親子間では通常、ほとんどの貸し借りが使用貸借で行われています。
使用貸借とは、無償で物を貸す契約のことです。
しかし、この無償で貸すことが後々トラブルを引き起こすことがあるのはご存知でしょうか。
本記事では、使用貸借とは何か、使用貸借を解除して立ち退きをしてもらう方法、親子間の使用貸借で起きやすいトラブル事例などを解説します。
記事を読み進めて頂ければ、使用貸借とは何か、また使用貸借のトラブル事例がわかり、親子間での使用貸借トラブルを回避できるようになっていることでしょう。
目次
使用貸借とは、土地や建物などの物を無償で貸し出す契約のことを言います。
使用貸借はよく利用されており、無償で傘を貸す、無償でゲーム機を貸すなども使用貸借に該当します。
なお、賃貸借と使用貸借の違いは、物を貸す対価として賃料を受け取っているかどうかです。
ただし、土地を借りて借主が固定資産税額だけの賃料を払う場合、固定資産税の納税だけで終わってしまうため、貸主には利益が出ません。
このような状態の場合は、賃貸借ではなく使用貸借になります。
使用貸借は借地借家法の適用を受けないため、解消をする方法がいくつか存在します。
ここからは、使用貸借を解消して立ち退きをしてもらう方法を紹介します。
使用貸借は賃貸借に比べ借主の権利が弱く、借主が借りた目的を達成していればいつでも貸した物の返還を求めることができます。
そのため、一定期間を過ぎた場合は、貸主は返してもらいたいタイミングで貸した物の返還を受けることができます。
ただし、使用貸借契約に使用貸借期間を決めていなかった場合は、すぐに使用貸借契約の解除ができないことがあります。
その理由は、民法で「使用および収益の目的を決めたときは、使用貸借は借主が借りる目的に従って使用および収益を終了することによって消滅する」と決められているからです。
たとえば、使用貸借で入居している人が自宅を建築し完成するまで賃貸物件を借りている場合、自宅が完成した後はいつでも賃貸物件を返還してもらうことができます。
この場合は、自宅が完成するまで賃貸物件を無償で借りることが目的で、自宅が完成している状態が目的の完了となります。
使用貸借の契約書で使用貸借の期間を決めている場合、決めた使用貸借の期間が満了をしたときにはいつでも返還してもらえます。
たとえば、入居者が期間を令和5年1月1日までとして使用貸借契約書で期間を定めた場合、令和5年1月2日以降はいつでも使用貸借を解除し立ち退きをしてもらうことができます。
使用貸借でも使用貸借解除時には立ち退き料が必要なケースがあります。
使用貸借も使用貸借時に立ち退き料が必要なケースは以下のとおりです。
立ち退き料は、一般的に家賃の5ヶ月分前後になります。
なぜ、立ち退き料が家賃の5ヶ月分になるのかというと、立ち退き料は借主が立ち退くのに必要な費用を補填する意味合いを持つからです。
借主が立ち退くためには、新居への移転費用や仲介手数料がかかるため、このような費用を負担することになります。
立ち退き料として負担する具体的な費用は、次のとおりです。
使用貸借は親子などの親族間で行われていることが多く、親子間でも使用貸借でトラブルに発展するケースがあります。
ここからは、親子間の使用貸借で起きやすいトラブル事例を紹介していきます。
ただし、トラブルは各事例の個々の状況を加味します。
事例に似たことが起きたとしても、同じ判断にならない場合があることには注意ください。
まずは、使用貸借している土地に自宅を建築した親族に、立ち退きを要求するケースをご紹介します。
【この事例の背景】
この背景がある中、兄が妹に対して、以下の条件を提示しました。
このような理由により、兄は妹と妹の夫に対して立ち退き料なしで立ち退きを要求しました。
しかし、このような場合は妹と妹の夫は、兄の立ち退き要求を拒否できます。
兄からの立ち退き要求を拒否できる理由は、次のとおりです。
