社労士事務所と一般企業で行う人事労務業務の違い【それぞれで求められるスキル・人物像】

2021年3月4日

3章.社労士の仕事内容3-1.社労士事務所の仕事内容

この記事でわかること

  • 社労士事務所と一般企業で行う人事・労務業務の違いが理解できる
  • 社労士事務所と一般企業の人事・労務それぞれで求められるスキルと人物像がわかる
  • 自分が社労士事務所と一般企業のどちらに向いているかがわかる

社労士資格を活かせる職場は大きく分けて2つあります。
社労士事務所と一般企業の人事・労務です。
どちらも人事労務に関わりますが、業務内容や求められるスキルと人物像は異なります。

今回は社労士事務所か一般企業の人事・労務に就職するか迷っている人へ、その違いを詳しく解説します。
この記事を読めば、自分にはどちらが合っているかがわかるでしょう。

社労士事務所と一般企業で行う人事労務業務の違い【それぞれで求められるスキル・人物像】

社労士事務所の業務内容

社労士事務所の業務内容は、顧客の企業から請け負った労務関連の書類作成や提出代行です。
書類を提出するために行政機関に出向くこともあります。
そのほかに、法改正に伴う就業規則の改定や従業員とのトラブルなどの労務相談を受けるのも仕事の一部です。
社労士事務所は顧客の企業とは独立しており、複数の企業を相手に労務の専門家としてアドバイスを行う立場です。

一般企業の勤務社労士の業務内容

一般企業の人事・労務では、所属企業の従業員の給与計算や社員が入退社した時の手続き、就業規則や社内規定の制定・改廃を行います。
労務関連の手続きだけでなく、採用プロセスや人事評価プロセスに関わることも多いです。
従業員の声を聞き、より働きやすい環境を整える役割を担っています。
所属する企業の発展をスタッフとして支える仕事です。

社労士事務所と一般企業で行う人事労務業務の違い

社労士事務所と一般企業で行う人事労務業務には、5つの違いがあります。
具体的な作業レベルではあまり違いがありませんが、対象となる顧客や将来のキャリアプランには大きな違いがあります。

違い1:サービスを提供する対象

社労士事務所では顧客先企業のために労務手続きを行います。
それに対して、一般企業で行う人事・労務では所属している企業のためだけに労務手続きを行うのです。

通常、社労士事務所では複数の企業と顧問契約をしているので、複数企業に対して同様の手続きを行います。
入退社が多い4月や保険料の更新がある7月などは、複数企業の処理が重なるので一般企業で行う人事・労務よりも作業量が多いです。

一般企業で行う人事・労務は、自分が所属する会社の手続きだけを行うので、一般的には社労士事務所よりも繁忙期と閑散期の変動幅は小さくなります。
社労士事務所では多くの企業の経営に広く関わることができる一方、一般企業の人事・労務では所属会社の経営に深く関わることができると言えます。

違い2:業務内容の幅広さ

社労士事務所では労務手続きや労務相談、コンサルティングが主な業務内容です。
それに対して、一般企業で行う人事・労務は企業によって業務内容に幅があります。
社労士事務所のように、労務手続きや労働環境の改善のための相談だけを担当している人事・労務はあまりありません。
大企業のように手続きだけを行う部署が必要な場合を除き、人事・労務は採用や広報活動、福利厚生制度全般の運用を任されることが多いです。

社労士事務所ではあくまで採用プロセスや人事評価プロセスのコンサルティングを行うだけで実際に運用はしませんが、一般企業で行う人事・労務はその運用まで業務内容に含まれます。
たとえば、実際に採用の面接官や会社説明会で進行をする、社員のスキルアップのために研修を企画するなどの業務もあります。

一般企業の人事・労務は、労務に直接関わりがないような幅広い業務があることが特徴です。
この幅広さを労務に関係ない余計な仕事と捉えるか、幅広い経験ができると捉えるかでどちらに向いているかわかります。

違い3:営業活動の有無

社労士事務所では新規顧客獲得のために営業活動が必要です。
見込み客である企業に訪問して、顧問契約を促すこともあるでしょう。
労務の知識や事務能力だけでなく、事務所の経営を安定させるために営業力や経営センスが求められます。

一方、一般企業で行う人事・労務は新しく仕事を獲得する必要はありません。
所属する企業の人事・労務しか担当しないからです。
その代わり、従業員の声を積極的に聞いて不満や改善すべき労働環境を発見・解決する姿勢が求められることになります。

違い4:収入の安定性

大手社労士法人を除けば、一般企業より規模が小さい社労士事務所が多いです。
社労士事務所では顧客数が売上に直結するので、収益が不安定になる可能性があります。
一方、一般企業の人事・労務なら、所属する企業の会社員という立場なので収入は安定しやすいです。
社労士資格を持っていれば、資格手当が上乗せされる会社もあります。

社労士事務所に雇われている社労士は、給料水準が低いと言われています。
しかし、独立開業前の勉強期間として社労士事務所で働いている社労士も多いのが実情です。
したがって、いわゆる修行期間中の給与はあまり気にしないという考えの人もいます。
独立開業すれば、自分の努力次第で収入は伸ばしていけるからです。

違い5:将来のキャリアプラン

社労士事務所で働く場合は、将来のキャリアプランとして独立開業を見据えている人が大半です。
それに対して、一般企業の人事・労務では社労士事務所の開業を目指す人と、所属する企業の管理職や経営層を目指す人に分かれます。
社労士資格を取得しても実務経験がないなら、社労士事務所をいきなり開業するのは難易度が高いです。
実績や人脈がなければ、顧客を獲得して経営を安定させることができません。
そのようなケースでは、開業前の勉強の場として社労士事務所や一般企業の人事・労務を選ぶ人が多いのです。

一般企業の人事・労務で働く人は、独立開業を目指して勉強中の人もいますが、所属企業での出世を目指す人もいます。
社労士資格を持つ人材をCHO(最高人事責任者)に据える企業も多く、人事の分野で出世するために社労士資格を取得する人も増えてきました。
人事・労務部の採用で社労士資格を重視している企業では、社労士資格の取得は出世の近道かもしれません。

社労士事務所で求められるスキル・人物像

社労士事務所で求められる主なスキルは、営業スキルとコミュニケーションスキルです。
たくさんの経営者と良好な関係を築きながら、さらに新規顧客を獲得していく必要があります。
会社に所属して働くというよりは、将来の独立開業を見据えて自発的にスキルアップしていける人物像が社労士事務所に適しているでしょう。

一般企業の勤務社労士に求められるスキル・人物像

一般企業の勤務社労士には、幅広い業務への意欲と所属企業に対する理解が求められます。
労務の専門知識を発揮しながらも、色々な経験をして成長したいと考えている人には勤務社労士がおすすめです。

独立開業をしたいのではなく会社員として所属企業を支えたいと考えているならば、人事分野のトップを目指すというキャリアプランもよいでしょう。

まとめ

社労士事務所と一般企業の人事・労務では、担当する業務の範囲や収入の安定性、将来のキャリアプランに違いがあります。

事務作業やコンサルティングという具体的な作業には大きな違いがありませんが、サービスを提供する先が沢山の顧問先企業なのか、所属する企業だけなのかという部分は大きく異なります。

独立開業を見据えて労務の実務経験を積みたい人には社労士事務所が、労務に限らず幅広い経験をして所属企業に貢献したい人には一般企業の人事・労務が向いているでしょう。
自分に合う形の働き方ができるのはどういった職場なのかを、見極めるようにしましょう。