この記事でわかること
- 相続財産調査が必要な理由
- 主要な相続財産の調査方法
- 相続財産調査はいつまでに行うべきか
- 相続財産調査は誰に依頼すればよいか
相続手続きの中で、最初に行うべきことの1つが相続財産調査です。
相続財産調査は、遺産分割協議を行う前に行う必要があります。
しかし、身内の方が亡くなって気持ちが沈んでいる中で、まず何から手を付けてよいか、どのように調査を進めるかなどがわからないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、相続財産調査について、必要な理由や調査方法、調査の期限の有無や誰に依頼すればよいかなど、あわせて解説します。
目次
相続財産調査とは
相続財産調査とは、被相続人の財産の内容を調査することです。
具体的には、財産の有無の精査と、現金以外の財産(不動産など)の評価を行います。
相続人は、原則として被相続人のすべての権利義務を承継します(民法第896条)。
このため、相続財産調査では、預貯金・不動産などのプラスの財産のみならず、借金などのマイナスの財産も含めてすべての財産の有無と内容を調べて、適正な評価と査定を行います。
●図解挿入:「人口推計」(総務省統計局)
相続財産調査が必要な理由
相続財産調査が必要な理由は、大きく分けて3つあります。
- 遺産分割を適正に行うため
- 相続放棄するかどうかを判断するため
- 相続税の申告漏れを防ぐため
それぞれについて、順にみていきましょう。
遺産分割を適正に行うため
理由の1つ目は、遺産分割を適正に行うためです。
相続人が複数いる場合、相続人の間で協議を行って遺産を適正に分割する必要があります。
そして、遺産分割協議を行うためには、どのような財産があるかを確定していなければなりません。
相続財産を確定するために、預貯金や不動産その他のプラスの財産や、カードローンなどの借金の残高総額をすべて洗い出しておく必要があります。
相続財産調査を正確に行わなかった場合、遺産分割が終わった後に財産や借金が見つかり、もう一度遺産分割協議をやり直すことになりかねません。
このような余分な時間や労力がかかることを避けるためにも、相続財産調査を正確に行う必要があります。
相続放棄するかどうかを判断するため
理由の2つ目は、相続放棄するかどうかを判断するためです。
法定相続人は、相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、相続を承認するか放棄するかを判断しなければなりません(民法第915条1項)。
この3カ月間は「熟慮期間」と呼ばれます。
相続の放棄の手続は、家庭裁判所で行います(民法第938条)。
一度相続放棄の手続きを行うと、熟慮期間以内であっても撤回することができません(民法第919条1項)。
相続を放棄すると、プラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も一切引き継がないことになります。
一般的には、マイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合に相続放棄を選択します。
なお、相続放棄以外に「限定承認」(民法第922条)という選択肢もあります。
限定承認とは、相続で得たプラスの財産を限度として、マイナスの財産も引き継ぐことをいいます。
限定承認は、マイナスの財産のほうが多い場合に「プラスの財産を限度として」相続するため、相続財産がプラスマイナスゼロになる(債務が残らない)というメリットがあります。
たとえば、ある程度の財産があっても、その評価額を上回る借金があるとすれば、通常は相続放棄を選択するでしょう。
しかし、マイナスの財産のほうが多いだろうと思って相続放棄したところ、熟慮期間を過ぎてから査定額数千万円になる美術品や宝飾品が見つかったという場合、それらの財産については相続できないことになります。
逆に、放棄をしないまま熟慮期間を過ぎてから借金があることがわかったような場合は、借金も相続しなければなりません。
したがって、相続放棄(または限定承認)の是非を検討するためにも、相続財産調査を正確に行っておく必要があります。特に、借金がある可能性がある場合は、熟慮期間を考慮して速やかに調査を行わなければなりません。
また限定承認に関しては、相続人が複数いる場合は全員の合意に基づいて行うことが必要です(民法第923条)。
このため、相続放棄とは異なり、一部の相続人だけが限定承認することはできないことに注意しましょう。
相続税申告漏れを防ぐため
理由の3つ目は、相続税申告漏れを防ぐためです。
遺産総額に、生前行われた一定の贈与額を加算した額が以下の基礎控除額を超える場合には、相続税の
申告が必要となります。
相続税は、固定資産税などのように税務署側が計算した額が賦課されるのではなく、相続人などの申告義務者が自ら算定して申告する必要があります。
したがって、相続税をもれなく申告するためには、申告前に総財産を確定していなければなりません。
また、申告期限の後で税務調査によって申告漏れを指摘された場合には、過少申告加算税や延滞税などを課される可能性があります。
このように、本来納める必要のなかった税金を課せられる事態を避けるためにも、財産調査を正確に行っておく必要があります。
相続財産調査のやり方
相続財産を調査する主な方法は、以下の通りです。
預貯金の調査
預貯金の調査の手順は、おおむね以下の通りです。
- 1.被相続人の通帳を確認する
