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「配偶者居住権」で配偶者の住まいを確保
不動産の分割を考えるときは、相続税などの経済的な影響だけでなく、相続人の生活に及ぼす影響も重要な検討材料になります。
たとえば、被相続人と同居していた親族がいた場合、その自宅の土地や家屋を誰が相続するのかを慎重に考える必要があるでしょう。
被相続人と同居していた配偶者がいる場合は、「配偶者居住権」の活用が有効です(「遺された配偶者を守る「配偶者居住権」-もめない遺産分割Vol18」)。
ここで改めて配偶者居住権の仕組みを説明しましょう。
配偶者居住権とは
配偶者居住権は、被相続人の配偶者のみに認められる権利で、相続発生時に被相続人の持ち家に居住していた場合、亡くなるまでの間、その家に住み続けられるという権利です。
ここでは、妻と子が法定相続分で相続すると仮定し、3つのパターンに分けて比較します。
配偶者居住権を使わない場合と使った場合で、どのような違いがあるのかを見てみましょう。
事例1:遺産に占める自宅の割合が高いケース
事例遺産に占める自宅の割合が高いケース(図3−5)
▲図3−5
配偶者居住権を設定せず、配偶者がそのまま自宅に住み続けようとすると、自宅の所有権を相続することになります。
この場合、ほかの相続人である子に対して、配偶者は代償金を支払うことになるでしょう。
しかし、配偶者に代償金を支払えるだけのお金がなければ、自宅を売却せざるを得なくなります。
住み続けるために自宅を相続したのに、結果的に住み慣れた住居から離れなくてはなりません。
また、なんとか代償金を支払うだけのお金を用意できたとしても、配偶者のその後の生活が困窮してしまうかもしれません。
こうなると、やはり自宅を売却したり、子に扶養してもらったりする必要が出てきます。
しかし、配偶者居住権を設定すれば、配偶者は自宅に住み続ける権利を確保しながら、子が所有権を相続することが可能です。
代償金の発生も防げます。
さらに、被相続人が残した預貯金の一部を配偶者が相続することで、老後の生活が保証され、安心して暮らすことができます。
事例2:遺産に占める自宅と預貯金の割合がほぼ同じケース
事例遺産に占める自宅と預貯金の割合がほぼ同じケース(図3−6)
▲図3−6
こちらのケースでは、配偶者居住権を設定せずに遺産分割をしても、代償金を支払うまでの事態にはならないでしょう。
しかし、相続できる預貯金が少ないため、生活がギリギリになりがちです。
配偶者居住権を取得することで、自宅に住み続けられる上、ある程度の預貯金も相続できるようになりますから、残された配偶者は安心して暮らせるようになります。
事例3:遺産に占める預貯金の割合が高いケース
事例遺産に占める預貯金の割合が高いケース(図3−7)
▲図3−7
遺産分割は、遺産に占める預金の割合が高いほどスムーズになります。
ある程度の預金があれば、配偶者は自宅を相続しながら、十分な預貯金も相続することができます。
したがって、あえて配偶者居住権を設定しなくても、配偶者が生活に困るような状況にはなりにくいでしょう。
ただし、配偶者が自宅不動産の所有権を相続するか、配偶者居住権を取得するかを選択する余地ができたことには意味があります。
遺産分割協議の際、選択肢が多いことで、相続人の同意を得やすくなるからです。
また、のちほど説明する相続税の節税の観点からも、配偶者居住権を検討する意味はあります。
以上、3つのケースで説明したとおり、配偶者居住権を設定することで、将来に遺産争いなどで困った事態になることを防ぐことができます。
配偶者居住権を利用するには、遺産分割協議で設定する方法もありますが、遺産分割協議でまとまらないことを想定して遺言書にしっかり明記すると安心です。
両親が健在なうちに、自宅をどのように遺産分割をするかを考えておきましょう。
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