この記事でわかること
- 贈与税の税率と相続税の税率を比較して理解することができる
- 生前贈与した場合と相続の場合の税額の違いを知ることができる
- 生前贈与を行う際に注意しなければならない点がわかる
親から子へ財産を移転する方法には、相続と贈与の2つの方法があります。
いずれの方法により財産を移転しても、その財産を受け取った人には税金が発生することとなります。
贈与に関しては、するかしないかを自由に選択することができますが、贈与しなかった財産についてはすべて相続の対象となります。
そのため、少しでも税負担を軽減するために生前贈与すべきかどうかが問題となるのです。
はたして、贈与税を支払うのが得なのか、それとも贈与税を支払うのが得なのでしょうか。
今回はこの問題について詳しく解説します。
目次
贈与税と相続税の税率
贈与税が得か、それとも相続税が得かを考える上で重要なのは、それぞれの税金の税率を知ることです。
そこで、贈与税と相続税の税率を比較してみることにしましょう。
贈与税の税率
贈与税の税率は、贈与された財産の金額により変動し、金額が大きくなるほど税率は高くなります。
贈与税の速算表から贈与税の税率を確認していきましょう。
(一般贈与の税率)
夫婦間の贈与、兄弟間の贈与、子どもが未成年者の場合の親子間の贈与の場合に適用されます。
基礎控除後の課税価格 税率 控除額 200万円以下 10% - 200万円超300万円以下 15% 10万円 300万円超400万円以下 20% 25万円 400万円超600万円以下 30% 65万円 600万円超1,000万円以下 40% 125万円 1,000万円超1,500万円以下 45% 175万円 1,500万円超3,000万円以下 50% 250万円 3,000万円超 55% 400万円 引用:国税庁
(特例贈与の場合)
直系尊属である祖父母や両親から、成人である孫や子どもに対する贈与の場合に適用されます。
基礎控除後の課税価格 税率 控除額 200万円以下 10% - 200万円超400万円以下 15% 10万円 400万円超600万円以下 20% 30万円 600万円超1,000万円以下 30% 90万円 1,000万円超1,500万円以下 40% 190万円 1,500万円超3,000万円以下 45% 265万円 3,000万円超4,500万円以下 50% 415万円 4,500万円超 55% 640万円 引用:国税庁
贈与の場合、基礎控除の額が1年あたり110万円あります。
贈与された財産の額から基礎控除を引いた後の金額から、贈与税の計算を行います。
たとえば、成人の子どもが祖父から1,000万円の現金を贈与されたとします。
この場合、贈与税の額は(1,000万円-110万円)×30%-90万円=177万円となるのです。
相続税の税率
相続税の税率も贈与税と同じく、相続財産の額が大きくなるほど税率が高くなります。
相続税の計算を行う時に用いる速算表は以下のとおりです。
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% - 1,000万円超3,000万円以下 15% 50万円 3,000万円超5,000万円以下 20% 200万円 5,000万円超1億円以下 30% 700万円 1億円超2億円以下 40% 1,700万円 2億円超3億円以下 45% 2,700万円 3億円超6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円 引用:国税庁
「法定相続分に応ずる取得金額」とは、すべての相続財産の合計額から基礎控除を引いた後の金額を法定相続分に分けた金額です。
たとえば、相続財産が3億円、相続人が子ども3人の場合、基礎控除は4,800万円となるので、課税対象となる財産の額は2億5,200万円です。
この場合、法定相続分に応ずる取得金額は2億5,200万円÷3=8,400万円と計算されます。
したがって、相続税の額は8,400万円×30%-700万円=1,820万円となります。
なお、相続人が負担する相続税の合計額は、1,820万円×3=5,460万円となります。
生前贈与が相続よりもお得になるケース
贈与税と相続税の税率を比較してみるとわかるように、同じ財産に対する税率は贈与税の方が高くなります。
しかし、贈与税も相続税も色々な状況下で発生することから、中には贈与をした方が有利になる場合もあります。
具体的に、どのような場合に贈与の方が有利になるのか、その事例をご紹介します。
何年かに分けて贈与する場合
