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最終更新日:2024/1/18

110万円の基礎控除を利用し生前贈与するメリットと注意点

弁護士 水流恭平

この記事の執筆者 弁護士 水流恭平

東京弁護士会所属。
民事信託、成年後見人、遺言の業務に従事。相続の相談の中にはどこに何を相談していいかわからないといった方も多く、ご相談者様に親身になって相談をお受けさせていただいております。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/tsuru/

この記事でわかること

  • 生前贈与の110万円の基礎控除について理解できる
  • 生前贈与するメリットがわかる
  • 生前贈与する上での注意点に気を付けられる

生前贈与は、相続税の対策として非常に有効な方法です。

「毎年110万円を贈与すれば相続税を軽減できるらしい」といった話を聞いたことがある人もいらっしゃるかもしれません。

しかし、実際にどれだけ贈与すべきか、どのような手続きが必要かなどについては詳しく知らない人もいらっしゃることでしょう。

この記事では、生前贈与の基礎控除の概要、メリットや注意点まで、詳しく説明します。

生前贈与には110万円の基礎控除がある

暦年贈与制度に基づく生前贈与を行った場合、1年間(1月1日から12月31日まで)に受け取った贈与の総額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません

110万円を超える場合、超過分に対して贈与税が課せられます。

なお、これらの生前贈与が成立した時点で、通常、受贈者がその財産の所有権を取得します。

したがって、将来的に贈与者が亡くなった場合でも、原則として、その贈与された財産は贈与者の相続財産には含まれないとされます。

ただ、この贈与分が相続財産に含まれるタイミングがあります。

こちらについては後述しますが、いつ生前贈与を行うかは、慎重に考える必要があるでしょう。

110万円の基礎控除を利用し生前贈与するメリット

生前贈与の主なメリットについて、具体的に確認していきます。

相続税の軽減

相続税は相続財産の総額に課税されるため、生前贈与を実施することで相続時の財産を減らすことができます。

相続税の詳細な計算方法は省略しますが、基本的に相続税は基礎控除額を超える部分に課税されます。

なお、基礎控除額は法定相続人の数に応じて異なり、以下のように計算されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

生前贈与を通じて財産を段階的に減らしていくことで、将来的に相続時の財産が基礎控除額以下になるよう調整できるケースもあり、調整できた場合には相続税を支払わなくてよくなります。

税制改正のリスク回避

税法が毎年のように変更されていることをご存知でしょうか?

