この記事でわかること
- 死亡した人の預金はおろせるのか
- 死亡した人の預金をおろすと罪になるのか
死亡した人の預金は相続財産になるため、相続手続きが完了するまではおろせません。
しかし、暗証番号を知っている親族などがいると、キャッシュカードを使用して相続手続きの完了前に預金をおろされてしまうケースがあります。
死亡した人の預金を無断でおろした場合、「横領罪や窃盗罪になるのか?」「親族が預金をおろしても罪になるのか?」といった疑問も生じるでしょう。
今回は、死亡した人の預金をおろせるのか、相続人以外が預金をおろすと罪になるかなど、法律上の扱いをわかりやすく解説します。
目次
死亡した人の預金をおろしても親族は罪にならない
死亡した人の預金を同居親族がおろした場合、窃盗罪や横領罪などの罪には問われません。
本来、死亡した人の預金は相続人しかおろせませんが、同居親族には刑法上の「親族相盗例」が適用されるため、刑事責任を問われないようになっています。
預金者が生きているうちに無断で預金を引き出しても、同居や同一生計の親族は親族相盗例の扱いになるため、警察の介入はありません。
同居親族であれば、本人から預金管理を任されているケースもあるでしょう。
預金をおろしてもいいのは相続手続きを終わらせてから
死亡した人の財産に預金がある場合、相続手続きを終わらせてからおろしてください。
預金口座の暗証番号や、ネット口座のID・パスワードを知っている場合でも、相続手続きが完了するまでおろさないようにしましょう。
無断で死亡した人の預金をおろすと、自分以外の親族の法定相続分や、遺留分を侵害する恐れがあります。
相続手続きが完了していない状況で預金をおろした場合、高確率でトラブルに発展するため注意が必要です。
金融機関が死亡を知ると口座は凍結される
預金者の死亡を金融機関に伝えると、預金口座は凍結されます。
口座の凍結には各相続人の権利を守る目的があり、相続人が決まるまで預金の引き出しや振込みはできません。
預金者の死亡を伝えた金融機関のみ口座凍結されます。
すべての預金を保全しておきたいときは、預金通帳やキャッシュカードから取引銀行などを調べてください。
相続手続きが終わると凍結状態は解除されるため、相続人は預金をおろせるようになります。
死亡した人の預金をおろすときの注意点
死亡した人の預金をおろすときは、以下のポイントに気を付けましょう。
- 死亡した人との関係性によって責任が問われる
- 死亡した人の預金をおろすと相続放棄ができない可能性がある
それぞれの注意点について詳しく解説します。
死亡した人との関係性によって責任が問われる
相続財産の預金を無断でおろした場合、死亡した人との関係性によっては刑事や民事の責任を問われます。
以下のようなケースは親族相盗例が適用されない可能性があるため、横領罪や窃盗罪に問われるかもしれません。
- 死亡した人の別居親族で法定相続人ではない人が預金を下した場合
- 親族以外の第三者が預金をおろした場合
同居や同一生計の親族であっても、死亡した人の預金を無断でおろすと、他の相続人から損害賠償請求や不当利得返還請求される恐れがあるでしょう。
死亡した人の預金をおろすと相続放棄ができない可能性がある
死亡した人の預金をおろすと、相続放棄できない可能性があります。
家庭裁判所が相続放棄を認めた場合、死亡した人の預金などを相続できなくなりますが、借金の相続も免除されます。
ただし、死亡した人の預金をおろした、不動産を売却したなどの場合、相続を認める「単純承認」が成立します。
単純承認が成立すると、原則として相続放棄は受理されません。
預金をおろしても相続放棄が認められるケースは、死亡した人の葬儀費用に充てた場合です。
死亡した人の預金をおろす方法
死後、つまり相続開始後に預金をおろす方法について解説します。
遺言書にしたがって預金を相続する
死亡した人が有効な遺言書を作成していた場合には、その遺言書を活用し、遺言書に記載されている通り銀行預金をおろせます。
遺産分割協議で預金を相続する
遺産分割協議とは、死亡した人に預金などの財産がある場合、法定相続人の誰がどの財産をどの程度の割合で相続するかを決める話し合いです。
死亡した人が遺言書を作成していない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、預金を含めたすべての財産の分け方を決めます。
協議を行って相続人全員の合意を得た内容を基にして、遺産分割協議書を作成します。
金融機関に遺産分割協議書や戸籍などの書類を提出すれば、預金の相続が可能です。
相続人全員が預金の引き出しに同意している
相続人全員の合意が得られず、遺産分割協議が成立していない場合でも、預金が引き出せるケースがあります。
相続人全員が、預金の引き出しに同意している場合です。
各金融機関の所定の書式に相続人全員で署名捺印すると、銀行預金をおろせます。
