この記事でわかること
- 遺言信託とは
- 遺言信託のメリットとデメリット
- 遺言信託の手続き料金や注意点について
「遺言を残しておいた方がいいと聞くものの、どう準備すればいいかわからない」
このような相続に関する悩みを抱えている人は少なくないでしょう。
遺言の準備の一つに、遺言信託という方法があります。
銀行や信託会社などの専門機関が、遺言の作成から保管、そして死後の遺言執行まで一括でサポートするしくみです。
今回は、遺言信託の基本からメリットやデメリット、手続き料金などを詳しく解説します。
目次
遺言信託とは
遺言信託は年々利用者が増えており、2023年の遺言の保管・執行件数は年間20万件を超えています。
ここでは、遺言信託の概要と、家族信託との違いなどについて解説します。
遺言信託の概要
遺言信託とは、死後に財産をどのように分けるかを記した遺言を公正証書で作成し、信託銀行などの専門機関にあらかじめ託しておく制度です。
遺言の作成から保管、そして実際に相続が発生したときの遺言執行までを、ワンストップでサポートしてもらえる点が特徴です。
自分で遺言を書いた場合、内容に不備があり無効になるケースや、誰にも見つけてもらえず活用されないリスクがあります。
しかし遺言信託を利用すれば、遺言のプロが関わることで形式面・法律面の不備を防ぎ、死後もスムーズに遺産を分けることができます。
また、遺言執行は家族を亡くして間もなく行わなくてはならず、家族にとって大きな負担です。
その点、信託銀行が間に入って手続きをしてくれるため、残された家族の負担を減らすことができます。
法律用語の遺言信託との違い
遺言信託には、2つの意味があります。
1つは、信託銀行などが提供している遺言信託サービスという意味です。
遺言の作成から執行までを行う、いわば金融商品としての遺言信託です。
一方で、もう1つの意味として、法律用語の遺言信託があります。
信託法に基づいて、遺言によって財産を信託するしくみのことをいいます。
遺言の中で特定の人(受託者)に財産を移転することで、受託者が財産を管理・運用を行い、受益者がその利益を受けるというものです。
銀行の行うサービスとはまったく異なるものであることに注意しましょう。
家族信託との違い
家族信託とは、被相続人が生前の元気なうちに、信頼できる家族と信託契約を結び、財産の管理や運用を託すしくみです。
たとえば将来、認知症になったときに備え、あらかじめ子どもに不動産や預金の管理を任せておくという使い方ができます。
一方で遺言信託は、死後に効力を持つという点が大きく異なります。
また、家族信託は契約相手が家族であるのに対し、遺言信託は信託銀行などのプロと契約することになります。
そのため、家族信託は自由度が高く、融通が利きますが、専門的な知識が必要で、トラブルが起こった場合も自分たちで対応しなければなりません。
一方、遺言信託はサポートが充実しているため費用はかかりますが、安心してすべて任せられることが魅力です。
それぞれのしくみを理解した上で、自分や家族の状況に合った方法を選ぶことが大切です。
遺言信託のメリット
遺言信託には、一般的な遺言や他の相続対策にはないメリットがあります。
ここでは、特に代表的な4つのメリットについて解説します。
遺言作成から執行まで一貫して任せられる
遺言信託の最大の特徴は、作成から執行までを一括でプロに任せられることです。
自筆証書遺言は法律に則った形式になっていない場合が多く、トラブルの元になる可能性があります。
公正証書遺言であっても、最終的な執行は相続人が行う必要があります。
しかし遺言信託を利用すれば、遺言の作成や内容の確認など、専門家の支援を受けられます。
また、遺言の保管から死後の遺言執行まで、信託銀行が責任を持って対応してくれるため安心です。
特に遺言執行は、煩雑で法的知識も必要な作業が多いため、プロの手に任せることで家族の負担が減るでしょう。
遺言の保管サービスを受けられる
自分で書いた遺言を自宅で保管する場合、様々なリスクが考えられます。
- 誰にも見つけてもらえない
- 紛失した
- 勝手に内容を書き換えられていた
しかし遺言信託を利用すれば、信託銀行で厳重に保管してもらえます。
耐火設備やセキュリティも万全で、万が一の災害や盗難から守られるため安心です。
資産運用のアドバイスがもらえる