将来的に贈与や相続に関連する税制が変更され、贈与や相続の節税効果が期待できなくなる可能性があります。

贈与税の暦年課税は、贈与が行われた年の税法が課税関係に影響を与えます。

早めに贈与を行えば、将来の税法改正などによる節税効果の低下リスクを回避するのに役立つでしょう。

贈与時期の選択

贈与には、認知症などにより契約行為ができない状態になっていなければ、いつでも行えるという利点があります。

所有する財産の種類によっては、将来的に価値が上昇する可能性があるものもあるでしょう。

財産の将来の価値が上昇すると予想される場合、早めに贈与を行うことで、将来の相続税評価額が上昇し、相続税の支払額が増加するのを防ぐことができます。

ただし、贈与から3年(2023年12月まで)以内に相続が発生した場合、税法上、その贈与分は相続財産として加算される規則があります。

しかし、この場合でも相続財産として評価されるのは贈与時の評価額であり、その後の価格上昇の影響を受けません

110万円の基礎控除を利用し生前贈与するのが向いている人

ここでは、年間110万円の非課税枠を活用した暦年贈与利用して、相続税を節税できる人について詳しく解説します。

暦年贈与による節税の仕組みや計算方法を理解するために、具体例をご紹介していきましょう。

特定の人に財産を贈りたい人

相続で、財産を特定の人に譲りたい人がいる場合には、生前贈与を活用しましょう。

たとえば、現行法では特別な遺言がない限り、内縁の配偶者は相続によって財産を受け継ぐことはできません

同様に、直接的な相続権がない義理の子供(たとえば実子の配偶者)なども、財産を受け取る権利はありません。

新しい法改正により、特別寄与料の請求が一部可能になりましたが、義理の子供が他の親族に対して請求を行うことは精神的に負担となる可能性があります。

生前贈与を行えば、相続とは別の方法で財産を特定の人に渡すことができます。

収益不動産を所有している人

収益不動産を所有している人は、その不動産から得る資産が増加しやすいことから、生前贈与を検討する価値があります。

現金や預金を段階的に贈与する代わりに、収益不動産そのものを贈与する方が有益になることがあります。

生前贈与を行うには、適切なタイミングを検討することが大切です。

将来価値が上昇しそうな資産を持つ人

先述した通り、将来的に価値が上昇しそうな資産(土地や株式など)を所有している場合、生前贈与の検討が重要です。

逆に、将来の価値が減少する可能性のある資産を高い評価額の時点で贈与すると、損失が発生する可能性があるため、検討を入念に行いましょう。

110万円の基礎控除を利用し生前贈与する際の注意点

この章では、110万円の基礎控除を利用し、生前贈与する際の注意点について説明します。

定額贈与とみなされないようにする

定期贈与とは、あらかじめ総額が決まっている贈与を、基礎控除の範囲内で分割して行う方法です。

たとえば、1000万円を10回に分けて贈与する場合、通常、毎年100万円ずつ贈与すれば贈与税はかかりません。

しかし、定期贈与とされた場合はあらかじめ決まった総額を贈与したとみなされ、贈与税を支払う必要があります。

定期贈与かどうかは、贈与の総額があらかじめ確定しているかどうかにかかっています。

総額があらかじめ確定していなければ、毎年同じ金額を贈与していても問題ありません。

しかし、誤解を招く場合もあるため、注意が必要です。

たとえば、親が子供の住宅ローンを返済する場合、その返済が将来的な贈与と見なされる可能性があるため、贈与契約書を作成するなどの対策が必要となるでしょう。

名義預金とみなされないようにする

定期贈与ではないが、毎年110万円以下の贈与を子や孫の名義の預金口座に行っている場合、口座の管理権限や通帳、印鑑、カードなどが子や孫に渡されていなくてはなりません。

口座の管理を名義人本人が行っていない場合は名義預金とされ、贈与が行われたこととは認められないためです。

そうなると、贈与を受けたはずの人には節税のメリットが生まれません。

さらに、毎回の贈与ごとに贈与契約書を作成しておくことも一つの方法です。

税制改正で2024年1月から制度内容が変わることに注意

被相続人から生前贈与を受けた財産は、時期によっては相続財産に持ち戻しされ相続税の課税対象となります。

110万円以下の控除範囲内の贈与でも、相続税対策として相続開始前の一定期間に贈与された財産は、相続税の課税対象となるということです。

ただし、生前贈与の際に贈与税を納税した場合、その支払った贈与税額を相続税から差し引くことができます。

2023年12月31日までのルールでは、110万円以下の非課税枠内の金額であっても、相続開始前の3年以内に行われたものであれば相続税の課税対象となります。

税制改正により、2024年1月1日以降の贈与については、相続開始前の7年以内の贈与が課税対象となります。

ただし、相続の開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、その財産の価額の合計から100万円を差し引いた残額を課税対象に加算するようになります。

まとめ

相続開始前の3年以内に行われた贈与は、相続財産に加算され、相続税の課税対象になります。

また、2024年以降に贈与された財産については、この加算の適用期間が7年まで延長されることになります。

ただし、生前贈与加算は相続人以外の人への贈与には適用されません

また、加算の対象とならない特例的な贈与も存在します。

したがって、相続税対策として生前贈与を考えている場合、生前贈与加算のルールを理解し、検討を進めることが大切です。

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