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最終更新日:2022/12/16

贈与を上手に活用しよう|生前贈与の暦年課税と相続時精算課税の活用方法

弁護士 中野和馬

この記事の執筆者 弁護士 中野和馬

東京弁護士会所属。
弁護士は敷居が高く感じられるかもしれませんが、話しやすい弁護士でありたいです。
お客様とのコミュニケーションを大切にし、難しい法律用語も分かりやすくご説明したいと思います。
お客様と弁護士とが密にコミュニケーションをとり協働することにより、より良い解決策を見出すことができると考えております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/nakano/

平成27年の相続税改正により、以前より多くの人に相続税が課税されることになりました。

財産をなるべく目減りさせないようにしつつ相続人に引き継ぐには、自分が生きているうちからの対策が肝心です。

そして、対策は早ければ早いほど選択肢も増えることになります。

では、生前にある程度子孫に財産を移しておく「生前贈与」について考えてみましょう。

生前贈与すると贈与税がかかる!

「相続税を避けるため生前贈与を考えている」という方も多いでしょうが、実は贈与税の税率は日本の国税でも最高レベルです。

贈与税は、受贈者(贈与を受ける者)が1月1日から12月31日までの間にいくらの贈与を受けたかということで税額が決まります。

贈与者の人数にかかわらず受贈者の人数を基準に考え、受贈者が贈与税を負担することになります。

贈与税の最高税率は55%と非常に高いものですが、減税・免税されるための特例があり、これらを確実に使えばかなり負担を抑えることができるのです。

暦年課税とは?

暦年課税

10年続けた場合、一括贈与時(1年で1100万円の贈与)と比べて207万円の節税

10年続けた場合、一括贈与時(1年で4000万円の贈与)と比べて1195万円の節税

年間110万円と400万円を比較すると、非課税枠内に収まっているAの方が得のように思える。しかし、最終的な贈与総額が大きくなるほどBの方が節税効果が高くなる。

暦年課税というのは1年間の贈与に対してまとめて課税する方法のことで「年間110万円までの贈与なら贈与税がかからない」という基準があります。

110万円のことを「基礎控除」と呼びますが、これを適用するためには贈与者、受贈者ともに年齢や親族関係などの制限はありません。

1年間の贈与の回数にも制限がありませんし、相続税との関係で精算することも必要ありません。

つまり、何人かの子供達に対して長い年月をかけてこつこつ贈与していくという使い方をするにはこの基礎控除を利用するのが適していることになります。

ただ、もし毎年きっちりと決まった時期に財産を移転させていることがわかると税務署から「最初からまとまった金額を贈与する意思があったのでは?」とみなされるおそれもあります。

