この記事でわかること
- 養子縁組が成立する条件
- 養子縁組の手続きにかかる費用
養子縁組は、血のつながりの有無にかかわらず、法律上の親子関係を結ぶ制度です。
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組があります。
両者は制度の目的が異なるため、成立するための条件や手続きなどにも大きな違いがあります。
養子縁組を検討されている方は、普通養子縁組と特別養子縁組の違いを十分理解しておきましょう。
今回は、養子縁組の条件や手続きにかかる費用について、養子縁組をするときのポイントや手続きの流れとあわせて解説します。
目次
普通養子縁組が成立する条件
普通養子縁組が成立するための条件は、以下の通りです。
- 【普通養子縁組が成立するための条件】
- 養親は20歳以上である
- 養子は尊属や年長者でない
- 後見人が被後見人を養子にする場合は家庭裁判所の許可を得ている
- 夫婦が未成年者を養子にする場合は共に養親になる
- 養親・養子が結婚している場合は配偶者の同意を得る
- 養親・養子になる意思がある
- 養子が未成年者の場合は家庭裁判所の許可を得ている
- 養子縁組の届出をしている
それぞれの要件について、解説します。
養親は20歳以上である
養親となる人は、原則として20歳以上でなければなりません。
なお、近年の民法改正により、成人年齢が18歳に引き下げられ、婚姻年齢が18歳以上に引き上げられました。
これに伴い、養親の年齢の条件が「20歳以上」に変更されるとともに、16歳以上20歳未満の未成年者が婚姻した場合の成年擬制が廃止されています。
養子は尊属や年長者でない
養子は、基本的に養親より年少でなければなりません。
また、叔父や叔母の方が年下ということもありますが、尊属が養子になることはできません。
尊属とは、自分からみた前の世代の血族のことです。
後見人が被後見人を養子にする場合は家庭裁判所の許可を得ている
後見人とは、未成年や高齢、精神的な障害などのために判断能力が十分でない被後見人に代わって、財産を管理する人です。
後見人が被後見人を養子にするためには、家庭裁判所の許可が必要になります。
また、後見人の任務が終了した後、管理の計算が終わらない間に後見人だった人が被後見人だった人を養子にする場合も同様です。
この条件は、後見人が成年後見人の場合も、未成年後見人の場合も共通です。
成年後見人とは、被後見人が成年の場合の後見人のことです。
未成年後見人とは、被後見人が未成年の場合の後見人を指します。
夫婦が未成年者を養子にする場合は共に養親になる
夫婦が未成年者を養子にする場合は、原則的に共に養親になる必要があります。
しかし、配偶者の連れ子を養子にする場合や、配偶者が行方不明といった事情がある場合は、共に養親にならなくても問題ありません。
養親・養子が結婚している場合は配偶者の同意を得る
夫婦が共同で、養親や養子になる必要はありません。
あくまで、配偶者の同意が必要となります。
養親・養子になる意思がある
養子縁組する意思がない場合、養親や養子になれません。
なお、養子が15歳未満の場合、親権者や成年後見人といった法定代理人が代わりに承諾します。
親権者とは、18歳未満の本人に代わって、身分・財産の監督保護・教育に関する権利義務を有する方です。
養子が未成年者の場合は家庭裁判所の許可を得ている
養子が配偶者やご自身の直系卑属である場合は、家庭裁判所の許可は不要となります。
直系卑属とは、子や孫といった直接的な親子関係にあり、本人より後の世代の人です。
養子縁組の届出をしている
届出がなければ、養子縁組できません。
届出先は、養親と養子の本籍地または所在地の役所のいずれかです。
特別養子縁組が成立する条件
特別養子縁組は、養子となる人は実の親との関係がなくなるため、普通養子縁組より慎重に手続きが進められます。
そのため、特別養子縁組を行うための条件は、普通養子縁組より以下のように厳しく定められています。
- 夫婦が揃って養親になる
- 夫婦のいずれかが25歳以上である
- 養子が原則15歳未満である
