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大家都合による退去時の立ち退き料支払いに、法律上の規定はありません。
大家都合により入居者に対して立ち退きを求める場合、入居者の負担を減らすため立ち退き料を支払うのが一般的とされているだけです。
大家都合の退去で支払う立ち退き料の内訳は、引越し費用や引越し先の家賃差額などです。
しかし、大家都合で入居者に退去してもらう場合、必ず立ち退き料がかかるわけではありません。
大家都合の退去であっても状況や契約内容により、立ち退き料が不要とされるケースもあります。
大家都合による退去・立ち退き料の相場は、家賃の6~12カ月分程度です。
立ち退き料の金額は、借地借家法第28条に「財産上の給付」が示されているだけであり、明確な計算方法までは定められていません。
上記のような相場となるのは、新居への引っ越し準備や契約にかかる費用を考慮しているためです。
たとえば家賃7万円であれば、42〜84万円程度が立ち退き料の相場になります。
倒壊の危険性が高い建物の解体など、強い正当事由があれば立ち退き料を低くするのも可能です。
具体的には次の要素を考慮して、慣例や通例に従って決めるといいでしょう。
大家都合による退去に必要な立ち退き料の内訳を5つ紹介します。
大家都合での退去で立ち退き料に含まれる費用の1つが、引っ越し先の契約費用です。
理由は、新規で物件を契約する場合、初期費用が必要となるためです。
例として、貸主に支払う礼金や不動産業者への仲介手数料などが挙げられます。
引っ越しに伴い電話やインターネットなどの設備を移動させる場合、移転にかかる費用も対象です。
他にも、火災保険や地震保険など引っ越しの際に入り直さなければならない保険があれば、立ち退き料に含まれます。
引っ越し費用も、大家都合での退去にかかる立ち退き料に含まれます。
引っ越し費用は、引っ越しにかかる様々な要因を加味して算出されます。
まずは、引っ越しする荷物の種類や量などです。
搬入に手間がかかる家具や家電がある場合、追加費用がかかるため引っ越し費用は高額になります。
他にも、引っ越し先までの距離が引っ越し費用に関係します。
引っ越しを行う時期も重要です。
繁忙期となる2〜4月、特に土日は引っ越し費用が高額になる傾向があります。
大家都合での退去を求める場合、入居者は「精神的な負担を強いられた」と感じる場合があります。
そのため、慰謝料や迷惑料を立ち退き料に追加すると、スムーズに立ち退きを進めやすくなるでしょう。
大家都合の退去で、立ち退き料に慰謝料や迷惑料を含めて支払う法律上の義務はありません。
ただし、入居者に立ち退きを拒否されると、裁判になるケースが考えられます。
裁判になれば、より高額な立ち退き料を求められるケースも少なくありません。
また、立ち退き交渉に時間がかかります。
あらかじめ慰謝料や迷惑料を提示して、入居者の反感を減らすとよいでしょう。
現在の家賃と引っ越し先での家賃差額を、立ち退き料に含める場合があります。
たとえば、長年入居している間に周囲の家賃相場が上がり、同じ地域に引っ越すと高い家賃の支払いが明確なケースです。
この場合は大家都合の退去で金銭的な負担を強いるため、補償をする必要があります。
家賃差額は、「新しい入居先の賃料ー現在の賃料」で計算します。
1〜3年分を立ち退き料に含むケースが一般的です。
ただし、家賃差額は実際の賃料で計算するのではありません。
あくまで移転前と同様の生活が可能な地域で、現状と同程度の住居・店舗に引っ越す前提で賃料差額を計算します。
現在の入居者が立ち退きを期に広い住宅や店舗に引っ越す場合、その差額の実費を認める必要はありません。
店舗やオフィスとなっている場所が大家都合の退去により使用できなくなると、休業や廃業を余儀なくされる場合があります。
この場合、休業補償や営業廃止補償など、営業補償を立ち退き料に含めなければなりません。
立ち退き料に含まれる休業補償は、営業していればあったはずの収益だけではありません。
たとえば、以下も含まれます。
廃業を余儀なくされた場合の営業廃止補償の例は、以下の通りです。
以下のような立ち退き理由であれば、立ち退き料を支払う必要はありません。
入居者による契約違反や迷惑行為があった場合、大家側が立ち退き料を支払う必要がないと判断されるケースがあります。
大家が立ち退き料の支払いを拒否できる正当な理由に該当する行為の例は、以下の通りです。
上記のような契約違反や迷惑行為があるにも関わらず入居者が退去を拒んで長期間住み続けた場合、遅延損害金を請求できます。
