

大阪弁護士会所属。京都市出身。
労働環境が激変する現代において、企業が直面する労務リスクは経営の根幹を揺るがしかねない重要課題です。私は、大学卒業後のIT企業勤務、経営コンサルタント、企業役員といった10数年のビジネス現場での経験を経て弁護士となりました。
法律はあくまで手段であり、目的は「企業の持続的な成長と安定」であるべきだと考えています。そのため、単に「法的に可能か不可能か」を答えるだけでなく、現場のオペレーションや事業への影響、経営者の想いを汲み取った上での「最適な次の一手」を提示することを最優先しています。
使用者側(企業側)の専門弁護士として、労働紛争の早期解決はもちろん、トラブルを未然に防ぐための強固な労務基盤の構築を支援いたします。経営者の皆様が事業に専念できるよう、法的側面から強力にサポートさせていただきます。
PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/fukunishi/
書籍:「事業をやり直したい」と思ったときの会社のたたみ方
監修:プロが教える!失敗しない起業・会社設立のすべて
共著:民事信託 ――組成時の留意点と信託契約後の実務

この記事でわかること
営業秘密が法的に保護されるためには、日頃の情報管理体制において、一定の要件を満たす必要があります。
そのため、いざ情報漏洩が起きたときに会社を守れるかは、事前の対策や管理体制に左右されます。
企業は、必要な要件や漏洩防止対策を確認し、適切な管理体制を維持・整備しましょう。
この記事では、不正競争防止法における営業秘密の定義や罰則、そして営業秘密に求められる3つの要件について解説します。
あわせて、営業秘密の漏洩を防ぐために会社が取れる対策まで紹介します。
目次
営業秘密は、不正競争防止法により保護される、企業の重要な情報資産です。
営業秘密が法律の保護を受けるためには、一定の要件を満たさなければなりません。
ここでは、営業秘密の定義と具体例、罰則について解説します。
営業秘密は、不正競争防止法第2条22項の6[注1]により、次のとおり定義されています。
秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの
引用:e-Gov法令検索:不正競争防止法[注1]
企業の重要な情報資産が不正に取得・利用されると、公正な競争環境や企業の利益が損なわれるため、法律によって保護されています。
なお、自動的に営業秘密として保護されるわけではなく、要件を満たす管理が前提となる点に注意が必要です。
営業秘密となり得る情報の代表例は、次のとおりです。
これらの情報に該当しても、会社が「社外秘」としているだけでは、法律上の営業秘密とはいえません。
営業秘密を不正に取得・使用・開示した場合「営業秘密侵害罪」として、刑事責任が問われる可能性があります。
罰則は、以下のように行為者個人だけではなく、行為者が属する法人にまで及びます。
【個人】
[注2]不正競争防止法第21条
【法人】
[注3]不正競争防止法第22条
加えて、民事上も次の対応が可能です。
このように、営業秘密の侵害については、刑事・民事の双方で責任が問われます。
[注1]不正競争防止法/e-Gov
不正競争防止法第2条22項6
[注2]不正競争防止法/e-Gov
不正競争防止法第21条
[注3]不正競争防止法/e-Gov
不正競争防止法第22条
[注4]不正競争防止法/e-Gov
不正競争防止法第3条
[注5]不正競争防止法/e-Gov
不正競争防止法第4条
[注6]不正競争防止法/e-Gov
不正競争防止法第14条
営業秘密として法的に保護されるためには、3つの要件を満たす必要があります。
いずれかが欠けると、重要な情報であっても営業秘密とは認められません。
ここでは、特に重要となる3要件を解説します。
秘密管理性とは「情報が秘密として管理されている状態」を指し、裁判において最も重視されます。
秘密管理性が認められる運用の具体例は、次のとおりです。
関係者が「秘密情報である」と認識できる状態であるかが、判断のポイントです。
社員であれば誰でも閲覧できる状態では、秘密管理性が否定される可能性があります。
有用性とは「事業活動にとって役立つ情報」を意味します。
必ずしも高度な技術情報に限られません。
営業活動や経営判断に資する情報であれば、広く対象となります。
しかし、既に価値を失っている情報や、事業に関連性の薄い情報は、有用性が否定される可能性があります。
「情報が外部に漏れた場合に不利益が生じるか」という視点が重要です。
非公知性とは「情報が一般に知られていない状態」を指します。
同業他社や一般の人が容易に入手できる情報は該当しません。
たとえば、公開されている資料やインターネット上で容易に取得できる情報は、原則として非公知性が否定されます。
「社内に留まっている情報か」「外部から容易に取得できないか」が重要です。
営業秘密と認められるかは、実際の管理方法等によって総合的に判断されます。
ここでは、営業秘密が否定された事例と認められた事例を取り上げ、実務上のポイントを解説します。
ペットサロンの元従業員が退職後に競合店を開業した際、在職中に顧客情報を取得・利用したとして、元勤務先が差止めや損害賠償を求めた事案です。
裁判では、顧客名簿等が営業秘密に該当するかが争点のひとつとなりました。
実際の情報の管理状況では、特段のアクセス制限は認められず、従業員が日常的に自由に閲覧・利用できる状態でした。
これにより、営業秘密該当性は否定され、差止めと損害賠償請求は認められませんでした。
事例事件名:ペットサロンムー事件
裁判所:東京高等裁判所
判決日:2005年2月24日
要旨:元従業員が開店した競合店で、在職中に顧客情報を不正に取得・利用したとして、元勤務先が差止めと損害賠償を請求した事案。
情報管理体制の実態から秘密管理性が否定され、営業秘密には該当しないと判断された。
出典:裁判所判例検索(東京高等裁判所 2005/2/24 判決)
複数の元従業員が、会社の製造技術を国外の競合企業に流出させた事案です。
裁判所は、持ち出された情報について、営業秘密に該当すると認定しました。
結果として、元従業員の中には約10億円に及ぶ損害賠償責任が認められています。
また、流出先の企業についても、最終的に約300億円の和解金を支払うに至りました。
元従業員の中には控訴した者もいましたが、判断は覆らず、原審の結論が維持されています。
営業秘密の持ち出しが認定された場合、個人・企業の双方に対して極めて高額な責任が生じ得る点に注意が必要です。
事例事件名:日本製鉄株式会社営業秘密流出事件
裁判所:知的財産高等裁判所
判決日:2020年1月31日
要旨:複数の元従業員が製造技術を国外の競合企業へ流出させた行為について、営業秘密侵害罪が成立するとされ、会社の損害賠償請求が認められた。

