この記事でわかること
- 相続税の基本が分かる
- 相続税の節税方法が分かる
- 相続税申告に必要なものと注意点が分かる
相続税は多くの資産があるご家庭の話と思っている方も多いのではないでしょうか?
確かに、高額の不動産や預貯金などを有する方が亡くなると、相続税は高くなります。
しかし、生前、サラリーマンとしてこつこつと働いた方が亡くなった場合でも、相続税が発生するケースもあります。
自宅、退職金などの預貯金、従業員持ち株制度により現役時代に購入した株式などの遺産であっても、相続税がかかることがあるのです。
亡くなった方(被相続人)が一生懸命に形成した資産です。
できるかぎり相続税は押さえたいと思う方もいらっしゃるでしょう。
相続税は原則として、納付期限までに現金で納めなければなりません。
これから相続の可能性がある方や、すでに相続が発生した方など、相続税を払えるかどうか気になるのではないでしょうか。
そこで、この記事では相続税の基本を解説します。
そのうえで、遺産相続した場合、相続税の基礎控除額はいくらか、相続税の税率と計算方法などを説明します。
相続税の節税対策もお伝えするので、遺産相続のご予定がある方や、相続税申告を控えている方は参考にしてください。
目次
遺産相続をしたらおさえたい「相続税」の基本
まず、遺産相続をしたらおさえるべき「相続税の基本」を解説します。
相続財産に含まれるもの、相続税申告義務があるケース、相続税申告期限など、基本を押さえましょう。
相続税の課税対象
次の財産が相続税の対象となります。
ゴルフ会員権、特許権、売掛金など目に見えない資産も相続税の対象となるので、注意しましょう。
相続税の課税対象となる財産
土地 | 宅地、山林、農地、分譲マンションの敷地権、借地権、地上権等 |
---|---|
建物 | 区分建物、駐車場ビル、倉庫、借家権など |
金融資産 | 現金、預貯金、株式、投資信託、公社債など |
動産 | 車、家具、宝石等貴金属、骨董品など |
その他権利 | 入院保険金(被相続人が受取人の契約)、電話加入権、ゴルフ会員権、リゾート会員 権、著作権、商標権、特許権、損害賠償請求権、売掛金など |
次に相続税の課税対象とならない財産を見ておきましょう。
とくに、死亡保険金は非課税枠があるので、後述する節税にも役立ちます。
相続税の課税対象とならない財産
- ・祭祀承継されるもの
- ・墓地、墓石、仏壇、仏具等(高額なものを除く)
- ・死亡保険金(500万円×法定相続人の数で計算した金額までは非課税)
相続税の申告義務と申告期限
課税対象となる相続財産が非課税枠の場合、相続税は申告する必要がありません。
相続財産の額が低ければ、めんどうな相続税申告をしなくてすむということです。
相続税申告義務がある場合、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内に申告しなければなりません。
管轄税務署は、被相続人の亡くなった当時の住所地の税務署です。
相続人の住所地の管轄税務署ではないので注意しましょう。
相続税申告期限を過ぎると、延滞税などが発生します。
相続税の基礎控除額
次に、相続税の基礎控除額について確認します。
基礎控除額は、相続税が非課税になるかどうかに大きく影響するので、しっかりと理解してください。
基礎控除額の計算
まず、基礎控除額の計算において、基本を押さえておきましょう。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、次のケースで計算してみましょう。
<ケース1>
- ・被相続人X、妻Y、XとYの実子AとB
このケースでは、基礎控除額は
3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
したがって、正味の遺産総額が4,800万円以下の場合、相続税はかかりません。
なお、正味の遺産総額については後述します。
基礎控除額の注意点
相続税の基礎控除額を計算する際、いくつか注意点があります。
相続税の基礎控除額の注意点
法定相続人の数 | 相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人 |
---|---|
養子 | ・法定相続人のなかに養子がいる場合の法定相続人の数 ・被相続人に実子がいる場合は、普通養子のうち1人までを法定相続人に含める ・被相続人に実子がいない場合は、普通養子のうち2人までを法定相続人に含める ・特別養子縁組による養子はその数すべて |
相続放棄をした相続人がいる場合
