相続税は亡くなった方(被相続人)の財産を相続する人が相続財産に応じて納めなければならないものです。
もっとも相続財産全額が基礎控除額を超えなければ相続税はゼロとなります。
基礎控除額を差し引いてなお残余財産がある、すなわち相続税の納税義務が課せられる相続人の割合は全相続人の1割以下となっています。(2017年度)
基礎控除額は法定相続人の数で変わってきますが、では法定相続人の中で相続を放棄する人が出た場合はどう考えればよいでしょうか。
相続放棄とは
相続放棄とは、法定相続人が被相続人の財産につき一切相続をしないということです。
財産というと少し分かりづらいですが、相続は被相続人の債権債務の全てを自分のものとして引き継ぐものですから、故人の預貯金や不動産だけでなく、借金という負の遺産も同時に相続することになります。
ですから故人の財産を調べてみて、どうもマイナスになりそうだということであれば、相続放棄の手続きをして一切の支払い義務から逃れるという方法を採ることができるのです。
自分が作った借金でもないのに問答無用で相続させられ、相続人の生活が脅かされることになるのは理不尽ということで、比較的一般的にも知られ、利用されている制度といえます。
相続放棄は、相続を知った時から3カ月以内にする必要があります(民法第915条)。
また、その方法は家庭裁判所への申述という形をとらなければなりません(同第938条)。
そして相続放棄の効果として、放棄者は「初めから」相続人とならなかったこととされます(同第939条)。
相続放棄が基礎控除に与える影響
相続税計算の際の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」です。
法定相続人が配偶者と子供2人であれば、計4800万円の控除となります。
さて、法定相続人の中で相続放棄者が出た場合、先ほどの「初めから相続人ではなかった」とされるという民法の条文を見ると、法定相続人の数からも削除されるようにも読めますが、実は控除額の計算においては放棄があろうが法定相続人の数は変わりません。
上の例で子供1人が仮に相続放棄をしても、基礎控除額の計算は「3000万円+600万円×2=4800万円」のままです。
相続放棄はなかったものとして計算しなければならないので注意が必要です。
実際に相続する人数が減っても控除額がそのままということは、放棄があっても相続税がかかってくる額も変わらず、相続税額が増えないということなのでまずは安心できます。
ただし、相続人が減る分各相続人にかかってくる税額は増えることになります。
上の例で、仮に相続税額が120万円だった場合、全員が法定相続分で相続すれば、配偶者が60万円、子供がそれぞれ30万円ずつ税を負担しますが、子供一人が相続放棄をすると、その負担税額分を残った配偶者と子供一人がさらに法定相続分の割合で按分することになります。
したがって配偶者の負担額は75万円、子供の負担額は45万円となります。
相続放棄と遺産分割の違い
被相続人の遺した財産が、相続税の課税対象になるくらいあるのであれば、債務を引き継がないためという原則的な理由による相続放棄は起きないように思われます。
しかし、はっきりしないがかなりの借金があった疑いがある場合や、どうしても故人の財産を受取りたくない場合など、様々な事情でプラスの財産でも相続放棄をすることはあり得ます。
単に受取りたくない場合であれば、相続人間で遺産分割協議をし、その者の相続分をゼロにするという方法もありますが、遺産分割協議だけでは後から万一故人の債務が出てきた時に、支払い義務を逃れることができません。
遺産分割は相続人間の話し合いに過ぎないので、故人への債権を持つ第三者に対して何の効力もないのです。
また、遺産分割の場合、自分の相続分をゼロとするためには他の全相続人の同意が必要ですが、相続放棄であれば単独ですることができます。
相続放棄の注意点
上の例では子供の一人が相続放棄しても法定相続人はなお第一順位の配偶者と子供だけですが、もし子供が二人とも相続放棄した場合、新たに第二順位である被相続人の父母(尊属)が法定相続人となります。
父母が既に亡くなっている場合や、第一順位者同様相続放棄をした場合、第三順位の被相続人の兄弟が法定相続人となります。
被相続人の債務を引き継ぎたくなければ、最終的に第三順位までの相続人全員が相続放棄をしなければなりません。
自分が相続放棄をした後に次順位の相続人がいる場合は、放棄をする旨(或いはしたこと)を次順位者が把握できるよう連絡しておいた方が良いでしょう。
おわりに
相続放棄者が出た場合でも基礎控除額の計算における影響はありません。
とはいえ相続全体の流れの中では影響が出る部分があります。
相続放棄手続きは単独で行えますが、その情報は相続人全体で共有できるようにしておきましょう。