遺留分を侵害する遺言はNG
遺言を行うとき、「長男がすべての財産を相続する」といったように法定相続分を無視した極端な形にすると、「遺留分」の問題が生じます。
遺留分とは
遺留分とは、法律によって決められている相続財産の「最低限の取り分」です。
対象となる財産には、相続開始時における被相続人の財産のほか、被相続人から遺贈された財産も含みます。
したがって、被相続人が「愛人に全財産を遺贈する」といった遺言を残したとしても、相続人は遺留分を主張できるのです。
また、被相続人が生前に贈与した財産も遺留分の対象になる可能性があります。
相続人に対する生前贈与は、相続開始前の10年間にされたものが遺留分の基礎財産に含める対象となります。
一例として、生前に被相続人から結婚資金として金銭を贈与された場合、相続開始前の10年以内なのかで判断が変わります。
なお、被相続人が相続人以外に生前贈与をしていた場合は、相続開始前の1年間にされた生前贈与に限り、遺留分の基礎財産に含める対象となります。
遺留分の割合
遺留分の割合は民法で定められており(図表2−6)、直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、そのほかの相続人の場合(配偶者や子など)は法定相続分の2分の1です。
▲図表2−6
しかし、被相続人の兄弟姉妹はたとえ相続人であったとしても遺留分は認められません。
では、遺留分を主張するときの具体的なケースを見ていきましょう。
事例相続人が長男と次男のみで「次男にのみ全財産を渡す」
たとえば、相続人が長男と次男のみで、「次男にのみ全財産を渡す」という遺言があるとしましょう。
この場合、長男は遺産の4分の1(1/2×1/2)に相当する金銭を支払うよう、次男に求めることが可能です(図表2−7)。
▲図表2−7
仮に遺留分算定の基礎となる財産の価額が5000万円とすると、次のように遺留分を計算します。
法定相続分=1250万円
同じく5000万円の遺産があり、配偶者のみが相続人だった場合で考えます。
この場合、配偶者の法定相続分は100%です。
ほかに被相続人の内縁のパートナーや認知されていない子がいたとしても、配偶者のみが相続人であることは変わりありません。
ですから、もし「財産はすべて愛人に残す」といった遺言があるとして、財産が5000万円なら、遺留分の割合である2分の1を掛けて、2500万円を遺留分として愛人に請求することが可能です。
なお、代襲相続人も遺留分を有します。
事例代襲相続人も遺留分を有する場合
たとえば、被相続人Xの相続開始前にXの長男Aが亡くなっているケースでは、Aに子aがいればaが代襲相続人となります。
もし、Xが「全財産をXの次男Bに相続させる」という遺言を残していると、aは遺留分を侵害されています。
このケースでは、aがBに遺留分侵害額を請求することができます。
ただし、被相続人の兄弟姉妹が相続人となるケースで、甥や姪が代襲相続することになった場合、前述したように、そもそも兄弟姉妹には遺留分がありません。
したがって、兄弟姉妹の代襲相続人である甥や姪にも遺留分は認められません。
以上、代表的な例を紹介しましたが、遺留分は法律で認められた権利です。
相続人が遺留分に満たない財産しかもらえない場合、ほかの相続人や第三者に対して、遺留分に相当する金銭の請求をすることを考えましょう。
▼もめない遺産分割の進め方 シリーズ
- もめない遺産分割Vol1-何のために遺産分割するの?必要性とスムーズに進めるポイント
- もめない遺産分割Vol2-遺産分割でもめるケース|問題の長期化を避けるべき理由とは?
- もめない遺産分割Vol3-なぜ遺産分割を急ぐべき?不公平を生まないために
- もめない遺産分割Vol4-遺産分割でもめる理由とトラブルパターンを紹介
- もめない遺産分割Vol5-遺言書の内容は絶対?相続人全員が納得する遺産分割の必要性
- もめない遺産分割Vol6-遺産分割の基礎知識|法定相続人の範囲と順位
- もめない遺産分割Vol7-【誰がどれくらい相続する?】法定相続分の割合と計算方法
- もめない遺産分割Vol8-代襲相続はどこまで続く?相続欠格・相続廃除に該当する相続人を確認
- もめない遺産分割Vol9-養子は実子と同じく相続人になる?「特別養子」「普通養子」の違い
- もめない遺産分割Vol10-遺留分を侵害する遺言はNG!相続トラブル防止のために
- もめない遺産分割Vol11-生前贈与が「特別受益」と判断されるポイントとは
- もめない遺産分割Vol12-生前の貢献が「寄与分」に認められるケース【要件と期限】
- もめない遺産分割Vol13-未成年の相続人がいる場合の遺産相続の進め方
- もめない遺産分割Vol14-認知症の相続人がいる場合は「成年後見制度」を活用!