定期借家契約の契約期間が満了した場合も、立ち退き料の支払いは不要となります。
立ち退き料は貸主が立ち退き交渉で支払う金銭のため、交渉が必要ない定期借家契約では不要となるためです。
定期借家契約は期間が満了すると、基本的に更新されません。
契約に従い、入居者は決められた期日までの間に退去します。
そのため、立ち退きやリフォームが決まっている物件の場合、工事を見越して入居者と定期借家契約を結ぶケースも少なくありません。
大家が物件を使用するために退去を求める場合、立ち退き料を支払うケースが多いです。
ただし、退去の正当性と緊急性が認められる一部の例では、支払いの必要がない・少額で済む場合もあります。
たとえば、以下の理由で貸していた物件に住む場合です。
立ち退き料は立ち退きの正当性を補強するために支払う目的があります。
そのため、大家が物件を使用する目的の正当性が強いほど、立ち退き料を支払わずに済む可能性が高まるでしょう。
ただし、あくまで状況次第であり、上記のような例でも立ち退き料の支払いを求められるケースがあるため、注意が必要です。
競売で大家が変わったために立ち退きをする場合、立ち退き料の支払いはありません。
競売は裁判所が主導して行うため強い法的な効力があり、入居者が拒否した場合にも立ち退きが求められるためです。
ただし、貸借権より先に抵当権が設定されている条件があります。
抵当権は住宅ローンをはじめとする債務の返済が困難になった場合に行使される権利です。
抵当権が行使されると対象の物件が競売にかけられ売却されますが、その際に既存の賃貸借契約はなくなり賃借権が消滅します。
そして、新しい大家と賃貸借契約を結ばない限り、通常6カ月以内の退去を求められるのが一般的です。
ただし上記のような場合でも、入居者が立ち退き料を求めた場合、支払う必要に迫られるケースはあります。
大家都合による退去・立ち退きであれば、賃貸借契約が期間満了となる6カ月〜1年前に入居者へ通知する必要があります。
書面による通知が一般的なため、立ち退き理由や時期、立ち退き料は必ず明記しておきましょう。
立ち退き要請を通知した後は、以下の流れで交渉を進めていきます。
入居者に立ち退きを求める場合は、まず入居者に対してどのような理由で立ち退いてもらうのか、その理由を説明します。
直接会って説明するのが誠実な対応と考える入居者もいるため、まずは直接会って説明するのを優先して考えるといいでしょう。
ただ、すべての場合で入居者と直接会って話ができるとは限りません。
このような場合は、入居者に対して通知をしておくのも1つの選択肢となります。
立ち退き要請を通知した後は、各入居者を戸別訪問して立ち退き料の交渉を開始します。
大家都合の立ち退きは入居者の理解を得にくいため、立ち退き料の設定根拠は必ず説明できるように準備してください。
入居者にも立ち退きが困難な理由や、大家が提示した立ち退き料では不十分な場合もあるため、一方的な内容にならないように配慮しましょう。
なお、別の所有する物件に空きがあれば、代替物件として提案してもよいでしょう。
立地や間取り、家賃などに納得できれば次の物件を探す手間が省けるため、好意的に受け入れてもらえる可能性があります。
部屋や建物を明け渡すためには様々な準備が必要です。
立ち退きを求められたからといってすぐに引っ越しができるわけではありません。
スムーズに立ち退いてもらえるよう、大家として入居者に声がけをし、随時その進捗状況を確認しましょう。
引っ越し先を探せたか、引っ越し業者は見つかったか、そのほか生活の困りごとはないかなどを確認します。
そして、困っているのであれば手助けをします。
この積み重ねで、立ち退きがスムーズに完了するため、定期的に入居者のサポートを行いましょう。
立ち退き料は入居者が建物を明け渡すタイミングで支払います。
支払方法は現金または振込みですが、立ち退き料は必要経費として不動産所得から控除できるため、証跡が残る銀行振込をおすすめします。
なお、仲介手数料や敷金・礼金など、引っ越しに伴う費用は先払いになるため、資金不足の入居者がいれば、少し早めに立ち退き料を支払ってもよいでしょう。
大家都合で物件からの退去を求める場合、立ち退き料を提示しただけではスムーズに退去とならない場合もあります。
入居者が大家の提示した条件で立ち退きに応じない場合は、裁判に発展する可能性もあるでしょう。
以下では、立ち退きに関する判例を紹介します。
参考にしてください。
東京地裁判決平成28年7月14日の事例
大家は85歳と高齢であり、介護を必要とする状況にありました。
そこで、入居者に立ち退きを求め、長男夫婦を空いた部屋に入居させ、介護をしてもらおうと考えました。
