目次
被相続人に負債があった場合
被相続人に借金や保証債務、滞納する税金などがあった場合、マイナスの財産(負債)として、相続することになります。
負債は相続分に応じて分割されるので、基本的には遺産分割協議の対象外です。
しかし、遺産分割協議を進める際、負債を無視して進めるわけにはいきません。
まず、被相続人の負債を把握したら、「その負債は存在しているのか」という点を精査する必要があります。
たとえば住宅ローンの場合、団体信用生命保険(団信)に加入していることが多く、保険金でカバーされるのが一般的です。
保証債務には相続されるものと、されないものがありますし、そもそも時効で債務が消滅する可能性もないわけではありません。
こうした調査を経て、やはり被相続人の負債があるのを確認できたら、その負債をどうするかを決めます。
具体的には、負債の相続を承認するか、相続放棄をするかを選択します(図表4−8)。
▲図表4−8
(1)承認
相続人は、相続放棄をするのであれば、相続開始を知った日の翌日から3カ月以内に行わなくてはなりません。
「単純承認」各相続人が法定相続分に応じて引き継ぐ
通常、被相続人の財産や負債は、各相続人が法定相続分に応じて引き継ぎます。
これを「単純承認」と言います。
単純承認をした場合、債権者から支払いを請求されると、法定相続分に相当する借金額については返済を拒むことはできません。
しかし、相続放棄をすることで、返済義務から免れることができます。
相続を放棄すると、初めから相続人でなかったことになり、被相続人の権利も義務も一切引き継ぎません。
事例
被相続人の1000万円の借金を、妻と2人の子どもで引き継いだ場合で考えましょう。
債権者から支払いを請求されると、妻は500万円まで、子どもは1人あたり250万円までの支払いを拒むことはできません。
法定相続分に従って、各相続人が借金を返済することになります。
ところが、妻が相続放棄をすると、妻は相続人でなかったことになり、自らが支払う500万円の返済義務を免れます。
一方、妻が相続放棄したのに子どもがしなかった場合、子ども2人で1000万円、つまり1人あたり500万円の借金の返済義務を負うことになります。
「限定承認」プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産も承継する
一方、「限定承認」とは、遺産に含まれるプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産も承継する承認方法です。
被相続人に借金があるかもしれないものの、正確にいくらあるのかが判明しがたい場合は限定承認をするのが有効です。
のちに莫大な借金が判明したとしても、プラスの財産を超える部分については返済の必要はありません。
ただし、限定承認の手続きは相続人全員で行う必要があることに注意が必要です。
相続人に1人でも反対する人がいたり、連絡のつかない人がいたりする場合は、限定承認はできません。
(2)相続放棄
ここからは、相続放棄と限定承認を合わせて「相続放棄等」として説明を進めます。
相続放棄等をするには、相続開始を知った日の翌日から3カ月以内に、家庭裁判所で手続きをします。
単にほかの相続人に相続権を譲渡したり、相続しないことをほかの相続人との間で約束したりするだけでは相続放棄等をしたことにはなりません。
たとえ遺産分割協議書に、「相続放棄等をする」といった文言を書いても法律上は無効です。
手続きを怠ると、自動的に単純承認したものとみなされます。
このように、相続放棄等は遺産分割協議とは異なる手続きです。
遺産分割の期限はないからといってのんびりせず、手続きの期限を過ぎてしまわないように気をつけましょう。
なお、被相続人に借金があることを相続人が知らず、しばらく経ってから借金を有していたことが判明することも珍しくありません。
このような場合、借金があることを知ってから3カ月以内であれば、相続を放棄することによって返済義務から免れることが可能です。
もっとも、調査すればすぐに借金が判明したにもかかわらず、通常行うべき調査を怠っていたに過ぎない場合には、相続放棄が認められない可能性もあるので注意してください。
▼もめない遺産分割の進め方 シリーズ
- もめない遺産分割Vol1-何のために遺産分割するの?必要性とスムーズに進めるポイント
- もめない遺産分割Vol2-遺産分割でもめるケース|問題の長期化を避けるべき理由とは?
