この記事でわかること
- 遺留分侵害額請求権とは何かがわかる
- 遺留分侵害額請求をするケースがわかる
- 遺留分侵害額請求権の請求方法や必要書類がわかる
目次
遺留分侵害額請求権とは?
不公平な事態を避けるために「被相続人との関係に応じて相続人に最低限の相続割合を保障する」というのが「遺留分」という制度です。
そして、被相続人が極端に相続人の権利を無視するような贈与または遺贈をし、遺留分に満たない財産しか相続できなかった場合、遺留分を侵害された相続人は侵害額の請求が可能です。
これを遺留分侵害額の請求といい、遺留分を請求する権利のことを「遺留分侵害額請求権」と呼びます。
侵害された遺留分は自動で戻ってくるわけではないため、侵害額を取り戻すには遺留分侵害額を請求する必要があります。
遺留分侵害額請求をできる人
遺留分侵害額請求できる人は、次の法定相続人となる人です。
遺留分侵害額請求できる人
- 配偶者
- 子供、孫、ひ孫
- 親、祖父母、曾祖父母
また、兄弟姉妹や甥姪が法定相続人になる場合は遺留分はありませんので、遺留分侵害額請求はできません。
遺留分侵害額請求の時効
遺留分侵害額請求はいつでも請求できるわけではありません。
相続が開始を知った時から1年以内、もしくは、相続が開始されてから10年以内の時効が決められています。
どちらかの期限内でないと、遺留分侵害額請求の権利が消滅します。
遺留分侵害額請求の際には、時効を十分に意識し、適切なタイミングで行動を起こすことが重要です。
遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求との違い
2018年7月成立・公布の法律により、「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」という名称に代わりました。
名前が変わっただけではなく、どのような点が変わったのか、簡単にご紹介します。
相続が発生した年月によって、請求の仕方が変わりますので注意が必要です。
遺留分侵害額請求(現行) | 遺留分減殺請求(旧法) | |
---|---|---|
清算方法 | お金で精算 | 現物返還 |
支払い猶予 | 可能 | 即時返還 |
請求後の効果 | お金が返ってくる | 物が返ってくる、もしくは共有になる |
生前贈与の時期 | 法定相続人への生前贈与は死亡前10年間 | 法定相続人への生前贈与はすべて含む |
清算方法が現金のみになった
以前は、遺留分を主張する相続人と、遺産を独占している相続人との間での財産共有を意味していました。
しかし、改正された新法により、今回の改正で遺留分についての請求は金銭債権に統一され、名称も遺留分侵害額請求になりました。
この変更の背景には、遺贈や生前贈与の財産を共有することで起こるトラブルを回避し、相続人の遺贈や贈与の意思を尊重する目的があります。
ここで、請求された受遺者や受贈者が金銭をすぐに準備できないことが想定されます。
例えば相続財産が主に同族会社の株式などで構成されている場合、直ちに金銭の支払いが難しいことが考えられるため、裁判所は一定期間の支払い猶予を認める制度を新たに導入しました。
生前贈与の期間が10年間になった
生前贈与があった場合の遺留分侵害額請求は、相続人以外の第三者に対する生前贈与については相続開始1年前からの生前贈与が対象になります。
これは旧法と同じ扱いです。
一方で、相続人に対する生前贈与については相続開始の10年前からの生前贈与に限定されますので、法的な安定性が増しました。
旧法では期間の限定がなく、過去に行われた生前贈与について全てが遺留分侵害額請求の対象でした。
そのため、事業承継として会社の株式を生前贈与していた場合、その全てについて対象になり、事業継承が阻害されたりすることがありました。
新法では、期間を10年と限定したので、10年以内のものについては対象になってしまうものの、それ以上前になると対象から外れますので、事業承継などの相続対策がしやすくなりました。
遺留分侵害額請求に消滅時効が付けられた
遺留分侵害額請求権は、相続の開始か、遺留分侵害額請求をするべき贈与や遺贈を知った時から1年間で消滅してしまいます。