- 実の両親の同意がある
それぞれの条件を詳しく解説します。
夫婦が揃って養親になる
特別養子縁組の場合は、夫婦がともに養親にならなければなりません。
特別養子縁組が、養子と養親との間で実の親子と同じような関係を築くという、子どもの福祉をを目的とする制度であるためです。
ただし、夫婦の一方が他方の子ども(前婚の連れ子など)と養子縁組する場合は「夫婦共同養子縁組」の条件は除外されます。
夫婦のいずれかが25歳以上である
養親となる夫婦のどちらか一方は、25歳以上である必要があります。
一方が25歳未満の場合は、20歳以上でなければなりません。
夫婦共同縁組に加えて「一方が25歳以上、その配偶者が25歳未満の場合は20歳以上であること」という条件があるのは、特別養子縁組では養親に安定した収入が求められることに基づいています。
養子が原則15歳未満である
養子となる者は、原則として、家庭裁判所の審判を申し立てたときに15歳未満であることが必要です。
対象年齢について、以前は「6歳未満」とされていました。
しかし、6歳未満とすると児童養護施設等に入所している小中学生が制度を利用できないなどの問題点が指摘されていました。
そこで、2020年の民法改正により「15歳未満」までに引き上げられました。
実の両親の同意がある
特別養子縁組を行うにあたっては、養子となる者の実の両親の同意が必要です。
これは、特別養子縁組が成立すると、養子となる者と実父母との親子関係が消滅するためです。
ただし、実父母が意思を表示できない状態にあるときや、養子となる者の利益が著しく害されるときは、この同意は不要です。
養子縁組をするメリット
普通養子縁組のメリットは、書類上の手続きにより親子関係が生じ、その関係が亡くなるまで生涯継続することです。
親子関係になることによって相互扶助の義務が生じ、お互いに助け合って生きていかなければなりません。
また、養子は法定相続人として相続権を有します。
ただし、相続税法上は、普通養子縁組について一定の歯止めがかけられています。
養子縁組をするデメリット
養子縁組のデメリットは、いつでもその関係を解消することができる点です。
基本的には養親と養子が話し合いを行い、離縁届と呼ばれる書類を役所に提出すれば、関係を解消できます。
なお、話し合いで解決できない場合には、裁判所における調停や審判、さらに訴訟の手続きも利用可能です。
日本では養子制度に対する偏見があり、制度を利用することに対してマイナスのイメージを持たれがちです。
中傷やネガティブな意見に対して、それを覆す信念がないと、精神的に落ち込む方もいるかもしれません。
養子縁組後の相続
普通養子縁組を行った場合、養子となった人は養親の法定相続人となります。
また、実親との関係は消滅しないため、実親が亡くなった場合の法定相続人にあたります。
一方で、特別養子縁組を行った場合、養子となった人は実親との関係が解消されるため、実親の相続が発生した際には法定相続人になれません。
また、相続税の計算を行う際は、法定相続人の人数は非常に重要な要素のひとつです。
相続税を計算する場合、法定相続人が増えるほど、金額は少なくなります。
- 相続税の基礎控除額
- 生命保険金の非課税限度額
- 死亡退職金の非課税限度額
- 相続税の総額
すると、養子縁組によって相続税の節税ができるため、無制限の節税対策を防ぐために、法律によって制限がされています。
たとえば、実子がいる人が亡くなった場合、養子として法定相続人になれるのは1人のみです。
実子がいない人が亡くなった場合は、養子として法定相続人になれるのは2人までと定められています。
なお、特別養子縁組により養子になった人は、この人数制限の対象から外れます。
養子縁組をするときのポイント
養子縁組をするときのポイントとして、「親族や専門家に相談すること」が挙げられます。
ここからは、親族や専門家に相談する理由について、詳しく解説します。
親族に相談する
養子縁組の成立要件としては、養親と養子の合意があれば足りるため、親族の同意は必要ありません。
しかし、養子縁組を行うと、本来法定相続人ではなかった者が相続分を得るため、親族にとっては相続分が目減りします。