- 2.通帳が見つからない場合はキャッシュカードや、金融機関から受け取った書類を探し出す
- 3.取引のありそうな金融機関に残高証明書を請求する
- 4.通帳が見つからない場合、取引明細も発行してもらう
被相続人の残高証明書の発行には、以下の書類の提出が求められます。
- 残高証明書発行依頼書
- 被相続人の戸籍または除籍謄本
- 申請者の戸籍謄本
- 申請者の実印及び印鑑証明書
残高証明書の日付は、被相続人の死亡日を指定してください。
なお、通帳が見つからない場合は、取引明細も発行してもらうと、借金の有無など他の財産調査に役立ちます。
不動産の調査
不動産の調査の手順は、おおむね以下の通りです。
- 1.不動産の所在地の市区町村役場から固定資産税評価証明書や名寄帳を取り寄せる
- 2.1.の情報をもとに、法務局から不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)を取り寄せる
固定資産税評価証明書には、地番や家屋番号が載っており、この情報をもとに不動産の全部事項証明書を取り寄せることができます。
被相続人の所有不動産は、固定資産税納付書に同封されている「固定資産税課税明細書」でも確認できます。
ただし、この固定資産税課税明細書には、固定資産税がかからないほど評価額の低い不動産は掲載されていません。
また、共有不動産の場合には、原則として代表者宛てに送付されます。
そのため、所有不動産すべてに固定資産税が課税されていて、かつ共有不動産がない場合や代表者になっている場合には、固定資産税課税明細書のみを参照できます。
一方、評価額の低い不動産がある場合や、代表者になっていない共有不動産がある場合などは、役所から固定資産税評価証明書や名寄帳を取り寄せるようにしましょう。
株式等の有価証券の調査
有価証券の調査の手順は、おおむね以下の通りです。
- 1.取引のあった証券会社を探しだす
- 2.証券会社に口座残高証明書を請求する
証券会社に口座残高証明書を請求することにより、証券会社に預託している有価証券が判明します。
この場合も、被相続人・相続人の戸籍謄本などの提出が求められるので、事前に用意しておきましょう。
借金の調査
借金の調査の手順は、おおむね以下の通りです(1~4は順不同)
- 1.被相続人の自宅や郵便受けなどから督促状や催告書などを探す
- 2.被相続人の通帳を確認して借入れ・返済の記録がないか確認する
- 3.被相続人が不動産を持っている場合は不動産の全部事項証明書の「権利部(乙区)」を確認する
- 4.信用情報機関に開示請求する
3の不動産の全部事項証明書を確認するのは、多額の借入れを行う場合に不動産を担保としている場合が多いからです。
「権利部(乙区)」の欄に抵当権などの記載があると、借入れがある可能性があります。
ただし、完済直後などは抵当権の設定が残っていることもあります。
金融機関や信販会社などから借金している場合は、以下の信用情報機関に信用情報の開示を申し込むことで見つかる可能性があります。
- 株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 株式会社日本信用情報機構(JICC)
- 一般社団法人全国銀行協会(全銀協)
しかし、信用情報機関への照会によっても、登録されていない機関や個人からの借り入れなどは把握できません。
相続財産調査はいつまでに行うべき?
相続財産調査の期限について、法律上の決まりはありません。
ただし、相続放棄の期限が「相続の開始を知ったときから3カ月」であることから、原則として相続開始後3カ月以内に調査を完了させておくことが必要です。
相続財産調査は誰に依頼すればいい?
相続財産調査には大変な手間がかかる上、原則として3カ月以内に完了させなければならないという時間制限もあります。
そこで財産調査を専門家に依頼することが望ましいのですが、「どの専門家に依頼すればよいか」で迷う方が多いのではないでしょうか。
ここでは、相続財産調査にかかわる手続を行うことができる専門家(士業者)と、それぞれの士業者への依頼に適したケースをご説明します。
相続手続と各士業者の対応可能な業務
相続財産調査にかかわる手続によって発生する業務として、以下が挙げられます。
- 遺言書の有無と内容の確認(自筆証書遺言の場合は家庭裁判所での検認手続)
- 相続人の調査(誰が相続人となるか)
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議書の作成(遺言がない場合)
- 相続放棄または単純承認・限定承認の選択
- 相続登記(不動産の名義変更)
- 名義変更(預貯金・有価証券)
- 預貯金や有価証券などの解約払戻し
- 相続税の申告
- 相続人間の紛争解決
これらの業務に対応可能な士業者は、以下の表の通りです。
業務内容 | 弁護士 | 司法書士 | 税理士 | 行政書士 |
---|---|---|---|---|
遺言書の有無と 内容の確認 (自筆証書遺言の場合は家裁での検認手続) |
〇 | △(代理申請は不可) | × | × |
相続人の調査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続財産の調査 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