もし、自分も遺留分侵害額請求をした方がいいかもしれないと思ったら、弁護士や司法書士にいち早く相談することをおすすめします。
遺留分の計算方法
遺留分は兄弟姉妹以外の法定相続人に認められており、遺留分の割合は誰が相続人になるのかによって異なります。
まずは自分が遺留分侵害額請求できる立場なのかを確認し、財産額と遺留分の割合から遺留分侵害額を計算してみましょう。
遺留分の割合
相続人が有する遺留分の割合は、誰が遺留分権利者になるかによって変わります。
配偶者は必ず法定相続人になるほか、子供や親などの直系尊属、兄弟姉妹が法定相続人になる可能性があります。
誰が法定相続人になるか、その組み合わせにより、それぞれの遺留分の割合が決まります。
法定相続人になる人 | 遺留分割合 | ||
---|---|---|---|
配偶者 | 子供 | 直系尊属 | |
配偶者のみ | 2分の1 | ||
子供のみ | 2分の1 | ||
配偶者と子供 | 4分の1 | 4分の1 | |
直系尊属のみ | 3分の1 | ||
配偶者と直系尊属 | 3分の1 | 6分の1 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 2分の1 |
子供や直系尊属は2人以上いる場合がありますが、遺留分割合は全員の割合であるため、1人あたりの割合は人数で割って計算します。
例えば法定相続人が配偶者と子供2人の場合、配偶者の遺留分割合は4分の1、子供は1人あたり8分の1となります。
また、法定相続人が子供4人の場合、子供1人あたりの遺留分割合は8分の1です。
遺留分侵害額の計算式とシミュレーション
遺留分侵害額は、相続において法定の遺留分を受け取るべきだった額と、実際に受け取った額との差を指します。
この差額の計算式は以下の通りです。
遺留分侵害額の算定は、全体の遺産額、法定の遺留分、そして遺留分権利者の法定相続分を元に行います。
例として、全体の遺産が6,000万円、法定相続人が配偶者Aと子B・Cの3人、特別な遺贈がない場合を考えます。
遺言による指定が「Aに600万円」「Bに5,000万円」「Cに400万円」とします。
このケースでAとCの遺留分侵害額を計算します。
遺留分は2分の1。Aの法定相続分は2分の1、Cの法定相続分は4分の1となります。
これを基に、A・Cの遺留分侵害額を算出すると、Aは900万円、Cは350万円となります。
- Aの遺留分=6,000万円×1/2×1/2=1,500万円
- Aの遺留分侵害額=1,500万円−600万円=900万円
- Cの遺留分=6,000万円×1/2×1/4=750万円
- Cの遺留分侵害額=750万円−400万円=350万円
遺留分侵害額の請求方法・手続きの流れ
遺留分が侵害されている場合、遺留分侵害額請求権を行使することで、その遺留分を取り戻すことができます。
遺留分侵害額請求を行うには、いくつかの手続きを経たうえで、お互いが納得する解決方法が必要です。
相続人間で話し合う
遺留分をめぐる争いを解決する最善の方法は、相続人同士で話し合いを行うことです。
遺留分を侵害している相続人と、遺留分を侵害されている相続人が互いに話し合いを行い、どのような問題があるのかを確認します。
遺留分を侵害している相続人は、このまま遺留分を侵害し続ければ、より強硬な手段で請求を受ける可能性があることを認識する必要があります。
内容証明郵便で遺留分侵害額を請求する
時間をかけて相続人同士の話し合いを行ったにもかかわらず、お互いに納得のいく結果にならないことも考えられます。
この場合、最終的には裁判所での手続きに進むこととなりますが、その前に内容証明郵便により遺留分侵害額を請求します。
内容証明郵便による請求を行ったからといって、その金額を相手方が支払ってくれるとは限りません。
話し合いが成立していない以上、この段階で解決するとは考えにくいのです。
ただ、内容証明郵便を送ることで、時効の完成を遅らせることができます。
時効完成までの期間を6ヶ月間猶予することができるため、この間に裁判所での手続きの準備を行います。
遺留分侵害額請求調停を申立てる
遺留分侵害額の回収に向けた裁判の手続きとして、まずは家庭裁判所に調停を申し立てます。
