この記事でわかること
- 協議分割で相続しないことと相続放棄することの違いがわかる
- 協議分割で取り分がゼロになると問題になる場合があることがわかる
- 相続放棄をせずに協議分割をした方がいいケースがあることがわかる
相続が発生すると、被相続人の残した遺産を相続人が相続することは、誰もが知っていることでしょう。
この時、被相続人が残した債務がある場合は、その債務も相続人が相続して返済を継続することとなります。
しかし相続放棄をすることで、他の遺産を引き継がない代わりに、債務も引き継がなくてよくなります。
ところで、相続放棄をせずに、協議分割で取り分をゼロとしても、債務を返済する必要はないため結果は同じです。
結果は同じこの両者には、何か違いがあるのでしょうか。
協議分割での取り分ゼロと相続放棄の違い
遺産分割協議によって、被相続人の遺産を相続人で分割することを協議分割といいます。
協議分割を行って、各相続人の取り分を決めることとなりますが、必ずしも法定相続分に分ける必要はありません。
そのため、相続人の中には、取り分がゼロとなる人がいることもあります。
取り分がゼロとなる相続人と、相続放棄した相続人ではどのような違いがあるのか、確認しておきましょう。
取り分ゼロとなる人も返済義務は消えない
被相続人が債務を残していた場合、その債務を相続する人、相続しない人で大きな違いがあります。
債務を引き継ぐと、その返済を相続人がしなければならないため、遺産と一緒に債務を引き継ぐケースが多いでしょう。
一方で、債務を引き継ぎたくない相続人の中には、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う人もいるかもしれません。
また、遺産をもらわない代わりに債務も引き継がないとして、協議分割の結果、取り分がゼロになる人もいます。
この両者は、ともに債務を引き継いでいないという点で違いはありません。
しかし、金融機関などの債権者の立場からは明確な違いがあります。
相続放棄した人は、はじめから相続人ではないものとして債務の返済を請求することはできません。
一方、協議分割で取り分がゼロとなった人は、相続人であることに変わりはありません。
そのため、協議分割で債務を相続した人が返済できなくなった場合には、債権者から請求されることもあるのです。
相続放棄と取り分ゼロの実例
たとえば、被相続人Aさん、相続人が子ども3人(Bさん、Cさん、Dさん)のケースを考えてみます。
Aさんは亡くなった時に、9,000万円の遺産と6,000万円の借金を保有していました。
相続人は子どもばかり3人ですから、それぞれは均等に相続分を有することとなります。
そのため、平等な遺産分割を行うのであれば、それぞれ3,000万円の遺産と2,000万円の借金を相続することとなります。
しかし、3人のうちCさんが相続放棄を行い、はじめから相続人でなかったものとされました。
また、BさんとDさんの協議分割の結果、Dさんは取り分ゼロとすることを主張していました。
その結果、BさんがAさんの遺産と債務をすべて相続することとなったのです。
この場合、CさんもDさんも、ともに遺産も借金も相続しないという結果に変わりはありません。
しかし、借金を相続したBさんがその借金の返済に行き詰まると、CさんとDさんには大きな違いが生じます。
Bさんが相続した借金の返済をできなくなると、金融機関は他の相続人に返済を迫ってきます。
ただ、相続放棄した人については、最初から相続人ではないという扱いとなるため、返済を迫られることもありません。
結果的に、相続放棄したCさんは借金の返済をしなくてもよく、一方のDさんは返済しなければならないこととなるのです。
協議分割での取り分ゼロが問題になるケース
遺産分割協議を行い、各相続人の相続分を確定させれば、その後に遺産の所有権を動かすことはできません。
もし分割協議をやり直すようなことになれば、最悪の場合、相続税とは別に贈与税や所得税が課されることもあります。
もし協議分割で取り分ゼロとなった人は、その後に遺産を手にするということは考えられないのです。
しかし、被相続人の残した債務については、協議分割の時点で相続していない人でも、その後に返済義務が生じることがあります。
それは、協議分割の際に債務を引き継いだ人が返済できなくなり、債権者への返済を滞納している場合です。
そもそも、債務は協議分割を行っても特定の相続人だけが引き継ぐものではありません。
もっとも協議分割を行う際は、話し合いの結果、特定の相続人がその債務を引き継ぐこととする場合が多いでしょう。
ただ、それは相続人同士で決めただけであり、債権者からすればそれぞれの相続人が相続分の債務を有していると考えるのです。
そのため、当初債務を引き継ぐこととなった人が滞納した場合、債権者はすぐに他の相続人に返済を求めてきます。
この時、相続放棄しているのであれば、それを理由に債務の返済を拒むことができます。
一方、協議分割で取り分ゼロであったことは、債務返済を拒む理由とはならないのです。
相続放棄が問題になるケース
相続放棄を行うと、その人ははじめから相続人ではなかったものとされます。
すべての遺産を相続する権利がなくなり、子どもに代襲相続が発生することもありません。
相続放棄することで、遺産を相続する権利は同順位の相続人に移り、同順位の相続人がいなくなれば、次順位の相続人に移ります。
具体例で紹介していきましょう。
父(70歳)が亡くなり、その配偶者(68歳)と長男(40歳)、次男(38歳)、長女(35歳)が相続人になったとします。
誰も相続放棄する人がいなければ、この4人が法定相続人となり、配偶者は1/2、子ども3人はそれぞれ1/6の法定相続分が発生します。
ここで、長男が自身の代わりに子ども(12歳)が相続人になって、父の遺産を相続してほしいと考えたとします。
ところが、この長男の子どもは被相続人から見れば孫にあたり、法定相続人ではありません。
長男が相続放棄したとしても、長男は最初から相続人でないこととされるだけで、長男の相続分が子どもに移るわけではないのです。
仮に長男が相続放棄すると、配偶者の相続分は1/2、次男の長女の相続分が1/4となり、長男やその子どもの相続分はゼロとなるのです。
もう1つ注意しなければならないのは、3人の子ども全員が相続放棄した場合です。
父の残した遺産は、すべての財産を配偶者である母が相続すればいいと考え、3人の子ども全員が相続放棄したとします。
しかし、相続放棄したからといって、配偶者の相続分が100%になるとは限りません。
第一順位の法定相続人である子どもが全員相続放棄すると、直系尊属が第二順位の法定相続人となります。
父の父母のいずれかが健在であれば、法定相続人となるのです。
また、直系尊属がいずれも亡くなっている場合でも、父の兄弟姉妹が第三順位の法定相続人となります。
そのため、父の兄弟が健在であれば、その人に法定相続分が発生します。
配偶者がすべての遺産を相続するためには、そのような遺産分割を行えばいいのです。
配偶者が100%相続するために相続放棄しても、かえってそれが難しくなってしまう場合もあるので注意しましょう。
まとめ
遺産分割協議を行う際に、誰がどれだけの遺産を相続することとするのかは、相続人同士の話し合いによって決められます。
被相続人が残した債務がある場合、誰が負担することとするのかは、遺産分割協議の場で話し合いが行われます。
しかし、債務を引き継がないとされた人も、相続放棄した人以外は債権者からすれば返済義務者の1人であることに変わりはありません。
そのため、債務の額や他の相続人の状況によっては相続放棄が必要な場合もあることに注意しましょう。