

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること
採用後に経歴詐称が発覚した場合、企業は「解雇は認められるのか」と悩むケースが少なくありません。
経歴詐称があったとしても、直ちに懲戒解雇が有効となるわけではなく、詐称内容や業務への影響等が重要な判断要素となります。
企業としては、問題発覚後の対応だけではなく、採用段階から確認体制や規定整備を行い、トラブルを未然に防ぐしくみづくりが求められます。
ここでは、経歴詐称に関する判例として有名なスーパーバッグ事件の概要を踏まえ、裁判で重視されるポイントと企業の実務対応について解説します。
スーパーバッグ事件は、学歴や職歴を偽って入社した従業員に対する懲戒解雇の有効性が争われた、経歴詐称に関する代表的な判例です。
会社は「高卒以下」を採用条件としていましたが、従業員は短大卒である事実を隠し、高卒と申告していました。
さらに、学歴を低く詐称するだけでなく、約5年7カ月の職歴についても記載していませんでした。
判例の概要を見てみましょう。
事例事件名:スーパーバッグ事件
裁判所は、単なる学歴詐称ではなく、その虚偽申告が会社の採用判断や人事管理に与える影響を重視しています。
裁判所は、経歴詐称によって会社側が適正な評価や配置判断を行えず、企業秩序や労務管理に支障が生じる点を問題視しました。
会社には採用・配置・育成・賃金決定等について、自律的な人事秩序や運営計画が存在します。
そのため、従業員が経歴を隠匿または虚偽申告した場合、人材配置や育成方針が前提どおりに機能しなくなる可能性があります。
特に本件では、作業特質や従業員の定着性を考慮して「高卒以下の若年層を採用・育成する」という会社側の方針がありました。
裁判所は、こうした採用方針を踏まえ、経歴に関する真実告知義務は、企業秩序や信頼関係を維持するうえで重要と判断しています。
経歴詐称が判明した場合でも、直ちに懲戒解雇が有効になるわけではありません。
詐称内容が企業の採用判断や業務遂行等にどの程度影響したかが重視されます。
裁判では、次の事項は「重要な経歴」と判断されやすい傾向があります。
ここでは、経歴詐称に関する判例を詳しく解説します。
山口観光事件では、マッサージ師として勤務していた従業員が、実際は57歳であるにもかかわらず、45歳と申告して入社していた事案が問題となりました。
裁判所は、マッサージ業務という職種との関係性を重視し、懲戒解雇を有効と判断しています。
単なる年齢詐称ではなく「本来の年齢が申告されていた場合に会社が採用したか」が有効性の判断において重要です。
事例事件名:山口観光事件
三愛作業事件では、大学中退である従業員が、高卒と申告して入社していたため、解雇(本採用拒否)された事案です。
裁判所は、港湾作業という業務内容から学歴の重要性は高くなく、詐称の程度も比較的小さいとして、解雇を無効と判断しています。
過小詐称であっても経歴詐称として認められますが、業務との関連性や採用計画への影響の程度が解雇の有効性の重要な判断要素となります。
事例事件名:三愛作業事件

経歴詐称への対応では、発覚後の処分だけではなく、採用段階からの防止策が重要です。
採用面接では、職歴や資格取得時期等について具体的に確認し、履歴書等に虚偽がない旨の誓約書を取得しておく方法が考えられます。
また、就業規則には「重要な経歴詐称を行った場合」を懲戒事由として具体的に定め、どういった詐称が問題となるかを明確化しておく点が重要です。
実際に詐称が発覚した場合は、直ちに処分を決定するのではなく、まず本人ヒアリングや証拠確認を行います。
経歴詐称のみを理由とした即時解雇は、解雇予告手当の支払い等の問題も生じるため、慎重な手続きや対応が求められます。
経歴詐称は、単なる採用時のミスマッチではありません。
人員配置・評価・賃金決定など、企業の人事運営全体に影響し、職場秩序や信頼関係を揺るがす問題となります。
しかし、詐称が判明したからといって、感情的に解雇を進めると、不当解雇訴訟や労務トラブルへ発展するリスクがあります。
重要なのは、事実確認・証拠収集・本人ヒアリングを適切に行い、就業規則や過去事例も踏まえて慎重に判断する一連のプロセスです。
初動の事実確認から処分の検討まで、VSG弁護士法人のリーガルチェックを受け、法的に揺るぎない秩序維持を実現しましょう。