この記事でわかること
- 遺言検索システムを利用するメリットとデメリット
- 遺言検索システムの利用方法や必要書類
- 遺言の内容を確認する方法
相続が発生した時、相続人は被相続人が作成した遺言書を見つけなければなりません。
生前に遺言書の保管場所を聞いていなかった場合、どのように探し出せばよいでしょうか。
遺言書の探し方は、自筆証書遺言と公正証書遺言で異なります。
遺言書が公正証書遺言であるとわかっている場合や、その可能性がある場合は、遺言検索システムを利用して見つけることができます。
今回は、遺言検索システムについて、利用するメリット・デメリットや利用方法・必要書類、内容を確認する方法などを解説します。
遺言検索システムとは
遺言検索システム(遺言登録・検索システム)とは、日本公証人連合会が1989年から運用している、公正証書遺言のデータを管理するしくみです。
データベース化により公正証書遺言の問題を解決
公正証書遺言は、作成後に必ず原本が公証役場に保管されます。
これにより、従来から「隠匿や偽造・改ざんを防げる」「(自筆証書遺言のような)検認手続きがいらない」などのメリットがありました。
しかし、一方で公正証書遺言を作成したことを知る相続人がいなかった場合、公正証書遺言の存否や保管されている公証役場がわからないという問題もありました。
公正証書遺言の存否や所在がわからなければ、相続時に遺言書を探し出せなくなる恐れがあり、遺言書が見つからないと、結局公正証書遺言を作成した意味がなくなってしまいます。
この問題を解決するため、公証役場が公正証書遺言の情報をデータベース化したのが遺言検索システムです。
遺言検索システムが管理する情報
遺言検索システムでは、1989年以降に全国の公証役場で作成された公正証書遺言に関する以下の情報が、一元的に管理されています。
- 作成した公証役場名
- 公証人氏名
- 遺言者氏名
- 作成年月日
相続人が、被相続人の遺した公正証書遺言の謄本を取得したい場合は、以下の流れで手続きを行います。
- 最寄りの公証役場で情報を検索して、当該公正証書遺言を保管する公証役場を探し出す
- その公証役場に必要書類を持参するか、あるいは郵送によって公正証書遺言の謄本を請求する
自筆証書遺言は法務局で検索・交付請求できる
一般的に行われることの多い遺言は自筆証書遺言と公正証書遺言ですが、遺言検索システムで管理しているのは、公正証書遺言に限られます。
自筆証書遺言については、遺言者本人が保管しなければならないため、紛失や改ざん・隠匿などのリスクがあります。
また、本人の死後、家裁による検認手続きを経なければ有効な遺言とならないため、遺言執行までに時間がかかるという問題もあります。
自筆証書遺言の持つこれらのデメリットを補うため、2020年7月10日から、全国の法務局で「自筆証書遺言保管制度」の運用が始まりました。
この制度によって、遺言者本人が存命中に法務局に遺言書の保管を申請できるようになりました。
保管の申請先は遺言者の住所地、本籍地または所有する不動産の所在地を管轄する法務局に限られます。
一方、遺言書保管事実証明書の交付請求は、全国の法務局でできます。
遺言検索システムを利用するメリット・デメリット
公正証書遺言を探し出すのに遺言検索システムを利用する場合のメリット・デメリットとして、それぞれ以下のようなものが挙げられます。
遺言検索システムのメリット
遺言検索システムには、以下のようなメリットがあります。
相続人が公正証書遺言の存在を迅速に確認できる
遺言検索システムの利用が認められるのは、遺言者の生存中は本人及びその代理人に限られます。
一方、遺言者の死亡後は、相続人・受遺者などの利害関係人やその代理人が利用できます。
このうち、相続人は必要書類である遺言者及び自身の戸籍謄本の取得が容易にできるため、公正証書遺言の有無や内容を迅速に確認できるでしょう。
原本がデジタルデータ化されている
遺言検索システムでは、遺言書の内容については検索できないため、謄本請求する必要があります。
以前は、遺言書の原本は特定の公証役場のみで保管されていたため、公証役場が火災や災害に遭って原本が紛失・毀損した場合には謄本請求ができなくなるという問題がありました。
しかし、東日本大震災を経て原本のデジタルデータ化が進められ、現在ではこの問題が解決しています。
遺言検索システムのデメリット
一方、以下の点は、遺言検索システムのデメリットであると考えられます。
公証役場に赴いて公証人に照会を依頼する必要がある
遺言検索システムは、全国の公証役場のみで利用できます。
また、遺言の照会ができるのは「公証人」に限られます。
このため、相続人などの利害関係人がオンラインでアクセスすることや、公証役場で自ら検索することはできません。
遺言者の生存中は本人と代理人以外利用できない
遺言者の生存中は、遺言検索システムを利用できるのが本人と本人の代理人に限られます。
それ以外の人が遺言書を検索、照会することは、どのような事情があってもできません。
