賃貸住宅の原状回復費用は、損傷や汚れが故意・過失であったかによって負担先が異なります。
退去費用にも影響が出るため、借主はどこまでが故意・過失に当てはまるのかを理解しておかなくてはなりません。
この記事では、賃貸住宅の原状回復における、故意と過失の例と退去費用の取り扱いについて紹介します。
目次
故意・過失とは、法律上の責任の根拠となる主観的状態を指します。
はじめに2つの主観的状態について理解しておきましょう。
故意とは、結果の予測ができるにも関わらず、その行為を行った場合を指します。
たとえば、他の入居者に迷惑がかかると知っていながら、部屋の中で大きな音で音楽を流すなどの行為は故意に該当します。
過失とは、結果の発生を防止するために注意していたにも関わらず、注意義務を怠って結果を発生させてしまった場合を指します。
たとえば、子どもが物を投げないように見守っていたものの、目を離した瞬間に物を投げて壁に傷を付けてしまった場合などです。
一般的に、過失より故意の方が非難されます。
過失は不注意によるものであるのに対し、故意は意図的・意識的であるためです。
しかし、過失の中でも重度の損傷などを発生させると、重大な過失とみなされる場合があります。
賃貸住宅の原状回復費の負担先は、損傷に対する考え方によって異なります。
当然、借主が付けた傷は借主が負担するのが一般的です。
しかし、借主が退去費用・原状回復を、全額費用負担する必要はありません。
ここでは賃貸住宅の原状回復における負担先と、故意・重大な過失の例を紹介します。
故意・過失による損傷の場合の修繕費は、借主へ請求されます。
一方で、通常使用で考えられる範囲と経年劣化による損傷は、貸主負担で修繕しなければいけません。
損傷事由 | 負担先 |
---|---|
故意・過失 | 借主 |
通常使用・経年劣化 | 貸主 |
日常的に生活している上で付いた傷や、長年住み続けたことでの劣化に関しては、貸主負担です。
主な例を挙げると、以下のような項目が該当します。
しかし、故意や過失による損傷と、通常使用・経年劣化の損傷では判断が付きにくいものがあります。
そのため、故意や過失に含まれる例を詳しく確認しておきましょう。
賃貸住宅の原状回復における故意にあたる例を紹介します。
上記の他にも故意にあたる事例は数多くありますが、借主が意図的に付けた傷や汚れは、故意に含まれます。
重大な過失にあたる例は、主に以下のような項目が該当します。
特に重度の過失は、建物への損傷が大きいものを指すケースが多いです。
また、重大な過失には含まれないものの、過失とみなされる項目には、以下のような内容が挙げられます。
借主は、うっかり付けた傷であっても過失とみなされてしまうため、注意しなければいけません。
退去費用には原状回復費用が含まれているため、ここでは、故意・重大な過失があったときの借主の退去費用の取り扱いについて紹介します。
故意・重大な過失によって損傷が発生した場合、修繕費用は借主負担となります。
通常使用を超える使用によって生じた損耗を、特別損耗といいます。
特別損耗の原因は、借主の故意・過失によるものが多いため、退去時に修繕費用を請求されるケースが一般的です。
故意や過失によって損傷が発生しても、経過年数が考慮されるため、借主は修繕費を全額費用負担する必要はありません。
建物に発生する経年劣化・通常損耗分は、毎月の家賃に含まれているという考えであるためです。
家賃に加えて、退去時に修繕費を全額負担するとなると、二重支払いとなり、借主の負担が大きくなります。
原状回復の費用負担は、借主が入居していた期間を考慮し、負担割合を減少させて計算します。
建物内のクロスや床、設備などはそれぞれ耐用年数が決まっています。
耐用年数とは、その資産の一般的な使用可能期間のことです。
借主が負担する部分の考え方は、損傷した箇所の耐用年数に応じて残存価値1円となるような直線(または曲線)を想定します。
つまり、年数の経過に伴い、減価償却部分を除いて負担割合を算出する流れです。
長く入居しているほど耐用年数に近づくため、借主は原状回復費用の負担を軽減できます。
ここでは、経過年数を考慮した原状回復費の計算例を紹介します。
たとえば、以下のような物件を例にして考えてみましょう。
上記の例をもとに、借主負担と貸主負担の原状回復費を算出します。
借主負担割合 | 貸主負担割合 |
---|---|
原状回復費×(法定耐用年数-入居期間)/法定耐用年数 | 原状回復費×入居期間/法定耐用年数 |
10万円×(72カ月-36カ月)/72カ月=5万円 | 10万円×36カ月/72カ月=5万円 |
原状回復工事を行う箇所の耐用年数と入居期間によって、負担割合は大きく異なります。
つまり、故意や過失による損傷であっても、全額費用負担する必要はありません。
故意・過失とは、法律上の責任の根拠となる主観的状態を指し、故意は意図的、過失は不注意と認識していてもよいでしょう。
物を落したときにできた凹みや、引っ越し作業で生じたキズ、子どもの落書きなどが該当します。
故意や過失によって損傷が発生しても、経過年数が考慮されるため、借主は修繕費を全額費用負担する必要はありません。
しかし、普段からきれいに使うことを心がけることが、退去費用を安くする方法につながるため、故意や過失に注意しておきましょう。