この記事でわかること
- 相続税の税率や計算方法
- 相続税の計算の流れ
- 利用できる控除・特例
被相続人が亡くなり、相続手続を行うときに一番気になることの1つに「自分の相続分に相続税がかかるか、かかるとすれば何パーセントか」というがあるでしょう。
今回は、相続税について、税率のしくみや計算の流れ、計算するときの注意点、節税に使える控除・特例の制度などを解説します。
相続税の税率は10%~55%
平成27年(2015年)以降の相続については、相続税率は課税額の範囲を7段階に区分して適用され、10%~最大55%となりました。
ここではまず、相続財産に対する相続税率の計算の方法をご説明します。
相続税率は各相続人の取得金額によって決まる
相続税の税率は、遺産総額から基礎控除額を差し引いた金額に対して、「法定相続分に従って遺産を分けた」と仮定した場合の各相続人の取得金額によって決まります。
「法定相続分」とは、相続財産全体に対して、民法第900条によって定められた取得割合をいいます。
法定相続分は、法定相続人の構成によって変わります。
法定相続人は配偶者→子ども→父母→兄弟姉妹の順で、相続財産が優先的に配分されます。
具体的には、民法により以下のような原則が定められています。
- 配偶者と子どもは、常に相続人になる(民法第890条・第887条1項)
- 直系尊属(父母)は、被相続人に子どもがいない場合のみ相続人となる(民法第889条1項1号)
- 兄弟姉妹は、被相続人に子どもと直系尊属がいない場合のみ相続人となる(民法第889条1項2号)
- 被相続人に子ども・兄弟姉妹が複数いる場合は、法定相続分をその人数で按分する(民法900条4号)
- 兄弟姉妹が相続人となる場合、被相続人と父母の一方が異なる兄弟姉妹の相続分は父母を同じくする兄弟姉妹の2分の1となる(民法第900条4号但書)
法定相続人の構成ごとの法定相続分は、この原則に基づいて以下のようになります。
相続人の 構成 |
相続人ごとの法定相続分 | |||
---|---|---|---|---|
配偶者 | 子 | 父母 | 兄弟姉妹 | |
配偶者+子ども | 2分の1 | 2分の1 | – | – |
配偶者+父母 | 3分の2 | – | 3分の1 | – |
配偶者+兄弟姉妹 | 4分の3 | – | – | 4分の1 |
配偶者のみ | 全部 | – | – | – |
子どものみ | – | 全部 | – | |
父母のみ | – | – | 全部 | – |
兄弟姉妹のみ | – | – | – | 全部 |
配偶者と子ども2人が相続人の場合→配偶者2分の1・子ども1人あたり4分の1
配偶者と父母が相続人の場合→配偶者3分の2・父母3分の1(父母両方いる場合は6分の1ずつ)
相続税率の計算は超過累進課税方式による
相続税は、「超過累進課税方式」によって計算されます。
超過累進課税方式では、課税額の範囲を複数に区分して、区分ごとに税率を適用します。
課税額に対する相続税の税率は以下の表の通りです。
課税額 | 税率 |
---|---|
~1,000万円 | 10% |
~3,000万円 | 15% |
~5,000万円 | 20% |
~1億円 | 30% |
~3億円 | 45% |
~6億円 | 50% |
6億円超 | 55% |
計算例
たとえば、相続人が配偶者Aさんと子どもXさんの2人で、Xさんの相続分に応じた取得金額(課税額)が5,000万円の場合、この課税額に対する相続税の計算は以下のように行います。
相続税率速算表
前項の計算を簡便化したのが、下記の速算表です。
【相続税率速算表】
課税額(A) | 税率(B) | 控除額(C) |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 0円 |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえばこれを先ほど計算例の「課税額5,000万円」にあてはめると、5,000万円×20%-200万円=800万円となり、答えが一致します。
(国税庁No.4152 相続税の計算)
相続税を計算する流れ
ここでは、相続税の計算の流れをご説明します。
課税価格の合計額を計算する
まず、課税価格の合計額を計算します。
課税価格の合計額を計算するには、すべての課税対象財産の評価を行って計上しなければなりません。
なお、土地の評価については、後述するように小規模宅地等の特例による大幅な減税措置が受けられる場合があります。
また、その他にも様々な控除・特例措置があります。
この段階でこれらの制度の適用を受けられる財産をリストアップして、負担軽減額を計算していきます。
ここでは、便宜上、課税対象資産の合計額を2億4,800万円、法定相続人を妻・長男・長女の3人と仮定して進めます。
相続税の総額を算出する
次に、相続税の総額を算出します。
相続税総額の算出は、以下の手順で行います。
手順1 課税価格の合計額から基礎控除額を差し引く
前項の課税価格の合計額から、基礎控除額を差し引きます。
基礎控除額の計算式は前述のように、【3,000万円+600万円×法定相続人の人数】です。
課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いた額を「課税遺産総額」といいます。
