この記事でわかること
- 公正証書遺言の遺言執行者の役割がわかる
- 遺言執行者しかできないことがわかる
- 弁護士に遺言執行者を依頼した場合の費用がわかる
遺言執行者という言葉は聞いたことはあるけれども、どんな役割をになう人か、正確に知っている方は少ないのではないでしょうか。
遺言をのこしたいけれども、遺言執行者を決めておくべきか迷っている方もいるかもしれません。
遺言に遺言執行者の定めがなかった場合に、遺言の内容を自分たちだけで手続きできるのか、相続人にとって不安です。
遺言執行者については、民法に詳しく定められています。
この記事では民法に定められたルールをわかりやすくお伝えします。
遺言執行者の役割、遺言執行者しかできないこと、遺言執行者が定められていない場合の選任方法などを解説します。
遺言執行者について詳しく知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、どのような立場の人をいうのでしょうか?
遺言執行者の役割、相続人との関係などを見ていきましょう。
遺言執行者と相続財産、相続人との関係
まず、遺言執行者と相続人との関係などを確認します。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する人です。
公正証書遺言など遺言書に遺言執行者が定められている場合、遺言執行者のみが遺贈(遺言による贈与)の履行を行うことができます。
つまり、遺言執行者が定められている場合、相続人は遺贈の履行をすることはできません。
相続人は、遺言執行者が行う相続財産の処分など遺言の執行を妨げることもできません。
遺言執行者の任務の執行
遺言執行者は、すべて自分で任務を行わなければならないでしょうか?
また、複数の遺言執行者がいる場合の執行方法、遺言執行者の報酬はどのように民法で定められているか、見ておきましょう。
遺言執行を第三者にまかせられる?
遺言で定められた遺言執行者が高齢であるなど、自ら遺言を執行できないケースも考えられます。
そのような場合のため遺言執行者は、原則として自己の責任で第三者にその任務を行わせることができとされています。
遺言執行者が複数いる場合
遺言執行者が数人ある場合には、原則として、遺言執行者の過半数で任務の執行を決めなければなりません。
ただし、相続財産の保存行為(簡単な修理等)は、各遺言執行者が行うことができます。
遺言執行者の報酬
遺言執行者は、次の場合に報酬を受けることができます。
- ・遺言者がその遺言に報酬を定めたとき
- ・家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めたとき
なお、遺言の執行に関する費用は、相続財産から支出します。
公正証書遺言で遺言執行者となったときにやること
公正証書遺言で遺言執行者と定められている方は、遺言者が亡くなったら何をしなければないのでしょうか?
遺言執行者とされた方が行うことについて確認しましょう。
遺言執行者を断れる?就任通知
遺言者は、公正証書遺言など遺言で、1人または数人の遺言執行者を指定することができます。
そして、遺言で遺言執行者に定められている人は、就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなりません。
つまり、遺言執行者になるのを断ってもよいということです。
では、遺言執行者に定められている人がいつまでも返事をしない場合、相続人は何ができるでしょうか?
相続人は遺言執行者に対し、相当の期間を定めて「期間内に、就職を承諾するかどうかを確答してください」と催告することができます。
遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなされてしまいます。
なお、遺言執行者を自分で定めず、遺言により第三者に遺言執行者の指定を委託する場合もあります。
遺言者が亡くなったら、遺言執行者の指定の委託を受けた人は、原則として、遅滞なく遺言執行者を指定して、相続人に通知しなければなりません。
遺言執行者がやるべきこと
遺言執行者に就任した人がやるべきことを確認します。
最初にやるべきこと
遺言執行者は任務を開始したときは、遅滞なく、次のことを行わなければなりません。
遺言執行者が最初にやるべきこと
やるべきこと | 誰に通知・交付するか |
---|---|
遺言の内容を通知 | 相続人に通知 |
相続財産の目録を作成 | 相続人に交付 |
遺言執行者は、相続人の請求があるときは、相続人の立ち合いのもとで相続財産目録を作成するか、公証人に作成してもらいます。
遺言執行者の具体的な任務
遺言執行者は、先述した就任通知や財産目録作成のほか、次の任務をおこないます。
遺言執行者の任務の例
任務 | 注意点 |
---|---|
・遺贈 ・遺産分割方法の指定 ・預貯金払い戻し、分配 ・株式の名義変更 ・不動産の名義変更 |
・預貯金契約の解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る ・相続財産である不動産を法定相続人の1人に相続させる旨の遺言がある場合、遺言執行者が単独で、相続を原因とする登記を申請できる |
・子どもの認知 ・相続人の廃除 |
遺言による認知、廃除の手続きは遺言執行者しかできない |
遺言執行者の権限で特に重要なのが預貯金の払い戻しや解約の申し入れをする権限です。
預貯金債権についての特定財産承継遺言とは「Aに〇〇銀行の普通口座〇〇〇の預金(100万円)を相続させる」などの遺言をいいます。
ただし、預貯金債権についての特定財産承継遺言は注意が必要です。
