この記事でわかること
- 公正証書遺言の作成者が亡くなった場合に相続人に通知が来るか
- 公証役場に公正証書遺言の内容を相続人に通知する義務はあるか
- 公正証書遺言を探す方法
公正証書遺言は、公文書としての性質を持つためトラブル防止効果が高く、遺言の作成方法として安全で確実なものといえます。
しかし、公正証書遺言の作成者が亡くなった場合、相続人に通知が来るか否かについてはあまり知られていません。
今回は、公正証書遺言の作成者が亡くなった場合に相続人に遺言作成者死亡の事実や遺言書の内容が知らされるかについて解説します。
公正証書遺言とは
公正証書遺言(民法第969条)とは、遺言者本人の意思を確認しながら公証人が作成する遺言書です。
公正証書遺言の作成方法
公正証書遺言は、以下の流れで作成します。
文案を作成して公証役場に送付する
まず、遺言者が、遺言書の文案を作成します。
形式・内容を整え、内容に関するトラブルを予防するために文案作成段階で弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
遺言書の文案を作成したら、公証人に送付して内容を確認してもらいます。
公証人が形式面で問題のある箇所の調整を行い、遺言書の文案が完成します。
証人の立会いのもとで遺言書の原本を作成する
遺言書の文案に基づいて、公正証書遺言原本作成の手続きを行います。
原本作成の手続きは、原則として公証役場で行いますが、追加費用を支払えば公証人に出張を依頼できます。
公正証書遺言の作成には、公証人の関与に加えて、2名以上の証人による立会いが必要です(民法第969条1項)。
証人は、遺言者自身が手配するか、弁護士や公証役場に手配を依頼します。
証人の立会いのもとで、遺言者が遺言内容を公証人に対して口頭で伝えましょう。(民法第969条1項2号)。
これを受けて、公証人が遺言内容を遺言者と証人に読み聞かせます。
最後に、遺言者・証人・公証人が署名・押印すると、公正証書遺言の原本が完成します。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言には以下のメリットがあるため、広く利用されています。
検認手続きが不要
自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合、相続開始後に家庭裁判所の検認を経る必要があります(民法第1004条1項)。
公正証書遺言の場合、家庭裁判所の検認が不要であるため(同条2項)、相続開始後、速やかに遺言の内容を実現できます。
紛失・改ざんを防げる
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、紛失や第三者による破棄・隠匿・改ざんの恐れがありません。
2019年以降に作成された公正証書遺言の遺言情報は、遺言検索システムに登録されています。なお、遺言検索システムには秘密証書遺言の遺言情報も登録されています。
また、2014年以降に作成された公正証書遺言の原本はPDF化されているため、災害などにより原本を紛失した場合でも遺言書を探し出すことが可能です。
遺言が無効になるリスクを防げる
公正証書遺言は、法曹資格者や長年法律事務に携わった専門家が遺言書の形式を確認するため、遺言が無効になるリスクを抑えられます。
公正証書遺言の作成者が亡くなると相続人に通知は来る?
