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最終更新日:2024/8/21

公正証書遺言でもめるケース8つ!トラブル時の対策と回避策も解説

弁護士 山谷千洋

この記事の執筆者 弁護士 山谷千洋

東京弁護士会所属。
「専門性を持って社会で活躍したい」という学生時代の素朴な思いから弁護士を志望し、現在に至ります。
初心を忘れず、研鑽を積みながら、クライアントの皆様の問題に真摯に取り組む所存です。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/yamatani/

この記事でわかること

  • 公正証書遺言でもめるケース
  • 公正証書遺言でもめた時の対応
  • 公正証書遺言でもめない方法

公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与して作成されるため、その有効性が確保されやすく、また作成した遺言書の原本が公証役場で厳重に保管されるため、紛失や隠蔽の心配がない遺言の方式です。
自筆証書遺言などの他の遺言の方式と比較しても、公正証書遺言は確実で無効になりにくい遺言の方式といえます。

それにもかかわらず、公正証書遺言を作成することで、実際に相続が発生した際に関係者がもめるリスクを完全に排除することはできません

本記事では、公正証書遺言を作成してもめてしまうケースの紹介や、もめごとを避けるための方法やその解決策について詳しく解説します。
公正証書遺言の作成を検討される方や、公正証書遺言書を作成された方の相続が発生している場合などは特にご確認ください。

公正証書遺言でもめるケース8つ

前述のとおり、公正証書遺言は自筆証書遺言などの他の遺言の方式と比較しても、確実で無効になりにくい遺言の方式といわれています。

しかし、公正証書遺言を作成したとしても、もめるリスクを完全に排除することはできません。
その理由としては、以下の2点が挙げられます。

1つ目の理由は、公正証書遺言を作成しても、遺言書が無効になる可能性が完全にゼロになるわけではない、という点です。
2つ目の理由は、公正証書遺言は遺言書の内容そのものについての保証を行うものではない、という点です。

このように、公正証書遺言を作成することで、もめるリスクを大幅に軽減することは可能ですが、完全にリスクを排除することは現実的には難しいといえます。

では、実際にどのようなケースでもめごとになるのかについて、見ていきましょう。

認知症などで十分な能力がない時に作成していたケース

民法963条には「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定められています。
ここでいう能力とは、自分が作成する遺言の内容や効果について正しく理解できる能力を指します。
つまり、十分な能力がない状態で作成された遺言は無効となります。

遺言書を作成した際にすでに認知症の診断を受けていた、もしくは認知症の発症が始まっていたと疑われる場合には、相続人や他の関係者から公正証書遺言の無効を主張され、もめごととなる可能性があります。

特定の相続人の遺留分を侵害していたケース

「遺留分」とは、法定相続人が持つ、最低限の遺産の取り分を保証される権利です。
遺言書を作成すると、ある程度自由に財産の分け方を決めることができますが、その場合であっても遺留分を侵害すると、もめごとの原因となり得ます

法律によって保証されている遺留分を侵害された法定相続人は、他の相続人に対して「遺留分侵害額請求」を行い、侵害されている遺留分に相当する額の金銭の支払いを求めることができます。
また、遺留分侵害額請求に他の相続人が応じない場合には、家庭裁判所における調停や訴訟に進む可能性もあります。

遺言書の作成時に立ち会った証人が欠格事由に該当していたケース

公正証書遺言を作成する際には、2名以上の証人が立ち会うことが必要とされています。
この証人は誰でもなれるわけではなく、民法974条に欠格事由が定められていて、以下の方は証人になることができません。

(1)未成年者
(2)推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
(3)公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

上記に該当する方が証人となり作成した公正証書遺言は、無効となります。
遺言書が無効になった場合には、遺言書を作成していない場合と同様に、改めて相続人全員で遺産分割協議を行う必要があり、協議の中でもめごとが発生する可能性があります。

勘違いや誤解がある状態で公正証書遺言が作成されたケース

遺言書の作成者が錯誤(勘違いや誤解をしている状態)によって作成した遺言書は無効になる可能性や、取り消される可能性があります

錯誤には、公証人による書き間違いや言い間違い、勘違いなどが含まれます。
公正証書は被相続人の口述による希望を公証人が書類とするため、こうした錯誤は起こり得ます。

公正証書遺言が錯誤によって作成されたのか、または錯誤なく作成されたのかの判断は難易度が高く、裁判などで争われることも少なくありません。

内容が公序良俗に反するケース

民法90条には「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」と定められています。

公序良俗という言葉が耳慣れない方も多いでしょう。
公の秩序または善良の風俗に反する行為は、社会的に考えて妥当ではない行為を指します。

遺言書の作成は、「法律行為」という当事者の意思表示に基づいて法律効果を発生させる行為に該当しますので、公序良俗に反する内容の遺言書は、公正証書遺言であったとしても無効となります。