また、実子がいなかった場合は養子縁組により相続権を失う場合があります。
仮に親族に相談せずに養親と養子だけで手続きを進めてしまうと、親族間でトラブルが起こりかねません。
そこで、養子縁組を行う際には、事前に親族に相談して合意を得ておくことをおすすめします。
相続の税金対策の場合は専門家に相談する
相続の税金対策として養子縁組を行う場合、前述した相続人間のトラブル以外にも、いくつかの点に注意しなければなりません。
たとえば、実子がいない場合や、兄弟姉妹のみが相続人となるはずだった場合などは、養子縁組によってかえって相続税の負担が増えます。
また、孫を養子にした場合には、相続税が2割加算されるので要注意です。
そこで、養子縁組によって相続税の負担が増える可能性の有無や、それを防ぐ方法などについて、事前に弁護士への相談をおすすめします。
養子縁組の手続きの流れ
養子縁組の手続きの流れは、普通養子縁組と特別養子縁組の制度によって異なります。
ここからは、それぞれの制度ごとの手続きの流れについて解説します。
普通養子縁組の流れ
普通養子縁組の手続きは、以下の流れで行います。
当事者の同意を得る
まず、養子縁組について、養子となる者の同意が必要です。
養子が15歳未満の場合、養親は養子の法定代理人の同意を得る必要があります。
また、養親または養子に配偶者がいる場合には、原則として配偶者の同意が必要です。
家庭裁判所の許可を得る
養子となる者が未成年者(18歳未満)の場合は、当事者の合意に加えて、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
ただし、要旨が配偶者の子ども(連れ子)や養親の孫である場合は、家裁の許可は必要ありません。
家裁の許可を得る場合は、養子縁組許可審判の申立てを行います。
審判では、養子縁組の目的や養親の収入・生活状況などを調査して、縁組を許可しても問題がないかどうかを判断します。
養子縁組を届出する
上記の手続きが完了したら、養子縁組届に必要事項を記載し、必要書類とともに養親と養子の本籍地(または所在地)の役所に提出してください。
届出が受理されると、普通養子縁組が成立します。
なお、届出の記載事項に虚偽や誤りがあっても、届出が受理された場合には養子縁組の効力が生じます。
特別養子縁組の流れ
特別養子縁組の場合、家裁に申立てを行う前に、養子となる子どもが、養親となる人と6カ月以上同居して監護を受けていなければなりません。
6カ月間の監護期間を終えたら、以下の法的手続きを行います。
家裁に特別養子縁組成立の申立てを行う
特別養子縁組成立の申立てにあたって、家裁に提出する書類は以下の通りです。
- 特別養子適格の確認申立書
- 特別養子縁組成立の申立書
- 養親となる人の戸籍謄本
- 養子となる人の実父母の戸籍謄本
また、申立て費用として、800円分の収入印紙と、裁判所からの連絡用の切手代1,730円分(84円切手20枚+10円切手5枚)が必要です。
市区町村役場に特別養子縁組届を提出する
特別養子縁組成立の審判確定後、審判確定の日付から10日以内に、養親または養子の本籍地・住所地・所在地のいずれかの市区町村役場に特別養子縁組届を提出します。
特別養子縁組届を提出する際、縁組届以外に以下の書類が必要です。
- 家庭裁判所の審判書謄本と確定証明書
- 養親となる人の戸籍謄本(本籍地に提出する場合は不要)
養子縁組にかかる費用
養子縁組にかかる費用は、普通養子縁組と特別養子縁組によって異なります。
ここからは、それぞれの養子縁組にかかる費用について解説します。
普通養子縁組の場合
普通養子縁組にかかる費用は、0円~数千円程度です。
かかる費用・内訳等をまとめると以下の表のようになります。
養親・養子の本籍地の市区町村役場に届出 | 左記以外の市区町村役場に届出 | 費用の内訳 | |
---|---|---|---|
成人を養子にする場合 | 0円 | 900円(養親+養子1人) | 戸籍謄本発行費用 450円/1通 |
未成年者を養子にする場合 |
