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2025年6月熱中症対策義務化|企業が負うべき法的責任と具体的対策、罰則リスク

弁護士 福西信文

この記事の執筆者 弁護士 福西信文

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること

  • 2026年に義務化された熱中症対策の概要
  • 企業に求められる具体的な体制整備
  • 対策義務に違反した場合のリスクと罰則

近年、猛暑の影響により職場における熱中症リスクは高まっており、労災として認定されるケースも増加傾向にあります。
こうした背景を受け、労働安全衛生規則が改正され、2026年6月から企業に対して熱中症を防止するための措置が義務付けられました。

従来の努力義務ではなく、罰則を伴う法的義務である点がポイントです。
そのため、適切な対応を講じていない場合には、行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
企業は、求められる対応内容を正しく理解し、現場で実効性のある体制づくりをしましょう。

この記事では、熱中症対策義務化の基礎知識から、企業に求められる具体的な対策、違反した場合のリスクまで詳しく解説します。

熱中症対策義務化とは

近年の猛暑を背景として労働安全衛生規則が改正され、2025年6月1日から職場の熱中症対策は「努力義務」から「法的義務」へと変わりました。
この改正では、企業が講じる必要のある具体的な措置や、対象となる作業条件が明確に定められています。

「対策が望ましい」のではなく、一定の条件に該当する場合は、企業として対策を講じなければ法令違反となる点が重要です。

ここでは、義務化のポイントと対象となる作業の条件や、義務付けられた対応について、詳しく解説します。

義務化のポイントと改正の背景

2025年6月の労働安全衛生規則の改正により、企業の熱中症対策は罰則つきの義務となりました。
従来はガイドラインに基づく努力義務にとどまっていましたが、現在は対策を怠ると行政指導や罰則の対象となる可能性があります。

この改正の背景には、熱中症による重篤な労働災害や死亡事故の増加があります。
特に、初期症状の見逃しや対応の遅れにより重症化するケースが多く、他の労働災害と比較しても死亡に至る割合が高い点が問題視されてきました。

こうした状況を踏まえ、単なる注意喚起としての熱中症対策ではなく、以下の2点を重視した熱中症対策が義務化されました。

  • 異常を早期に発見するしくみ
  • 現場で迷わず対応できる手順の構築

対象企業は、法令に沿った対策を講じる必要があります。

熱中症対策が求められる条件

熱中症対策が求められる条件とは「暑熱な場所で熱中症を生じる恐れのある作業を継続して行うとき」です(労働安全衛生規則第612条の2[注1])。

「熱中症を生じる恐れのある作業」とは、具体的に次のとおりです。

  • 継続1時間以上
  • 1日あたり4時間を超える作業(見込みを含む)

また「暑熱な場所」は主観ではなく、客観的な数値に基づいて判断されます。
具体的な基準は、次のとおりです。

  • WGBT値28度以上
  • 気温31度以上

どちらかに当てはまる場合は、屋内外を問わず対策を行わなければなりません。

なお、対象は事業場内に限られず、出張先や移動中も含まれます。
空調のあるオフィスでの勤務が中心の場合でも、倉庫作業や屋外作業に従事する場合は対象となる点に、注意が必要です。

WBGT値に基づく客観的判断の重要性

熱中症対策では、気温だけではなく、WBGT値に基づく判断が重要です。
WBGT値は湿球黒球温度(Wet‐Bulb Globe Temperature)の略称で「暑さ指数」とも呼ばれています。
気温、湿度、日射・輻射熱、風速を総合的に評価した指標であり、熱中症リスクをより正確に把握するための基準です。

たとえば、同じ気温であっても、湿度が高い場合や直射日光が強い場合には、WBGT値は大きく上昇します。
この場合、体感以上に熱中症のリスクが高まるため、気温だけで判断すると対策が不十分となる可能性がある点を理解しておきましょう。

企業に義務付けられた対応

熱中症対策が求められる条件に該当する企業は、次の状況に備えた対応をあらかじめ整備する義務があります。

  • 熱中症の自覚症状がある者がいるとき
  • 熱中症の疑いがある者を発見したとき

具体的な義務は、大きく次の3つです。

  • 報告体制の整備
  • 発症時の手順の作成
  • 関係者への周知

まず、報告体制の整備として、熱中症が疑われるときに、誰にどういった手段で連絡するかを明確にします。
単に連絡先を決めるだけでなく、従業員が熱中症の症状を理解した際に、ためらわず報告できる環境を整える点が重要です。

