目次
不動産をどうするかを決めておく
遺産分割に備えるため、「不動産をどう分けるか」という点も早くから考えておきたい問題です。
不動産は分割するのが困難
「遺産分割の4つの方法|相続財産に不動産がある場合は要注意-もめない遺産分割Vol16」で説明したように、不動産は、現金や預金などと違って分割するのが困難です。
たとえば、相続財産の大半が親の住んでいた不動産であれば、そこに住む人がすべて相続したいと考えるでしょう。
とはいえ、相続できる遺産が持ち家しかない場合、相続人の1人だけが相続すると不公平になります。
実際にこのようなケースは多く、すべての相続財産評価額の半分以上を自宅の土地や建物が占めていることも珍しくありません。
このような場合、自宅を相続した人と、それ以外の人では相続した財産の額に大きな差が出るため、もめる原因となりやすいのです。
土地が2つ以上あっても、安心とは言えません。
価値に差があるからです。
不動産は評価することが難しい
土地の評価額は、大きさ、立地、形状など、さまざまな要因で変わるため、2つとして同じ価値を持つ土地は存在しません。
仮に同じ大きさであっても、所在地などによって価値は異なるため、どの土地を相続するかによる争いが起きるかもしれません。
わかりやすいのが賃貸物件です。
遺産に賃貸マンションが2棟あるとして、1つは年間1000万円の家賃を、もう1つは年間300万円の家賃を見込めると考えてください。
これらの賃貸マンションを、単に2人で1棟ずつ分けても不公平です。
こうした理由から、遺産を法定相続分に合わせて共有分割にする人は少なくありませんが、共有分割はできる限り避けることをおすすめします。
不動産の共有名義は避けるべき
相続の際に不動産を共有分割する人がいるのは、「不動産を共有名義にすることで相続人間の不公平感がなくなる」というイメージがあるからでしょう。
ただ、不動産を単純に共有名義にすることには問題があります。
不動産の共有名義を避けるべき理由(1)売却時には共有者全員の同意が必要
たとえば、共有名義の不動産を売却する際には、共有者全員の同意が必要です。
仮に1人でも反対すれば売却できません。
動きが遅くなれば、売り時を逃すといった弊害も考えられます。
かといって、売却に賛同する人の共有持分だけ売ろうとすると、期待した値段では売れないでしょう。
事実として、不動産は共有にすると価値が下がります。
まるごと売れば1億円の価値の土地があり、この土地を兄弟で2分の1ずつ共有にしたとしましょう。
その後、兄は土地を売却したいのに弟が同意しない状況が起きると、兄は共有持分だけを売ることになります。
このとき、そもそも買い手を見つけるのが難しく、運良く見つかったとしても、売却価格については妥協を迫られる可能性があります。
まとめて売却すれば、1億円×2分の1=5000万円の収入を見込んでいても、共有持分だけを切り出して売ると5000万円で売れる可能性は低いでしょう。
不動産の共有名義を避けるべき理由(2)手間がかかる
賃貸収入のある不動産も、やはり共有はおすすめしません。
理由は、手間がかかるからです。
共有となっている土地が収益物件である場合、誰が管理をするのかでもめるおそれがあります。
「賃貸不動産につきものの管理費や修繕費の負担をどう分けるのか」「トラブルが起きたときの対処は誰が行うのか」を考える必要があります。
また、それぞれの所有者に家賃収入が発生するため、それぞれが確定申告を行う必要があります。
この作業を税理士に依頼するとしたら、共有名義人ごとに税理士への支払いが必要です。
それでも共有分割を考えるのであれば、いずれ来る二次相続以後の遺産分割が面倒になる点も覚悟する必要があります。
たとえば、親の不動産を子2人で共有分割した場合、その後2人が死亡すると、その相続人に共有持分が引き継がれます。
共有分割を繰り返すと、時間が経過するとともに持ち分がどんどん細分化され、気づいたときには何十人もの共有状態になってしまいます。
こうなると、せっかく相続した不動産も、ますます活用が難しくなり、ついには売却も賃貸もできなくなります。
相続人の仲が悪いときは分筆を検討
土地を現物分割する方法が、分筆(ぶんぴつ)して単独所有にするというものです。
たとえば、不動産をそのまま相続すると遺産争いが想定される場合、生前から土地を分筆して、「この土地は誰が相続する」と計画すれば、将来の遺産争いを防ぐことができます。
分筆を行う上での注意点
ただし、分筆を行う上で注意しなければならないことがあります。
土地の大きさ・周辺環境を加味しなければ不公平が生じる
まずは、土地を平等に分筆したいと考えるとき、面積はもちろん、接道や形状、日当たり、周辺環境といった複数の要因を加味する必要があります。
このようなことを考えずに分筆をすると、結果的に不公平が生じます。
また、そもそも土地の面積が小さいときは、分筆をするとさらに小さくなって価値を落とすことも考えられます。
分筆前の土地が3000万円で売却できる見込みがあったのに、土地を2つに分筆したらそれぞれ1000万円でしか売却できないのであれば、やめたほうがいいでしょう。
相続税への影響も考慮しなければならない
また、分筆をすることで相続税に影響が出ることも考慮してください。
相続税を計算する際、基本的には国税庁が定める路線価に面積を掛けて土地の評価計算を行います。
このとき、土地の形状などによって調整が加わるため、分筆を行うことで相続税評価額が変動するのです。
さらに「小規模宅地等の特例」による節税効果に影響が及ぶことも考えられます。
分筆を行うことで、結果的に相続税の節税につながることもあるのですが、利用状況などに照らして不合理になっている場合、分筆しているにもかかわらず一体の土地として評価計算されてしまいます。
分筆は土地を遺産分割するときの1つの選択肢になりますが、慎重に考えなくてはいけません。
税理士などの専門家に相談し、慎重に判断してください。
▼もめない遺産分割の進め方 シリーズ
- もめない遺産分割Vol1-何のために遺産分割するの?必要性とスムーズに進めるポイント
- もめない遺産分割Vol2-遺産分割でもめるケース|問題の長期化を避けるべき理由とは?