2,000円~3,000円 程度 |
3,000円~4,000円 程度 |
同上 審判申立費用800円/養子1人 連絡用郵便切手代 1,000円前後 |
成人を養子にする場合、養親・養子の本籍地の市区町村役場に届出する場合は戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)が不要なので、費用はかかりません。
未成年者を養子にする場合、家裁の審判費用(収入印紙代)がかかります。
特別養子縁組の場合
特別養子縁組の場合、家裁の審判申立てを行う必要があるため、総額で1万数千円程度の費用がかかります。
費用の内訳を表にまとめると以下のようになります。
必要なもの | 費用 |
---|---|
戸籍全部事項証明書(戸籍謄本) | 450円/通 |
審判申立て費用(収入印紙代) | 800円/養子1人 |
連絡用郵便切手 | 5,000円~1万円程度 |
連絡用の郵便切手は、あらかじめ指定された金額分を裁判所に納付し、手続き終了後に余った分の切手が返還されます。
養子縁組の条件に関するFAQ
ここからは、実際によくある質問をご紹介し、その質問に回答していきます。
年収に関する条件はある?
年収に関して、養親になるための基準を定めた規定はありません。
ただし、特別養子縁組の場合は以下の条件が定められています。
- 子の利益のため特に必要がある
- 6カ月間監護した状況を考慮して、特別養子縁組の成立がふさわしいと家庭裁判所によって認められる
上記の条件は養親になる人の経済状況が一定程度考慮されます。
独身や共働きでも養親になれる?
普通養子縁組をする場合、養親は独身でも構いません。
一方、特別養子縁組をする場合は、独身では養親になれません。
また、共働きの夫婦が普通養子縁組の養親になることも、何の問題もありません。
特別養子縁組の場合も、共働きの夫婦では養親になれないといった規定はないため、養親になれる可能性があります。
ただし、特別養子縁組のあっせん機関の中には、共働き夫婦を対象から外しているケースもあるので、注意が必要です。
養親の年齢制限はある?
普通養子縁組を行う場合、養親の年齢は20歳以上と定められています。
以前は20歳未満でも婚姻歴がある場合は養親になることができましたが、2022年4月1日以降は認められなくなりました。
特別養子縁組を行う場合は、夫婦の一方が25歳以上、もう一方が20歳以上が条件のひとつです。
なお、養親に上限の年齢制限はありませんが、特別養子縁組のあっせん機関では、上限の年齢制限を設けているケースが珍しくありません。
養子には何歳までなれる?
普通養子縁組を行う場合、養子になる人は何歳でも構いません。
養親より年下であること、親族の場合は尊属に該当しないことを満たせば、年齢を問わず、養子になれます。
一方で、特別養子縁組により養子になる年齢は、原則として15歳未満です。
ただ、15歳から17歳までの子どもは、本人の同意などを条件に、養子になることが認められる場合があります。
里親制度との違いは?
里親制度は、法律上の親子関係を生じるものではなく、子どもを育てられない親の代わりに一時的に子どもを預かって養育する制度です。
里親となった人には、里親手当や養育費が各自治体から支給されます。
一方、養子縁組は法律上の親子になるものです。
自治体などからの金銭的な支援はなく、本当の親子と同じように相互に扶助義務が生じます。
また、普通養子縁組は子どもの養育だけでなく、跡取りの確保や相続税対策など、幅広い目的に利用されています。
まとめ
養子縁組には、普通養子縁組と特別養子縁組の2つがあります。
両者は制度の目的が異なり、手続きや条件にも大きな違いがあるので注意しましょう。
養子縁組を行うと、養子の養親に対する相続権の他、養親・養子間の扶助義務などさまざまな効果が発生します。
相続税の節税効果などのメリットがある一方で、トラブルが発生する可能性にも留意しなければなりません。
そこで、養子縁組を検討される方は、相続問題を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。