相続は、財産を保有している人が亡くなった時に発生し、その時の保有しているすべての財産が課税対象となります。
これに対して、贈与は1年間に贈与した財産のみが課税対象となるため、計画的に贈与をすれば税金の発生を抑えられます。
特に1年あたり110万円までの贈与については基礎控除内であることから、贈与税は非課税となります。
1,000万円の財産を10年に分けて100万円ずつ贈与すれば、贈与税は1円も発生しないこととなるのです。
相続税の税率より贈与税の税率の方が低い場合
相続税の方が贈与税より税率が低いのですが、個々の事例にあてはめると、贈与した場合の税率の方が低くなる場合があります。
たとえば相続財産が10億円を超えるようなケースでは、相続税が50%や55%の税率で課税される金額が発生する可能性もあります。
このケースでは、そのまま相続を迎えるより、30%や40%の税率で課税されることとなっても贈与した方が得になるのです。
相続財産が合計でいくらぐらいになるのかを知っておけば、税率差を利用して有利に贈与することができます。
贈与税の特例を利用する場合
贈与税は一般的に税率が高いというイメージがあり、あまり積極的に利用されていないと考えられます。
そのため、子ども世代や孫世代はいつまでも高齢者が保有する財産の恩恵を受けることができない状況にあります。
そこで、お金を必要とする子ども世代や孫世代に必要な資金が渡るよう、生前贈与を促す政策が実施されています。
マイホームの取得資金や教育費、結婚・子育て資金について、贈与しても贈与税が発生しない特例があります。
このような制度をうまく利用すると、相続税や贈与税の負担を減らすことができるのです。
生前贈与と相続税のシミュレーション例
それでは、実際に生前贈与をした場合としなかった場合でどれくらい税額に違いがあるのでしょうか。
実際の数字を使って生前贈与の効果を検証してみましょう。
具体例
ここでは、以下の条件のもとで発生する税額を比較してみます。
- ・被相続人が保有する財産の合計額 4億5,000万円
- ・法定相続人 子ども3人(全員成人)
- ・相続税や贈与税の計算において特例は利用できない
すべての財産に対して相続税が発生した場合と、子ども全員に1,000万円の財産を2年に分けて500万円ずつ贈与した場合とで比較します。
生前贈与を行わなかった場合
生前贈与を行わなかった場合は、すべての財産が相続財産として相続税の課税対象となります。
この場合の相続税の額は、以下のように計算されます。
- (1)相続財産の額4億5,000万円-基礎控除の額4,800万円=4億200万円
- (2)4億200万円×法定相続分1/3=1億3,400万円
1億3,400万円×40%-1,700万円=3,660万円 - (3)3,660万円×3人=1億980万円
したがって、3人の相続人が負担する相続税の合計額は、1億980万円となります。
生前贈与を行った場合
まずは生前贈与を行った場合の贈与税の額を計算します。
贈与税の計算は、贈与を受けた人ごとに1年ずつ計算します。
1人が負担する1年あたりの贈与税の額は以下のようになります。
- (500万円-110万円)×15%-10万円=48万5,000円
実際には、3人の子どもが2年にわたって500万円の贈与を受けるため、贈与税の合計額は以下のとおりです。
- 48万5,000円×3人×2年=291万円
次に、相続税の計算を行います。
すでに生前贈与した財産は相続財産から除かれるため、残りの財産4億2,000万円が相続税の課税対象となります。
- (1)相続財産の額4億2,000万円-基礎控除の額4,800万円=3億7,200万円
- (2)3億7,200万円×法定相続分1/3=1億2,400万円
1億2,400万円×40%-1,700万円=3,260万円 - (3)3,260万円×3人=9,780万円
したがって、3人の子どもが負担する税金の合計額は、291万円+9,780万円=1億71万円となります。
生前贈与をした方が有利になる場合がある
この計算例では、生前贈与をした方が生前贈与をしなかった場合より900万円以上税負担が軽減されました。
これは贈与税の税率の方が低くなったこと、そして贈与税の基礎控除により課税対象とならなかった金額が増えたためです。
ただ、財産の金額や相続人の人数、贈与の仕方などで発生する税額は大きく変わります。
生前贈与による相続対策を行う際は、専門家のアドバイスのもとで実施するようにしましょう。
生前贈与を行うときの注意点
相続税の税金対策として、生前贈与を行うことが有効であるとご紹介しました。
ただ、生前贈与を行う際にはいくつかの注意点があります。