預貯金の仮払制度を利用する
預貯金の仮払制度を利用すると、金融機関ごとに、以下の2点のうち低い金額を引き出せます。
- 死亡日時点の預貯金額 × 3分の1 × 仮払いを受ける方の法定相続分
- 150万円
仮払い制度は、2019年7月施行の法改正により新たに定められました。
家族が亡くなった際は、葬儀代や埋葬費用、お墓代や入院費用未払い分の支払いなど、急な出費がかさみます。
急な出費にも対応できるよう、仮払い制度が創設されています。
裁判所で仮分割の仮処分が認められている
前述した預貯金の仮払制度には、上限金額が設定されています。
上限を超える金額が必要となる場合は、裁判所に「預貯金債権の仮分割の仮処分」を認めてもらい、預貯金を引き出せます。
家事事件手続法第200条3項に定められている預貯金債権の仮分割の仮処分の要件は、以下の通りです。
- 遺産分割の審判又は調停の申し立てがあること
- 相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認められること
- 他の共同相続人の利益を害さないこと
死亡した人の預金をおろされたときの対処法
自分以外の相続人が、死亡した人名義の死後に銀行預金を引き出していた場合には、以下の順番で払い戻しましょう。
- 入出金明細と仮払い証明の取得
- 遺産分割協議
- 訴訟の提起
それぞれの対処法について詳しく解説します。
入出金明細と仮払い証明の取得
まずはそれぞれ金融機関から入出金明細と仮払い証明を取得しましょう。
いつ誰がどのくらい出金をしているかどうかを、可能な限り調査します。
事実を正しく認識すれば、余計な疑心暗鬼もなくなるでしょう。
遺産分割協議
他の相続人の出金について、厳しく責任を追及するのではなく、遺産分割協議の話し合いにおいて過去の出金分も含めて調整する方法があります。
2019年に施行された法律により、預金を引き出した人以外の相続人全員の合意があれば、上記のような解決を目指せるようになりました。
訴訟の提起
預金を引き出した人以外の相続人全員から合意を得られない場合があるでしょう。
上記の場合は、不当利得返還請求訴訟や不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を起こし、解決を目指せます。
不当利得返還請求とは、不当利得を得た人に対してその利得を返すように要求する法的手続きです。
死亡した人の預金でトラブルにならないための対策
死亡した人の預金でトラブルにならないように、以下の対策を取りましょう。
- 預金を引き出すときにメモを残す
- 他の相続人にも知らせる
それぞれの対策について詳しく解説します。
預金を引き出すときにメモを残す
死亡した人の預金を引き出すときは、必ずメモを残してください。
葬儀費用の支払い用に預金をおろした場合は、出金欄の余白部に「葬儀会社への支払い」などと記載しておきましょう。
文字数が多くて出金欄に書ききれないときは、別のメモに以下の内容を記載し、レシートや領収書も一緒に保管してください。
- 引き出し日
- 金額
- 使い道
記帳部分が一杯になり、新しい通帳を発行する場合は、相続手続きが完了するまで旧通帳を残しておくとよいでしょう。
すでに旧通帳を廃棄しているときは金融機関に取引明細を請求し、余白部に使い道を書き込んでください。
引き出したお金の用途がわかれば、「無断で私的に使ったのでは?」などの疑いを持たれません。
他の相続人にも知らせる
死亡した人の預金をおろす必要があるときは、他の相続人にも知らせてください。
家の破損個所を修繕する場合や、葬儀費用の支払いなど、急ぎの用件であれば、他の相続人の理解を得やすいでしょう。
使い道や金額を知らせずに預金をおろした場合、他の相続人は「自分が相続できるはずの財産を侵害された」と捉える恐れがあります。
無断の預金引き出しは損害賠償請求や不当利得返還請求の対象となり、金額によっては遺留分の返還を請求される場合もあるでしょう。
緊急を要する支払いがあるときは、後日の連絡になっても構いませんが、電話やメールで金額と使い道を伝えてください。
死亡した人の預金をおろしても、相続人全員の承諾があればトラブルを防止できます。
まとめ
死亡した人の預金をおろしても、同居親族は罪に問われませんが、葬儀費用の支払いなどに充てたいときは、必ず相続人全員の承諾を得てください。
本来は遺言書に従う、または遺産分割協議が成立しない限り、死亡した人の預金はおろせません。
無断で預金をおろすと、民事上の責任に問われるケースがあります。
場合によっては損害賠償請求や不当利得返還請求の対象になるでしょう。
私的な使い道で死亡した人の預金をおろした場合、原則として相続放棄は認められないため、相続財産に借金があるときは要注意です。
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