この記事でわかること
- ヒヤリハットとその報告書の重要性について理解できる
- ヒヤリハット報告書の作成方法がわかる
- ヒヤリハット報告書の作成時の注意点がわかる
建設現場は常に危険と隣り合わせと言っても過言ではありません。
誰でも作業中に「ヒヤリ」とか「ハッ」とした経験はあるのではないでしょうか。
じつはこうした事例を収集して、その経験を共有することは非常に大切です。
そうすることが大きな事故を未然に防ぐことに繋がるからです。
それでここではヒヤリハットの具体的な事例と報告書の書き方、その重要性について解説していきたいと思います。
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、怪我や死亡事故を起こす可能性がある災害の一歩手前の出来後のことです。
5,000件以上の労働災害を調べて事故と災害の関連性を具体的に示した「ハインリッヒの法則」はよく知られています。
それによると統計学的に下記のように指摘されています。
- 1件の重大な事故、災害
- 29件の軽微な事故
- 300件のヒヤリハット
つまり1件の重大な事故・災害の背景には29件の軽微な事故があり、さらに300件のヒヤリハット事例があるわけです。
それで、この法則からわかる通り重大な事故や軽微な事故だけでなく、ヒヤリハットの段階の事例を共有することが非常に大切です。
1:29:300のうち300に当たるヒヤリハット事例を収集し共有して対策を取っておくことが、1件の重大事故の防止につながるからです。
建設業のヒヤリハット事例
建設現場では事故には至らなかったものの「ヒヤリ」とか「ハッ」とするような危険な出来事がたくさん起こります。
実際のところ建設業では他の産業に比べて労働災害が多く発生しています。
死亡災害は、全産業の約30パーセントを占めているのです。
実際に起こったヒヤリハット事例にはどんなものがあるでしょうか。
内装工事のヒヤリハット事例
廃材ごみを排出中に、延長コードに足を引っかけ転倒しそうになった。
原因
・廃材ごみを両手にたくさん抱え込んでいて前が見えない状態だった
対策
・コードを横断しないようにする
・横断させなくてはならない場合は、つまずかないようにコードをカバーで覆って養生する
・細かい廃材は袋に入れて運ぶなど両手がふさがらないようにする
クロス工事のヒヤリハット事例
糊付機を使って壁紙を切っていた時に、作業中に危うくカッターで手を切りそうになった。
原因
・カッターの先の進行方向に手を置いてしまっていた
対策
・カッターの先には手を置かない
・ゆっくりと切る
・専用の手袋を着用する
左官工事のヒヤリハット事例
可搬式作業台(立ち馬)に乗り作業をしていた際に、立ち馬が倒れて落ちそうになった。
原因
・片側の開き止めを完全にロックせずに作業していた
対策
・少しの作業だとしても焦って手順を省いて組み立てない(省略行為をしない)
・ロックされているか指差呼称で確認する
鉄筋工事のヒヤリハット事例
現場で木材を2人で運んでいた時、後ろ向きに歩いていた作業員が落ちそうになってしまった。
原因
・別の職人が作業のため外した手すりをそのままにして戻していなかったため
対策
・作業後に手すり等の墜落防止措置を「ただちに」「きちんと」元に戻す
・材料を運ぶ前に足場や通路を確認する
土工事のヒヤリハット事例
資材を一輪車に積んで運搬していた時に、ふと横を向くとドラグ・ショベルが目と鼻の先まで迫って来ていて危うくひかれそうになった。
原因
・一輪車の土工が気付かないうちにドラグ・ショベルの作業エリアに入ってしまっていた
対策
・重機作業範囲内に作業員を立ち入らせないため、バリケードを置いて重機の誘導者を配置する
・オペレーターは、作業区域内の予定作業を確認後に作業を開始する
ヒヤリハット発生時に報告書が必要な理由
ヒヤリハットとは、幸い怪我や事故につながらなかった出来事です。
そのため作業員の安全意識が低いと報告するのが面倒くさく感じたり、今回は無事にすんだので大した問題ではないだろう、と感じてしまったりするかもしれません。
また厳しく指摘されたりマイナスの評価が下されたりするのを恐れて報告しない、ということも起こり得ます。
しかし、いくら怪我や事故にならなかったとはいえヒヤリハットの段階の事例を収集して関係者に共有するのは非常に大切です。
以下にその理由を解説します。
事故や災害の防止につながる
ヒヤリハットを作業員に周知し危険予知(KY)活動をすることで事故・災害防止に繋がります。
すでに述べたハインリッヒの法則によると、1件の重大な事故・災害の裏側には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリハットが潜んでいます。
「これくらいたいしたことではない」と思えるヒヤリハット事例を地道に収集し対策を施すことが、1件の重大な事故・災害の防止に繋がるわけです。
逆に、「この程度なら報告しなくても大丈夫かな」「今は忙しいからまた次に」と報告を怠っていると、いつかは大きな事故に繋がってしまいます。
小さなことに思えても、ヒヤリハットをきちんと報告してKY活動で対策を取り、それを作業員全員に周知していくことは非常に大切です。
ヒヤリハット報告書を分析することで原因が追究できる
きちんとした正確な報告書があって初めて、起こった出来事の根本的な原因を究明することができます。
これが単に「こんな出来事がありました」という内容だけだと、単に「注意しましょう」「気を付けましょう」という曖昧な教訓しか得られません。