公正証書遺言の存在は、遺言者が相続人に伝えていない場合があります。
遺言者が亡くなった場合、公正証書遺言の存在や内容について、相続人に通知は行われるでしょうか。
公証役場からの通知は行われない
遺言者が亡くなった場合でも、公証役場から相続人に対する通知は行われません。
これは、公証役場の役割が公正証書作成・保管に限られ、公証人や公証役場はそれ以外の義務を負わないためです。
遺言執行者が指定されている場合は通知義務がある
遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を実現するために手続きを行う人(自然人または法人)です。
遺言執行者は、遺言者が遺言により指定するか(民法第1006条1項)、相続人等の利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任します(民法第1010条)。
遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は相続の開始時に遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知する義務を負います(民法第1007条2項)。
このため、遺言執行者が遺言者の死亡の事実を認識すれば、民法上の義務に従って任務を遂行する限り、相続人に対して遺言の存在と内容の通知が行われるでしょう。
遺言執行者が指定されていても通知されない場合がある
ただし、遺言執行者が指定されていても、相続人に通知されない場合があるので注意が必要です。
通知されない場合の例としては、「通知すべきなのに通知されなかった」場合と、「遺言執行者の合理的判断により通知しない」場合があります。
通知すべきなのに通知されなかった場合
まず、本来ならば通知すべきであるのに、相続人との間で連絡を取れていないこと等により通知されなかった場合があります。
例として以下の場合が挙げられます。
- 遺言執行者が、遺言者死亡の事実を知る機会がなかった
- 遺言執行者が法律知識に疎く、相続人に対する通知を怠った
なお、民法上、遺言執行者は「その就職を承諾したとき」は、直ちにその任務を行わなければならないと定められています(民法第1007条1項)。
このため、たとえば遺言執行者として指定された人が、指定の事実を知らなかった場合等は、相続人に対する通知義務を負っていないと理解されます。
遺言執行者の合理的判断により通知しない場合
遺言執行者の合理的な判断により通知しない場合は、以下のように、あえて通知する必要がない場合です。
- 相続人全員が遺言書の内容を把握しており、通知が不要である旨を遺言執行者との間で合意している
公正証書遺言を探す方法
公正証書遺言の作成者が亡くなったときに通知が来なかった場合、相続人が公正証書遺言の存在と内容を確認する方法はあるでしょうか。
遺品の中から公正証書遺言の正本・謄本を探す
公正証書遺言を作成すると、原本以外に正本・謄本が作成されます。
正本と謄本は、「原本の全部の写し」である点で共通しています。
両者の違いは、原本と同一の法的効力を持つか否かにあり、原本と同一の法的効力を持つのは正本のみです。
正本・謄本は、遺言者本人及び、作成に同席していた場合の遺言執行者に交付されます。
このため、遺言者本人は、少なくとも正本・謄本のいずれかを保管していることになります。
遺品の中に公正証書遺言の正本または謄本がないか探してみて、見つかれば遺言書に記載された公証役場に連絡を取ってみましょう。
公証役場で遺言検索を依頼する
遺品の中から公正証書遺言の正本・謄本のいずれも見つからない場合は、公証役場で遺言検索を依頼できます。
公証役場では、1989年以降に作成された公正証書遺言に関する以下の情報を「遺言検索システム」により一元的に管理しています。
- 作成した公証役場名
- 公証人氏名
- 遺言者氏名
- 作成年月日
遺言者が死亡した後は、相続人・受遺者など、法律上の利害関係を持つ人であれば遺言検索を依頼できます。
遺言検索システムの利用方法
遺言検索を依頼する場合は、最寄りの公証役場で以下の必要書類を提出して照会を依頼します。
- 遺言者本人の戸籍謄本または死亡診断書
- 請求者の戸籍謄本
-
下記A・Bのいずれか
A 請求者の顔写真付きの身分証明書及び認印
B 請求者の印鑑証明書(3カ月以内に発行されたもの)及び実印 - 上記に加えて委任状及び本人の印鑑証明書
- 代理人の身分証明書と認印
【申請者が代理人の場合】
公証人は、必要書類を確認した後、日本公証人連合会事務局に、公正証書遺言の有無や保管場所を照会します。
検索にかかる時間は、書類確認から照会手続きを含めて20分~30分程度です。