遺言信託では、遺言を預かるだけでなく、資産運用や相続税対策についてもアドバイスを受けられます。
たとえば相続税が高くなりそうな場合は、生前贈与について提案を受けられるケースもあります。
銀行などの金融機関は、家族構成や資産内容に応じた提案ができる専門知識を持っているため、「資産をどう守り、どう残すか」という視点でのサポートを受けたい場合は大きなメリットとなります。
安心感がある
自分が亡くなった後、しっかりと希望どおりに財産を渡すことができる、という安心感もメリットです。
専門家が間に入り手続きを行うため、相続人同士でトラブルになるリスクが低くなります。
信託銀行が遺言の内容に沿って淡々と執行することで、感情的な衝突を防ぐことにもつながります。
相続手続きは専門的で難しく、相続人にとって負担が大きいため、専門家のサポートを得られることが大きな安心感につながるでしょう。
遺言信託のデメリット
遺言信託には多くのメリットがありますが、当然ながら万能ではありません。
サービス内容や費用など、思っていたのと違うと感じるケースもあるため、デメリットも正しく理解しておくことが大切です。
ここでは、注意しておかなければならない5つのデメリットを解説します。
費用が高額になりやすい
遺言信託の高額な費用は、大きなデメリットと言えます。
遺言作成支援や信託契約料、保管料に加え、遺言執行時の手数料など、合計で100万円以上かかることもあります。
特に遺言執行の手数料は、財産の総額に比例するため、資産が多い人ほど高額になるのが特徴です。
また、執行手数料は被相続人が亡くなった後、相続人が支払うことになります。
そのため、相続人が遺言信託のしくみについて理解できていない場合、高額な費用がトラブルの原因になることも少なくありません。
自由に遺言内容を設定できない
信託銀行のサービスは、相続トラブルのリスクがある場合は受け付けてもらえません。
そのため、遺言の内容によっては断られる可能性もあります。
たとえば生前お世話になった特定の相続人に多めに財産を渡したい、といった偏った相続内容の場合が該当します。
こういった場合は遺留分などの問題があるため、トラブルの元になりかねません。
信託銀行のサービスは、明確で執行しやすい内容が前提であるため、認められない可能性があります。
細かい希望がある場合は、弁護士と相談しながら公正証書遺言を作成する方が向いていると言えるでしょう。
財産に関することしか実行できない
信託銀行が対応できるのは、財産の分配や管理など財産に関する部分のみです。
たとえば相続人の廃除や子どもの認知など、身分に関わる内容は執行できません。
身分に関することは法律上、家庭裁判所や本人の意思確認が必要になるため、信託銀行には権限がないためです。
「どんなことでも遺言に書いていればすべてやってもらえる」と思い込んでいると、希望が実現できない可能性があるため注意が必要です。
遺言と異なる遺産分割ができない
通常の遺言では、相続人全員が同意すれば、遺産分割協議によって遺言と異なる財産の分け方をすることも可能です。
しかし、遺言信託ではそれができません。
信託銀行は遺言どおりに財産を分ける契約になっているため、相続人が別の分け方を希望しても、内容の変更ができません。
相続発生後の状況変化に対応できない場合や、介護などの貢献を反映できないという不都合が生じる可能性があります。
相続税の申告などはできない
信託銀行は税理士業務や司法書士業務ができないため、相続税の申告や納付、不動産の名義変更などは対応してもらえません。
「遺言執行に関するすべてを任せられると思っていたのに違った」ということになりかねません。
信託銀行によっては税理士や司法書士と連携しており、紹介や間接的なサポートをしてくれる場合もあります。
しかし税務申告や登記が必要な場合は別途、専門家に相談が必要であり、さらに費用もかかることは理解しておきましょう。
遺言信託が必要な人・いらない人
遺言信託は、すべての人に必要な制度というわけではありません。
ここでは、遺言信託が必要な人と、不要な人について解説します。
必要な人
遺言信託が必要な人とは、以下のような場合です。
- 潤沢な資産がある
- 遺言作成から執行までワンストップで任せたい
- 相続トラブルの可能性が低い
