大家から立ち退きを求める通知が届いた場合、引っ越しや発生する費用の支払いなど、不安に思う方がほとんどでしょう。
立ち退きを求める通知を受けても、すぐに退去しなければならないとは限りません。
場合によっては、退去を拒否できるケースもあります。
もし退去しなければならない場合でも、大家との交渉によっては立ち退き料を請求できるため転居にかかる費用を負担してもらえます。
ここでは、立ち退き料をもらえるケースともらえないケース、大家と交渉するためのポイントなどを解説します。
目次
大家都合による退去を求められた場合の立ち退き料相場は家賃の6~12カ月分程度です。
たとえば家賃7万円の場合、立ち退き料の相場は42〜84万円程度になります。
立ち退き料の内訳には、新居への引っ越し準備や契約にかかる費用が含まれています。
次章以降で内訳の詳細を確認していきましょう。
ここからは、大家都合による退去の立ち退き料について、5つの内訳を紹介します。
大家都合での退去で立ち退き料に含まれる費用の1つが、引っ越し先の契約費用です。
新規で物件を契約する場合、初期費用が必要です。
たとえば、以下の費用を大家に請求できます。
引っ越し費用も、大家都合での退去にかかる立ち退き料に含まれます。
具体的な金額は、引っ越しにかかる様々な要因を考慮して算出されます。
たとえば、引っ越しする荷物の種類や量、新居までの距離、引っ越しを行う時期などです。
慰謝料・迷惑料とは、相手の受けた精神的苦痛を慰謝する目的で支払われる金銭です。
大家側に退去を求める正当事由がある場合、不法行為とまではいえないかもしれません。
しかし、借主にとっては住み慣れた土地を離れるためにストレスや精神的な負荷がかかるでしょう。
新しい生活に適した物件を見つけ、新生活に必要な家財を揃えるには時間や労力も必要です。
慰謝料・迷惑料は、退去する借主の精神的な負担の軽減や立ち退き料を上乗せするための調整として支払われます。
現在の家賃と引っ越し先での家賃差額を、立ち退き料に含める場合があります。
たとえば、長年入居している間に周囲の家賃相場が上がり、同じ地域に引っ越すと現在より高い家賃の支払いが明確なケースです。
この場合は大家都合の退去で金銭的な負担を強いるため、次の計算式を用いて家賃差額を算出した上で補償します。
家賃差額を実際の賃料で計算しない点に注意が必要です。あくまで移転前と同様の生活が可能な地域で、現状と同程度の住居・店舗に引っ越す前提で家賃差額を計算します。
現在の入居者が立ち退きを機により広い住宅や店舗に引っ越す場合、家賃の増額分まで認める必要はありません。
店舗やオフィスとなっている場所が大家都合の退去により使用できなくなると、休業や廃業を余儀なくされる場合があります。
この場合、休業補償や営業廃止補償などの営業補償を立ち退き料に含めなければなりません。
立ち退き料に含まれる休業補償は、営業していればあったはずの収益だけではありません。
たとえば、以下も含まれます。
廃業を余儀なくされた場合の営業廃止補償の例は、以下の通りです。
大家都合による退去時の立ち退き料支払いに、法律上の規定はありません。
大家都合により入居者へ立ち退きを求める場合、負担軽減のため立ち退き料を支払うのが一般的とされているだけです。
大家都合の退去で支払う立ち退き料の内訳は、引越し費用や引越し先の家賃差額などです。
しかし、大家都合で入居者に退去してもらう場合、必ず立ち退き料がかかるわけではありません。
大家都合の退去であっても状況や契約内容により、立ち退き料が不要とされるケースもあります。
大家側に退去を求める正当事由があるとして認められるのは、たとえば次のような場合です。
退去を求める理由だけでなく、立ち退き料の額や借主の経済状況なども考慮されます。
以下のような立ち退き理由であれば、立ち退き料を支払う必要はありません。
入居者による契約違反や迷惑行為があった場合、大家側が立ち退き料を支払う必要がないと判断されるケースがあります。
大家が立ち退き料の支払いを拒否できる行為は、以下の通りです。
一般的な長期間の目安は、3カ月以上とされています。
契約と異なる目的での使用とは、予定していた業種と異なる店の営業、住居目的で借りた場所での店舗営業などです。
上記のような契約違反や迷惑行為があるにも関わらず入居者が退去を拒んで長期間住み続けた場合、大家から違約金を請求されます。
定期借家契約とは、期間の満了により原則として更新なく退去する賃貸契約です。
契約に従い、入居者は決められた期日までに退去します。
定期借家契約の契約期間が満了した場合も、立ち退き料の支払いはありません。
立ち退き料は貸主が立ち退き交渉で支払う金銭のため、交渉が必要ない定期借家契約では不要となるためです。
大家が物件を使用するために退去を求める場合、立ち退き料を支払うケースが大半です。
退去の正当性と緊急性が認められる一部の例では、支払いがないか、少額のみ支払われる場合もあります。
たとえば、以下の理由によって大家が物件に住む場合です。
立ち退き料は立ち退きの正当性を補強するために支払う目的があります。
大家が物件を使用する目的の正当性が強いほど、立ち退き料が支払われない可能性が高まるでしょう。
