この記事でわかること
- 被相続人が作成した遺言書が見つかっても協議分割ができる場合がある
- 協議分割ができず遺言書による指定分割が優先される場合がある
- 遺言書の内容に納得できない場合の対処法を知ることができる
被相続人の作成した遺言書が見つかった場合、その遺言書に従って遺産分割が行われます。
しかし、その遺言書の内容に納得できない相続人がいる場合、遺産分割協議を始めようとする人がいるかもしれません。
遺言書がある中で遺産分割協議を行った場合、どちらが優先されるのでしょうか。
また、遺言書の内容に納得できない人には、どのような対処法があるのでしょうか。
目次
遺言書が見つかっても協議分割はできる?
被相続人が作成した遺言書が見つかると、その遺言書にもとづいて指定分割が行われます。
遺言書は被相続人が作成しているため、被相続人の意思に沿って遺産分割を行うのです。
遺言書がある場合、相続人同士で話し合いを行い、遺産分割協議を行うことは原則できません。
遺言書による指定分割が最優先されるためです。
しかし、遺言書の内容に納得できない相続人がいる場合には、協議分割によることを求める場合があり、そうした時には遺言書があっても協議分割を行うことができるのです。
遺言書があっても、すべての相続人が望むのであれば、協議分割によることができます。
民法にも、相続人全員の合意があれば遺言書で指定した遺産分割方法に反した遺産分割協議は有効と定められているのです。
相続人全員が遺言書によらないことを望んだ上で、遺産分割協議を行うことで結果的に全員が納得する遺産分割ができるのです。
この時、注意しなければならないのが、遺言執行者との関係です。
遺言書の中で、遺言執行者が指定されている場合があります。
この遺言執行者は、相続財産を管理・処分する権限を有しており、同時に遺言の内容を実現する義務を負っています。
つまり、遺言の内容に従って行動することとなるため、遺言書と異なる遺産分割はできないように考えられるのです。
ただ、実際に相続人全員が遺産分割協議を行うことを望んでいるのであれば、遺言と異なる遺産分割を行うことができます。
遺言執行者も、相続人の反対を受けながらあえて遺言の内容を実行するメリットはありません。
結論としては、前述したようにすべての相続人が同意する場合、遺言書と異なる形となる協議分割によることができます。
協議分割が認められず遺言書が優先されるケース
遺言書がある場合、その遺言書による指定分割を行うこととされます。
遺言書があることを知らずに、相続人同士で遺産分割協議を行った場合、後から遺言書が出てきたとしても遺言書が優先されます。
それほど遺言書の効力は大きなものであり、被相続人の意思が尊重されているのです。
ただ、すでに説明したとおり、遺言書があってもすべての相続人が同意して遺産分割協議を行えば、協議分割によることができます。
相続人全員が遺産分割協議を行うことを望んでいるのであれば、遺言書に書かれた内容を破棄することが認められるのです。
一方、すべての相続人が遺産分割協議を行うことを望まない場合は、遺言書が優先されます。
もちろん、遺言書によることを望む相続人だけを除外して遺産分割協議を行っても、その遺産分割協議は無効となります。
そのため、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成しなければならないのです。
協議分割には、以下のような注意点があります。
前述したものと重複するところもありますが、今一度確認しておきましょう。
注意点(1)第三者が受遺者となっている場合
遺言書に相続人以外の第三者が受遺者となる内容が記載されている場合があります。
たとえば、内縁関係にある人物に遺産を引き継がせる内容となっている場合などです。
このような場合は、相続人だけでなく、その受遺者も協議分割を行う際に同意が必要です。
受遺者となっている人の競技分割への同意がなければ、やはり遺言書が優先されるのです。
注意点(2)遺言執行者が指定されている場合
もう1つ注意が必要なのは、遺言執行者との関係です。
前述したように、遺言執行者は遺言書に書かれた内容を実現する義務があります。
そのため、遺言書の内容と異なる遺産分割を行うためには、遺言執行者の同意が必要となるのです。
遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、事前に遺言執行者の同意を得ておく必要があるということです。
遺言書での遺贈は放棄もできる
遺言書で遺産の受遺者が指定されており、遺産分割協議を行わないような場合は、そのまま遺言書による指定分割が行われます。
しかし、受遺者となっている人の中には、遺言書に従って遺産を受け取ることを拒否したいと考える人もいるでしょう。
実は、受遺者は遺贈を放棄することができるのです。
遺言書により遺産を引き継ぐ人を指定しておくことを遺贈といいます。
