

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること
介護と仕事の両立は、業務の中核を担う40~50代の従業員が直面する問題です。
法律上は介護休暇と介護休業といった制度が整備されていますが、制度を正しく運用しなければ、即戦力人材の離職につながりかねません。
特に、介護休暇と介護休業は、取得日数や適しているケースが大きく異なります。
両者の違いを正しく理解し、適切な制度運用ができる体制を整備しましょう。
この記事では、介護休暇と介護休業の基礎知識や違いを比較表で解説し、介護離職を防ぐためのポイントや注意点も併せて紹介しています。
目次
介護休職制度の運用は、業務の中核を担う40~50代のベテラン社員の離職を防ぐための、重要なリスクマネジメントのひとつです。
この年代は70~90代の親の介護に直面しやすく、対応を誤るとやむを得ない離職、いわゆる介護離職につながる可能性があります。
介護休職制度は、法律により認められた従業員の権利であり、取得の意思表示があった場合、会社は原則として応じる必要があります。
しかし、単なる法的義務として対応するだけでは不十分です。
制度の内容や利用条件が社内で十分に理解されていない場合、人材流出のリスクが高まります。
現実的な休暇取得につながらず、結果として離職せざるを得なくなるためです。
企業には、利用場面や社内手続き、休業中の金銭面の扱いを整理した上で、制度の適切な運用・周知が求められます。
法律や制度を社内のしくみまで落とし込めるかが、介護離職防止につながる重要なポイントです。
介護のために利用できる休みには、大きく分けて「介護休暇」と「介護休業」の2つがあります。
いずれも、要介護状態にある家族を介護する従業員が対象です。
ここでいう「要介護状態」とは、負傷・疾病や心身の障害により、2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態です。
市区町村の要介護認定は必須ではなく、比較的利用しやすい基準となっています。
また、対象家族は配偶者や父母、子に加え、祖父母・兄弟姉妹・孫・配偶者の父母も含まれ、同居の有無は問われません。
両制度は、取得日数や賃金補償の有無、適した利用場面が異なるため、目的に応じた使い分けが重要です。
企業としては、両者の役割を明確にし、従業員に適切に案内できる体制を整備しましょう。
以下は、介護休暇と介護休業の比較表です。
| 介護休暇 | 介護休業 | |
|---|---|---|
| 概要 | 短期間・突発的に取得する休暇 | 長期間の休業 |
| 取得対象者 | 要介護状態の家族を介護する労働者 | |
| 対象家族 | 配偶者、父母、子、祖父母、兄弟姉妹、孫、配偶者の父母(同居問わず) | |
| 取得単位 | ・年5日(対象家族が2人以上の場合は10日) ・時間単位取得可能 | 通算93日まで(原則3回まで分割可能) |
| 申請方法 | 原則として事前申出 | 開始予定日の2週間前までに申出 |
| 賃金補償 | 原則なし | 一定の要件を満たす場合、雇用保険から介護休業給付金あり |
| 利用されるケース | ・通院付き添い ・施設入所手続き ・短時間の介護対応 など | ・介護体制の構築 ・在宅介護の開始対応 |
介護休暇は、要介護状態にある家族の介護や世話のために、突発的または単発で取得する休暇です。
通院の付き添いや入所手続きなど、単発・短時間で発生する対応に利用されるケースが多く、1日単位も時間単位取得も認められています。
法律上、申請期限は明確に定められておらず、実務上は社内ルールに基づいて申請・承認を行います。
ここでは、介護休暇について、さらに詳しく解説します。
介護休暇は、要介護状態にある対象家族を介護する従業員(日雇い労働者を除く)が利用可能です。
労使協定を締結した場合は、次の従業員については、取得対象外とする運用が認められています。
「1日未満単位での取得が困難な業務」には、長距離移動の運輸・運行業務や、交代勤務制等が該当します。
ただし、労使協定で除外できるのはあくまで「時間単位での取得」のみであり、1日単位での取得まで拒否することはできません。
該当業務の従業員から1日単位での申請があった場合は、通常どおり取得を認める必要があるため、社内ルールや就業規則の運用時には注意しましょう。
介護休暇の取得日数は、対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日が上限とされています。
また、法律上は企業に賃金の支払い義務はなく、有給とするか無給とするかは企業の規定により異なります。
雇用保険からの給付金も支給されないため、誤解を招かれないように従業員に周知しておくことが望ましいでしょう。