- もめない遺産分割Vol3-なぜ遺産分割を急ぐべき?不公平を生まないために
- もめない遺産分割Vol4-遺産分割でもめる理由とトラブルパターンを紹介
- もめない遺産分割Vol5-遺言書の内容は絶対?相続人全員が納得する遺産分割の必要性
- もめない遺産分割Vol6-遺産分割の基礎知識|法定相続人の範囲と順位
- もめない遺産分割Vol7-【誰がどれくらい相続する?】法定相続分の割合と計算方法
- もめない遺産分割Vol8-代襲相続はどこまで続く?相続欠格・相続廃除に該当する相続人を確認
- もめない遺産分割Vol9-養子は実子と同じく相続人になる?「特別養子」「普通養子」の違い
- もめない遺産分割Vol10-遺留分を侵害する遺言はNG!相続トラブル防止のために
- もめない遺産分割Vol11-生前贈与が「特別受益」と判断されるポイントとは
- もめない遺産分割Vol12-生前の貢献が「寄与分」に認められるケース【要件と期限】
- もめない遺産分割Vol13-未成年の相続人がいる場合の遺産相続の進め方
- もめない遺産分割Vol14-認知症の相続人がいる場合は「成年後見制度」を活用!
- もめない遺産分割Vol15-失踪・行方不明な相続人がいる場合の遺産相続のポイント
- もめない遺産分割Vol16-遺産分割の4つの方法|相続財産に不動産がある場合は要注意
- もめない遺産分割Vol17-相続税の申告・納付期限について【控除・特例を活用】
- もめない遺産分割Vol18-遺された配偶者を守る「配偶者居住権」
- もめない遺産分割Vol19-遺産分割準備の第一歩は「家族と相続について話し合うこと」
- もめない遺産分割Vol20-遺産争い防止に効果的!認知症になる前に民事信託の活用を
- もめない遺産分割Vol21-誰が相続人?養子は相続人になれる?家族構成が複雑な家庭
- もめない遺産分割Vol22-事前に「不公平」の解消を!生前贈与・寄与分の把握のススメ
- もめない遺産分割Vol23-遺産分割の最難関は「相続財産の調査」配慮で円滑な遺産分割を
- もめない遺産分割Vol24-相続財産に不動産がある場合の遺産分割ポイント【共有名義を避けるべき】
- もめない遺産分割Vol25-代償分割のポイントは「代償金の決め方」
- もめない遺産分割Vol26-パターン別に解説!配偶者居住権を活用すべきケースとは
- もめない遺産分割Vol27-配偶者居住権は相続税の節税になる?注意点について
- もめない遺産分割Vol28-財産管理は慎重に。使い込みとならないために証拠を残そう
- もめない遺産分割Vol29-個人事業主・会社経営者は事業承継に備えを
- もめない遺産分割Vol30-生命保険は遺産分割の対象?相続対策としての生命保険の活用ポイント
- もめない遺産分割Vol31-相続手続き別の相談先と専門家に依頼するメリット
- もめない遺産分割Vol32-遺産分割のスケジュール|手続きの流れと期限を確認
- もめない遺産分割Vol33-戸籍で相続人の確認を!戸籍謄本の取り方ガイド
- もめない遺産分割Vol34-財産調査は預金口座から!漏れのない財産目録をつくろう
- もめない遺産分割Vol35-相続時の所有不動産はどのように把握する?評価方法も解説
- もめない遺産分割Vol36-相続財産に株や投資信託が含まれている場合の遺産分割方法
- もめない遺産分割Vol37-口座名義人が亡くなったらすぐに銀行に連絡すべき理由
- もめない遺産分割Vol38-遺産分割協議を始める際の連絡の仕方|連絡先がわからない時の対処法
- もめない遺産分割Vol39-遺産分割協議のスムーズな進め方|円滑な話し合いのポイント
- もめない遺産分割Vol40-不動産を相続した場合の遺産分割【小規模宅地等の特例活用】
- もめない遺産分割Vol41-「二次相続」も考慮して損をしない対策を!一次相続との違いとは
- もめない遺産分割Vol42-相続で忘れがちな「財産」以外の決めごと|支払いやお墓について
- もめない遺産分割Vol43-亡くなった人の財産に借金などの負債・債務がある際の対処法
- もめない遺産分割Vol44-相続放棄はトラブルの種?相続放棄が認められないケースとは
- もめない遺産分割Vol45-遺産分割協議がまとまらなければ調停、そして審判へ
- もめない遺産分割Vol46-遺産分割調停中にやってはいけないこと|誠実さと証拠が重要
- もめない遺産分割Vol47-相続税の申告期限に間に合わない場合の対処法|ペナルティ回避を
- もめない遺産分割Vol48-【ひな形付き】遺産分割協議書の作成方法
- もめない遺産分割Vol49-事前にトラブル防止!遺産分割協議書を公正証書で作成するメリット
- もめない遺産分割Vol50-相続財産の名義変更手続き・必要書類まとめ
- もめない遺産分割Vol51-遺産分割協議はやり直しできる?無効になるケースは?