目次
家庭裁判所へ調停を申し立てる
遺産分割協議がまとまらない場合、最後は司法の場で解決するしかありません。
ただし、いきなり司法の場(遺産分割の審判)に持ち込むのではなく、ほとんどの場合、まずは家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。
家庭裁判所で調停委員会が開かれる
たとえば、相続人同士で話し合いをして、半年以上経っても話がまとまらないという場合は、調停に移すことを考えてみてください。
調停の申立てがされると、家庭裁判所の調停委員会が開かれ、協議が始まります。
調停委員は、相続人全員から意見や経済状況などを聞き取り、相続人同士で意見の相違がある場合、調整できるかどうか議論の整理をします。
調停委員の仲介のもと、双方が合意できる遺産分割について協議がなされ、双方が合意に至れば遺産分割調停が成立します。
この調停は協議のための手続きであり、強制力はありません。
したがって、結果に納得しない相続人がいれば、遺産分割協議は成立しません。
それでは調停になんの意味があるのか、と思うかもしれませんが、強制力がなくても利用する価値はあります。
調停には協力的な態度で望むべき
ほかの相続人の意向で調停を行うことになった場合、まるで自分が訴えられた気持ちになるかもしれませんが、そう考える必要はありません。
調停はむしろ話し合いをスムーズにしようとして行われるものですから、協力的な態度で望むべきです。
遺産分割協議でもめてしまう原因の1つは、当事者だけだと感情的になりがちだからです。
冷静な第三者である家庭裁判所の調停委員を交えることで、話し合いがよりスムーズに進む効果を期待できます。
相続人同士で話し合っていると、どうしても感情的になりがちですが、調停委員が入ることで話が整理されます。
ほかの相続人に言われると納得できないことも、「裁判所の方が言うのであれば」と聞き入れやすくなるのではないでしょうか。
調停に参加できるのは相続人だけです。
相続人以外の親族が遺産分割協議に口を出して、話がまとまらなくなったときは、調停を利用することで相続人以外の意見に影響されるのを防ぐことができます。
遺産分割調停の流れ
調停のおおまかな流れは次のとおりです。
遺産分割調停申立書を提出
相続人の誰かが、家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをして、「遺産分割調停申立書」という裁判所が定める書面を提出します。
このとき収入印紙や郵便切手代が必要で、大体1万円以内です。
遺産分割調停申立書が裁判所に受理されると、調停を行う相手方にもその内容が送達されます。
調停期日が決定され、話し合いが行われる
申立てから1~2カ月の間に最初の調停期日が決定され、その後は1~2カ月に1回程度のペースで話し合いが行われます。
1回あたりの所用時間は1~2時間程度が一般的です。
スケジュールが設定されることで、遺産分割協議が早くまとまることが期待できます。
指定の日時が来たら相続人は裁判所に集まりますが、ほかの相続人と直接話し合うことはほぼありません。
当事者は交代で部屋に入り、調停委員と話をします。
このとき、はっきり主張することが大切です。
自身で話すのに抵抗があれば、弁護士に代理で出てもらうことも可能です。
合意内容は調停調書に記載される
何度か調停委員との話し合いを経て、当事者全員の間で遺産分割に関する合意が成立した場合は、その内容が調停調書に記載され、調停が成立します。
調停調書に記載されるのは、主に次の事項です。
調停調書に記載される内容
- 相続人の範囲
- 遺産の範囲
- 遺産の分割内容
- 被相続人関連で支出した費用(葬儀、債務の支払いなど)の負担者
- 今後は互いになんらの債権債務関係がない旨
調停の成立後、遺産分割処理をしますが、調停調書の給付条項(代償金として誰が誰にいくら支払う、といった内容)に従わない場合、給付を請求する権利がある人は相手に対して強制執行が可能です。
なお、調停の内容に同意しない相続人がいる場合、調停は不成立となり審判の手続きに移行します。
遺産分割調停の成立にかかる期間
遺産分割調停の成立には、トータルで約1年かかると見込んでください。
ただし、成立には話し合いの内容やほかの相続人との関係にも左右されますから、少ない回数で成立する場合もあれば逆も然(しか)りです。
半年以内に成立するケースが相当数ある一方、3年以上を要するケースもかなりあります。
相続税の申告期限(相続開始から10カ月以内)に間に合わない場合は、のちほど説明する「未分割申告」を行ってください。
調停は、基本的には話がまとまるまで続きます。
平日に行われるため、会社勤務の人は都度休みを取らなければならず、協議が長引けば負担や精神的な疲労が大きくなるでしょう。
そういう場合、弁護士に代理人となってもらえば適切なアドバイスを受けながら、速やか、かつ手間をかけずに進めることができます。
調停が不成立になったら審判に移行
調停を行ったにもかかわらず合意が成立しそうにない場合、調停委員会は事案を終了させて「審判」に移行します。
審判とは
審判は裁判の一種で、家庭裁判所の主導により適切な遺産の分け方が決められるものです。
当事者の意見にかかわらず、裁判官が最終的な判断を下します。
調停の段階で当事者の主張が提出されているため、対立箇所は明確です。
そのため、審判では争点を整理し、必要に応じて事実の調査がなされ、審判期日にどのように遺産を分けるか審判が下ります。
調停のように申立てをする必要はなく、1人の裁判官が担当となって、審判期日に当事者が出向く指示がなされます。
なお、調停を経ずに最初から遺産分割の審判を申し立てることも建前上は可能ですが、「調停で解決できるほうが望ましい」という考えがあるため、いきなり審判を申し立てても、裁判所の職権で調停に付されることが大半です。
よって、まずは調停を申し立て、調停不成立となった時点で審判に移行するのが一般的です。
結論として出された審判は「審判書」という書面にまとめられ、拘束力があります。
遺産分割協議書の代わりとなり、内容に合意しない相続人がいても、結果がひっくり返ることはありません。
審判は不合理な結論になることにも覚悟を
審判は相続人の公平が重視され、基本的には法定相続分に従った分割となります。
ときには、不動産が共有分割になるなど、相続財産の利用方法や相続税の節税の観点からは不合理な結論である可能性があります。
たとえば、相続税を下げる効果のある「小規模宅地等の特例」は、誰が相続するかによって使えるかの判断が変わります。
しかし、裁判所はこのような点を考慮して結論を出しません。
節税の観点から合理的な判断ができるならば、そのほうがいいでしょう。
そのため、相続人全員の合意があれば、改めて審判書と違う内容で遺産分割協議をやり直すことも可能です。
とはいえ、審判に至るほど話し合いが決裂したなら、改めて合意できることはほとんどないでしょうから、審判をする際は不合理な結論になることも覚悟しないといけません。
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