この記事でわかること
- 贈与を行った場合に贈与契約書が必要な理由がわかる
- 贈与契約書を作成する時に記載する項目やその記載方法がわかる
- 贈与契約書の作成を専門家に依頼した場合のメリットがわかる
相続対策の一環として、生前贈与を行っている方がいます。
現金や預金の生前贈与は、単純にお金を贈与者から受贈者に渡すだけなので、簡単に行うことができます。
この時、「贈与契約書を作成するべき」といわれることがありますが、それは何故なのでしょうか。
ここでは贈与契約書を作成する理由や、贈与契約書の作成方法について解説していきます。
目次
贈与契約書が必要な理由
贈与を行った場合、贈与契約書を作成する必要があるといわれます。
何故贈与契約書が必要になるのか、その理由について確認しておきましょう。
贈与者と受贈者のトラブルを防ぐため
贈与は、財産をあげる人(贈与者)ともらう人(受贈者)との契約により成立します。
そして、契約は口頭によっても成立するため、本来は贈与するために契約書を作らなければならないわけではありません。
しかし口頭での贈与契約は、実際に贈与が行われるまで、履行が済んでいない部分に限り撤回することが可能なため、履行されるのかわからないという不安があります。
そこで、贈与契約書を作成しておき、贈与が確実に行われるようにしておきます。
贈与契約書があれば、贈与が実行されない場合には、契約を履行するように求めることが可能です。
他の相続人とのトラブルを防ぐため
現金の贈与を手渡しで行った場合、その事実を後日に確認することはきわめて難しくなります。
そのため、贈与が行われたかどうかをめぐり、相続人同士のトラブルに発展することがあるのです。
贈与者が亡くなると、その時点で保有している財産を相続人で分割します。
しかし、生前に被相続人から贈与された財産がある人は、特別受益として遺産分割に反映させることができます。
そこで、贈与を受けていない相続人は、他の相続人が贈与を受けていないか、細かくチェックすることとなります。
特に贈与契約書がない場合、「本当はもっと贈与が行われたのではないか」という疑問を持たれることがあるのです。
贈与契約書がきちんと作成されていれば、その契約書をもとに特別受益の金額を計算できます。
しかし、贈与契約書がなければ、預金の動きから贈与があったかどうかを探るしかありません。
そのため、贈与されていない出金についても贈与ではないかと疑われることとなります。
税務調査で生前贈与を否認されるのを防ぐため
相続が発生する前3年以内に相続人に対して行われた贈与は、贈与がなかったものとみなされます。
そのため、3年以内に贈与された財産も、相続財産に含めて申告することとされています。
贈与契約書があれば、その契約の内容にしたがって相続税の申告を行うだけです。
しかし、贈与契約書がないと、贈与された事実を確認することが難しく、相続税の申告において問題が生じることがあります。
相続発生前3年より前に行われた贈与や、相続人以外の人に対して行われた贈与については、さらに大きな問題となります。
贈与契約書がないために、そもそも贈与が成立しないと判断されることがあるためです。
贈与が成立しないとされた場合、たとえお金の移動が行われていたとしても名義預金とされ、贈与ではないとされることがあります。
その結果、相続税の申告漏れを指摘されることがあり得ます。
【ひな形付】贈与契約書の書き方・記載項目
贈与契約書には、必ず記載すべき項目がいくつかあります。
ここでは、贈与契約書の記載例と、その記載項目について解説していきます。
現金の贈与契約書の記載例
ここでは、まず現金を贈与した場合の贈与契約書の記載例をご紹介します。
現金を贈与した場合は、いくらの現金をいつ贈与したかわかるように記載します。
不動産の贈与契約書の記載例
次に、土地や建物などの不動産を贈与した場合の贈与契約書の記載例をご紹介します。
不動産を贈与する場合は、その不動産の内容を詳細に贈与契約書に記載しましょう。
また、不動産に対して発生する登記費用や公租公課の負担をどちらがするのか、決めておく必要があります。
贈与契約書作成を専門家に依頼するメリット
贈与契約書は、贈与した人や贈与された人が自分で作成しても問題ありません。