このような遺言であっても、その預貯金債権の全部が目的でなければ、遺言執行者が解約することはできません。
「100万円の〇〇銀行への預金のうち、50万円はAに相続させる」という遺言のケースでは、遺言執行者が解約することはできないということです。
このようなケースで遺言執行者に預貯金解約権限を認めてしまうと、他の相続人の権利を害することになるのが理由です。
遺言に執行者の氏名が記載されていない場合
遺言執行者が遺言で指定されていないときは、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。
遺言執行者選任の申し立て方法や必要書類、遺言執行者の欠格事由や解任方法も確認します。
遺言執行者の選任申し立ての手続き
遺言執行者を申し立てできる人や申し立てに必要な書類は以下の通りです。
遺言執行者の選任申し立ての手続き
申立人 | 利害関係人(相続人、遺言者の債権者、遺贈を受けた者など) |
---|---|
申立先 | 遺言者の最後の住所地の家庭裁判所 |
申し立てに必要な費用 | ・執行の対象となる遺言書1通につき収入印紙800円分 ・連絡用の郵便切手 |
申し立てに必要な書類 | ・申立書 ・遺言者の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本(全部事項証明書) ・遺言執行者候補者の住民票または戸籍附票 ・遺言書写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し ・利害関係を証する資料(親族の場合、戸籍謄本(全部事項証明書)等) |
申立書記載事項 | 申し立ての趣旨など |
遺言執行者の欠格事由・解任・辞任
誰でも遺言執行者になれるわけではなく、欠格事由に当たる人は遺言執行者になれません。
未成年者および破産者は、遺言執行者として選任できないので注意しましょう。
また、遺言執行者が任務を怠ったときなどは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができます。
遺言執行者自身も、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て辞任することができます。
遺言執行者の解任や辞任は、遺言執行者と相続人の関係性がうまくいかないときのためのルールです。
遺言執行者の解任事由は、相続財産の横領・任務懈怠など正当な事由でなければなりません。
弁護士に執行者の依頼をした場合のメリット・デメリット・費用について
遺言執行者と相続人の関係が心配な場合、弁護士に遺言執行者を依頼することをおすすめします。
弁護士に遺言執行者を依頼するメリット・デメリット、費用について見ておきましょう。
弁護士に執行者の依頼をした場合のメリット・デメリット
遺言執行者を弁護士に依頼をすると、1人の相続人に不利な内容の遺言などの執行がスムーズに進みます。
相続人と遺言執行者の間でギクシャクしてしまうことがないからです。
相続人が高齢、それぞれが遠方に住んでいる、相続人同士が疎遠などの場合も、弁護士に遺言執行者を依頼するメリットがあるでしょう。
また、遺言の内容が認知や廃除の場合は、先述の通り、遺言執行者でなければできません。
一方、遺言執行者を弁護士に依頼すると、費用がかかることがデメリットです。
弁護士に執行者の依頼をした場合の費用
弁護士に遺言執行者を依頼すると、費用の相場は約20万円からとなっています。
旧弁護士会報酬規程を目安に遺言執行報酬を定めている弁護士事務所が多いでしょう。
ただし遺言の内容や財産額により弁護士報酬は変動しますので、依頼前に詳細を確認してください。
遺言を執行する際に必要な書類の例
次に、遺言執行をする際に必要な書類の例をご紹介します。
預金払い戻しに必要な書類
まず、銀行の預金払い戻しに必要な書類を確認します。
金融機関により詳細は異なる場合もあるので、必ずご自身でお取引金融機関に確認してください。
預金払い戻しに必要な書類
戸籍謄本等 | 原本を提示する必要あり |
---|---|
遺言執行者の市区町村発行の印鑑証明書 | 発行後〇か月内など金融機関により指定あり |
遺言書 | 公正証書遺言の場合は、遺言書謄本の原本を提示 |
自筆証書遺言および秘密証書遺言は検認済証明書を提示 | |
遺言執行者選任審判書謄本 | 家庭裁判所で遺言執行者が選任されている場合 |
不動産の登記名義変更に必要な書類
相続財産である不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がある場合、次の書類を用意して、遺言執行者が所有権移転登記を申請します。
不動産の登記名義変更に必要な書類の例
戸籍謄本等 | 原本還付必要 |
---|---|
遺言書 | 原本還付必要 公正証書遺言の場合は、遺言書謄本の原本を提示 自筆証書遺言および秘密証書遺言は検認済証明書を提示 |
遺言執行者選任審判書謄本 | 家庭裁判所で遺言執行者が選任されている場合 |
相続人の住民票の写し | 原本還付必要 |
固定資産評価証明書または納税通知書 | 原本還付必要 |
遺言書の種類の違いと検認の有無
先述したとおり、遺言執行には遺言書を提示するだけでなく、公正証書遺言を除き検認証明書をつけなければなりません。
検認を申し立てるのは、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人です。
そこで、遺言書の種類と検認につき基礎的なルールや、自筆証書遺言を法務局で保管してもらう場合の例外も見ておきます。
遺言書を勝手に開封してはいけない?