- もめない遺産分割Vol15-失踪・行方不明な相続人がいる場合の遺産相続のポイント
- もめない遺産分割Vol16-遺産分割の4つの方法|相続財産に不動産がある場合は要注意
- もめない遺産分割Vol17-相続税の申告・納付期限について【控除・特例を活用】
- もめない遺産分割Vol18-遺された配偶者を守る「配偶者居住権」
- もめない遺産分割Vol19-遺産分割準備の第一歩は「家族と相続について話し合うこと」
- もめない遺産分割Vol20-遺産争い防止に効果的!認知症になる前に民事信託の活用を
- もめない遺産分割Vol21-誰が相続人?養子は相続人になれる?家族構成が複雑な家庭
- もめない遺産分割Vol22-事前に「不公平」の解消を!生前贈与・寄与分の把握のススメ
- もめない遺産分割Vol23-遺産分割の最難関は「相続財産の調査」配慮で円滑な遺産分割を
- もめない遺産分割Vol24-相続財産に不動産がある場合の遺産分割ポイント【共有名義を避けるべき】
- もめない遺産分割Vol25-代償分割のポイントは「代償金の決め方」
- もめない遺産分割Vol26-パターン別に解説!配偶者居住権を活用すべきケースとは
- もめない遺産分割Vol27-配偶者居住権は相続税の節税になる?注意点について
- もめない遺産分割Vol28-財産管理は慎重に。使い込みとならないために証拠を残そう
- もめない遺産分割Vol29-個人事業主・会社経営者は事業承継に備えを
- もめない遺産分割Vol30-生命保険は遺産分割の対象?相続対策としての生命保険の活用ポイント
- もめない遺産分割Vol31-相続手続き別の相談先と専門家に依頼するメリット
- もめない遺産分割Vol32-遺産分割のスケジュール|手続きの流れと期限を確認
- もめない遺産分割Vol33-戸籍で相続人の確認を!戸籍謄本の取り方ガイド
- もめない遺産分割Vol34-財産調査は預金口座から!漏れのない財産目録をつくろう
- もめない遺産分割Vol35-相続時の所有不動産はどのように把握する?評価方法も解説
- もめない遺産分割Vol36-相続財産に株や投資信託が含まれている場合の遺産分割方法
- もめない遺産分割Vol37-口座名義人が亡くなったらすぐに銀行に連絡すべき理由
- もめない遺産分割Vol38-遺産分割協議を始める際の連絡の仕方|連絡先がわからない時の対処法
- もめない遺産分割Vol39-遺産分割協議のスムーズな進め方|円滑な話し合いのポイント
- もめない遺産分割Vol40-不動産を相続した場合の遺産分割【小規模宅地等の特例活用】
- もめない遺産分割Vol41-「二次相続」も考慮して損をしない対策を!一次相続との違いとは
- もめない遺産分割Vol42-相続で忘れがちな「財産」以外の決めごと|支払いやお墓について
- もめない遺産分割Vol43-亡くなった人の財産に借金などの負債・債務がある際の対処法
- もめない遺産分割Vol44-相続放棄はトラブルの種?相続放棄が認められないケースとは
- もめない遺産分割Vol45-遺産分割協議がまとまらなければ調停、そして審判へ
- もめない遺産分割Vol46-遺産分割調停中にやってはいけないこと|誠実さと証拠が重要
- もめない遺産分割Vol47-相続税の申告期限に間に合わない場合の対処法|ペナルティ回避を
- もめない遺産分割Vol48-【ひな形付き】遺産分割協議書の作成方法
- もめない遺産分割Vol49-事前にトラブル防止!遺産分割協議書を公正証書で作成するメリット
- もめない遺産分割Vol50-相続財産の名義変更手続き・必要書類まとめ
- もめない遺産分割Vol51-遺産分割協議はやり直しできる?無効になるケースは?