生前贈与は「特別受益」として相続財産に加味する
相続人の特定の誰かが、被相続人から生前に多額の財産をもらっていたとします。
その後、相続時に残った遺産を全相続人で均等に分けるとしたら、不公平感が否めません。
そのため、「生前に被相続人から受け取った利益を、遺産分割の計算に加味する」という考え方があります。
これを「特別受益」と呼びます。
特別受益に該当するもの
特別受益に該当するものには、①遺贈、②学費、③生計の資本としての贈与、④土地・建物の無償使用、⑤生活費の援助などさまざまです。
ただし、これらの事実があったからといって、①遺贈以外のものは必ず特別受益として認められるわけではありません。
たとえば、通常の扶養義務の範囲内で生活費の援助を受けたり、通常の教育の範囲内にある学費の援助を受けたりしていても、特別受益にはあたらないとされます。
特別受益に該当するかどうかの判断のポイントは、「その家庭にとって普通のことか」という点です。
たとえば、「結婚の祝い金」という名目で、兄弟姉妹の中で1人だけ親から1000万円をもらったケースで考えてみましょう。
これだけの金銭を受け取るのは、普通のこととは言えません。
身内からもらう一般的なご祝儀の金額であれば特別受益として考える必要はないのですが、1000万円はかなり大きな額です。
明らかに通常の扶養義務の範囲を超える金銭のやり取りですから、この金額は特別受益に該当するでしょう。
特別受益がある場合は法定相続分の計算が変わる
特別受益がある場合は、その特別受益を受けた人も、特別受益を受けていない人も、相続財産の法定相続分の計算が変わります。
まずは相続財産に特別受益の額を加えて、「特別受益がなかった」としたら相続財産がいくらなのかを計算してください。
そして、その額に法定相続割合を乗じて各相続人の法定相続分を計算します。
最後は、特別受益を受けた人について、その特別受益の額を控除するというのが、計算の流れです。
先ほどのケースで、相続開始時に5000万円の遺産があったとしましょう。
法定相続人が2人いると、結婚祝い金をもらった人の相続分は(5000万円+1000万円)×1/2‐1000万円=2000万円です。
もう1人の相続分は(5000万円+1000万円)×1/2=3000万円です。
このように、特別受益の金額まで含めて調整すると、2人がともにトータルで3000万円ずつを受け取る形で遺産分割することができます(図表2−8)。
▲図表2−8
ただし、特別受益がいくらかになるかを計算するのは簡単ではありません。
特別受益には「被相続人の生存中だけではなく、相続開始後に遺贈を受けた場合も含まれる」というルールがあり、専門的な検証が求められます。
特別受益を考慮して遺産分割を行うときは、裁判所による調停や審判(Vol45)を行ったほうがスムーズです。
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