遺言信託は数十万円ほどの費用がかかるため、ある程度の資産がないと費用対効果が見込めません。
資産が多い人にとっては、プロに任せることで確実な執行と安全性が得られるため、大きなメリットとなります。
「どこに相談すればいいかわからない」「家族に負担をかけたくない」という場合も、信託銀行のフルサポート体制は非常に心強い存在と言えます。
また、相続人の関係が良好で争いの可能性が低い場合も、遺言信託を利用するといいでしょう。
必要ない人
次のような場合は、遺言信託は必要ない、または向いていない可能性があります。
- 相続財産、相続人が少ない
- 相続トラブルの可能性が高い
- 柔軟な遺言内容にしたい
相続財産や相続人が少ない場合は、高額な信託報酬を支払ってまで利用するメリットは少ないでしょう。
また、遺産の分配に不満が出そうな場合や、兄弟間の対立がある場合は、信託銀行では対応できません。
このようなケースでは、法律の専門家である弁護士に遺言作成から相談する方が現実的です。
偏った内容や、身分に関する内容を盛り込みたい場合、信託銀行では対応できません。
自筆証書や公正証書で遺言を遺す方がいいでしょう。
遺言信託を設定する料金
遺言信託の利用を検討する上で、利用料金はしっかり把握しておきましょう。
大きく分けて契約時、保管中、執行時に費用が発生します。
ここでは、それぞれの料金の目安と費用が高くなるポイントを、わかりやすく解説します。
初期費用
最初に発生するのが、遺言書の作成料と信託契約料です。
具体的には、次のような費用が発生します。
- 遺言書作成サポート:5万円程度
- 信託契約手数料:10万円程度
公正証書遺言の作成には別途、公証人の手数料(約3~5万円)が必要になります。
初期費用は合計で15万円〜20万円前後になることが一般的です。
年間の保管料
作成した遺言は、信託銀行によって厳重に保管されるため、年間の保管料がかかります。
保管料の相場は年間1万円前後です。
たとえば10年間預けた場合は、10万円程度が必要になります。
遺言執行時の手数料
最も費用がかかるのが、本人が亡くなった後の遺言執行手数料です。
多くの場合、相続財産の1~2%で設定されています。
たとえば相続財産が3000万円なら約30万~60万円です。
もし相続財産が1億円なら100万円以上になることもあります。
遺言信託の総額では、30万~150万円以上かかる可能性があることを理解しておきましょう。
銀行によって料金体系が異なるため、必ず事前に契約内容を確認することが重要です。
遺言信託に関するトラブル

信託銀行で特に多いトラブルが、費用に関することや途中解約についてです。
ここでは、よくあるトラブルをわかりやすく解説します。
遺言執行費用でもめる
遺言執行時の費用は、相続人が支払うことになります。
執行費用は何%かかるか、なぜその金額になるかなど説明が不十分だった場合、相続人の間で不満や誤解が生まれ、揉める原因になることが少なくありません。
- こんなに高いとは聞いていなかった
- 全員の同意なく勝手に支払われた全員の同意なく勝手に支払われた
- 誰が負担するのか決まっていない
特に高額な資産がある場合、執行手数料が100万円以上になることもあります。
トラブルの予防には、契約時に執行手数料について他の相続人にも共有しておくことが大切です。
途中解約にも費用がかかる
遺言信託は、契約から実際に執行されるまで、数十年かかる場合もあります。
その間に状況が変化し、途中で解約したいと思うこともあるでしょう。
しかし途中解約はほとんどの場合、全額返金されることはありません。
すでに遺言の作成や保管を行っている場合、一定の手数料を差し引かれるのが通常です。
また、そもそも途中解約ができないこともあります。
必ず契約時に解約が可能か、途中解約の場合の返金の規定などを確認しておきましょう。
まとめ
遺言信託は、家族の負担を減らし、スムーズに相続できるようにしたいと考える人にとって、非常に心強いサービスです。
しかし、メリットとデメリットをよく理解し、サービスのしくみを相続人と共有しておく必要があります。
サービスを検討する場合は、信託銀行の説明をしっかり聞き、疑問点は事前にクリアにしておくことが何より重要です。
相続対策に困ったときは、弁護士など専門家に相談しましょう。















