目次
遺産分割協議書の作成
相続人同士の話し合いを経て、遺産分割協議の結果がまとまったら「遺産分割協議書」という書面を作成します。
遺産分割協議書とは
遺産分割は相続人全員で合意すれば成立します。
書面に残すことで合意内容を証拠として残し、トラブルを防止するのです。
遺産分割協議書は、遺産分割協議が成立した証として作成され、「相続人全員による分割内容」と「この内容で同意した」という事実を証明するものです。
後で「言った、言わなかった」という争いを起こさないためにも、必ず作成しておきましょう。
作成は手書き、パソコンともに可能です。
パソコンで作成すると、きれいで見やすい協議書ができるでしょう。
ただし、相続人の住所・氏名は、相続人全員が間違いなく合意したことを確認する意味でも、手書きの記載が望ましいために、該当箇所は空欄にしておくといいでしょう。
【ひな形付き】遺産分割協議書の作成方法
遺産分割協議書のひな形を掲載しますので、注意点をチェックしてください(図表6−1)。
▲図表6−1
表題
表題に決まりはありませんが、書面の位置づけを明確にするためにも、冒頭に「遺産分割協議書」と書きましょう。
被相続人を特定する事項
表題の下に、誰の遺産についての遺産分割協議書なのかがわかるように、被相続人について特定する事項を書きます。
一般的には「被相続人の氏名」「生年月日」「亡くなった日」「本籍地」「最後の住所地」を記載します。
遺産分割の内容
どの遺産を誰が取得するのかを明確に記載します。
前出のひな形(図表6−1)では相続人ごとにどの遺産を取得するのかを記載していますが、遺産ごとに誰が取得するのかを記載する方法でも構いません。
預貯金は、金融機関名や支店名、口座番号、口座名義人の氏名を記載することで特定します。
通帳の記載のとおり、正確な記載が必要です。
通帳がない場合は、「預貯金証書」や「残高証明書」を取り寄せて確認しましょう。
不動産については、土地の所在地や地番、種類、地積、建物の所在地や家屋番号、構造、床面積を記載することにより特定します。
登記簿謄本の記載どおり正確に記載しましょう。
株式などの有価証券は残高証明書の記載どおりに書いてください。
預けてある証券会社名や口座番号、株式の発行会社名、株式数を記載することで特定します。
これらの情報を正確に取得するためには、証券会社に残高証明書を発行してもらって確認するのが確実です。
残高証明書の記載のとおり正確に記載しましょう。
代償分割の記載例
代償金をどのように精算するかを遺産分割協議書に記載しておきましょう。
記載例は図表6−2のとおりです。
▲図表6−2
相続人全員が署名・押印する
遺産分割書協議書に記載し、間違いがないことを確認したら、いよいよ署名・押印です。
署名・押印をするときは慎重に
遺産分割協議はいったん成立すると、基本的にやり直しがききません。
そのため、署名・押印をするときは慎重に行う必要があります。
原本は相続人の数だけ作成するのが望ましいです。
遺産分割協議書は、単に相続人がそれぞれ保管するだけと思われるかもしれません。
しかし、遺産分割の内容を対外的に証明するものとして、さまざまなところに提出する場合があります。
不動産の相続登記や預貯金の名義変更・払い戻しなどの際には、都度、遺産分割協議書の原本が必要になりますから、相続人の数だけ原本を作成し各自1通ずつ保管するといいです。
最終的に遺産分割協議書がまとまり、署名・押印をするときは、第三者の立ち会いが望ましいです。
有効性を示すのが署名・押印ですから、後から「勝手に印鑑を押された」という主張で訴訟に発展するおそれがあります。
相続人だけで押印するのであれば、その場を録画するような慎重さが求められます。
押印は届出をしている実印で
遺産分割協議書に押印するときは、市区町村届出の実印を用いましょう。
脱印鑑社会が昨今の流れですが、相続の登記などにおいては、実印による押印と印鑑証明書添付を要求されます。
認印でも法律上は有効ですが、不動産の相続登記や預貯金の名義変更・払い戻しなどを申請する際には、印鑑登録証明書の提出を求められますので、認印による遺産分割協議書は実務上使えないものとなってしまいます。
したがって、最初から実印の使用をおすすめします。
遺産分割協議書が複数ページにわたる場合は、ページのつなぎ目に契印を押すか、製本の上で製本テープの上に押印しましょう。
こうすることで、全ページが一体となって1つの遺産分割協議書となることを証明できます。
また、遺産分割協議書の原本を複数通作成するときは、割印も押しましょう。
こうすることで、どの遺産分割協議書も同じであることを証明できます。
契印・割印をするときは、相続人全員が遺産分割協議書の署名・押印に使用した印鑑を使用してください。
よくあるトラブル例
よくあるトラブルに、「手続きのために必要な書類だから」と説明され、わからないまま押印した書類が実は遺産分割協議書だった、というものがあります。
このように作成された遺産分割協議書でも、その効力について後から争うのは困難な場合が少なくありません。
実務では「押印をした以上、その書面の内容をわかっていたはず」と考えられてしまうのです。
遺産分割協議に伴う押印を求められたときは、内容を確認するのはもちろん、必要に応じて専門家に相談するといいでしょう。
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