公共事業が実施される範囲内に住んでいると立ち退きの可能性が生じますが、公共事業のなかには立ち退きの強制執行が認められる事業があります。
強制執行になってしまうと補償額で不利になることが考えられるため、立ち退き料について公共事業者と折衝するコツを知っておくことが大切です。
この記事では、強制執行が行われるまでの流れや期間、公共事業による立ち退き料や相場、公共事業による立ち退き料交渉のコツを解説します。
目次
公共事業の種類によっては、強制的に立ち退きをさせられることがあります。
土地収用法に基づく公共事業と認定された場合、公共事業を施行する事業者に対して認定庁が土地収用権を付与します。
この土地収用権を付与された公共事業の場合は、土地の所有者が立ち退きを拒否しても土地の強制執行が可能になります。
一方、土地収用権を付与されていない公共事業に関しては、強制執行を行うことができません。
公共事業施行の決定後に、公共事業者と任意契約を締結しないなど立ち退きを拒否した場合は、強制執行が行われます。
ここからは、公共事業者からの立ち退きを拒否した場合、公共事業者がどのような手続きを取るのか解説します。
公共事業者が取得する必要がある土地から立ち退きをしない人がいるときには、公共事業者が国や都道府県などの工事発注者の事業認定申請を行います。
国や都道府県が事業認定申請を受け付けると、申請があったことを2週間公告します。
この公告後に公聴会が開催され、様々な専門家の意見を聴取した上で国や都道府県は事業認定をします。
公共事業者からの事業認定申請があってから、事業認定まで3〜4ヶ月程度かかります。
この事業認定は、土地収用法に基づく公共事業なのかを判断するために設けられている審査です。
事業認定が下りた後に、公共事業者は収用裁決手続きに入ります。
事業認定は土地収用法に基づく公共事業の認定判断でしたが、収用裁決は強制執行を行うことにより、どれほどの補償金を支払うのかを判断する手続きです。
公共事業者は事業認定後、収用委員会に対して収用裁決手続申請を行います。
収用裁決手続申請を行うと、収用委員会が収用裁決審理を行い、明渡し裁決や権利取得裁決をします。
ここまでの裁決が完了することにより、公共事業者の強制執行が可能となります。
なお、この収用裁決手続の期間は、土地収用委員会の審理次第といえます。
このため、強制執行までの期間は公共事業により大きく変わります。
公共事業による立ち退き料や補償に関しては、土地収用法や裁判所の判例により時価で支払うとされています。
この時価というのは、土地収用が行われる時点での基準路線価など公の数字を基に算出されます。
たとえば、基準路線価が50万円/坪、立ち退きをしなければならない土地が100坪あった場合には、立ち退き料は5,000万円となります。
また、収用される場所に建物が建築されている場合は、建物移転料という補償金を受け取ることができます。
建物移転料とは、収用される土地上にある建物と同様の建物を、移転先で建築する場合にかかると想定される金額のことです。
そのため、収用される建物が木造2階建ての100㎡だとしたら、移転先も同じ建物を建築する場合の費用しか補償されません。
つまり、移転先で鉄骨造3階建て200㎡の家を建築するとしても、木造2階建て100㎡分の費用しか補償されないということです。
なお、建物移転料は再築工法・曳家工法・改造工法・復元工法・除却工法など様々な計算方法があり、自分の家はどの計算方法で算出されているのか確認する必要があります。
また、建物移転料には建物取り壊し費用も含まれています。
建物取り壊し費用には、解体純工事費・廃材運搬費・取り壊しに必要な諸経費・廃材処分費などが含まれています。
公共事業による立ち退きだとしても、立ち退き料について交渉することは大切なことです。
ここからは、公共事業による立ち退き料交渉のコツを紹介します。
公共事業での立ち退きが行われる際には、調書が作成されます。
調書の内容に問題がなければ記名押印をしますが、内容に異議があれば調書への記名押印をしないなど不服申立てをしましょう。
調書の内容は補償金の額に反映されることがあり、内容をよく確認せず記名押印をしてしまうと、後悔することになりかねないので注意が必要です。
公共事業により立ち退きする場所で飲食店を経営している、事務所を構えているなど事業を行っている場合は、移転などの補償とともに事業ができなくなることへの補償を受けることができます。
事業ができなくなることへの補償は、営業補償と言われ、次のような事項を補償してもらえます。
事業の場合はこのような補填がされる可能性があるため、公共事業者からの立ち退き料に営業補填の金額が算入されているか確認しなければなりません。
なお、事業休止ではなく事業廃止でも補填が受けられるため、廃止でも立ち退き料の内訳の確認は必要です。
前述したように、公共事業で立ち退く場所に建物がある場合は、建物移転料が支払われます。
建物移転料は、その建物の価値や立ち退く人の必要性によって金額が変わってきます。
そのため、建物の老朽化などの事業で建物移転料が低くなるような場合、公共事業者に対してその価値や必要性を伝えることで、建物移転料が低くなることを防止しましょう。
公共事業者に伝えて調書に反映してもらうべきなのは次のようなケースです。
公共事業者との話し合いは、議題となる項目数・情報量ともに多くなるため、何を話したか忘れないように書面などで記録しておく必要があります。
公共事業者と「言った」「言わない」というような話になってしまうと、トラブルの元となるため、書面や音声などで記録しておくことをおすすめします。
公共事業の範囲が広い場合、自分と似た条件の人と同じような金額の立ち退き料が支払われるのか、確認が必要です。
似た条件なのにも関わらず、立ち退き料に大きな差がある場合などは不当な金額ではないか確認しなければなりません。
これを確認するには、直接似た条件の人から情報収集をすることが有効です。
似た条件の人も、自分の立ち退き料が他の人と比べて多いのか少ないのか気にしている可能性が高く、情報を共有することはお互いのためにもなります。
情報共有をした結果、大幅な乖離がある場合には、立ち退き料の算出方法や算出根拠を公共事業者から聞き取り、正しい計算をし直すように働きかけましょう。
この方法が適用できるのは、公共事業によって立ち退きしなければならない建物を借りて住んでいる人のケースです。
賃貸借契約を基に建物を借りている場合も、立ち退きをすることにより立ち退き料を受け取ることができます(ただし、この場合は公共事業者が賃貸物件所有者に立ち退き料を支払い、賃貸物件所有者が賃借人に立ち退き料を支払うという流れになります)。
しかし、賃貸物件を借りている賃借人が賃貸借契約違反を行っている場合には、立ち退き料を受け取ることができません。
たとえば、ペット飼育不可にも関わらずペット飼育をしている、家賃を滞納している、騒音など近隣に迷惑をかけているなどが挙げられます。
このような賃貸借契約違反を行っている場合は、違反状態をすぐにでも解消しなければなりません。
公共事業には、土地収用法に基づく強制執行が認められる事業があります。
公共事業に強制執行が認められるためには、公共事業者が事業認定の手続きを行うことになります。
この手続きが認められると、公共事業者は強制執行が可能となります。
強制執行がされると、通常の任意契約での補償より補償額が低くなることがあるため、できるだけ任意契約に応じる方が良いでしょう。
それでも立ち退きに不服がある場合は、強制執行されない程度に兼ね合いを見ながら公共事業者と交渉をしていくことが大切です。
立ち退き交渉は、専門性がかなり高いため、できる限り弁護士などに相談してから行うことをおすすめします。
公共事業で立ち退きが必要な場合は、専門家の力を借りて適正な立ち退き料を受け取るように準備していくことが重要です。