これは、遺言書の秘匿性の高さに照らして、やむをえない制限であるといえます。
一方、遺言には「葬儀の方法」など、できるだけ早く確認しなければ実現できないものが含まれているかもしれません。
公正証書遺言は、原本が公証役場に保管されていますが、正本・謄本は遺言者に交付されています。
正本・謄本を開封しても、改ざんの恐れや、破棄・隠匿により発見不能となる恐れがないため、開封することは違法ではありません。
そこで、生前に遺言者本人以外の人が内容を確認したい場合は、正本・謄本の保管場所を探しましょう。
なお、自筆証書遺言の場合、保管制度を利用せずに自宅に保管していたものについては、検認を受けなければ開封できません。
遺言検索システムを利用する方法・必要書類
遺言検索システムで公正証書遺言の有無と保管場所を検索する場合、最寄りの公証役場で必要書類を提出して照会を依頼します。
相続人が必要書類を提出して検索する
相続開始後は、「利害関係人またはその代理人」が検索を請求できます。
提出が必要な書類は、以下の通りです。
書類 | 目的 |
---|---|
遺言者本人の戸籍謄本または死亡診断書 | 遺言者が死亡した事実を確認する |
請求者の戸籍謄本 | 遺言者との利害関係の存在を確認する |
下記A・Bのいずれか A.請求者の顔写真入りの身分証明書(運転免許証など)及び認印 B.請求者の印鑑証明書(3カ月以内に発行)及び実印 |
請求者(利害関係人)の本人確認 |
委任状(申請者が代理人の場合)及び本人の印鑑証明書 | 代理権の確認 |
代理人の身分証明書と認印(同上) | 代理人の本人確認 |
公証人は必要書類を確認した後、日本公証人連合会事務局に、公正証書遺言の有無や保管場所を照会します。
検索にかかる時間は、必要書類の確認や照会手続きなどを含めて20分~30分ほどです。
公正証書遺言の存在が確認された場合
公証人による照会の結果、公正証書遺言の有無と保管場所が確認されると、以下の事項を記載した照会結果通知書が発行されます。
- 当該遺言書の作成年月日
- 証書番号
- 作成した公証役場の所在地、連絡先
- 作成した公証人の氏名
公正証書遺言が見つからなかった場合
公証役場で遺言検索システムを利用して調査を行ったが、本人の公正証書遺言が存在しない場合には「該当なし」という結果が出ます。
この場合は、公証役場から「該当する公正証書が存在しなかった」旨が記載された書面の発行を受けます。
公正証書遺言の有無をめぐって相続人間でトラブルが起こることを防ぐため、この書面を保管しておきましょう。
公正証書遺言の内容を確認する方法
遺言検索システムを利用して遺言を検索した結果、公正証書遺言があるとわかったときは、遺言の内容を確認しましょう。
公正証書遺言の内容を確認する方法には、原本が保管されている公証役場で謄本交付請求する方法と、郵送で謄本交付請求する方法があります。
以下、順にご説明します。
公証役場で謄本交付請求する
公正証書遺言の原本が保管されている公証役場への訪問が可能であれば、直接行って請求しましょう。
謄本の交付手数料は、1通につき【遺言書のページ数×250円】です。
相続手続きでは複数必要になる可能性もあるので、3,4通まとめて請求することをおすすめします。
謄本交付請求の際には、検索請求のときと同様、除籍謄本・戸籍謄本及び本人確認書類をご用意ください。
郵送で謄本交付請求する
公正証書遺言の原本が保管されている公証役場が遠方にある場合は、郵送で謄本の交付を請求できます。
郵送での請求は、以下の手順で行ってください。
- 1.最寄りの公証役場で「公正証書謄本交付申請書」の署名認証を受ける
認証手数料として2,500円かかります。
- 2.原本が保管されている公証役場宛てに必要書類を郵送する
下記をレターパックプラスまたはレターパックライトに入れて送ります。
- 署名認証を受けた公正証書謄本交付申請書
- 除籍謄本・戸籍謄本・身分証明書
- 返送用レターパック
- 委任状及び代理人の本人確認書類(代理人が申請する場合)
請求先の公証役場に到着すると、謄本交付手数料の支払い方法について申請者に連絡が来ます。
当該公証役場の指示に従って手数料を支払うと、謄本と領収書が郵送されてきます。
まとめ
遺言検索システムは、全国の公証役場から公正証書遺言の存否と保管場所(公証役場)を検索できる便利なシステムです。
検索情報だけでなく、原本もデジタルデータで保存されています。
これにより、正本・謄本を紛失してしまった場合や、公証役場が火災や自然災害に遭って原本が失われた場合でも、謄本の発行が可能です。
公正証書遺言は作成に手間と費用がかかりますが、利害関係者が確実に内容を確認できるため、遺言書の発見不能によるトラブルを回避できます。
また、公正証書遺言の作成段階で弁護士のサポートを受けることにより、遺言書の文言の曖昧さや内容の偏りなどにより起こりうるトラブルを予防できます。
遺言書の作成にあたっては、相続問題を専門とする弁護士に相談されることをおすすめします。