営業秘密として要件を満たすためには、漏えい予防と紛争対策の両面で日常的な管理体制の整備が重要です。
ここでは、実務上特に重要となる4つの対策を解説します。
営業秘密は、従業員全員がアクセスできる状態を避け、権限の付与は必要最小限にしましょう。
情報には閲覧制限をかけ、部署や職務に応じて権限を付与します。
あわせて重要なのが、ログの取得と監視です。
「誰が・いつ・どの情報にアクセスしたか」を記録すれば、不正な持ち出しの抑止や、問題発生時の証拠確保につながります。
営業秘密の漏えいは、人を介して発生するケースが多いため、従業員への教育と誓約書による意識づけが重要です。
具体的には、次の対応が挙げられます。
特にNDAでは「秘密情報となる対象」「持ち出し禁止の範囲」を具体的に示す点が重要です。
営業秘密の管理は、個別契約だけでなく、社内ルールとして明確化しましょう。
具体的には、就業規則において次の内容を規定します。
従業員に対する意識づけや抑止力となるだけではなく、違反時の処分の根拠にもなります。
また、法的対応を取る際にも、会社の管理体制を裏付ける証明として有効です。
従業員の退職時は、営業秘密の漏えいリスクが高まるタイミングです。
そのため、退職時は情報の返却確認を確実に実施しましょう。
具体的な対応例は、次のとおりです。
また、競業避止義務契約の締結も検討しましょう。
しかし、過度な内容は職業選択の自由を侵害するとして、後から無効となる可能性もあるため、注意が必要です。
営業秘密は、漏えい発生後の対応よりも事前の対策や日々の運用方法が、会社の利益を守れるかを左右します。
会社の管理体制が法的要件を満たしているかについては、平時の段階で専門家によるリーガルチェックを受けましょう。
労務管理や社内規程の整備を含めた対応については、労働問題に強いVSG弁護士への相談がおすすめです。
VSG弁護士法人では、就業規則の整備から漏えい発生時の法的措置まで、企業防衛を総合的にサポートしています。