封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封することができません。
封のある遺言書は、家庭裁判所で開封する手続きをとる必要があり、勝手に封印のある遺言書を開封すると、5万円以下の過料というペナルティが科せられます。
なお、検認を受けずに遺言書を勝手に開封しても、遺言書の効力に影響はありませんが、検認の趣旨は、次の2点です。
- ・相続人に対し遺言の存在およびその内容を知らせる
- ・遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などを明確にする
検認が必要かどうかは遺言書の種類による
遺言には普通方式と特別方式があり、通常、普通方式による遺言書を作成します。
普通方式のうち自筆証書遺言と秘密証書遺言は検認が必要で、公正証書遺言の検認は不要です。
参考:普通方式の遺言の種類、書き方、検認の要否
書き方、注意点 | 検認 | |
---|---|---|
自筆証書遺言 | ・遺言者が、その内容、日付および氏名を自書し、これに印を押す | 必要 |
秘密証書遺言 | ・遺言者が、遺言書に署名し押印 ・遺言者が、遺言書を封じ、証書に用いた印で封印 |
必要 |
公正証書遺言 | ・公証人に遺言の内容を書いてもらう ・証人2人が必要(推定相続人や受遺者、これらの配偶者および直系血族は証人になれなれない) |
不要 |
公正証書遺言は検認を受ける必要がないので、相続人のためにも、遺言をのこす場合はできるかぎり、公正証書遺言を利用するとよいでしょう。
公正証書遺言作成の前に用意しておくとよいのは次の書類です。
- ・遺言者の本人確認資料である運転免許証、マイナンバーカード
- ・遺言者と相続人との続柄がわかるものとして戸籍謄本
- ・財産の中に不動産がある場合は登記事項証明書(登記簿謄本)、固定資産評価証明書
公正証書遺言作成に必要な書類の詳細は公証役場に確認しましょう。
法務局保管制度を活用すると検認がいらない?
2020年7月から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まっています。
この新しい制度により、検認をしなくても自筆証書遺言を遺言執行で用いることができるようになりました。
公正証書遺言は公証役場に支払う手数料や印紙代が必要で利用しづらい面があることから、自筆証書遺言を利用する人もいます。
しかし、自筆証書遺言は自宅や親族の家で保管されることが多く、発見されずに終わることもあり、遺言者の意思を実現できません。
また、自筆証書遺言は勝手な開封、遺言書の廃棄、変造の恐れがあることから、法務局における自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度が開始されたのです。
自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度を利用すると、自筆証書遺言であっても検認の必要がありません。
遺言執行者が預金の解約など遺言執行を行う際も、法務局発行の遺言書保管事実証明書を遺言書に添えて提出すれば、検認は不要とする金融機関もあります。
参考:自筆証書遺言に係る遺言書の保管制度の利用のメリット
法務局のサービス | メリット |
---|---|
遺言書保管事実証明書を発行してもらう | 検認を省く |
相続人の一人が遺言書を閲覧した場合の通知 | 他の相続人に遺言書保管場所が通知されるので、相続人間の閲覧の不公平を避ける |
自筆証書遺言を作成したい方は、相続手続きの円滑化に役立つ法務局の遺言書保管制度の利用を検討することをおすすめします。
その際、遺言執行者も自筆証書遺言で定めることを忘れないようにしましょう。
検認の手続き
自筆証書遺言を保管している遺言執行者が検認を申し立てることも多いので、自筆証書遺言や秘密証書遺言の検認手続きにつき概要を確認します。
検認の手続きを申し立てるのは、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人です。
検認を申し立てる場合、遺言書(封書の場合は封書)1通につき収入印紙800円分および連絡用の郵便切手を添えて、遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申立書を提出しなければなりません。
その際、戸籍謄本などの標準的な添付書類も必要です。
追加で提出する場合もありますが、検認申し立てに必要な書類の例は、以下のとおりです。
- ・遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・遺言者の子(およびその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
検認申し立てに必要な戸籍謄本等は、金融機関での預貯金解約や、不動産の相続による名義移転にも必要です。
ただし、戸籍謄本等取り寄せに非常に時間がかかるケースもあるので、相続が発生したら早めに着手するか、弁護士など専門家に依頼しましょう。
まとめ
遺言執行者の役割、遺言執行者しかできないこと、遺言執行者が定められていない場合の選任方法など解説してきました。
遺言の内容をとどこおりなく執行するためには、あらかじめ遺言執行者を定めておくことが大切です。
ただし、死後認知など、法律的な知識がなければ執行に手間取る内容が遺言に書かれているケースもあります。
遺言執行者になったとしても、念のため弁護士など専門家に執行を依頼することも考えるとよいでしょう。
また、遺言執行者が遺言に定められていない場合、できるだけ早く、弁護士などに遺言執行者を依頼し、選任手続きを行う必要があります。
遺言の執行は相続税申告期限前に行うことが望ましいからです。
遺言執行手続きを1年、2年と長引かせるよりも、専門家の力を借りてスピーディーかつ正確に、遺言を執行することをおすすめします。
遺言のスムーズな執行が、故人の思いにこたえることになるでしょう。