この遺贈は、遺言者が一方的に遺産を引き継ぐ人を指定するものであり、受遺者の同意を得ているわけではありません。
この点は、贈与者と受贈者の合意のもと行われる生前贈与とは異なります。
そのため、受遺者が遺産を受け取りたくない場合には、その遺贈を拒否することができるのです。
このような場合、受遺者が遺贈を放棄するためには、どのような手続きが必要となるのでしょうか。
包括遺贈の場合
包括遺贈とは、具体的な財産を指定せずに遺贈を行うことです。
具体的には「すべての財産を妻に遺贈する」「妻と長男に財産を2分の1ずつ遺贈する」といった文言となります。
このように遺贈を受ける人を包括受遺者といい、相続人と同様の権利を有するとされています。
そのため、包括受遺者が遺贈の放棄を行う場合は、相続放棄と同じ方法で行うこととされています。
そのため、包括受遺者が遺贈の放棄を行うためには、包括遺贈があったことを知った日から3か月以内に家庭裁判所に申し立てます。
この期限内に申立てを行わなければ、遺贈の放棄は原則として認められないため、必ず期限を知っておく必要があります。
指定遺贈の場合
指定遺贈は、誰にどの財産を引き継がせるのかを指定する遺贈の方法です。
たとえば、「自宅は妻に遺贈する」や「○○銀行の普通預金は長男に遺贈する」というような文言となります。
特定遺贈の場合は、その遺贈をいつでも放棄することができると定められています。
そして、遺贈を放棄すると遺言者が亡くなった時に遡って、遺贈を受けなかったこととされるのです。
ただ、遺贈を受けた人がいつ遺贈を放棄するかわからないという状態が続くと、いつまでも遺産分割が完結しないこととなります。
もし遺贈を放棄するのであれば、代わりにその遺産を相続する人を決定しなければならないからです。
そこで、相続人同士で遺贈を承認するのか、あるいは放棄するのかを意思表示する期限を設けることができます。
相続人が遺言書の内容に納得できないときの対処法
被相続人が残した遺言書がある場合、原則として、その遺言書に従って指定分割を行うこととなります。
しかし、遺言書の内容に不満を持つ相続人がいることも考えられます。
この場合、遺言書のとおりに指定分割が行われると、後々まで相続人間にしこりを残してしまうため、何らかの対処が求められます。
具体的に、どのような対処法があるのでしょうか。
遺言書の有効性を争う
見つかった遺言書が自筆証書遺言の場合は、その遺言書が正しく作成され、有効に成立しているのかを争うことができます。
遺言者によって自筆されているのか、日付などの記載事項に漏れはないかを確認していきましょう。
代筆は認められない他、本文をパソコンで作成することも認められないため、中には無効となるケースもあるのです。
協議分割に持ち込むことができないか検討する
これまで述べてきたように、遺言書がある場合でも、遺産分割協議を行うことができないわけではありません。
そこで、遺言書に書かれた内容とは異なる分割方法で遺産分割協議を行うことができないか、他の相続人と話し合いを行います。
遺言書があっても、すべての相続人が同意している場合には、遺産分割協議を行い、協議分割を行うことができます。
そのため、すべての相続人に遺産分割協議を行い、そこで協議分割の方法を決めることに同意をもらう必要があります。
また、遺言書で受遺者に指定されている人の中に相続人でない人がいることもあります。
この場合は、その第三者の受遺者からも遺産分割協議を行うことについて同意をもらわなければなりません。
遺留分が侵害されていないか確認する
遺留分とは、最低限相続することが保証されている、すべての遺産に対する割合のことです。
兄弟姉妹以外の法定相続人については遺留分が定められており、相続分がゼロにはならないのです。
しかし、遺言書の記載どおりに遺産分割を行うと、相続人の中には1円も相続できない場合もあります。
また、ある程度の相続分がある場合でも、遺留分に満たない人もいるかもしれません。
そこで、遺留分に満たない相続人については、その不足分を他の相続人に請求することができるのです。
遺留分侵害額がある場合は、内容証明郵便を送るなどした後、家庭裁判所に遺留分侵害額請求調停を申し立てることとなります。
遺留分侵害額請求を行うことができるのは、遺留分侵害があることを知ってから1年以内、あるいは相続開始から10年以内とされています。
この期間を超えてしまうと、時効により遺留分侵害額請求ができなくなるため、注意しましょう。
まとめ
遺言書が見つかった場合、基本的にはその遺言書に従って遺産分割を行います。
遺言の内容に反対する相続人が多数いても、遺言書のとおりに指定分割を行うことを主張する人がいれば、指定分割となるのです。
この場合、遺言に反対する相続人は、遺言書の有効性で争うか、遺留分を主張するかを検討しなければなりません。
また、遺言書を作成する人は、できるだけ相続人が揉めることのないような遺言書を作成することを心がけるようにしましょう。