この記事でわかること
- 公正証書遺言を作成した方が亡くなった際の手続き
- 公正証書遺言の探索方法
- 公正証書を相続手続きに活用する方法
公正証書遺言は、公証役場で公証人が関与しながら作成されるため、その有効性が確保されやすく、また作成した遺言書の原本が公証役場で厳重に保管されるため、紛失や隠蔽の心配がない遺言の方式です。
本記事では、公正証書遺言が作成されている場合の相続手続きの流れや、作成された公正証書遺言の見つけ方、活用方法について詳しく解説します。
公正証書遺言の作成を検討される方や、公正証書遺言書を作成された方の相続が発生している場合などは特にご確認ください。
公正証書遺言とは
公正証書遺言とは、公証役場で作成される遺言書の形式です。
遺言者が2人以上の証人の立ち会いのもとで公証人に依頼し、公証人がパソコンを使用して遺言書を作成します。
その後、遺言者が内容に誤りがないことを確認し、最終的に署名と押印を行うことで完成します。
公正証書遺言の長所としては、主に以下の点が挙げられます。
- (1)公証人が作成するため、内容の不明確さなどによって無効になるリスクが少ない
- (2)遺言書の原本が公証役場に保管されるため、紛失や改ざんの心配がなく、相続人による隠匿や破棄のリスクを回避できる
- (3)家庭裁判所の検認手続きが不要で、スムーズに相続手続きを進めることができる
以上のような理由から、公正証書遺言は信頼性と安全性が高く、そのため多くの人に利用されている制度です。
公正証書遺言の作成者が死亡したら遺族に連絡が来る?
公正証書遺言の作成者が死亡した場合、公証役場やその他の機関から遺族に対し、遺言書を預かっている旨の通知や連絡が来ることはありません。
そのため、公正証書遺言があるかどうかは、遺族自身が調査をする必要があります。
公正証書遺言を探す4つの方法
それでは、公正証書遺言は具体的にどのように探すことができるのでしょうか。
公証役場で公正証書遺言を作成すると、正本と謄本は遺言者に交付され、原本は公証役場で保管されます。
そのため、正本と謄本は故人の身近な人によって保管されている可能性や、故人の遺品の中にある可能性があり、また原本は公証役場での遺言検索システムで発見できる可能性が高いです。
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
故人の身の回りから遺言書を探す
亡くなった方が公正証書遺言を残していたかもしれない場合、まずは故人の遺品の中や自宅から遺言書を探すことをおすすめします。
この方法ですぐに見つかる場合には、後述の公証役場での遺言検索システムの利用は不要となります。
遺言書が保管されている場所
遺言書が故人の遺品の中にある場合、具体的にどこで保管されていることが多いのでしょうか。
よくあるパターンとしては、自宅の金庫や、銀行の通帳や印鑑などが収納されている場所に保管されていることが挙げられます。
また、仏壇の引き出しやタンスの中など、簡単に見つからない場所に意識的に保管されている方もいらっしゃるため、可能性がある箇所はすべて確認することが大切です。
金融機関等の貸金庫の中に保管されているときは
万が一、遺言者自身が契約をしている貸金庫で遺言書が保管されている場合には、遺言者の死亡後にその貸金庫の開扉はできず、遺言書を中から取り出すことができなくなります。
遺言書を用いて相続手続きを行うことが現実的に不可能となるため、貸金庫に預ける際には注意が必要です。
被相続人の配偶者や、その他の相続人など身近な人に聞く
亡くなった方の配偶者や兄弟、親しい方などに遺言書の保管場所について知っていることがないか聞いてみるのも有効な方法のひとつです。
遺言書の存在を知らなかったとしても、遺言書について生前に話していたことを聞いたことがあれば、そこから遺言書の存在を推測できる可能性があります。
わずかな情報だったとしても、そもそも遺言書があるかどうかを判断する重要な情報となる場合があります。
取引のある信託銀行や弁護士事務所に問い合わせる
亡くなった方と信託銀行との取引がある場合には、公正証書遺言の謄本や製本が遺言信託として保管されているケースがあります。
そのため、亡くなった人が利用していた信託銀行に問い合わせることが公正証書遺言のスムーズな発見につながる場合もあります。
また、亡くなった方が懇意にしていた弁護士がいる場合には、その方が保管していることや、保管場所を知っているケースもあります。
公証役場で遺言検索システムを利用する
故人の遺品や自宅内で公正証書遺言が見つからず、身近な人も遺言書の保管場所について知らない場合には、公証役場での「遺言検索システム」の利用を検討することとなります。
遺言検索システムとは
公証役場では、作成された公正証書遺言のデータベース化をしており、作成した公証役場名、遺言者名、作成年月日等の情報をコンピューターで管理しています。
このデータベース上に亡くなった人が作成した遺言書の有無を確認できる仕組みが、「遺言検索システム」です。
このデータベースは全国の公証役場に共有されており、全国どの公証役場でも「遺言検索システム」を活用して遺言書の有無を調べることができます。
遺言検索システムのメリットと利用可能な人
相続人や関係者が被相続人の遺言を作成していたかどうかを知らないことや遺言書の保管場所がわからないケースは少なくありません。
この場合、遺言検索システムを利用すれば、遺言の有無や内容を確認することができます。
遺言に記載された内容に従った相続手続きをすることで、相続手続きの手間の削減や、相続人間での揉め事が発生するリスクを減らせることが、遺言検索システムを使うメリットと言えるでしょう。