公序良俗違反として無効になる遺言書の例としては、以下のような条件が重なっているものが考えられます。

  • 配偶者や子どもなどの法定相続人がいる
  • 法定相続人の生活が脅かされる可能性が高いにもかかわらず、愛人に全財産を相続させる旨が記載されている

遺言書に記載されていない遺産があったケース

作成された公正証書遺言に持っている資産をすべて漏れなく記載できていない場合、記載されていない資産に関しての相続トラブルが発生する可能性があります。
遺言書で分け方が指定されていない資産に関しては、相続人全員で改めて遺産分割協議を行う必要があり、その協議の中でもめごとに発展することもあるかもしれません。

特に、遺言書に記載されていない資産が高額の場合にはもめごととなる可能性が高まるため、注意が必要です。

使い道がわからない出費があるケース

相続が発生してから改めて資産を確認したところ、使途不明金があり、トラブルが発生することは少なくありません。

亡くなった方の預金口座の入出金を確認したところ生活費を上回る多額の引き出しがされていた、相続発生後にキャッシュカードを使って他の相続人が預金を引き出していた、などの場合にはトラブルに発展することは容易に想像がつきます。

公正証書遺言を作成したとしても、その後の預金の引き出しなどが現実的に制限されるわけでないため、このようなトラブルを防ぐことは非常に難しいといえるでしょう。

遺言書が相続人の想像と異なるものだったケース

公正証書遺言に書かれている内容が、相続人がまったく想像もしていなかったものであった場合には、相続人から納得できない旨の主張がされて、トラブルになる可能性があります。

たとえば、婚外子の認知について考えてみましょう。
遺言書で婚外子の認知を行うこともできますが、配偶者や婚内子がそもそも婚外子の存在を知らなかった場合はもちろん、知っていた場合でも遺言書によって婚外子が認知されて法定相続人になることを受け入れることは、感情的に難しいことが想定できます。
認知された婚外子に、他の相続人の遺留分を侵害する程度の遺産が指定されていた場合は、さらにトラブルに発展する可能性が高まるでしょう。

公正証書遺言でもめたときの対処法

公正証書遺言が作成されていたもののトラブルが発生してしまった場合や、トラブルが発生しそうな場合には、次の方法をお試しください。

相続人同士で話し合う

作成されている公正証書遺言の内容や、効力についてもめている場合には、まずは相続人同士で話し合うという方法が一番の解決策になります。

相続人同士で話し合い、すべての相続人がひとつの結論を出すことができる場合には、遺産分割調停や審判などの裁判上の手続きを行う必要もなくなります。
相続人全員が合意できれば、公正証書遺言に記載されている内容に縛られず、資産を自由に分けることが可能になります。

遺留分侵害額請求権を行使する

作成された公正証書遺言に従うとご自身の遺留分を侵害される場合には、遺留分侵害額請求を行使することができます。

遺留分侵害額請求は、特段の理由がなければ認められる場合が多いです。
請求が認められると、遺産を多く受け取っている他の相続人から、遺留分が侵害されている金額相当の金銭を受け取れます。

なお、遺留分侵害額請求が認められる場合でも、受け取れるのはあくまで金銭であり、たとえば不動産の所有権などの権利を主張することはできない点には注意が必要です。

遺産分割調停を行う

作成された公正証書遺言が無効と判断されてしまった場合は、相続人全員で改めて遺産分割協議を行い、合意を得る必要があります。
遺産分割協議の結果、相続人全員の意見が一致しない場合には、遺産分割調停の申立てをすることとなるでしょう。

遺産分割調停とは、家庭裁判所で遺産分割の方法を話し合う手続きです。
相続人全員が参加する手続きで、誰かの意見がすべて通るというものではなく、相続人全員が合意できる分割方法を探っていくことになります。

遺言無効確認訴訟を行う

作成された公正証書遺言が無効であると主張したい場合には、遺言無効確認訴訟を提起することができます。
この訴訟は、裁判官に遺言書の有効性を判断してもらう手続きです。

訴訟の結果、遺言書が無効であると判断された場合には、相続人全員で改めて遺産分割協議や、遺産分割調停を行う必要があります。

なお、この遺言無効確認訴訟は、遺留分侵害額請求とあわせて行うことができます。
遺言無効確認訴訟と遺留分侵害額請求をあわせて行うと、遺言書が有効とされたとしても、遺留分が侵害されている金額相当の金銭を受け取ることが可能となります。

公正証書遺言でもめないようにする方法

前述のとおり、公正証書遺言が作成された時の状況や遺言の内容によっては、相続が発生した後に遺族がもめてしまう可能性があります。
せっかく作成した公正証書遺言がもめごとの原因とならないようにするために、どのような対策をしておけるのでしょうか。