上記の例では、課税遺産総額は以下のような計算となります。
手順2 各法定相続人の「仮の相続分」を算定する
次に、課税遺産総額を「法定相続分通りに分配した」と仮定して、各法定相続人の「仮の相続分」を算定します。
上記の例では、「仮の相続分」はそれぞれ以下の額になります。
長男:2億円×4分の1=5,000万円
長女:2億円×4分の1=5,000万円
手順3 相続税率速算表に従って相続税額を算定する
最後に、手順で算定した各法定相続人の「仮の相続分」を、前述した税率速算表に当てはめて、各法定相続人の相続税額を算定します。
上記の例では、各法定相続人の相続税額は以下の額になります。
長男:5,000万円×20%-200万円=800万円
長女:5,000万円×20%-200万円=800万円
各法定相続人の納税額を計算する
最後に、各法定相続人の相続税の総額を、実際の相続割合で按分します。
上記の例では、相続税の総額は以下のようになります。
50%相当を妻、長男と長女が25%ずつ相続したとすると、納税額は以下の額になります。
長男:3,900万円×25%=975万円
長女:3,900万円×25%=975万円
なお実際には、妻の相続財産額は法定相続分の範囲内となるため、配偶者控除の特例により相続税の納税額はゼロになります。
相続税の節税に使える控除・特例
相続税に対しては、政策上、様々な控除制度や特例制度が設けられています。
ここでは、相続税の節税に使える主な控除制度・特例制度をご紹介します。
利用できる主な控除制度
控除制度としては、以下の6つが挙げられます。
基礎控除
基礎控除は、前述のように相続税の課税対象額を計算するときに、遺産総額から必ず差し引くことのできる控除制度です。
遺産総額から基礎控除を差し引いた額がプラスであれば相続税が課税され、ゼロまたはマイナスであれば課税されません。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者の相続財産額が1億6,000万円以下、または法定相続分の範囲内までは相続税が非課税になる制度です(相続税法第19条の2)。
たとえば夫が亡くなり、妻の相続財産額が5,000万円であった場合、相続財産額が1億6,000万円以下となるため非課税になります。
また、妻と子ども1人が法定相続人で、遺産総額が4億円、妻の相続財産額が2億円だった場合は、相続財産額は1億6,000万円を超えています。
しかし、法定相続分の範囲内であるため、相続税は非課税となります。
未成年者の税額控除
未成年者の税額控除は、相続人が未成年である場合に相続税額から一定額が控除される制度です(相続税法第19条の3)。
これは、未成年者には養育費や教育費など、様々な費用がかかることに対する考慮に基づく控除制度です。
未成年者控除の控除額の計算方法は以下の通りです。
たとえば、相続時に16歳だった場合は控除額を以下のように算出します。
障害者の税額控除
障害者の税額控除は、相続人が85歳未満で障害認定を受けている場合に、相続税から一定額が控除される制度です(相続税法第19条の4)。
これは、障害を持つ人の経済的負担を減らすのを目的としています。
控除額の計算方法は以下の通りです。
- 一般障害者
控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
- 特別障害者
控除額=(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
一般障害者・特別障害者それぞれの要件については下記をご参照ください。
また、控除額が相続税額を上回る場合は、上回った分を他の相続人(扶養義務者=当該障害者の配偶者・直系血族・兄弟姉妹ほか、3親等内の親族のうち一定の者)の相続税額から差し引くことができます。
国税庁No.4167「障害者の税額控除」
たとえば、相続開始時に40歳の特別障害者の方の相続税額が500万円だったとします。
この場合の控除額は(85-40)×20万円=900万円となります。
相続税額に対して控除額が900万円-500万円=400万円ほど上回るため、この400万円を他の扶養義務者の相続税額から控除できます。
相次相続控除
相次相続控除とは、最初の相続が発生したときから10年以内に次の相続が発生した場合に、相続税額から一定額を差し引くことができる制度です(相続税法第20条)。
相続税の支払いが原則として現金一括払いであるため、短期間に相続が続いた(=「相次いで」相続が発生した)場合に相続税の負担が大きくなることを考慮した制度といえます。
相次相続控除は、相続人が以下の3つの条件を満たした場合に適用されます。
相次相続控除の計算式は複雑なため、専門家に相談をおすすめします。
贈与税額控除
贈与税額控除は、相続税と贈与税の二重課税を防ぐため、被相続人から受けた贈与に対する贈与税額を相続税から控除する制度です(相続税法第20条の2)
相続税の計算においては、相続発生から3年以内にされた贈与、または相続時精算課税制度を利用した贈与により取得した財産については、相続財産と合算されます。
このように、対象財産については相続税と贈与税が二重に課されてしまうため、この制度を利用して納めた贈与税分を控除できます。
利用できる主な特例