次に、遺言検索システムを利用できる方について解説します。
遺言者の生前は、遺言者のみが利用可能です。
遺言の有無や内容は個人情報なので、推定相続人であっても、遺言者が生きている間は利用できません。
ただし、遺言者から委任された代理人は利用できます。
遺言者の死後は、相続人や遺言執行者などの利害関係人、および利害関係人からの委任を受けた代理人が利用できます。
遺言検索システムの利用方法
遺言検索システムを利用するために、まずは戸籍謄本等の必要書類を集める必要があります。
必要資料を揃えたら、公証役場に行き、窓口で遺言書の検索をしたい旨を伝えましょう。
なお、全国どこの公証役場でも遺言検索システムは利用できます。
窓口で申請書類を記入して必要書類を提出すると、公証役場側で遺言書の照会を行ってくれます。
その後、照会結果を記載した「遺言検索システム照会結果通知書」がその場で交付されます。
なお、遺言書が見つからなかった場合にも、その旨の記載された通知書が交付されます。
遺言検索システムで公正証書遺言を発見できないケース
前述の通り、遺言検索システムは非常に便利な仕組みですが、検索の対象となるのは1989年以降に作成された公正証書遺言のみです。
それ以前に作成された遺言書は検索しても発見できない場合があるため、ご注意ください。
それでも遺言書が見つからない場合の対応
前述の方法で公正証書遺言が見つからない場合には、どのような対応が必要になるのでしょうか。
別の対応方法についても確認していきましょう。
法務局で遺言書保管事実証明書の交付請求を行う
前述の方法で公正証書遺言が見つからない場合には、作成した遺言書が公正証書遺言ではなく自筆証書遺言である可能性があります。
自筆証書遺言は自宅で保管しているものと思いがちですが、法務局で遺言書が保管されているケースがあります。
法務局で「遺言書保管事実証明書」の交付請求を行うことで法務局での自筆証書遺言の保管有無がわかりますので、ぜひ実施を検討してみてください。
交付請求は全国どこの遺言書保管所でも手続きが可能で、郵送でも行うことができます。
なお、遺言書保管事実証明書の交付申請は誰でもすることができますが、請求者が相続人、受遺者、遺言執行者等でなければ保管されていない旨の証明書が発行されるのみで意味がありませんのでご注意ください。
遺言書がないものとして相続手続きを進める
遺品や自宅を探索しても遺言書が見つからず、公証役場での検索システムでヒットせず、法務局でも遺言が保管されていない場合には、遺言書がないものとして相続手続きを進めていくしかありません。
万が一、相続手続き中や相続手続き完了後に遺言書が見つかった場合には、相続手続きのやり直しが必要となる可能性が高いです。
二度手間にならないよう、まずは注意深く遺言書を探索することが重要です。
公正証書遺言を見つけたときの相続手続きの流れ
続いて、発見した公正証書遺言を、相続手続きにどう活用していくかについて解説します。
公正証書遺言は検認手続きが不要
発見した遺言書を相続手続きに使用するにあたっては、家庭裁判所での検認手続きが必要となります。この手続きは、遺言書の有効性を確認するためのものです。
特に自筆証書遺言については偽造や改ざんのリスクが一定程度あるため、検認手続きを経なければ、不動産の相続登記や銀行預金の払戻などの各種相続手続きに遺言書を活用することができません。
ただ、「自筆証書遺言の保管制度」を利用して法務局に自筆証書遺言を預けている場合は除きます。
一方、公正証書遺言の場合は、検認手続きが不要です。
そのため、すぐに相続手続きに移行することが可能となります。
発見した公正証書遺言の活用方法
前述したように、公正証書遺言は家庭裁判所の検認を経ることなく、相続登記申請や銀行預金の払戻手続きの際にもそのまま添付書類として使用することができるため、手続きがスムーズに進みます。
なお、公正証書遺言以外に必要となる添付書類は、各手続きによって異なります。
手続きにあたっては、不動産の相続登記であれば司法書士に、銀行預金の払戻手続きであれば各金融機関に、それぞれ問い合わせることをおすすめします。
公正証書遺言を相続に活用する場合の注意点
公正証書遺言は、紛失や隠蔽の心配が少なく有効性が確保されやすい遺言の方式であり、公正証書遺言がある場合には、基本的には遺言に記載されている通りの相続が行われることになります。
ただし、以下のようなケースにおいては、公正証書遺言の活用に注意が必要です。
遺言書作成時に認知症の疑いがある場合
公正証書遺言で作成した場合でも、作成時に遺言者に遺言能力が中ったケース、つまり認知症になっているようなケースにおいては、発見した遺言書が無効となる場合があります。
公正証書遺言は、遺言作成時に公証人が遺言者の遺言能力の有無を判断するため、遺言が無効になるケースはほとんどありません。
しかし、まれにではありますが、後から遺言能力が否定され、遺言が無効になるケースがあるため、注意が必要です。
遺留分を侵害しているケース
発見した遺言書が、一部の相続人が最低限保証されるべき権利である「遺留分」を侵害するような内容の場合には、その相続人から遺留分減殺請求という金銭の請求をされる可能性があります。
まとめ
確実で有効性が高い形式である公正証書遺言を作成したと思われる場合でも、発見されなければせっかくの遺言書も相続手続きに活用することができません。
また、相続手続きの途中や相続手続きが完了した後に遺言書が見つかると、相続手続きのやり直しが必要となるなど、大変な手間となります。
ぜひ注意深く遺言書を探索し、相続手続きに有効活用してください。