相続の放棄をした人がいても、その放棄がなかったものとした場合の相続人の数を計算します。
例えば、次のケースで、相続税の基礎控除額を計算してみましょう。
<ケース2>
- ・被相続人X、妻Y、XとYの実子AとB
- ・Aが相続を放棄
このケースでは、Aが相続を放棄しても相続税の基礎控除額に影響はありません。
ケース1と同じく、基礎控除額は
3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
したがって、正味の遺産総額が4,800万円以下の場合、相続税はかかりません。
養子がいる場合
養子の全員が、基礎控除の計算における法定相続人に含まれるわけではありません。
養子すべてに基礎控除額の枠を認めてしまうと、養子縁組が相続税をまぬがれる為の手段になってしまうためです。
養子がいるケースで相続税の基礎控除額を計算してみましょう。
<ケース3>
- ・被相続人X、妻Y、XとYの実子A、Xの普通養子B、Xの普通養子C
このケースでは、Xに実子がいるので、普通養子は1人まで法定相続人に数えることができます。
したがって、ケース1やケース2と同じく、基礎控除額は
3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
今度は、実子はおらず、普通養子がいるケースで計算してみましょう。
<ケース4>
- ・被相続人X、妻Y、Xの普通養子A、Xの普通養子B、Xの普通養子C
このケースでは、Xに実子がいないので、養子は2人まで法定相続人に数えることができます。
したがって、基礎控除額は
3,000万円+600万円×3=4,800万円です。
実子と同様の養子など
次の方については、相続税法上は実子と同じとみなされます。
- ・被相続人の特別養子
- ・被相続人の配偶者の実子が被相続人の養子となっている場合
- ・被相続人と配偶者の結婚前に、配偶者の特別養子となっていた人で、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった人
- ・被相続人の実子や養子などを代襲相続した直系卑属
<ケース5>
次のケースで考えましょう。
- ・被相続人X、妻Y、Xの特別養子A、Xの特別養子B、Xの特別養子C
このケースでは、Xに実子はいませんが、特別養子は実子と同様に全員を法定相続人に数えることができます。
したがって、基礎控除額は
3,000万円+600万円×4=5,400万円です。
相続税の税率と計算方法
次に、相続税の税率と実際の計算方法を見てみましょう。
相続税の税率
平成27年1月1以降に発生した相続の場合、相続税の税率は以下のとおりです。
この税率にしがたい相続人ごとに税額を計算します。
相続人ごとの相続税額の合計が相続税額です。
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% 3,000万円以下 15% 50万円 5,000万円以下 20% 200万円 1億円以下 30% 700万円 2億円以下 40% 1,700万円 3億円以下 45% 2,700万円 6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円 引用:相続税の速算表(国税庁)
なお、平成26年12月31日以前に開始した相続では、相続税の税率がこの表と異なります。
相続税の計算
相続税の税率は、相続財産額が高ければ高いほど上がっていくことがわかりました。
今度は、実際に相続税を計算してみましょう。
相続税額の計算式は以下のとおりです。
課税遺産総額×税率-控除額=相続税
次のケースで計算してみましょう。
<ケース6>
- ・課税遺産総額 6,000万円
- ・被相続人X、妻Y、XとYの実子Aと実子B
このケースでは、前述の通り、基礎控除額は4,800万円なので、
課税遺産総額=6,000万円-4,800万円=1,200万円です。
1,200万円に税率を乗じて控除額を差し引きます。
1,200万円×15% – 50万円=130万円
130万円がこのケースの相続税額の合計です。
課税相続財産の計算方法
上記のように、相続税の計算をするには、課税対象額である相続財産の額を確定しなければなりません。
課税遺産総額は、次のように計算します。
正味の遺産額
まず、正味の遺産額を下記の順で算出します。
- ・遺産総額(相続や遺贈によって取得した財産)の価額+相続時精算課税の適用を受ける財産の価額
- ・遺産額=上記の合計額から債務、葬式費用、非課税財産を控除
- ・正味の遺産額=遺産額に相続開始前3年以内の暦年課税に係る贈与財産の価額を加算