介護休暇は、突発的かつ短期間、短時間の対応に適しています。
利用場面の具体例は、次のとおりです。
休暇取得にあたっての医師の診断書の提出は、法律上の必須要件ではありません。
過度な証明書類の要求は、制度利用のハードルを高め、ハラスメントと受け取られるリスクがあります。
介護休業は、要介護状態にある家族の介護や世話のために、比較的長い期間に渡り、まとまった時間を確保するための制度です。
突発的または短時間の対応を想定した介護休暇とは異なり、介護体制の構築や集中的な対応が必要な場面で利用されます。
申出にあたっては、休業の開始日と終了日を明らかにし、原則として開始予定日の2週間前までに行う必要があります。
法定の様式はないため、社内で適切に処理できる体制整備が重要です。
ここでは、介護休業について、さらに詳しく解説します。
介護休業は、要介護状態にある対象家族を介護する従業員(日雇い労働者を除く)が取得可能です。
有期雇用でも、休業開始予定日から93日を経過する日から、さらに6カ月を経過する日までに契約満了が明らかでない場合は対象となります。
労使協定を締結した場合は、次の従業員について取得対象外とする運用が認められています。
労使協定を締結していなければ対象者となるため、注意しましょう。
介護休業の取得日数は、対象家族1人につき通算93日までとされています。
この93日は最大3回まで分割取得が可能です。
一度の取得や、31日ずつ3回とする取得も認められます。
休業期間中の賃金については、企業に支払い義務はありません。
有給・無給は就業規則の定めによります。
一定の要件を満たす場合には、従業員に対して雇用保険から介護休業給付金として、休業開始時賃金日額の67%相当額が支払われます。
企業としては、給付金のしくみも含めて従業員に案内できる体制の整備が必須項目となるでしょう。
介護休業は、まとまった時間が必要となる場面に適しています。
利用場面の具体例は、次のとおりです。
最大3回まで分割できる点は重要なポイントです。
たとえば、以下のように段階的に活用できます。
なお、取得にあたり医師の診断書提出を義務付けてはいけません。
過度な証明書要求は、制度利用の妨げとなる恐れがあるため、注意が必要です。

介護休暇や介護休業の申出があった場合、企業には法令に基づいた適切な対応が求められます。
対応を誤ると、不利益取扱いやハラスメントとして法的リスクが生じる可能性があるため、注意しなくてはなりません。
ここでは、休職申請があったときの注意点について、詳しく解説します。
介護休職制度は、業務の繁忙を理由として取得拒否できません。
また、会社側に取得日を一方的に変更する権限が認められていない点にも注意が必要です。
例外として、介護休業の取得において、同一の対象家族について2回連続で申出が撤回された場合、その後の申出を拒否できるとされています。
また、労使協定を締結している場合は、以下の従業員を対象外とする運用が可能です。
【介護休暇】
【介護休業】
申出があった場合、会社は対象家族が要介護状態である事実確認のため、一定の書類提出を求められます。
しかし、提出書類は医師の診断書に限定されておらず、診断書の提出を取得要件として義務付けてはいけません。
要介護状態である事実を合理的に確認できる資料で足りるとされており、たとえば要介護認定の結果が記載された介護保険被保険者証等が該当します。
過度な証明書類の要求は、制度利用の抑制やトラブルの原因となるため、必要最小限の確認にとどめましょう。
育介法第16条[注1]により、介護休暇や介護休業の利用を理由とした解雇、雇止め、降格、減給等の不利益取扱いは禁止されています。
また、制度利用に対する否定的な言動や圧力は「ケアハラ(介護ハラスメント)」に該当する可能性があります。
制度の周知に加え、管理職向けの研修や相談窓口の整備など、利用を前提とした環境づくりが重要です。
介護休業中は、育児休業とは異なり、健康保険料や厚生年金保険料の免除制度は設けられていません。
そのため、休業期間中であっても社会保険料の負担が発生する点に注意しましょう。
企業としては、あらかじめこの点を説明し、給付金の見込み額とあわせて情報提供を行う等、従業員の判断を支援しましょう。
[注1]育児休介護休業法/e-Gov
育児介護休業法第16条
介護休暇・介護休業は、単なる法令順守を意識するだけではなく、実際の運用につなげる点が重要です。
介護に直面した従業員への対応を誤れば、優秀な人材の喪失だけでなく、損害賠償訴訟のリスクも負う可能性があります。
制度の形を整えるだけでなく、実際の運用において法的な整合性を保つためには、弁護士への事前相談が不可欠です。
介護休暇や介護休業の運用にお悩みの企業様は、VSG弁護士法人のリーガルチェックによる規程整備と実務アドバイスの活用をご検討ください。