遺産分割協議書の作成 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続放棄・単純承認・限定承認の選択 | 〇 | △(代理申請は不可) | × | × |
相続登記 | △(司法書士が行うことが多い) | ◎ | × | × |
預貯金・有価証券等の名義変更 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
預貯金・有価証券などの解約払戻し | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
相続税の申告 | △(税理士登録をしている場合に限定) | × | ◎ | × |
相続人間の紛争解決 | ◎ | △(認定司法書士に限り140万円以下の遺留分侵害額請求は可能) | × | × |
各士業者の対応可能な業務を踏まえると、依頼すべき士業者が明確になります。
では、それぞれどのように依頼する士業者を決めたらよいかを見ていきましょう。
不動産がある場合は司法書士に依頼
まず、相続財産の中に不動産がある場合は、必ず名義変更(相続登記)が必要になります。
相続登記業務を行うことができるのは、司法書士と弁護士です。
ただし現実的には、登記業務の専門家である司法書士が行う場合が多いでしょう。
したがって、不動産がある場合には、少なくとも登記業務を司法書士に依頼する必要があります。
司法書士は、相続財産調査を始め、相続にかかわる多くの手続を行うことができます。
ただし、相続税の申告業務には対応しておらず、また裁判所を介する手続で対応可能な範囲が限定されています。
相続税がかかる可能性がある場合は税理士に依頼
相続税がかかることが明確な場合や、相続税がかかる可能性がある場合には、税理士への相談・依頼が適しています。
税理士への依頼が望ましいケース
税理士への依頼が必要、あるいは望ましいケースとして、以下が挙げられます。
- 相続財産の総額が基礎控除額を超えることが明確な場合
- 相続財産の総額が基礎控除額を超える可能性がある場合
- 一次相続の場合
このうち、上の2つについては、相続税の申告業務を行うことが可能なのは税理士に限られるため、税理士への依頼が適しています。
また、以下でご説明するように、一次相続(夫婦・子の間で最初に発生する相続)の場合には、税理士に節税対策を相談されることをおすすめします。
一次相続の場合
一定の財産のある一次相続の場合、配偶者の相続分が多くなると、二次相続で子どもに相続税がかかる可能性があります。
このため、両親の片方が先に亡くなった場合(一次相続)に、配偶者の相続分を多くすれば、配偶者にも子どもにも相続税が課税されずにすむでしょう。
まず、配偶者に対しては、相続分が1億6,000万円以下、または法定相続分以内であれば配偶者控除が適用されて非課税となります。
しかし、配偶者の相続分が多くなると、配偶者が亡くなった場合(二次相続)に、その相続人に対して相続税が課税される可能性が高くなります。
この点、一次相続の段階で税理士に相談していれば、二次相続での課税を回避することと、配偶者の利益を両立させた遺産分割の方法について助言を受けられます。
相続人間で争いがある場合は弁護士に依頼
前述の表の通り、弁護士は相続に関してもっとも多くの業務に対応できます。
その中でも、相続人間で争いがある場合は、弁護士への相談・依頼が適しています。
相続人間でもめ事が起こることはよくあり、その場合は遺産分割協議が進まず、相続税の申告ができなくなる恐れがあります。
恐れ
あるいは、遺言があっても、遺留分を侵害するような偏った内容である場合や、そもそも遺言の有効性そのものをめぐって対立することもあります。
また、被相続人の前婚の子どもと再婚の子どもが対立して、一方が他方に相続放棄を迫る、遺産分割協議に参加させないなどの問題が起こることもあり得ます。
相続財産調査を行っても、財産の適正な分配ができない状況では、相続手続が進まなくなってしまいます。
相続人間でトラブルが起こった場合や、トラブルが予見される場合は、紛争解決の専門家である弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士と他士業者が在籍・提携する事務所への依頼がおすすめ
相続財産調査や、その他の相続業務のほとんどは弁護士が対応できます。
一方、相続登記や相続税申告が必要な場合は、司法書士や税理士が手続を担当する必要が生じます。
また、遺産分割協議書作成など、一部の業務は相続問題を専門とする行政書士が担当できます。
そこで、相続財産調査については、弁護士と他士業者が在籍する事務所、あるいは弁護士と他士業者が密接に業務提携している事務所に依頼するのが得策です。
たとえば、相続問題を専門とする弁護士が在籍する法律事務所では、同一の案件に対して弁護士が受任しつつ、必要に応じて税理士等の他士業者に業務を振り分けることができます。
依頼する側は、業務ごとに他士業者に依頼する必要はなく、窓口となる弁護士に依頼すればワンストップで解決してもらえます。
まとめ
相続財産調査は、相続開始とともに行う必要のある手続です。
相続放棄や限定承認を行うかを決めるのに「相続開始を知ってから3カ月」という期限があることから、この期間に多種多様の手続を進めなければなりません。
相続人自身がこれを行うのは不可能ではありませんが、非常に煩雑で手間がかかります。
この労力や時間を省き、後から財産や借金が見つかった場合のトラブルや追徴課税などを避けるためにも、相続問題を専門とする弁護士に相談することをおすすめします。