しかし、専門家に依頼することで、メリットが生じる場合があります。
ここでは、専門家に贈与契約書の作成を依頼した方がいい点をご紹介します。
記載漏れを防ぐことができる
贈与の手続きを適切に行い、贈与契約書を作成しても、その契約書に記載漏れがあると後から問題になる可能性があります。
また、贈与の内容は人によって異なるため、どのように契約書に記載すべきか迷うことがあるでしょう。
そのような場合に、贈与契約書の作成を専門家に依頼すると、契約書に記載すべき事項の記載漏れや記載ミスがなくなります。
契約書の不備が原因で、税務調査で指摘を受けることや、他の人から疑問を持たれることを防ぐことができます。
贈与をスムーズに行える
土地や建物などの不動産を贈与する場合、贈与を行った後すぐに、法務局で登記を行う必要があります。
しかし、贈与を行った後すぐに登記を行うのは、非常に負担が大きく、特に初めての人にとっては大変な作業です。
また、不動産の贈与を行うと、贈与税が発生するケースが多く、特例の適用なども検討する必要があります。
このように、贈与契約書の作成だけでなく、不動産の贈与に関して様々なことを検討する必要があるため、専門家に依頼するといいでしょう。
司法書士や税理士などのアドバイスを受けながら進めることで、メリットをより大きなものとすることができます。
過去にさかのぼって契約書を作成できる
本来、贈与契約書は贈与を行う度に作成すべきものであり、後からさかのぼって作成するものではありません。
しかし、贈与した時には時間が取れず、どうしても後回しになってしまうことがあります。
そうした場合に、後日に贈与契約書を作成することがあります。
この場合、専門家に相談しながら贈与契約書を作成するのがおすすめです。
贈与した年によって、税制に違いがあることも考えられるため、その時の税制にあった形の贈与契約書を作成しましょう。
贈与契約書を作成するときの注意点
最後に、贈与契約書を作成する時、あるいは生前贈与を行う際の注意点をご紹介します。
贈与契約書があれば問題ないわけではないため、ここにあげる注意点を確認しておきましょう。
贈与が成立しないケースがある
贈与を行い、贈与契約書を作成していたとしても、贈与が成立しないと判断されることがあります。
贈与が成立しないと、贈与したはずの財産も相続税の対象となってしまい、相続税の節税にはなりません。
贈与税が成立しない事例として多いのは、名義預金と呼ばれるものです。
名義預金とは、子や孫の名義となっている預金であるものの、その管理を贈与者が行っている口座をいいます。
名義預金は、贈与者が他人名義の預金口座に贈与しますが、贈与者が形式的に贈与したようにしているだけと判断されてしまいます。
そのため、相続が発生した時に相続財産に含めないと、相続税の申告漏れの指摘を受けてしまうことがあり得るのです。
この他、現金を贈与した場合には、後から贈与が実際に行われたかどうかを確認することができません。
この場合も、贈与がなかったものとして判断される可能性があります。
そのため、預金口座から預金口座への移動を行うようにするなど、対策が必要です。
贈与契約書を毎年作成する
相続税の節税を考えて贈与を行う場合、毎年少しずつ贈与を行う場合があります。
そうすることで、毎年110万円の基礎控除が適用できる他、贈与税の税率を下げることができます。
しかし、毎年贈与を行っていると、最初の年に一括して贈与することを決定したものではないかと指摘されることがあるのです。
たとえば、10年間にわたって毎年100万円を贈与した場合、基礎控除内となるため贈与税額はゼロになります。
しかし、贈与の初年度に1,000万円の贈与を行うことを決定したものとみなされると、贈与税が発生するのです。
このような指摘をされないよう、毎年贈与契約書を作成することをおすすめします。
また、贈与する時期や金額をその都度決定し、毎年贈与契約を結ぶようにしましょう。
まとめ
相続対策の一環として、生前贈与を行うことがあります。
しかし、贈与を行ったつもりでも、贈与が成立していないと指摘されてしまうことがあります。
贈与が問題なく成立させるためには、贈与契約書は必要不可欠です。
贈与契約書には、何をいつ、誰に対して贈与したのかがわかるようにし、専門家の力を借りるようにしましょう。