また、以下の2つの特例制度も利用できます。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、土地を相続する場合に、一定の条件のもとに減税を受けられる制度です(租税特別措置法第69条の4)。
土地を相続すると相続税が高額になるため、相続税支払いのためにその土地を売らなければならなくなるおそれがあります。
それによって、相続人が住む場所を失ってしまうのを防ぐために設けられたのが、この特例です。
特例措置は、土地の用途によって3つに分かれます。
土地の用途ごとの適用条件・受けられる減税措置は以下の通りです。
土地の用途 | 適用条件 | 受けられる減税措置 |
---|---|---|
特定居住用宅地等 | 被相続人または被相続人と生計を共にする親族が住んでいたこと | 土地の面積330㎡以下の部分につき評価額80%減額 |
特定事業用宅地等 | 被相続人及び被相続人と生計を共にする親族が事業を行っていたこと | 土地の面積400㎡以下の部分につき評価額80%減額 |
貸付事業用宅地等 | 被相続人及び被相続人と生計を共にする親族がその土地を貸していたこと | 土地の面積200㎡以下の部分につき評価額50%減額 |
納税猶予の特例
納税猶予の特例は、農地を相続した際に相続税の支払いを延期できる、または支払いの免除を受けられる制度です(租税特別措置法第70条の6、第70条の6の2、6の3等)。
農地の面積は特に広いため、規定通りに相続税や贈与税が課税されると、納税のために農地の処分を迫られるおそれがあります。
農地を失うことにより農業を継続できなくなるケースが続出すれば、日本の農業自体の衰退を招くことになります。
この特例は、この事態を防ぐ目的で設けられました。
「相続税の納税猶予」は、国税庁が定めた「農業投資価額」を用いて相続税額を算出し、農地の土地評価額に基づいて算出した相続税額を差し引いた額を納税猶予するというしくみです。
さらに、以下の条件を満たせば、事実上納税の免除を受けられます。
- 農地の相続人が死亡した場合
- 被相続人が、後継者に農地を生前一括贈与した場合
- 相続人が、特定の条件を満たした土地で20年間農業を継続した場合
納税免除を受けられる典型例は、農地の相続人本人が高齢で亡くなるまで農業を継続した場合です。
納税猶予の特例の適用には、農地の種類などによって様々な条件があります。
特例を受けられるかについては、下記の国税庁のページもご確認ください。
国税庁No.4147「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」
相続税を計算するときの注意点
ここでは、相続税を計算するにあたって注意したいことをご説明します。
相続税の計算上の「法定相続人」に含まれる養子の人数には制限がある
相続税の計算をする場合、以下の項目については、法定相続人の数に基づいて行います。
- 相続税の基礎控除額
- 生命保険金の非課税限度額
- 死亡退職金の非課税限度額
- 相続税の総額の計算
引用:国税庁No.4170
これらの計算をする場合、実子については人数に制限がありません。
一方、養子の場合は、以下の制限があります。
- 被相続人に実子がいる場合:1人まで
- 被相続人に実子がいない場合:2人まで
ただし、以下の条件に該当する人は「実子」として扱われ、すべて法定相続人の数に含まれます。
- 被相続人との特別養子縁組により養子となった人
- 被相続人の配偶者の実子(連れ子)で被相続人と養子縁組した人
- 被相続人の配偶者が、被相続人との結婚前に特別養子縁組により養子とした人で、当該結婚後に被
相続人とも養子縁組した人 - 被相続人の実子・養子の代襲相続人
生命保険金・死亡退職金なども相続税の計算対象になる
相続税の課税対象に含まれる財産の中には、民法上相続財産に該当しない「みなし財産」も含まれることに注意が必要です。
みなし財産の代表例としては、生命保険金や死亡退職金、名義預金等があります。
相続財産の確定にあたっては、被相続人が契約している生命保険金・死亡退職金などがあるか、及びその契約内容についても確認しておきましょう。
特例や控除の適用を受ける場合も申告が必要
前述したように、相続税の控除や特例を受けられるケースは多くあります。
控除や特例の適用を受ける場合も、申告期限(相続開始を知ってから10カ月以内)までに利用の申告を行う必要があります。
申告漏れがあると、本来支払わなくてよい相続税が発生します。
相続が始まってからできるだけ早い時期に、適用を受けられる制度の有無や、負担軽減額を計算しておくことをおすすめします。
まとめ
相続税に対しては、様々な控除制度や特例が設けられているため、多くのケースで何らかの控除や特例を受けられます。
ただし、制度について知らずに相続税の申告をしてしまった場合、国税庁が控除や特例を受けられる旨を指摘したり、申告額を修正したりすることは通常ありません。
また、控除や特例は条件や計算方法がわかりにくいことも多く、相続人本人が計算を行うには非常に手間がかかります。
前提となる相続分の確定のために行う遺産分割協議自体が、スムーズに進まないこともよくあります。
相続税の算出や、相続財産の確定にあたっては、遺産相続を専門とする弁護士や税理士に相談するのをおすすめします。