そもそも遺産分割は何のために行うのか?
個人が死亡すると、亡くなった人の遺産はその子どもなどに引き継がれます。
このことを「相続」と言い、亡くなった人は「被相続人」、財産を相続する人は「法定相続人(または相続人)」と呼ばれます。
相続人が複数いる場合、Vol7で説明する「法定相続分」により遺産を取得できる人やその割合が法律で定められています。
ただし、相続人全員の話し合いによって、「遺産をどう分け合うか」を自由に決めることも可能です。
この話し合いが「遺産分割協議」であり、この協議に基づいて遺産を分けることを「遺産分割」と言います。
遺言書があれば遺産分割は不要
相続人が1人しかいない場合や、被相続人が書いたきちんとした内容の遺言書があれば、遺産分割は不要です。
しかし、そうでなければ、遺産分割をしないと相続人といえども遺産を勝手に使うことはできません。
具体例で考えてみましょう。
▲図表1−1
被相続人Xが、甲土地と乙建物を残して亡くなり、法定相続人はAとBの2人で、法定相続分は同一割合とします。
このケースでは、相続人Aと相続人Bが遺産分割しない限り、甲土地も乙建物も、AとBが2分の1ずつ持ち合うことになります(図表1−1)。
しかし、この場合、Aがこの不動産を売りたいと考えても、Bが反対すれば、全体を売却することはできません。
Aは全体の所有権を有しているわけではないからです。
この例で考えると、共有者であるAとBが自由に売却できるのは、甲土地と乙建物に対して自分が有する「持分」のみにすぎません。
Aがこの不動産全体の所有権を得て、自由に売るためには、Bと遺産分割協議を行って「甲土地および乙建物はAが相続する」という形で遺産分割をする必要があるのです。
預金についても、名義人(被相続人)が亡くなったことを金融機関が知れば、その口座は凍結されてしまいます。
凍結後は、基本的には相続人といえども、預金を下ろしたり、使ったりすることはできません。
遺産分割の前に被相続人の預金の一部を払い戻す方法はあるものの、そうした方法を使っても、預金のすべてを引き出すことは不可能です。
遺産分割協議書の役割とは
口座の凍結を銀行に解除してもらうには、遺産分割協議書などを提出して、その預金を誰が相続したのかを示す必要があります。
そして、遺産分割協議の結果をまとめた遺産分割協議書は「正当な権利がある」という証拠となります。
遺産分割協議では、相続人同士の利害が対立することも少なくありません。
相続人全員が100%納得できる遺産分割を望んでも、それが実現することはほぼないでしょう。
しかし、ひとたび遺産分割協議書が正当に作成されれば、全員の合意が成立したことになります。
相続人の誰かが、後から「やはり被相続人の預貯金がほしい」とか「合意なんてそもそもしていない」と主張したとしても通りません。
被相続人の遺産を勝手に一人占めするような行為や、紛争の蒸し返しはできなくなります。
遺産分割協議書に記載された内容に反する行為を行った相続人がいたとしても、裁判での立場はかなり不利となるため、抑止効果を期待できます。
このように、遺産分割を行い、「遺産分割協議書」という形に残すことは、「被相続人の遺産を活用する」という目的のほか、「トラブルの防止やトラブルが起きた後の対応」という意味からも重要です。
相続に関連する手続きは数多くありますが、まずは遺産分割をスムーズに進めることを重視する必要があります。
▼もめない遺産分割の進め方 シリーズ
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- もめない遺産分割Vol5-遺言書の内容は絶対?相続人全員が納得する遺産分割の必要性
- もめない遺産分割Vol6-遺産分割の基礎知識|法定相続人の範囲と順位
- もめない遺産分割Vol7-【誰がどれくらい相続する?】法定相続分の割合と計算方法
- もめない遺産分割Vol8-代襲相続はどこまで続く?相続欠格・相続廃除に該当する相続人を確認
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