そもそも生前贈与を行う必要性があるのか確認する
生前贈与を行うことで相続財産を減らし、将来的な相続財産を減らすのが生前贈与による相続税対策の考え方です。
もし相続税が1円も発生しないのであれば、そもそも生前贈与による相続税対策をする必要はありません。
相続税が発生するかどうかは、簡単には分からないと思うかもしれません。
しかし、相続税の基礎控除の額を確認すれば、ある程度は相続税が発生するかどうかを想定することができます。
基礎控除の額より相続財産の額の方が少なければ相続税は発生しないためです。
相続税の基礎控除の額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」で計算されます。
たとえば法定相続人が配偶者と子ども2人であれば、4,800万円となります。
この額と、自宅や預貯金などの財産の金額を比較して、基礎控除の方が大きくなる場合は生前贈与を行う必要はないのです。
連年贈与が一括贈与とみなされる場合がある
連年贈与とは、子どもに毎年110万円の現金を10年に分けて贈与する、というような贈与の方法のことです。
贈与税については、1年あたり110万円の基礎控除があるため、これで合計1,100万円を無税で贈与できると考えるのです。
しかし連年贈与の場合、贈与を行った最初の年に1,100万円の贈与を行うことを定め、分割で支払ったとみなされることがあります。
そのため、贈与税がゼロになるどころか、多額の贈与税が発生することとなるのです。
一括贈与とならないよう、贈与を行うたびに贈与契約書を作成したり、贈与の金額や時期を変えたりすることが必要です。
生前贈与で使える控除・特例
生前贈与を行う際には、非課税での贈与が認められる特例を利用するのが、効果的な相続税対策の近道です。
ここでは、生前贈与に利用できる贈与税の特例を解説していきます。
住宅取得等資金の贈与
父母や祖父母などの直系尊属から、20歳以上の子どもや孫に住宅の購入資金を贈与する際に非課税となる制度です。
最大で1,500万円まで非課税で贈与することが認められます。
非課税が認められるためには、多くの要件を満たす必要があります。
贈与を受ける人は、贈与を受ける年の所得金額が2,000万円以下でなければなりません。
また、取得した住宅に贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住する見込みであることが必要です。
取得する住宅は床面積が40㎡以上240㎡以下とされ、店舗兼住宅の場合は、その2分の1以上を居住用としなければなりません。
他にも要件があるため、その要件を確認しながら計画的にマイホームの購入と贈与を行う必要があります。
教育資金の一括贈与
父母や祖父母などの直系尊属から、30歳未満の子どもや孫に教育資金を一括贈与した場合、最大で1,500万円まで非課税となる制度です。
贈与者から受贈者に直接お金を渡しても、非課税の特例の適用は受けられません。
信託銀行などで教育資金口座を開設し、金融機関を通して申告書を税務署に提出します。
その後、授業料や入学金、学用品の購入などの支払いを行った場合には領収書を提示して教育資金口座から払い戻しを受けます。
なお、学校以外の習い事や塾にも使うことができますが、その場合は上限が500万円までとされています。
また、贈与を受けた人が30歳になった時に残額がある場合は、贈与税の課税対象となります。
贈与を受ける人の所得金額が1,000万円を超える場合は、特例を適用できません。
結婚・子育て資金の一括贈与
父母や祖父母などの直系尊属から、20歳以上50歳未満の子どもや孫に、結婚・子育て資金を一括贈与した場合の特例です。
最大で1,000万円まで非課税として認められます。
なお、結婚した際に支出する金額については、上限額が300万円となっています。
教育資金の一括贈与と同じく、信託銀行などで専用口座を開設しなければなりません。
その後、結婚・子育て資金として支出した際の領収書を提示し、払い戻しを受けることとなります。
贈与を受けた人が50歳に達した時には、その残額に対して贈与税が課されます。
また、贈与を受ける人の所得金額が1,000万円を超える場合は、特例を適用できません。
まとめ
相続税は、被相続人が保有する財産の額に対して課されます。
財産の額を大きく減らすことは難しいのですが、長い時間をかけて計画的に贈与などを行えば徐々に減らすことはできます。
ただ、生前贈与を行えば必ず税額が軽減されるとは限りません。
財産の金額や相続人の状況などを考慮し、よく検討した上で実行するようにしましょう。