どのような形で贈与契約書を作り、いつの時期に贈与するかといったことを税理士に相談の上で行う方が確実でしょう。

暦年課税のメリット

暦年課税のメリットは、時間・人数の制限がないことでしょう。

毎年110万円以下であれば、非課税になります。

例えば子供が3人いて16年間で110万円ずつ贈与した場合は、合計で5,280万円を非課税で贈与したことになります。

もし5,280万円を現金で相続した場合には、税率が20%となり1056万円の相続税がかかります。

もちろん細かい控除を入れると、相続税はもっと少なくなりますが、単純な計算で考えると暦年課税を使うだけで1056万円の節税になります。

暦年課税を使ってコツコツ贈与すれば、大きな節税に繋がります。

長い期間で贈与できたり、贈与する人数が多い場合は、暦年課税が活用できるでしょう。

また相続のことを考えれば、子供ではなく孫に贈与するのもおすすめです。

なぜなら孫への贈与は、相続のことを考えなくても大丈夫だからです。

相続は故人が亡くなった3年以内の贈与を相続としてカウントします。

もし毎年110万円ずつを子供に贈与していたら、死亡前の3年間で330万円の贈与が相続財産として計算されます。

孫に贈与したいた場合は相続が発生したとしても、相続対象にはならないため、安全な贈与ができます。

暦年課税のデメリット

暦年課税のデメリットは、非課税の金額が小さいことです。

贈与・相続の控除はたくさんありますが、金額が大きいものだと2,000万円分を非課税枠が設定されることもあります。

他の控除に比べると年間110万円と金額が小さいため、1回あたりの節税効果は少ないかもしれません。

ただし暦年課税を使ってコツコツ贈与していけば、大きな節税に繋がります。

贈与したい財産がそこまで多くない・相続が発生するまでに時間の余裕があるというケースなら、暦年課税が使えるでしょう。

「金額の大きい財産を1回で贈与したい・相続発生までの時間がないかもしれない」という場合は、暦年課税以外の方法がおすすめです。

暦年課税の注意点

暦年課税は毎年110万円まで非課税になるため「毎年110万円を贈与し続けよう」と思うかもしれません。

しかし毎年一定の金額を贈与していると、定期贈与とみなされて、課税される可能性があります。

定期贈与とは、一定の期間に一定金額を贈与するものです。

例えば1100万円を贈与するために「毎年110万円×10年で贈与する」と決めてしまうと、定期贈与になります。

定期贈与の場合は、暦年課税にはならず、贈与金額の合計に対して贈与税が発生します。

1100万円を贈与した場合は、贈与税の税率が30%となり、330万円の贈与税がかかります。

暦年課税が適用されれば贈与税はかかりませんが、定期贈与になるだけで330万円も税金がかかります。

定期贈与とみなされないように、贈与契約書を作成したり、毎年違う金額・違う時期に贈与するなど対策をしておきましょう。

相続時精算課税とは?

相続時精算課税

相続時にすでに納付した贈与税と最終的に計算した相続税とを清算するため、現金資産の場合は生前贈与をしなかった場合の相続税額と同じ

・財産移転を早めに行える

・将来的に値上がりが予想される財産(有価証券、土地など)を贈与すれば、相続時に財産移転するよりも相続税が低く抑えられることも

相続時精算課税とは、一定の要件を満たせば合計2500万円までの財産を非課税で贈与できるという制度です。

子供の住宅ローンの支援をしたい、起業するので資金を出してあげたいなど、生前に一気に多くの財産を移したい人には適した方法です。

ただ、気をつけたいのは相続の時に相続時精算課税を使って贈与した財産を相続財産の中に戻して計算しなければならないということです(もちろんすでに納めた贈与税の分は差し引くことができます)。

つまり、元々それらの財産を考慮しても相続税がかからない範囲の人(相続税の基礎控除範囲内に収まっている人)であれば非課税のメリットを受けられることになります。

ただ、相続税がかかるくらいの財産がある人でも「将来値上がりする可能性が高い財産」を贈与するのであれば節税になる場合があります。

なぜなら、相続税計算の際に持ち戻す財産の額は「相続時」ではなく「贈与時」の金額とされているからです。

なお、相続時精算課税を選択した場合、2500万円までの贈与は何回に分けて行ってもかまいませんが、もし2500万円を超えてしまった場合は一律20%の贈与税がかかることになります。

注意!暦年課税と相続時精算課税はどちらかしか選べない!

暦年課税 相続時精算課税
10~55% 税率 一律20%
年間110万円まで 非課税率 2500万円まで
なし 適用条件 贈与時の1月1日時点で60歳以上の親または祖父母から20歳以上の子、または孫への贈与
相続税とは無関係。ただし、相続開始前3年以内の贈与は贈与時の時価を相続税に加算 相続税との関係 相続税の計算時に贈与税を清算。精算時の贈与財産は贈与時の時価で評価される
相続時精算課税への変更はいつでも可能 制度の選択 相続時精算課税を行うと暦年課税への変更は不可

暦年課税と相続時精算課税はそれらのうちどちらかしか使うことができません。

つまり、いったん相続時精算課税を選択してしまうと、暦年課税に戻すことができないため、最初に利用の判断をする際はくれぐれも慎重に行わなくてはならないということです。

もし相続時精算課税を選ぶと基礎控除が使えなくなりますから、少額の贈与を行った場合でもすべて申告が必要になるという煩わしさがあることも覚悟しなければなりません。

ただ、父親からの贈与と母親からの贈与は別々の制度を使ってよいため、「父親からの財産移転には相続時精算課税を利用」、「母親からの財産移転には暦年課税を利用」など、それぞれの財産の金額や状態によって使い分けるというやり方もあります。

相続時精算課税の考え方は最初、やや複雑でわかりづらいものです。

各家庭の財産状況や相続発生までの年数によってどちらが適切なのかは異なってきますから、生前贈与を考える人は早めに専門家に相談した上で最も適切な方法を選びたいものです。

 

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