- もめない遺産分割Vol3-なぜ遺産分割を急ぐべき?不公平を生まないために
- もめない遺産分割Vol4-遺産分割でもめる理由とトラブルパターンを紹介
- もめない遺産分割Vol5-遺言書の内容は絶対?相続人全員が納得する遺産分割の必要性
- もめない遺産分割Vol6-遺産分割の基礎知識|法定相続人の範囲と順位
- もめない遺産分割Vol7-【誰がどれくらい相続する?】法定相続分の割合と計算方法
- もめない遺産分割Vol8-代襲相続はどこまで続く?相続欠格・相続廃除に該当する相続人を確認
- もめない遺産分割Vol9-養子は実子と同じく相続人になる?「特別養子」「普通養子」の違い
- もめない遺産分割Vol10-遺留分を侵害する遺言はNG!相続トラブル防止のために
- もめない遺産分割Vol11-生前贈与が「特別受益」と判断されるポイントとは
- もめない遺産分割Vol12-生前の貢献が「寄与分」に認められるケース【要件と期限】
- もめない遺産分割Vol13-未成年の相続人がいる場合の遺産相続の進め方
- もめない遺産分割Vol14-認知症の相続人がいる場合は「成年後見制度」を活用!
- もめない遺産分割Vol15-失踪・行方不明な相続人がいる場合の遺産相続のポイント
- もめない遺産分割Vol16-遺産分割の4つの方法|相続財産に不動産がある場合は要注意
- もめない遺産分割Vol17-相続税の申告・納付期限について【控除・特例を活用】
- もめない遺産分割Vol18-遺された配偶者を守る「配偶者居住権」
- もめない遺産分割Vol19-遺産分割準備の第一歩は「家族と相続について話し合うこと」
- もめない遺産分割Vol20-遺産争い防止に効果的!認知症になる前に民事信託の活用を
- もめない遺産分割Vol21-誰が相続人?養子は相続人になれる?家族構成が複雑な家庭
- もめない遺産分割Vol22-事前に「不公平」の解消を!生前贈与・寄与分の把握のススメ
- もめない遺産分割Vol23-遺産分割の最難関は「相続財産の調査」配慮で円滑な遺産分割を
- もめない遺産分割Vol24-相続財産に不動産がある場合の遺産分割ポイント【共有名義を避けるべき】
- もめない遺産分割Vol25-代償分割のポイントは「代償金の決め方」
- もめない遺産分割Vol26-パターン別に解説!配偶者居住権を活用すべきケースとは
- もめない遺産分割Vol27-配偶者居住権は相続税の節税になる?注意点について
- もめない遺産分割Vol28-財産管理は慎重に。使い込みとならないために証拠を残そう
- もめない遺産分割Vol29-個人事業主・会社経営者は事業承継に備えを
- もめない遺産分割Vol30-生命保険は遺産分割の対象?相続対策としての生命保険の活用ポイント
- もめない遺産分割Vol31-相続手続き別の相談先と専門家に依頼するメリット
- もめない遺産分割Vol32-遺産分割のスケジュール|手続きの流れと期限を確認
- もめない遺産分割Vol33-戸籍で相続人の確認を!戸籍謄本の取り方ガイド
- もめない遺産分割Vol34-財産調査は預金口座から!漏れのない財産目録をつくろう
- もめない遺産分割Vol35-相続時の所有不動産はどのように把握する?評価方法も解説
- もめない遺産分割Vol36-相続財産に株や投資信託が含まれている場合の遺産分割方法
- もめない遺産分割Vol37-口座名義人が亡くなったらすぐに銀行に連絡すべき理由
- もめない遺産分割Vol38-遺産分割協議を始める際の連絡の仕方|連絡先がわからない時の対処法
- もめない遺産分割Vol39-遺産分割協議のスムーズな進め方|円滑な話し合いのポイント
- もめない遺産分割Vol40-不動産を相続した場合の遺産分割【小規模宅地等の特例活用】
- もめない遺産分割Vol41-「二次相続」も考慮して損をしない対策を!一次相続との違いとは
- もめない遺産分割Vol42-相続で忘れがちな「財産」以外の決めごと|支払いやお墓について
- もめない遺産分割Vol43-亡くなった人の財産に借金などの負債・債務がある際の対処法
- もめない遺産分割Vol44-相続放棄はトラブルの種?相続放棄が認められないケースとは
- もめない遺産分割Vol45-遺産分割協議がまとまらなければ調停、そして審判へ
- もめない遺産分割Vol46-遺産分割調停中にやってはいけないこと|誠実さと証拠が重要
- もめない遺産分割Vol47-相続税の申告期限に間に合わない場合の対処法|ペナルティ回避を
- もめない遺産分割Vol48-【ひな形付き】遺産分割協議書の作成方法
- もめない遺産分割Vol49-事前にトラブル防止!遺産分割協議書を公正証書で作成するメリット
- もめない遺産分割Vol50-相続財産の名義変更手続き・必要書類まとめ
- もめない遺産分割Vol51-遺産分割協議はやり直しできる?無効になるケースは?