- ・課税遺産総額=正味の遺産額から基礎控除額を差し引く
相続時精算課税
相続時精算課税とは、贈与者が亡くなったときに、受贈者が贈与税を相続税で精算するものです。
贈与者、受贈者ともに対象が限られています。
贈与者は60歳以上の父母や祖父母でなければなりません。
また、受贈者は贈与者の子や孫などで、20歳以上の推定相続人及び孫にかぎられます。
相続税を節税する方法
相続税は何も対策をしなければ大きな額となります。
相続税対策は、相続が発生してからでは遅すぎます。
できるかぎり、相続人に資産を残せるよう、対策をとりましょう。
ここでは、代表的な相続税対策を3つ紹介します。
- ・生命保険の活用
- ・不動産の活用
- ・生前贈与など
生命保険で節税
先述したとおり、法定相続人が受取人である生命保険金は500万円×法定相続人の数が非課税限度額額です。
生命保険金は、受け取り人が法定相続人の場合、みなし相続財産と呼ばれます。
民法では、法定相続人が受け取った生命保険金は、その相続人の財産となります。
しかし、相続税法上では相続財産となるので、相続税の課税対象です。
生命保険金は、基礎控除額のほかに非課税限度枠が認められています。
したがって、現金や預貯金を多くもっている方の相続税節税に、生命保険加入は有効な手段なのです。
生命保険金を活用した相続対策のメリットには、次の3つがあります。
- ・他の相続人の同意がいらない
- ・相続放棄しても受け取れる
- ・原則として遺留分を侵害しない
生命保険金は遺産分割せずに受け取れるので、他の相続人との関係が良くないケースでも、受取人だけでスムーズに手続きできます。
また、相続放棄とは関係なく受け取れるので、相続財産に債務が多いケースでは、相続対策として有効です。
生命保険金は原則として遺留分侵害額請求の対象になりません。
遺留分の争いを防げるので、生命保険金を相続税節税対策として検討するとよいでしょう。
不動産を活用
土地を所有している方なら、土地上にアパートやマンションを建築すると、相続税節税につながります。
更地よりも、貸家建付地のほうが、評価が低くなるからです。
貸家建付地とは、アパートなど貸家の敷地の用に供されている宅地のことです。
貸家建付地は、次の計算式により評価が減額されます。
貸家建付地の価額=自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合
なお、注意しなければならないのは、アパートなど貸家の空き室については、賃貸割合の減額が認められない点です。
また、要件を満たせば、貸家建付地は50%まで評価額が下がります(貸家建付地の小規模宅地の特例)。
ただし、相続開始前に賃貸事業を行っていた期間が3年しかないケースでは、原則として、貸家建付地の小規模宅地の特例は受けられません。
生前贈与
孫や子に生前贈与すれば、相続税対策になると聞いたことがるかもしれません。
確かに、相続財産を減らすために、生前贈与を活用する方法もあります。
生前贈与の主な非課税枠
- ・基礎控除 年間110万円
- ・相続時精算課税の特例 2,500万円
- ・住宅取得資金贈与の特例(最大3,000万円)
- ・夫婦間贈与の特例 2,000万円
ただし、以下の点に注意しましょう。
- ・定期的な贈与とみなされないようにする(基礎控除を超える贈与とみなされる)
- ・贈与と認められず、相続財産として残る
贈与契約を締結して契約書を作成したり、振り込み記録をのこしたりなど、非課税枠の贈与と認められるように注意してください。
また、各非課税枠の適用には対象など細かな要件があります。
税理士など専門家に確認することをおすすめします。
相続税申告に必要なものと注意点
最後に、相続税申告に必要なものと注意点を解説します。
本人確認書類
まず、本人確認書類が必要です。
- ・マイナンバーカードの写し
- ・マイナンバー通知カードの写し
- ・マイナンバーの記載がある住民票の写し
- ・マイナンバーカードの表面の写し
なお、相続税申告で、マイナンバーカードの写しを本人確認書類として添付する場合、表面と裏面の両面の写しを添付しなければなりません。
戸籍謄本等(特例を受けない場合)
戸籍謄本については、まず、特例適用を受けない場合を記します。
- ・被相続人のすべての相続人を明らかにする戸籍の謄本
- ・遺言書がある場合はその写し
- ・遺産分割協議書がある場合はその写し
- ・遺産分割協議書に押印した相続人全員の印鑑証明書