主な対策は、以下のようなものが挙げられます。

弁護士などの専門家に作成サポートを依頼する

公正証書遺言は、自分で作成することも可能ですが、専門家である司法書士や弁護士に依頼することもできます。

なお、公正証書遺言は公証役場で公証人が作成してくれるため「遺言内容についてもアドバイスをもらえるのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし実際には、公証人は遺言書の形式的な確認を行うに留まる場合が多く、遺言の内容に関する具体的なアドバイスを提供することは基本的にはありません

公証人の役割は遺言書が法律に則って正しく作成されるように確認することであり、遺言の内容自体については関与しないためです。

このため、相続トラブルを未然に防ぎたい場合は、専門家に遺言に記載する内容についてのアドバイスを受け、遺留分などを考慮した遺言書を作成することが重要です。
専門家のアドバイスを受けることで、法的な問題や相続人間の紛争を避けることができ、より円満な相続手続きが実現するでしょう。

遺言能力があるうちに早めに遺言を作成する

前述の通り、認知症が発症しているなど遺言を作成する能力に欠けている場合には、作成した公正証書遺言が無効となる可能性があります。

認知症の発症を含め意思能力の低下は、多くの場合で年齢と共に進むことになります。
そのため、元気なうちに、少しでも早い段階で遺言書を作成することがトラブル防止につながります

また、認知症の疑いがある場合や、作成時にすでに認知症が発症している場合などには、遺言書を作成する際に医師に診断書を書いてもらうことも遺言書の効力を証明する上で非常に有益です。
診断書によって、遺言書作成時の遺言者の判断能力を客観的に証明することができるため、遺言書の有効性を争われるリスクが大幅に減少します。

遺留分に配慮した内容にする

遺言書の内容が遺留分を侵害している場合、遺言者の配偶者や子どもなどの法定相続人は、遺産を多く受け取った人物に対して、遺留分侵害額請求を行う権利を持つこととなります。
そのため、相続人同士のトラブルを避け、遺言者の希望する遺産分割を確実に実行するためには、遺留分を侵害しないように遺言書を作成することが望ましいといえます。

遺留分の割合は法定相続人の関係によって異なるため、正確に計算しなくてはなりません。
遺留分の計算は複雑になることもあるため、自分で正確に遺留分を算出するのが難しいと感じる場合は、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。

証人の欠格事由を確認する

公正証書遺言を作成する際には、作成時に立ち会う証人が欠格事由に該当しないことを十分に確認しておくことが重要です。
欠格事由に該当する人物が証人となると、その公正証書遺言は無効となる可能性があるため、慎重に確認しなくてはなりません。

公正証書遺言における証人の欠格事由は、以下の通りです。

(1)未成年者
(2)推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
(3)公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

これらの条件に該当する人が証人となることはできないため、遺言書作成時に証人を選ぶ際には注意が必要です。
また、公正証書遺言の作成を司法書士や弁護士に依頼した場合には、その専門家にそのまま証人になってもらうことが可能です。

遺言書を作成する前に、家族に自分の意思を伝えておく

遺言書を作成する際には、相続人にその内容を事前に説明し、理解を得ておくことが、相続発生後のトラブルを防ぐために有効な場合もあります。

法律上、遺言書を作成する際に相続人の許可を得る必要はありませんし、遺言書の内容について事前に知らせる義務もありません。

しかし、相続人同士の関係が悪い場合や、特定の人物に多くの財産を遺そうと考えている場合には、事前に相続人に説明しておくことが望ましいこともあります。
事前に説明することで、相続人が遺言内容を理解し、納得を得ることができれば、遺言執行後の争いや不満を減らすことができます。

付言事項をうまく活用する

公正証書遺言には、本文の他に「付言事項」を記載することができます。

付言事項とは、遺言に付け加える自由な言葉で、補足のようなものです。
たとえば「これからも家族皆で仲良く暮らしてください」や「これまでありがとう」といった、遺言者の思いや感謝の気持ちを自由に書き添えることができます。

付言事項には、法的な拘束力はありません。
しかし遺言を作成した理由や家族への想いを付言事項として記すことで、相続人が遺言者の意図をより深く理解し、感情的な対立を避ける助けとなる可能性があります。

事情が変わった場合は遺言書の修正を検討する

遺言書を作成した後に生活環境や資産状況の変化があった場合には、遺言書を修正・書き直しをする方がよいケースもあります。

遺言書は何度も作り直すことができます
新たな状況に応じて、遺言書の内容を更新することは、遺産分割を適切に行うために重要です。

まとめ

確実で有効性が高い形式である公正証書遺言を作成した場合でも、前述の通りもめごとが起きてしまうケースがあります。
遺言書の内容や、作成時の状況に注意することで、もめごとが起きづらい公正証書遺言を作成することができます。

また、行政書士や弁護士などの専門家からの助言やサポートを受けることももめごとを避ける近道ですので、ぜひ前向きにご検討ください。

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