本当は別の重大な原因が潜んだままなのに、それが取り除かれないまま工事が進んでいき、やがて大事故に繋がってしまうということが起こり得るのです。
それで、ヒヤリハットの根本的な原因の追究は非常に重要です。
報告に上がってきた事例を分析し、原因を究明し、有効な対策を取ることで労働事故や災害を未然に防ぐことができます。
また、具体的な対策を作業員に周知することも必要でしょう。
ヒヤリハットの報告書の書き方・記載例
現在の日本の法律では、ヒヤリハットの報告書の提出が義務付けられているわけではありません。
ヒヤリハット事例に関する決まりは各企業で独自に決められています。
現場ごとに一定期間経過した時や全国安全週間などの際に提出を求められることが多いようです。
国土交通省でも下記のように、各企業よりヒヤリハット事例を収集し情報の共有に努めています。
参考:「調査票」(国土交通省)
特に書式が定められているわけではありませんが、事故・災害防止に確実に役立てるため下記の項目は確実に記載するようにしましょう。
いつ、どこで、何をしていた時か
5W1H(いつ、どこで、だれが、どうしたら、何が起きたか)を正確に書くことが必要です。
発生した直前の行動など具体的に書くことが必要でしょう。
読んだ人が、ヒヤリハット事例が生じた時の様子を頭の中で想像し再現できるように書きます。
どのようなトラブルが、どのような状況で発生したのか、読み手に正確かつ簡潔に伝わるようにします。
たとえば、単に「作業中」とか「清掃中」といった書き方ではなくて、下記の記載例のように状況をイメージしやすいよう具体的に記載するとよいでしょう。
記載例
・内装材の入った大型の段ボールを手にして運搬している時に
・現場で木材を2人で運んでいた時、後ろ向きに歩いていた作業員が
・糊付機を使って壁紙を切っていた時に
5W1Hに加えて、自身の状況についても記入するとよいでしょう。
言葉で説明しにくい場合は図やイラストを描くこともできます。
再発防止と改善策
急いでいたり大丈夫だと思っていたりなど、不安全行動だったのか、機材トラブルなどの不安全状態だったのか、手順や操作に間違いがあったのか、状況を整理します。
その上で、どのように対処することで安全性が高まるのかを記述します。
また、「すぐにできる対策」だけを取るのではなく、有効な「やるべき対策」を取るようにしましょう。
作業者によっては「きちんと作業する」というような対策案を出すこともありますが、なぜ今回はきちんとできなかったのかを具体的に考えてもらうこともできます。
もし正しい手順で操作を行わなかったのが原因であれば、正しい手順書を作成して周知するなど具体的な改善策を記入します。
原因と自身の状態について分析
ヒヤリハットの原因について、直接原因と間接原因について分析します。
現場の環境や設備に問題があったのでしょうか。手順に問題があったのでしょうか。
ヒヤリハットの当事者の考えをまずまとめてもらうようにしましょう。
自身の不注意が影響したのか、慎重に作業していたが気付きにくかったのか、自身の状況についても正確に記すことが有用な対策に繋がります。
ヒヤリハットの報告書作成時の注意点
ヒヤリハット報告書は誰でも作成することができますが、作成した報告書が確実に事故防止に役立つようでなければいけません。
報告書を作成するときには以下の点に注意しましょう。
客観的な事実を記入する
ヒヤリハット報告書は客観的な事実を記入したものでなければいけません。
もちろん正確に詳細な点をすべて覚えていない場合もあるでしょう。その場合は「詳しくは覚えていない」でも構いません。
しかし、覚えている範囲内で正確に書かなければいけません。
1つの事例に複数の人が関係することもあるでしょう。
その場合は、関係する複数の人が記入することでより客観的な報告書となります。
多角的に分析することでより根本的な原因や真相を究明できることもあります。
簡潔平明に記入する
ヒヤリハット報告書は誰が読んでもわかるように平易に、かつ簡潔に記入します。
特定の人しかわからないような略語や専門用語は使いません。
現場の作業員だけに限らず、第三者や新人に読んでもらうこともあるので、わかりやすく書くのもポイントです。
想定された最悪の事態についても記入する
考えられる最悪の事態についても考えることで潜在的なリスクをも洗い出すことができます。
「今回は大きな事故に至らずよかった」ですませるのではなく、発生したかもしれない事故やけがについても書くことができるでしょう。
たとえば、転倒した場合に手に機材を抱えていたらどうだったか、近くに作業員がいたら、と重大事故に繋がりかねない場面を想定することができます。
そうすることで個々の意識が高まり、事故・災害防止に繋がります。
なるべく早くに報告書を記入する
ヒヤリハットが起こり、記憶がまだ鮮明なうちに報告書を作成するのもポイントです。
時間が経過するとどうしても忘れたり、記憶が曖昧になってしまったりすることがあります。
でも、その書き漏らしてしまった点や曖昧になってしまった部分に、重大な原因や潜在リスクが潜んでいることもあります。
是非、はっきりと覚えているうちに報告書を作成するようにしましょう。
まとめ
事故や怪我のリスクが高い建設業において、ヒヤリハット事例の報告と分析、周知は非常に大切です。
一人ひとりが体験したヒヤリハット事例はあまり多くなく、1つの事例から得られる教訓はそれほど多くないかもしれません。
とはいえ、数多くの事例を疑似的に体験して教訓を学ぶことで事前に対策を講じることができます。
そうすることで労働災害に対する意識を高め、より安全な環境づくりに役立ちます。