しかし入居者もガンの治療を行っており、引っ越しにかかる体力的な負担と、近隣への引っ越しによる家賃価格の上昇を懸念し、高額な立ち退き料を求めた訳です。
この両者の主張をふまえ、裁判所は引っ越し費用と2年分の家賃の差額として200万円の立ち退き料を認めました。
東京地裁判決平成28年12月8日の事例
店舗が入居する建物の建て替えが必要になり、大家は店舗を経営する入居者に、9,700万円を超える立ち退き料を提示しました。
しかし、入居者はその店舗が唯一の収入源であったため、立ち退き交渉には応じません。
建て替えについて何ら具体的な計画があるわけではないとし、立ち退きを拒否しました。
そのため、裁判所は大家の主張を認めず、立ち退きを拒否した入居者の主張を認めました。
立ち退き交渉が難航すると、修繕や建替えタイミングに影響します。
建物だけではなく、土地の有効活用にも支障をきたしますが、次のような方法で交渉をスムーズに進めることもできます。
入居者は退去後に生活をする新たな住居を確保する必要があります。
そのため、新しい賃貸住宅を探したり、引っ越しをしたりする準備期間を要します。
借地借家法では期間の定めがある賃貸契約を継続しない場合、更新日から6〜12カ月前を目安に通知を行うと定められています。
突然短い期間で退去を求められるのは、入居者にとって大きなストレスです。
トラブルの原因になる可能性もあります。
少なくとも退去期間は6カ月以上のゆとりを持って設定しましょう。
入居者の同意なく大家の都合で強制的に立ち退きを求めるのは、大きな問題があります。
そこで、立ち退いてもらう入居者に納得してもらえるよう、明確な理由を提示する必要があります。
立ち退き料を支払えば、それで問題ないわけではないため、必ず立ち退きを求める理由を明確にしておきましょう。
立ち退き料の金額や内訳は、入居者に対して明確に提示しましょう。
引っ越しには、時間と労力がかかります。
また、金銭面や精神面にも相応の負担がかかるでしょう。
具体的な金額や何に対して支払われる費用なのかを詳しく説明すると、入居者の不安や負担を減らせます。
スムーズに立ち退きを進めやすくなるでしょう。
立ち退き料の交渉内容は、書面に残しましょう。
書面に残しておいた方がよい内容は、以下の通りです。
また、入居者と大家の署名・捺印があるとより効力を発揮しやすくなります。
書類に残していない場合、後から合意の内容を確認できません。
入居者が立ち退きへの態度や合意したはずの内容を変えてしまう可能性も考えられます。
トラブルや裁判に発展する可能性もあるため、注意しましょう。
入居者の中には立ち退き料の吊り上げを狙い、根拠もなく法外な金額を請求するケースもあります。
また、法律や権利関係に詳しい入居者もいるため、理論武装が必要になる場合もあるでしょう。
立ち退き交渉に行き詰まったときは、弁護士に交渉を依頼してください。
弁護士には本人(依頼人)の代理権があるため、大家の代理人として入居者と交渉してくれます。
また、弁護士は交渉力にも長けているため、しこりを残さない平和的な解決も実現できます。
立ち退き料の支払い義務について、法律上で取り決めはありません。
あくまで立ち退き料は、立ち退きの正当性を裏付けスムーズな退去を促すために支払う慣例です。
逆に、立ち退き料の支払いが提示されたからといって、入居者が退去する義務もありません。
立ち退き料は、大家都合の場合、大家が支払います。
立ち退き料は、都合により立ち退きをお願いする貸主が、入居者に対してその損害を補償する目的で支払う金銭だからです。
対象となるのは、借地借家法が適用される賃貸借契約です。
立ち退き料をいつ支払うかについて、具体的な決まりはありません。
立ち退きの前後どちらで支払ってもよいとされています。
ただし、入居者の資金不足で立ち退きが困難になるケースがあります。
退去前に立ち退き料の一部を支払うなど、状況に合わせた支払いが大切です。
国内には耐用年数を経過した建物が多く、そうした物件には近い将来、必ず大規模修繕や建替時期が到来します。
しかし大家にとって立ち退きは悩ましい問題であり、入居者との交渉が長引くほど、修繕や建替えの時期が遅くなってしまいます。
売却を予定している場合は「売りどき」を逃してしまう可能性もあるため、できるだけスムーズな立ち退き交渉ができるよう、入念な準備が必要になるでしょう。
また、建物の賃貸借では「借主」の立場が強いため、法律の解釈を巡って入居者と対立してしまう可能性もあります。
スムーズな立ち退きは入居者にとってもメリットが大きいため、立ち退き交渉や立ち退き料の設定で困っている場合は、弁護士などの専門家を頼ってみてください。