公正証書遺言の存在が確認された場合
公証人による照会の結果、公正証書遺言の有無と保管場所が確認されると、以下の事項を記載した照会結果通知書が発行されます。
- 当該遺言書作成年月日
- 証書番号
- 作成した公証役場の所在地、連絡先
- 作成した公証人の氏名
公正証書遺言が見つからなかった場合
公証役場で遺言検索システムを利用して調査を行ったが、本人の公正証書遺言が存在しない場合は「該当なし」という結果が出ます。
この場合は、公証役場から「該当する公正証書が存在しなかった」旨が記載された書面の発行を受けます。
公正証書遺言の存在をめぐって相続人間でトラブルが起こるのを防ぐため、この書面を保管しておきましょう。
遺言検索で見つかった公正証書遺言の内容を確認する方法
遺言検索システムを利用して遺言を検索した結果、公正証書遺言があるとわかったときは、原本が保管されている公証役場に謄本交付請求して内容を確認しましょう。
謄本交付請求は、公証役場で直接申請する方法と郵送で申請する方法があります。
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
公正役場で謄本交付請求する
公正証書遺言の原本が保管されている公証役場への訪問が可能であれば、直接請求しましょう。
謄本の交付手数料は、1通につき【遺言書のページ数×250円】です。
相続手続きでは、複数必要になる可能性もあるので、3・4通まとめて請求することをおすすめします。
謄本交付請求の際には、検索請求の時と同様、被相続人の除籍謄本・請求者の戸籍謄本及び本人確認書類をご用意ください。
郵送で請求する
公正証書遺言の原本が保管されている公証役場が遠方にある場合は、郵送で謄本交付を請求できます。
郵送での請求は、以下の手順で行います。
- 1.最寄りの公証役場で「公正証書謄本交付申請書」の署名認証を受ける
- この際、認証手数料がかかります。
- 2.原本が保管されている公証役場宛てに必要書類を郵送する
- 下記をレターパックプラスまたはレターパックライトに入れて送ってください。
- 署名認証を受けた公正証書謄本交付申請書
- 除籍謄本・戸籍謄本・身分証明書
- 返送用レターパック
- (代理人が申請する場合)委任状及び代理人の本人確認書類
必要書類が請求先の公証役場に到着後、謄本交付手数料の支払い方法について申請者に連絡が来ます。
当該公証役場の指示に従って手数料を支払うと、謄本と領収書が郵送されてきます。
公正証書遺言の内容を相続人に通知する義務はある?
前述したように、公証役場には、公正証書遺言の存在や内容について相続人に通知する義務はありません。
公正証書遺言の内容を相続人に通知する義務があるのは、遺言執行者が指定されている場合です。
通知義務を怠った場合は損害賠償請求が可能
遺言執行者が遺言の内容を通知せず、それによって相続人に損害が発生した場合には、遺言執行者に対して債務不履行に基づく損害賠償請求(民法第415条)ができる可能性があります。
相続人に損害が発生する例として、遺言の内容が偏っていたために相続人に遺留分侵害額請求(民法第1046条1項)が可能であった場合があります。
遺言の内容が偏っているとは、他の相続人の遺留分を侵害するような内容の遺言をいいます。
たとえば相続人が子どもABCの3人である場合に、「Aに全財産を相続させる」旨の遺言などが該当します。
この場合、遺言執行者が遺言内容を通知していれば、遺留分侵害額請求できたことになります。
しかし、通知を怠ったために遺留分権利者が請求の機会を失い、遺留分侵害額相当の損害が生じたといえます。
この場合は、相続人は遺言執行者に損害賠償請求ができるでしょう。
弁護士を遺言執行者に指定して親族に伝えておく
遺言執行者から相続人に対して通知が行われないリスクを避けるためには、公正証書遺言を行う際に、弁護士を遺言執行者に指定するのがおすすめです。
その上で、相続人となる家族に対して、遺言執行者の弁護士がいること、及び自分が死亡したらその弁護士に知らせるように伝えておきましょう。
まとめ
公正証書遺言は、紛失・改ざんや無効になるリスクがなく、確実に遺言を遺せる方法として広く利用されています。
一方、公証役場は公正証書遺言の作成・保管義務を負いますが、遺言の作成時や、遺言者が死亡したタイミングで相続人に対して通知する義務は負っていません。
公正証書遺言の内容を通知する義務を負うのは、遺言執行者が選任された場合の遺言執行者です。
遺言執行者の任務は専門性が高く、法律的な判断が必要になります。
可能な限り、被相続人の生存中に、遺産相続を専門とする弁護士を遺言執行者に指定しておかれることをおすすめします。