ただし、あくまで状況次第であり、上記のような例でも立ち退き料の支払いを請求できるケースがあります。
競売で大家が変わったために立ち退きをする場合、立ち退き料の支払いはされません。
競売は裁判所が主導して行うため強い法的な効力があり、入居者が拒否した場合にも立ち退きが求められるためです。
ただし、貸借権より先に抵当権が設定されている必要があります。
抵当権は、住宅ローンをはじめとする債務の返済が困難になった場合に行使される権利です。
抵当権が行使されると対象の物件が競売にかけられ売却されますが、その際に既存の賃貸借契約はなくなり賃借権が消滅します。
新しい大家と賃貸借契約を結ばない限り、6カ月以内の退去を求められるのが一般的です。
ただし上記の場合でも、入居者が立ち退き料を求めたときは請求が認められる可能性はあります。
ここからは、立ち退きまでの流れについて解説します。
一般的に、立ち退き理由の説明や通知は文書で受けます。
普段から連絡をとっている大家であれば、まずは口頭で説明し、次に正式な内容証明郵便を送付するケースもあるでしょう。
内容証明郵便とは、郵便物の送付日や内容が郵便局により記録されるサービスです。
送付した人は、郵送日から5年間は郵便局に保存されている謄本を閲覧できます。
立ち退きの手続きを進める上で通知日などは重要になるため、通常は日付や内容が記録される内容証明郵便で送付されます。
立ち退きの通知を受けたら、次に交渉へ移ります。
立ち退き料の額に明確な基準はないため、交渉次第で金額が大きく変わる可能性があります。
大家側も交渉のために準備をしている可能性が高いため、通知を受けた側もまずは準備を整えましょう。
もし大家からの提示額が不当に低い金額であれば、判例などをもとに増額を主張し交渉を行います。
話し合いで解決するケースもありますが、折り合いがつかない場合は裁判所を通じた調停や判決を要するケースもあるでしょう。
大家との交渉がまとまったら、内容を立ち退き合意書などの書面にまとめます。
立ち退き料は、退去が完了した後のタイミングで支払われるのが一般的です。
退去前に支払われると、立ち退き料を支払ったにも関わらず借主が退去しないなどトラブルになる可能性があるためです。
ただし、大家との交渉次第では支払日を退去前にできます。
借主が引っ越しの初期費用などを用意できない場合、大家が一部を先払いして退去を促すケースもあるでしょう。
大家都合で物件からの退去を求められた場合、提示された立ち退き料に納得できずに立ち退きしない場合は、裁判に発展する可能性もあるでしょう。
ここからは、立ち退きに関する判例を1つ紹介します。
事例東京地裁判決平成28年7月14日の事例
大家は85歳と高齢であり、介護を必要とする状況にありました。
入居者に立ち退きを求め、長男夫婦を空いた部屋に入居させ、介護をしてもらおうと考えました。
しかし入居者もガンの治療を行っており、引っ越しにかかる体力的な負担と、近隣への引っ越しによる家賃価格の上昇を懸念し、高額な立ち退き料を求めた訳です。
この両者の主張をふまえ、裁判所は引っ越し費用と2年分の家賃の差額として200万円の立ち退き料を認めました。
立ち退き交渉をスムーズに進めるための方法は、以下の通りです。
それぞれの方法について詳しく解説します。
立ち退きの通知を受けたら、まずは大家が立ち退きを要求する理由に正当事由があるか確認しましょう。
大家側が退去を求める理由の強弱によって、借主に認められる立ち退き料の金額も増減するからです。
正当事由のない大家の一方的な都合による要求であれば、借主として退去を拒否できるかもしれません。
もし交渉がまとまらず裁判所の判断による場合、大家の主張に正当事由があるか厳しく審査されます。
立ち退きの理由は交渉に影響する重要事項であるため、必ず確認するようにしましょう。
立ち退き料の交渉内容は、書面に残しましょう。
書面に残しておいた方がよい内容は、以下の通りです。
また、入居者と大家の署名・捺印があるとより効力を発揮しやすくなります。
書類に残していない場合、後から合意の内容を確認できず、トラブルや裁判に発展する可能性もあります。
大家との交渉は、弁護士への依頼がおすすめです。
当事者同士の交渉では、立ち退き料の金額などを巡ってお互いが感情的になってしまう可能性があります。
お互いの主張に折り合いがつかない場合、どのように解決したらよいかわからないときもあるでしょう。
第三者として弁護士が入ると、客観的な立場から判例など法的な事例を踏まえて解決策を提案してくれます。
弁護士は交渉のプロであり、依頼人の利益を最大化するために交渉を代行してくれるでしょう。
大家から立ち退きを求める通知が届いた場合、どのように対応したらよいか困惑してしまうかもしれません。
通知書に対処を求める理由が記載してあっても、それが正当事由にあたるか判断が難しいケースもあるでしょう。
大家との交渉をスムーズに行い、立ち退き料をできるだけ多くもらうには、弁護士に交渉を代行してもらうのがベストです。
退去を求める通知が届いた後、対応せずにいると後の交渉や裁判で不利になる恐れもあるため、なるべく早く弁護士へ相談しましょう。