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被相続人に対する貢献は「寄与分」になる
「親の家業を手伝っていたから、その分多く遺産を相続したい」
このような場合、「寄与分」を理解しておきましょう。
寄与分とは、財産を残して亡くなった被相続人の生存中に、ある相続人が被相続人の財産の維持や増加に貢献した場合に、その貢献を相続分に加味する制度です。
被相続人の財産について貢献した相続人に特別な処遇をするもので、ほかの相続人との不公平を解消するために設けられました。
たとえば、親の事業を手伝って会社の拡大に貢献した長男と、実家にまったく寄り付かず親に負担や迷惑ばかりかけた次男が同じ相続分だとしたら、常識的に見ても不公平なのは明らかです。
こうした場合、話し合いが必要ですが、法律上は、寄与分を考慮して長男の相続分を多くすることができます。
寄与分を適用するための要件1:特別の寄与
寄与分を適用するためには複数の要件がありますが、第一には、その寄与が「特別の寄与」でないといけません。
相続人について寄与分が認められるケースとしては、次のような具体例が挙げられます。
寄与分が認められるケース1:無報酬またはそれに近い状態で、被相続人の経営する家業に従事していた
1つ目は、「無報酬またはそれに近い状態で、被相続人の経営する家業に従事していた」というケース。
相続人の事業を単に手伝うために無償で継続的に専従しているようなケースです。
「実家の旅館で給料ももらわずにフルタイムで働いていた」という例を思い浮かべると、イメージが湧きやすいかもしれません。
寄与分が認められるケース2:被相続人の事業に対して財産上の給付をした
2つ目は、「被相続人の事業に対して財産上の給付をした」というケースです。
たとえば、会社設立の際に発起人として多額の出資をしたり、経営難に陥った際に金銭的援助をして窮地を救ったりといったことが挙げられます。
寄与分が認められるケース3:被相続人の療養看護などで特別な貢献をした
3つ目は、「被相続人の療養看護などで特別な貢献をした」というケースです。
多くの家庭で該当者がいると思われるかもしれませんが、このケースで寄与分が認められるためのハードルは高く、一般的なレベルの看護や介護では認められません。
「被相続人が近親者による療養看護を必要としていること」「通常期待されるレベルを超えた看護がなされたこと」「それが無報酬であり長期間にわたること」といった事実が必要です。
たとえば、週に何回か親に食事を届けに行った程度では、一般的な扶養義務の範囲内の行為と言えるので、特別な貢献とまでは言えません。
寄与分を適用するための要件2:特別の寄与によって被相続人の遺産が維持された、または増加した事実
また、第二の要件として、その特別の寄与によって被相続人の遺産が維持された、または増加したといった事実が必要です。
このような事実があり、寄与分が認められると、その分だけ相続人の取得する相続財産が通常より増加します。
事例妻と子2人の計3人が2000万円の財産を相続する場合
たとえば、被相続人の夫が亡くなって、妻と子2人の計3人が2000万円の財産を相続する場合で考えます。
法定相続分では妻は1000万円、子2人はそれぞれ500万円です。
仮に妻の特別の寄与によって、被相続人の財産が400万円維持されたとすると、妻に400万円の寄与分が認められます。
その場合、その400万円を除く1600万円がトータルの相続財産です。
この1600万円を基礎として計算すると、妻が1600万円×1/2=800万円、子2人がそれぞれ1600万円×1/4=400万円です。
その上で、妻は寄与分の400万円を加えて、計1200万円になります。
結果的に、配偶者は寄与分を考慮する前よりも200万円多く相続することができます。
なお、寄与分の金額は、相続財産から遺贈すると定められた部分を差し引いた金額が上限です。
たとえば、相続財産が1億円あったとして、遺言で知人などに1000万円が渡るのであれば、差し引きで9000万円が寄与分の上限となります。
つまり、遺贈を受けた人が寄与分の影響を受けることはありません。
もし「自分に寄与分がある」と考える相続人は、しかるべき証拠を整えた上で遺産分割協議において寄与分についてほかの相続人に主張するべきです。
もっとも、寄与分の主張はほかの相続人の利益を害するので、その主張をすると協議がまとまらず、調停や審判になる可能性が高いことも踏まえておきましょう。
なお、今後施行される改正法により、特別受益による贈与や寄与分は、相続開始から10年間経過すると主張できなくなります。
もし特別受益や寄与分を主張したいのであれば、期間制限に気をつけましょう。
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