また、発症時の対応手順についても、あらかじめ具体的に定めておかなければなりません。
内容の具体例は、次のとおりです。

  • 緊急連絡網や緊急搬送先医療機関の情報
  • 作業離脱や身体冷却などの初期対応
  • 救急要請や医療機関受診の判断基準

その場限りの対応ではなく「企業として継続的に機能するしくみ」としての整備が求められます。
現場責任者・管理者の選任、従業員への定期的な教育の実施等が、義務化に対応する上での重要なポイントです。

[注1]労働安全衛生規則/e-Gov
労働安全衛生規則第612条の2

熱中症対策義務化により企業に求められる対応

熱中症対策の義務化により、企業には単なる設備の設置や一時的な対応ではなく、実効性のある管理体制の構築が求められています。

特に、WBGT値に基づく客観的な判断基準と、その対応過程の記録は、実務上の重要なポイントです。
これらの記録は、万が一労災や労基署対応が生じた場合に「企業として適切な対応を講じていたか」を説明するための根拠となる重要な要素です。

具体的な対応は、次の4つの観点から検討します。

  • 作業環境管理
  • 作業管理
  • 健康管理
  • 労働衛生教育

ここでは、それぞれの観点から、企業が実際に取り組める対応を具体的に解説します。

作業環境管理

作業環境管理とは、熱中症のリスクを低減するための作業環境の整備です。
環境整備によりWBGT値の上昇を抑え、作業者の身体への負担を軽減します。

具体的には、WBGT測定器を用いて作業環境の状態を把握し、その数値に基づいて対策を講じます。
対策例は、次のとおりです。

  • 遮光・遮熱設備の設置
  • 冷房、送風機、スポットクーラーの導入
  • 作業場所近くへの空調付き休憩場所の設置
  • 冷水、氷、シャワー等の設備の設置
  • 水分・塩分補給が可能な場所の確保

より実効性の高い管理のためには「定期的なWGBT値の観測」と「測定データおよび対応の記録と保存」が重要です。
これらの記録は、企業にとって実質的なリスク管理手段となります。

作業管理

作業管理では、作業の進め方や運用ルールを見直し、熱中症リスクを低減します。
重要なのは、一律または感覚的な判断ではなく、WBGT値などの客観的指標に基づいて、作業の中断や休憩の基準を明確にする点です。

具体的な対策例は、次のとおりです。

  • 作業時間の短縮や制限
  • 早朝や夕方など比較的涼しい時間帯への作業分散
  • 定期的な水分補給および休憩の設定
  • 作業の負荷の軽減や機械化の推進
  • 通気性や透湿性の高い作業服の導入
  • 作業中の定期的な巡視
  • 作業前に身体を暑さに慣らす(暑熱順化)

さらに、熱中症の早期発見の観点から、現場での見守り体制の整備も求められます。

  • 責任者による作業場の巡視
  • バディ制による相互確認
  • ウェアラブルデバイスの活用

これらの対策を組み合わせると、体調異変の見逃しを防ぎ、重症化リスクの低減につながります。

暑熱順化の重要性

暑熱順化とは、身体を徐々に暑さに慣らし、熱中症の発症リスクを低減する取組みです。
一定期間暑い環境で活動すると、発汗量の増加や体温調整機能の向上が起こり、熱中症にかかりにくくなるとされています。
暑熱順化には、通常数日から2週間程度かかるため、暑くなる前から取り組む点が重要です。

暑熱順化の具体例は、次のとおりです。

  • 1回30分程度の有酸素運動(ウォーキングなど)を行う
  • 軽い作業から開始する
  • 作業時間を段階的に延ばす

一方で、長期間現場を離れていた場合や季節の変わり目等では、暑熱順化が不十分な状態となり、熱中症リスクが高まります。
新入社員や長期休暇明け等で暑さに慣れていない従業員に対しては、配慮が必要です。
いきなり作業を行うのではなく、再度、暑熱順化を意識した取り組みを行いましょう。

作業管理の一環として、計画的に取り入れる点が重要です。

健康管理

健康管理は、従業員の体調変化を事前または早期に把握し、重症化を防ぐための対応です。
たとえば、健康診断の結果を踏まえ、既往歴(特に糖尿病・心疾患・高血圧など)を有する従業員に配慮する対応等が考えられます。

