この記事でわかること
- 公正証書遺言を残した親が死亡した場合の手続き
- 公正証書遺言の作成者の死亡連絡はくるのか
親が生前に遺言書を作成していた場合、相続手続きは遺言書の指定通りに行われます。
遺言書は、遺言者の自筆で作成するほか、公証役場で作成する公正証書遺言があります。
公正証書遺言の場合、裁判所の検認が不要であり、公証役場に保管されるため紛失や改ざんなどのリスクもありません。
ただし、遺言者が死亡しても相続人へ連絡はされないため、相続人が遺言者の存在を把握する必要があります。
以下では、公正証書遺言の有無を確認する方法や、公正証書遺言がある場合の相続手続きなどをご紹介します。
目次
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証役場で作成される遺言書です。
遺言者が2人以上の証人の立ち会いのもとで公証人に依頼し、公証人がパソコンを使用して遺言書を作成します。
その後、遺言者が内容に誤りがないか確認し、最終的に署名と押印をすると完成します。
公正証書遺言のメリットは、以下の通りです。
- 公証人が作成するため、無効になるリスクが少ない
- 遺言書の原本が公証役場に保管され、相続人による隠匿や破棄のリスクを回避できる
- 家庭裁判所の検認手続きが不要で、スムーズに相続手続きを進められる
上記の理由から公正証書遺言は信頼性と安全性が高く、そのため多くの人に利用されています。
公正証書遺言の作成者が死亡したら連絡はくる?
公正証書遺言の作成者が死亡した場合、公証役場やその他の機関から遺族に対し、遺言書を預かっている旨の通知・連絡はありません。
公正証書遺言があるかどうか、遺族自身が調査をする必要があります。
公正証書遺言を探す4つの方法
公証役場で公正証書遺言を作成すると、正本と謄本は遺言者に交付され、原本は公証役場で保管されます。
そのため、以下の方法で公正証書遺言が見つかりやすいでしょう。
- 故人の身の回りから遺言書を探す
- 身近な人に聞く
- 取引のある信託銀行・弁護士事務所に問い合わせる
- 公証役場で遺言検索システムを利用する
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
故人の身の回りから遺言書を探す
亡くなった方が公正証書遺言を残していた可能性がある場合、まずは故人の遺品の中や自宅から遺言書を探しましょう。
よくあるのは、自宅の金庫や、銀行の通帳や印鑑などが収納されている場所に保管されているパターンです。
仏壇の引き出しやタンスの中など、簡単には見つからない場所に保管されている方もいるため、可能性がある箇所はすべて確認しましょう。
遺言者自身が契約をしている貸金庫で遺言書が保管されている場合、遺言者の死亡後にその貸金庫の開扉はできません。
相続手続きを完了させると、貸金庫の解約に伴う開閉ができ、遺言書を取り出せるようになります。
身近な人に聞く
亡くなった方の配偶者や兄弟など、親しい方に遺言書の保管場所を聞いてみるのも有効な方法です。
遺言書の存在を知らなかったとしても、生前に終活について聞いていれば遺言書の存在を推測できる可能性があります。
わずかな情報だったとしても、そもそも遺言書があるかどうかを判断する重要な情報となりうるでしょう。
取引のある信託銀行・弁護士事務所に問い合わせる
亡くなった方と信託銀行との取引がある場合には、公正証書遺言の謄本や正本が遺言信託として保管されているケースがあるため、問い合わせてみましょう。
亡くなった方が懇意にしていた弁護士がいる場合、事務所で保管しているケースや、保管場所を知っているケースもあります。
公証役場で遺言検索システムを利用する
故人の遺品や自宅内に公正証書遺言がなく、身近な人も遺言書の保管場所を知らない場合、公証役場の「遺言検索システム」を利用しましょう。
遺言検索システムは、データベース上で亡くなった人が作成した遺言書の有無を確認できるしくみです。
全国の公証役場で遺言検索システムは共有され、全国どの公証役場でも遺言書の有無を調べられます。
遺言者の死後に検索システムを利用できる人は、相続人や遺言執行者などの利害関係人、および利害関係人からの委任を受けた代理人です。
遺言検索システムを利用するために、まずは戸籍謄本等の必要書類を集める必要があります。
必要資料を揃えたら、公証役場に行き、窓口で遺言書の検索をしたい旨を伝えましょう。
窓口で申請書類を記入して必要書類を提出すると、公証役場側で遺言書の照会を行ってくれます。
その後、照会結果を記載した「遺言検索システム照会結果通知書」がその場で交付されます。
遺言検索システムで調べられるのは、1989年以降に作成された公正証書遺言に限られるため注意しましょう。
遺言書が見つからない場合の対処法
前述の方法で公正証書遺言が見つからない場合には、作成した遺言書が公正証書遺言ではなく自筆証書遺言である可能性があります。
自筆証書遺言は法務局で遺言書が保管されているケースも珍しくありません。
