この記事でわかること
- 絶縁や分籍はできるか
- 兄弟姉妹のトラブル事例と対処法
- 期限があり優先しなければならない相続手続き
- もめないための対処法と争いが起きてからの対処法
遺産相続は、家族の絆を試す難しい局面です。
円満に進む場合もありますが、縁を切りたいと思うほどの争いに発展することもあるでしょう。
本記事では、相続をめぐる親族間のトラブルや絶縁の可能性について、事例を交えながら解説します。
また、もめごとを未然に防ぐための対処法や、相続開始後でも実行可能な解決策を紹介します。
さらに相続放棄の可能性や、優先する期限がある手続きについても詳しく説明します。
目次
遺産相続でもめたら親族と縁を切れる?
遺産相続でトラブルになった場合でも、法律上の親族関係を完全に断ち切ることはできません。
絶縁や分籍でも血族関係は消滅せず、相続権も引き続き認められます。
しかし、事実上の交際を絶つことは可能です。
遺産分割協議の際、会わずに手続きを進める方法もあります。
ここでは、事実上絶縁する方法、対面せずに遺産分割する方法などを具体的に解説します。
親族と絶縁できる?
法律上、親族との関係を完全に断つことはできず、血族関係は継続し、相続権も失われません。
しかし、絶縁状を送ることによって事実上の絶縁は可能です。
絶縁状を作成する際は、まず文書の冒頭に「絶縁状」と明記し、自身の氏名と送付先の相手の氏名を記載します。
本文では、冷静かつ明確に絶縁を希望する意思と、今後一切の接触を断る旨を伝えます。
感情的な表現や脅迫と取られかねない文言は避け、客観的な事実に基づいて記述しましょう。
相続手続きなど、やむを得ない事情で連絡が必要な場合は、弁護士を介して行う旨を明記し、依頼した弁護士の連絡先を記載します。
最後に日付と自筆の署名を入れ、内容証明郵便で送付しましょう。
これにより、相手に対して絶縁の意思を明確に伝え、事実上の付き合いを断ち切ることができます。
分籍はできる?
分籍とは、現在の戸籍から分かれて単独の戸籍を作成する手続きです。
届出人の現在または新しい本籍地、または住所地の市区町村役場に分籍届を出すことで分籍できます。
ただし、以下の場合は分籍できません。
- 18歳未満
- 戸籍筆頭者
- 配偶者(夫婦は同一の戸籍でなくてはなりません)
分籍後の新しい本籍地は、日本国内であれば自由に選択できます。
一度分籍すると元の戸籍に戻ることはできないため、慎重に検討する必要があります
分籍をしても親族関係に変化はなく、相続権もそのまま維持されます。
そのため、家族関係を整理する手段にはなりますが、遺産分割協議には参加しなければならず、相続の解決策にはなりません。
相続手続きを完全に回避したい場合は、相続放棄を検討しましょう。
相続放棄の期限は相続開始から3カ月以内で、放棄すると相続財産は一切受け取れないため、慎重な判断が求められます。
遺産分割のトラブル事例・対処法
遺産分割は、意見の相違などによってトラブルに発展することがあります。
特に兄弟姉妹間では、感情的な対立や金銭的な利害関係が複雑に絡み合い、解決が困難になることも少なくありません。
しかし、適切な対処法を知り、冷静に対応することで、解決への糸口を見出すことができるでしょう。
ここでは、典型的なトラブル事例と、その対処法について解説します。
遺産分割におけるトラブル事例
遺産分割において、主に兄弟姉妹に起きるトラブルを中心に、事例を紹介します。
- 長男優遇の主張:長男が「一番多く相続すべき」と主張して譲らない
- 預金口座の不正使用:被相続人の預金口座の残高が、同居していた相続人によって勝手に使われてしまった
- 生前の不公平な扱い:特定の兄弟姉妹だけが、学費や結婚費用などの援助をされていた
- 介護負担の偏り:親の介護をしていた兄弟姉妹が、相続分を多く求めている
- 遺言書の内容への不満:「長男に全財産を相続させる」などの遺言内容に他の兄弟姉妹が納得できない
- 連絡不能な相続人:疎遠になっている相続人と連絡が取れず、遺産分割協議が進まない
これらの事態が起きた場合は、こじれないうちに早い段階から専門家に相談し、公平な遺産分割を目指すことをおすすめします。
遺産分割でトラブルが起きたときの対処法
相続人同士の話し合いで解決できない場合は、専門家のアドバイスが助けになります。
専門家が介入することで法的問題がクリアになり、遺産分割を進めやすくなります。
それでも意見が対立する場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
また、連絡不能な相続人がいる場合、まずは本籍地がある市区町村役場で戸籍の附票を取り寄せてみましょう。
戸籍の附票には住所の履歴が記載されているため、引っ越し先の住所が判明する可能性があります。
それでも連絡が取れない場合は、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の制度を利用することも検討しましょう。
遺産分割で優先したい手続き
