
しかし、再開発が決定した地域の住民は、慣れ親しんだ場所から引っ越さなくてはなりません。
突然の立ち退き要求に不安を感じることや、立ち退き料に納得できないこともあるでしょう。
ここでは、再開発による立ち退き要請を受けた住民の立場に立って、立ち退き料の増額はできるのか、また立ち退き料の相場について解説します。
加えて、再開発による立ち退きのよくある質問もご紹介します。
目次
一度合意した後に立ち退き料を増額するのは困難ですが、以下のケースでは立ち退き料が増額できる可能性があります。
では、項目ごとに解説します。
口約束は原則として有効に成立するため、当事者間の合意があれば書面がなくても有効です。
ただし、どちらかが内容を否定すれば、約束した事実を証明することが非常に難しくなります。
口約束で立ち退き料に合意した場合は事実が証明できないため、増額交渉できる可能性が高くなります。
ただし、書面にサインをして立ち退き料に合意した場合、増額交渉は非常に厳しいと考えたほうがよいでしょう。
都市再開発法118条には、再開発に伴う立ち退きについて以下のように定められています。
引用:
(権利変換を希望しない旨の申し等)
第七十一条 個人施工者若しくは再開発会社の施工の認可の公告、第十九条第一項の規定による公告若しくは事業計画の決定若しくは認可の公告(第六項において「施工認可の公告等」という。)又は前条第六項の規定による公告があったときは、施行地区内の宅地(指定宅地を除く。)について所有権若しくは借地権を有する者又は施行地区内の土地(指定宅地を除く。)に権原に基づき建築物を所有する者は、その公告があった日から起算して三十日以内に、施工者に対し、第八十七条又は第八十八条第一項及び第二項の規定による権利の変換を希望せず、自己の有する宅地、借地権若しくは建築物に代えて金銭の給付を希望し、又は自己の有する建築物を施行地区外に移転すべき旨を申し出ることができる。
スムーズに再開発を進めるため、「30日以内に立ち退き料を決めなければいけない」と合意を迫ってくる事業者もいます。
しかし条文では、「権利変換か地区外転出か30日以内申し出ることができる。」と記載されています。
つまり、30日以内に立ち退き料に合意しなくてはいけないわけではありません。
地区外転出を選択すれば、立ち退き料を受け取ることになりますが、立ち退き料に納得できなければ交渉を続けることも可能です。
都市再開発法に基づく再開発の立ち退きでは、基本的に立ち退き請求を拒否することはできません。
事業者の中には、立ち退き拒否できないことを理由に、予算が決まっているから増額はできないと言うことや、立ち退き料を少なく見積もることがあります。
しかし本来、立ち退き料は損失に見合う分だけ受け取ることができます。
立ち退き料に納得できないときは組合や自治体に交渉し、増額が必要な根拠を伝えることが大切です。
立ち退き料は、実際どのくらいもらえるのか気になる方も多いでしょう。
ここでは、以下の物件種別ごとに立ち退き料の相場を解説します。
それぞれ順番に見ていきましょう。
持ち家の立ち退き料には、土地の価格、移転補償、仮住まい費用などが含まれます。
例として、神奈川県の木造住宅、土地30坪、2階建の住宅の立ち退き料の相場を見ていきましょう。
なお、移転補償には現居の解体費用、新しい家の建築費費用、引っ越し費用等を含みます。
上記の例では総額4,920万円になります。
さらに、慰謝料や迷惑料が加算されるため、約5,000万円~6,000万円が相場となるでしょう。
ただし、土地や建物の状況が1つ1つ異なるように、立ち退き料の金額も事案によって異なります。
上記はあくまでも参考程度に捉えておきましょう。
持ち家や分譲マンションは、再開発によって立ち退き要求をされた場合、権利変換か地区外転出かを選択することができます。
分譲マンションの所有者は、専用部分と区分所有権、敷地利用権を持ちます。
権利変換を選択した場合は、これらの権利と引換えに、再開発後の建物の所有権の一部などを得ることができます。
一方、地区外転出を選択した場合は、以下の費用が補償されます。
分譲マンションの立ち退き料は、マンションの所有者と再開発の施工者との協議によって定められます。
立ち退き料に明確な定めはないため、交渉次第では立ち退き料を増額することができるでしょう。
再開発という理由だけでは正当事由として認められにくいため、賃貸物件でも立ち退き料を受け取ることができます。
賃貸物件の立ち退き料には、次のものが含まれます。
実際には、家賃の6カ月~12カ月分と交渉されるケースが多く、場合によっては上記の項目に慰謝料が
加わります。
たとえば、家賃10万円の賃貸マンションで、立ち退き料は家賃12カ月分と交渉された場合、立ち退き料は120万円になります。
さらに、慰謝料が加算されることを考慮すると100万円~200万円程度が立ち退き料の相場となるでしょう。
再開発による立ち退きで、よくある質問を3つ紹介します。
再開発による立ち退きは、一般的なビルの建て替えや賃貸人都合などの立ち退きとは異なり、公共事業に該当します。
これらは法律によって行われるものであるため、最終的に立ち退きを拒否することはできません。
再開発の場合でも、いきなり契約解除とはならないため、すぐに立ち退きしなくてはならないということはありません。
事業者側と住民、双方の事情を考慮して話し合いを行うことが大切です。
弁護士に相談することで、立ち退き料を増額できる可能性があります。
一度立ち退き料に合意してしまうと増額するのは非常に困難であるため、立ち退き料の掲示を受けたら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
再開発による立ち退き料を増額することは可能です。
一般の方でも、交渉次第で増額できることもあるでしょう。
しかし、再開発は法律によって行う事業であり、交渉には法律や過去の判例など、様々な知識が必要になります。
これは、法律に関する知識が少ない方にとって、決して楽な作業とは言えません。
立ち退き料の交渉で困ったときは、弁護士や法律に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
弁護士はこれまでの経験や知識から適切なアドバイスを行い、再開発に関する様々な疑問に答えてくれるでしょう。