調停とは、裁判所の調停委員が当事者の仲介役として、話し合いが円滑に進むようにする手続きのことです。
当事者同士が感情的になり、お互いの意見に耳を貸さない状態では、話し合いを重ねても歩み寄ることは難しいでしょう。
調停委員の仲介により歩み寄ることができ、調停が成立すれば、そこで遺留分を巡る争いにも終止符が打たれます。
注意点は、調停は家庭裁判所での手続きとなりますが、あくまで双方の話し合いによる解決を目指すものであり、必ず成立するとは限らないことです。
必要書類は、ケースによって違いますが、大まかに以下の通りです。
遺留分侵害の請求調停の必要書類
- ・申立書とその写し
- ・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(除籍、改正原戸籍)
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・被相続人や代襲相続をしている人の中で死亡した人がいればその人の一生分の戸籍謄本(除籍、改正原戸籍)
- ・不動産登記事項証明書、遺言書の写し、遺言書の検認調書謄本の写し
- ・当事者目録(自分もしくは弁護士、司法書士などの代理人が作成)
- ・土地建物目録(自分もしくは弁護士、司法書士などの代理人が作成)
- ・費用1,200円の収入印紙
- ・連絡用の郵便切手代
遺留分侵害額請求訴訟を行う
調停が成立しなかった場合、次のステップに進む必要があります。
具体的には遺留分侵害額訴訟を提起し、裁判所でその請求が正しいものと認めてもらうのです。
この場合、調停を行った家庭裁判所ではなく、遺留分侵害額請求の金額によって簡易裁判所または地方裁判所に訴訟を提起します。
訴訟の結果、勝訴すれば遺留分侵害額請求が正しいものとして認められ勝訴判決に基づいて、相手方に対して請求金額を回収することができます。
また、相手方が支払いを拒むような場合には、強制執行により回収することも可能です。
遺留分侵害額請求を弁護士に相談するメリット
遺留分侵害額請求は弁護士に相談するのがおすすめです。ここからは、遺留分侵害額請求権を弁護士に相談するメリットを見ていきましょう。
手続きや交渉を任せられる
遺留分侵害額請求を行う際、相手との交渉は避けて通れません。
遺産の詳細や遺留分の計算を正確に理解しながら進める必要がありますが、感情が絡み非常に複雑になることが多いです。
特に、遺留分の正確な計算や遺産の評価は、専門的な知識を要するため、自力で行うのは難しいといえます。
弁護士は、遺留分侵害額請求の手続きの流れや必要な書類、交渉のポイントを熟知しているため、スムーズに手続きができたり、交渉の成功率が高まり、手間やストレスも大幅に軽減されるのです。
時効が過ぎるのを防げる
遺留分侵害額請求の時効は相続開始と遺留分侵害を知ってから1年間です。
時効を過ぎてしまうと、遺留分を取り戻すための法的権利を失ってしまいます。
弁護士に依頼することで、権利を逃すことなく確実に遺留分侵害額請求を行えるでしょう。
調停や訴訟を有利に進められる
遺留分侵害額請求の過程で、相手との話し合いが難航することも考えられます。
特に、相手との間で意見が合わない場合や、複雑な事情が絡むと、単なる話し合いだけでは解決が難しくなることがあります。
解決方法として調停や訴訟といった法的手段を取ることが考えられますが、手続きは非常に専門的で一般の方が単独で進めるのは困難です。
弁護士は、交渉のポイントを熟知しており、調停や訴訟で有利にすすめられます。
特に、訴訟は多くの手続きや証拠の提出が求められるため、弁護士の専門的な知識や経験が大きな強みとなります。
まとめ
遺留分侵害額請求権とは、遺産の公平な分配を保障し、被相続人が相続人の権利を侵害する場合に有効な制度です。
遺留分侵害額請求権を持つのは、配偶者、子供、孫、親、祖父母、曾祖父母です。
この請求権を行使するには時効があるため、相続開始から1年以内または10年以内に請求しなければなりません。
遺留分侵害額請求は複雑な手続きを必要とするため、自力で対処することは難しいでしょう。
遺留分侵害額請求に関して疑問がある場合、専門家に相談することをお勧めします。