戸籍謄本については、相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたものでなければなりません。
相続開始前に早めに戸籍謄本を取得しても、使用できないということです。
戸籍謄本等(特例を受ける場合)
次の特例を受ける場合、一般的な書類に加えて次の書類も必要です。
相続時精算課税適用者がいる場合
- ・被相続人の戸籍の附票の写し(相続開始の日以後に作成されたもの)
- ・相続時精算課税適用者の戸籍の附票の写し(相続開始の日以後に作成されたもの)
戸籍の附表は、戸籍に記載された者の住所の移動を記しています。
配偶者の税額軽減の適用を受ける場合や、小規模宅地等の特例の適用を受ける場合は、主に次の書面が必要です。
- ・申告期限後3年以内の分割見込書(申告期限内に分割ができない場合)
- ・特定居住用宅地等に該当する宅地等に該当することを証する書面
特例を受ける場合は用意しなければならない書面が多くなるので、最寄りの税務所に確認しましょう。
また、本人確認書類なども、相続税申告する前に必ず税務署や国税庁のホームページでチェックしたうえで申告してください。
相続税の申告について知っておきたいこと
ここからは、相続税の申告について知っておくべきことを紹介します。
相続税は基礎控除額を超えた場合に発生するため、自分が相続する金額が基礎控除以上あるなら、必ずチェックしておきましょう。
申告をしないと余計な税金がかかる場合も
「相続税を払いたくないから、相続税の申告はしたくない」と思うかもしれません。
しかし相続税の申告をせずに、隠れて相続を受けると、罰則として余計な税金が課せられる可能性もあります。
- ・無申告加算税
- ・延滞税
- ・重加算税
まず無申告加算税は、相続税の申告をしなかった場合に発生する税金になります。
税務調査が入るかどうか・相続税の総額がどれぐらいか?で税率が変わります。
税務調査を受けたあとの申告・相続税が50万円以上あると、課税割合が20%と高くなります。
次に延滞税は期限内に相続税を納めなかった罰則で、申告書を出してから2ヶ月経過すると、年間8.9%の課税になります。
最後の重加算税は、悪質な納税逃れ・書類の偽装や隠蔽などに対して課される税金です。
重加算税が発生すると、無申告加算税・延滞税に加えて40%の課税がされます。
例えば相続税が100万円あり、無申告加算税・延滞税・重加算税のすべて最大割合で課税されると、下記のような計算になります。
- ・無申告加算税(20%):20万円
- ・延滞税(8.9%):8.9万円
- ・重加算税(40%):40万円
- ・合計:68.9万円
相続税が100万円だったとしても、追加で70万円近い税金がかかります。
正しく申告をして、期限内に相続税を納付すれば、無駄な税金を払う必要もありません。
相続税が発生しそうなときは、しっかりと申告をして、期限内に相続税を支払いましょう。
自分で相続税の申告はできるがリスクが高い
相続税の申告は弁護士や税理士に相談するのが一番安全ですが、「費用を少しでも抑えたいから自分で申告したい」と思うかもしれません。
実際に自分で相続税の申告はできますが、リスクも高いので覚えておきましょう。
相続税の計算や申告は複雑なので、知識のない状態で申告すればミスが発生するかもしれません。
また弁護士や税理士に依頼すれば、節税の方法を教えてくれるため、税金自体を安くできます。
節税できる状態なのに自分で申告をしてしまうと、余計な税金を払ってしまうかもしれません。
また相続税は税務調査に入られる割合が高いといわれています。
自分で申告や納付をしている場合は、税務調査に入られたときにも自分で説明しなければいけません。
税務調査に入られて申告の不備が見つかれば、追加で税金が発生する場合もあります。
「税務調査に入られたときに、自分だけじゃ対応できないかもしれない」と不安に思うなら、弁護士への相談がおすすめでしょう。
まとめ
相続税は思ったよりも掛かってしまう場合があります。
相続税の負担が原因となって、家族間でぎくしゃくするかもしれません。
遺産相続では、誰がどの財産を相続するかに目がいきがちです。
被相続人に遺言をのこしてもらうなどの対策を立てているご家庭もあるでしょう。
しかし、相続税を払うために、せっかくもらった遺産を売却せざるをえなくなったら意味がありません。
相続税についても被相続人の生前からよく話し合い、家族で相続税対策を十分におこなうことをおすすめします。
相続税対策には、相続税の知識だけでなく、遺言や遺産分割、保険や不動産など幅広い高度な知識が必要です。
相続税対策を検討している方は、弁護士や税理士など専門家に早めに相談してください。