ただし、妹の夫が使用貸借をしている土地のため、妹の夫が亡くなった時点で使用貸借は終了します。
次に、「新居が見つかるまで」という期限つきで使用貸借しているケースです。
【この事例の背景】
このような背景がある中、姉は弟に立ち退き料なしで立ち退きを要求しました。
このような場合は、使用貸借に該当するため、立ち退き料は必要なく弟を立ち退きさせることができます。
立ち退き料なしで立ち退きさせられる理由は、次のとおりです。
上記理由により、使用貸借と認められ、弟は立ち退きしなければならなくなりました。
次に、父親と同居している子どもがいた場合の例をみてみましょう。
【この事例の背景】
このような背景がある中、弟と妹は、兄が使用貸借しているのはおかしいため、家賃を払って欲しいと要求。
しかし、一定期間の使用貸借が認められ、兄には家賃支払いの必要がないとされました。
兄が家賃を支払わなくてもよいという判断をされた理由は、次のとおりです。
親と同居している子どもは、通常、親と賃貸借契約を締結していることはないでしょう。
そのため、このようなケースが多く発生してもおかしくありません。
次に、使用貸借の借主が貸主に無断でリフォームを行った例を見てみましょう。
【この事例の背景】
このような背景がある中、兄は父親に対して家の価値を上げたリフォームについて、かかった費用を請求しました。
兄からの請求については、壁紙などの交換費用は認められず、ソーラーパネル設置費用については認められました。
壁紙交換費用が認められず、ソーラーパネル設置費用が認められた理由は、次のとおりです。
使用貸借でも借主には原状回復義務が義務になるため注意が必要です。
原状回復義務とは、家や部屋などを借り、返却するときには家や部屋を借りた状態に戻して貸主に返却する義務のことです。
親子間の使用貸借では、さまざまなトラブルが発生しやすいため、未然にトラブルを防止する方法を把握しておくことはとても大切です。
ここでは、親子間の使用貸借によるトラブルを防止するための2つの方法を紹介していきます。
良好な関係が築けているうちに、必要な対策をしっかりと取っておくようにしましょう。
親子や親族間の使用貸借では、契約書を作成せずに口頭のみで契約を交わしてしまうケースが多くなっています。
そのため、使用貸借に関してトラブルが発生した際、トラブルを解決するための基準となる取り決めが確認できず、お互いの主張がぶつかり合ってしまうケースも少なくありません。
使用貸借のトラブルを防止するためには、どんなに親しい親子や親族間であっても、契約書をきちんと交わしておくことが非常に重要です。
契約書を交わしておくことで、トラブルが発生したときに、記載内容に則ってスムーズに解決へと話を進められるでしょう。
親子間の使用貸借のトラブルを防止するためには、使用貸借の当事者だけでなく、そのほかの親族にも経緯を共有しておくことがとても重要です。
例えば、親が所有する土地の相続人となるはずの長男と次男がいた場合において、長男が親から使用貸借で土地を借りて使用していたとき、そのことを次男が何も知らされていなかったと仮定しましょう。
この状態のまま親が亡くなってしまったとき、土地の相続や使用を巡って兄弟間で大きなトラブルが起こる可能性が高くなります。
このようなトラブルを防ぐためにも、使用貸借をする際はほかの親族にもその内容を共有し、どういう経緯で使用貸借に至ったのかを書面に残しておくとよいでしょう。
親子間では家や土地などを使用貸借で貸すことも珍しくはありません。
しかし、使用貸借で貸すのは契約になるため、使用貸借の期間中や借主が使用貸借した目的が達成できるまでは自由に解除できません。
そのため、使用貸借をするときには、使用貸借を解除できる条件や使用貸借でトラブルになる事例を知っておく必要があります。
使用貸借について知識があれば、親子間でも無用なトラブルを防止できます。
親子間といっても物の貸し借りをするときには注意が必要だといえるでしょう。