遺産分割の協議がまとまらない場合でも、期限を厳守しなければならない手続きがいくつかあります。
これらの手続きを期限内に行わないと、罰則が科されるなどのデメリットが生じる可能性があります。
ここでは、相続放棄、相続登記、相続税申告の各手続きについて、それぞれの期限と注意点を解説します。
相続放棄の期限と方法
相続放棄とは、プラスもマイナスも含めたすべての遺産の相続を放棄する手続きです。
相続放棄すると、初めから相続人でなかったことになるため、遺産分割に参加する必要がありません。
手続きは、相続開始を知った日から3カ月以内に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述しなくてはなりません。
主な必要書類は以下のとおりです。
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人(申述人)の戸籍謄本(3カ月以内に取得したもの)
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 相続放棄申述書
相続放棄をすると一切の財産を相続できなくなり、放棄を取り消すことはできないため、慎重に行いましょう。
相続税申告と相続登記の期限
2024年4月1日に施行された法改正により、相続登記の期限は相続開始を知った日から3年以内となりました。
期限に間に合わない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
遺産分割が成立せず、3年以内に相続登記ができない場合は、「相続人申告登記」をしましょう。
相続人申告登記をすることで、遺産分割から3年以内に相続登記をすれば、過料を科されることはありません。
一方、相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内です。
期限までに遺産分割が終わらない場合は、法定相続分で「未分割申告」を行うとよいでしょう。
申告書には「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しましょう。
3年以内に遺産分割が成立した場合、分割が行われた日の翌日から4カ月以内に更正の請求が可能です。
申告をせずに申告期限を過ぎると、加算税や延滞税が課されます。
また、配偶者控除や小規模宅地等の特例が適用できない場合があるため、できるだけ期限内に申告しましょう。
遺産分割でもめることを防ぐ対処法
遺産分割での争いは、感情的にも金銭的にも大きな負担となります。
生前に適切な準備をしておけば、相続の手続きがスムーズに進み、遺族間の不和を回避できます。
また、相続開始後でもできることはあります。
ここでは、相続人同士の争いを避けるための生前の準備と、相続開始後でもできることについて解説します。
生前にできる対処法
生前に行う最も効果的な対策は、遺言書の作成です。
特に公正証書遺言は、自分の意思を法的に明確に示すことができ、遺族間での解釈の違いによるトラブルを防ぎやすくなります。
資産をリストアップし、分配計画を事前に家族と共有することも重要です。
生前贈与は、目的や金額を明確にし、不公平感が生じないよう家族全員が納得できる形で進めることが望ましいでしょう。
生命保険は受取人を適切に設定し、家族も納得できるようにしておくことが大切です。
定期的に家族会議を開き、オープンなコミュニケーションを通じて相続に対する考えを共有し、将来のトラブルを未然に防ぎましょう。
相続開始後でもできる対処法
相続の対立を避けるには、冷静で段階的な対応をすることが大切です。
争いが起きた場合は、少し時間を置くことで感情を落ち着かせましょう。
対立がおさまらない場合は、専門家や信頼できる第三者を交えることも有効です。
第三者や弁護士が加わることで冷静になることができ、法的に適切なアドバイスにより納得しやすくなります。
また、話し合いの内容は記録に残し、透明性を確保することが重要です。
文書や録音を活用することで、後の「言った、言わない」の争いを防ぎ、話し合いのプロセスや合意事項を明確にできます。
対立が激しく解決が難しい場合は、調停の申立てや裁判といった選択肢も視野に入れる必要があるでしょう。
まとめ
相続で争いが起こる原因のひとつは、感情的になりやすいことです。
特に兄弟姉妹の場合、幼少期の関係が影響し、過去の感情が噴き出すこともあります。
また、法的知識が不十分なまま話し合うと、主張が錯綜し、混乱が生じやすくなります。
その結果、冷静な話し合いが難しくなり、対立が深まることもあります。
争いが起こりそうな場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。
法的な助言を受けることで状況が整理され、思ったよりスムーズに解決へと進むことがあります。
遺産分割協議に参加したくない場合は、弁護士を代理人とすることも可能です。
相続争いによる疲弊を避けるためにも、専門家への早期の相談をおすすめします。