また、作業前の体調確認も重要です。
睡眠不足や前日の飲酒、朝食の未摂取などは、熱中症の発症や重篤化のリスクを高める可能性があります。
形式的な確認にとどめず、体調不良がみられる場合は、作業の中止や変更、休憩の指示等、具体的な対応が求められます。

さらに、従業員が体調不良を申告しやすい環境の整備も重要です。
申告しにくい職場では、発見が遅れ、重大な事故につながる可能性があります。
そのため、申告を不利益に扱わない運用や、管理者による積極的な声かけを通じて、心理的安全を確保しましょう。

労働衛生教育

労働衛生教育では、熱中症に関する知識や対応方法を、管理職および従業員に周知します。
継続的な教育を通じて、現場全体の安全意識を高める視点が熱中症対策の実効性向上につながります。

主な教育内容は、次のとおりです。

  • 熱中症の初期症状(自覚症状と他覚症状)
  • 熱中症の予防方法
  • 重症化リスク
  • 異常時の救急処置や対応手順
  • 熱中症の労災事例

単に資料を配布するだけでなく、現場で実際に行動できるレベルまで理解を深める点が重要です。
たとえば、冷却手段や冷却箇所、最寄りの医療機関や救急への連絡手順などを具体的に示しておく必要があります。
実際の状況を想定したシミュレーションやロールプレイを行えば、より効果的です。

教育の実施記録を残しておけば、企業として適切な対応を行っている裏付けにもなります。

熱中症対策義務化に違反した際のリスクと罰則

熱中症対策の義務化により、企業が適切な対策を講じなかった場合、法的責任が生じます。
その内容は、刑事罰や行政処分にとどまらず、民事上の損害賠償や社会的信用の低下など、多方面に及ぶため、注意しましょう。
ここでは、違反した場合に想定される主なリスクについて解説します。

安衛法違反による刑事罰

熱中症対策義務に違反した場合は、安衛法第22条2号[注2]に違反するとして、刑事罰が科せられる可能性があります。
建設業等においては、下請事業者の違反であっても、元請事業者に罰則が及ぶ可能性がある点に、注意しなければなりません。

具体的には、6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられます(安衛法第119条1号[注3])。

作業停止命令等の行政処分

熱中症対策義務違反が認められた場合、労基署による指導や是正勧告の対象となります。
指導に従わない場合に、行われる可能性のある行政処分は、次のとおりです。

  • 作業停止命令
  • 設備使用停止命令
  • 企業名の公表

作業停止命令が出された場合は、該当業務を一時的に停止せざるを得ず、納期遅延や取引先への影響が生じる可能性があります。

安全配慮義務違反

企業は、従業員の生命・身体の安全を確保する安全配慮義務を負っています(労契法第5条[注4])。
熱中症対策を怠った結果、死傷事故が発生した場合には、この義務に違反するとして民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。

特に、以下の事情がある場合は、企業の責任が認められやすくなるでしょう。

  • WBGT値の管理が行われていない
  • 体調不良の申告が放置されていた
  • 適切な休憩や作業中断がなされていなかった

損害賠償額は、事案の内容によっては数千万円規模に及ぶ可能性もあり、企業運営に多大なダメージを与える重大な問題です。

社会的信用の低下

行政処分や送検に至った場合には、企業名が公表されるリスクがあります。
また、死亡事故や重大災害が発生して送検に至った場合、報道により企業名が見出しとして取り上げられる可能性があります。

結果として、取引先からの信頼低下や採用活動への影響、企業ブランドの毀損につながりかねません。
熱中症対策は、単なる労務管理の一環ではなく、企業価値の維持にも直結する重要な課題です。

[注2]労働安全衛生法/e-Gov
労働安全衛生法第22条2号

[注3]労働安全衛生法/e-Gov
労働安全衛生法第119条1号

まとめ

熱中症対策は福利厚生ではなく、会社の存続に関わる法的義務のひとつです。
2025年6月から義務化は始まっているため、対策が不十分な場合は、早急に就業規則の改定や安全衛生管理体制の整備を進める必要があります。

自社の対応が法令に適合しているか不安がある場合は、重症事故が発生する前の専門家への相談が有効です。
VSG弁護士法人のリーガルチェックにより、現場の運用と法的な整合性をそろえ、万一の事故に備えた体制を構築しましょう。

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