法務局で「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行うと、法務局での自筆証書遺言の保管有無がわかります。
交付請求は、全国どこの遺言書保管所でも手続きができます。
なお、遺言が保管されていない場合、存在しないと判断して相続手続きを進めていくしかありません。
万が一、相続手続き中や相続手続き完了後に遺言書が見つかった場合には、相続手続きのやり直しが必要となる可能性があります。
二度手間にならないよう、まずは注意深く遺言書を探索しましょう。
公正証書遺言は検認手続きが不要
発見した遺言書が自分で書いた自筆証書遺言の場合、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。
検認とは、遺言書の有効性を確認するために行われる手続きです。
「自筆証書遺言の保管制度」を利用して法務局に自筆証書遺言を預けている場合は、検認する必要はありません。
公正証書遺言も同様に検認手続きが不要であるため、すぐに相続手続きを進められます。
公正証書遺言の作成者が死亡後に相続登記をする流れ
公正証書遺言を発見した場合、不動産登記は以下の流れで手続きを進めます。
- 必要書類を集める
- 登記申請書を作成する
- 登記申請をする
それぞれの流れについて見ていきましょう。
必要書類を集める
相続登記の申請に添付するため、以下の書類を集めます。
必要書類 | 取得場所 | 費用 |
---|---|---|
公正証書遺言 | 公証役場 | なし |
遺言者の戸籍謄本 | 市区町村役場 | 1通450円 |
遺言者の住民票除票 | 市区町村役場 (遺言者の最後の住所地) |
1通200円~300円 |
相続人の戸籍謄本 | 市区町村役場 | 1通450円 |
相続人の住民票 | 市区町村役場 (相続人の住所地) |
1通200円~300円 |
固定資産評価証明書 | 市区町村役場 (不動産所在地) |
1通200円~400円 |
登記申請書を作成する
法務局のHPから申請書の様式をダウンロードして、以下の内容を記載しましょう。
項目 | 記載内容 |
---|---|
登記の目的 | 所有権移転 |
原因 | 相続発生日 |
相続人 | 氏名、住所、取得持分 |
課税価格 | 固定資産評価証明書の評価額 |
登録免許税 | 課税価格×0.4% |
不動産の表示 |
土地:不動産番号、所在、地番、地目、地積 建物:不動産番号、所在、家屋番号、種類 構造、床面積 ※登記簿謄本(全部事項証明書)を参照しながら記載 |
登記申請をする
不動産の所在地を管轄する法務局に、登記申請書と必要書類を提出します。
登録免許税に相当する印紙を法務局や郵便局の窓口で購入し、申請書の台紙に貼り付けて提出しましょう。
登録免許税は以下のように計算します。
-
登録免許税=固定資産税評価額×税率0.4%
(遺言書で法定相続人以外に遺贈されていた場合、税率2%)
申請後、約1〜2週間で登記が完了し、登記識別情報通知が交付されます。
公正証書遺言が無効になるケース
公正証書遺言は、以下のケースでは無効になる可能性があります。
- 遺言書作成時に認知症の疑いがあるケース
- 遺留分を侵害しているケース
それぞれのケースを詳しく解説します。
遺言書作成時に認知症の疑いがある場合
認知症になっているケースは、発見した遺言書が無効となる場合があります。
公正証書遺言は、作成時に公証人が遺言者の遺言能力の有無を判断するため、遺言が無効になるケースはほとんどありません。
しかし、まれにではありますが、後から遺言能力が否定され、遺言が無効になるケースがあります。
遺留分を侵害しているケース
発見した遺言書の内容が「遺留分」を侵害する場合、その相続人から遺留分減殺請求により金銭の請求をされる可能性があります。
遺留分とは、一部の相続人が最低限保証される権利です。
公正証書遺言の有効性でもめたときの対処法
相続人同士で揉めた場合、まずは相続人全員で解決に向け話し合うのが一般的です。
話し合いでの解決が難しい場合、裁判所に調停を申し立て、最終的には訴訟による判決で有効性が判断されます。
認められると遺言書が無効となってしまうため、弁護士に相談しましょう。
弁護士が第三者として介入すると、相続人同士の話し合いが感情的にならず、冷静に話し合える効果も期待できます。
まとめ
亡くなった親が公正証書遺言を残していた場合、紛失や改ざんなどの恐れがなく、相続人同士で揉めるリスクも低くなります。
公正証書遺言は公証役場で保管されますが、遺言者が死亡しても相続人には連絡されません。
遺言書の有無は、遺言者が健在なうちに確認しておく方が望ましいでしょう。
相続手続きでは、公正証書遺言のほか、戸籍や不動産の固定資産税評価証明書などが必要です。
相続手続きは一般的になじみのない方が多く、書類の収集や作成が難しい場合は弁護士や司法書士に相談するとよいでしょう。