この記事でわかること
- 公正証書遺言の効力について理解できる
- 公正証書遺言が無効になるケースがわかる
- 公正証書遺言が有効となる条件がわかる
目次
公正証書遺言とは?
公正証書遺言は、公正証書の形で作成された遺言書です。
公正証書は、公証役場で公証人によって、証人2名の立会いのもとで作成されます。
作成後の原本は公証役場で保管され偽造や紛失を防ぐことができるため、安全性や信頼性の高い遺言といえます。
また、公正証書遺言が正しく作成されていれば、遺産分割の方法や相続分、遺贈、寄付などについて、遺言通りに相続を実現できます。
遺言執行者や祭祀承継者の指定、保険金受取人の変更、特別受益の持ち戻し免除、推定相続人の廃除なども可能です。
公正証書遺言の効力
公正証書遺言は、信頼性が高く、遺言者の意思を実行することができますが、どんな場合でも有効性が認められるわけではありません。
遺言書の記載については、民法で法的な効力が定められており、これを「遺言事項」といいます。
遺言事項とは?
遺言事項とは、遺言書に書いた項目の中で法的な効力が認められる事項のことをいい、民法やその他の法律で定められています。
遺言書に遺言事項ではない内容を記載しても、法的な効力は認められません。
遺言事項は、以下のような項目に分けることができます。
遺言事項の項目
- 財産に関すること
- 相続権に関すること
- 遺言の実現に関すること
財産に関すること
遺言書の最も基本的な役割といえるのが、財産に関する事項です。
財産に関する事項に記載する内容は次の通りです。
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定
- 遺贈や一般財団法人の設立、寄付、信託の設定
- 遺産分割の禁止
- 特別受益分の持ち戻し免除
- 生命保険受取人の変更
相続権に関すること
婚姻外の子どもを認知したり、相続人の廃除・廃除の取り消しに関する事項です。
遺言の実現に関すること
遺言の実現に関する事項には、遺言執行者や未成年後見人の指名などがあります。
公正証書遺言が無効になるケース
公正証書遺言は基本的には無効にはなりませんが、以下のような場合は無効になることがありますので、注意しておきましょう。
公正証書遺言が無効になるケース
- 遺言作成時、遺言者に遺言能力がなかった
- 証人として不適格な人が証人となっていた
- 詐欺や脅迫等で、遺言者の真意に基づかない遺言内容になった
無効になるケース1:遺言者に遺言能力がなかった場合
遺言書が有効となるのは、遺言者が遺言書を作成した時に、遺言能力があった場合です。
公証人は、遺言者の遺言能力に疑いがある場合、本人の判断能力を確認するための質疑応答などを行いますが、遺言書の作成自体を拒否するわけではありません。
そのため、認知症などが原因で遺言者に遺言能力がなかった場合には、無効になることがあります。
遺言能力とは
遺言者が自分の意思によって自分の希望をしっかりと認識しながら遺言書を作成する能力のことを、遺言能力といいます。
つまり、遺言内容をきちんと理解し判断する能力のことです。
遺言能力がないとみなされる場合とは
以下のような場合は、遺言能力がないものとされています。
- 15歳未満の場合
- 認知症等で意思能力がなかった場合
認知症の人の遺言についての判断要素
認知症の人が作成した遺言については、主に以下の要素を踏まえて、有効かどうかを判断されます。
- 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容および程度
- 遺言内容それ自体の複雑性
- 遺言の動機、理由
- 遺言者と相続人または受遺者との人間関係、交際状況、遺言に至る経緯
障害の程度と遺言内容によって遺言能力が判断される
障害の程度が大きくても遺言の内容が単純であれば、遺言能力は認められやすくなります。
逆に、障害の程度が小さくても遺言の内容が複雑であれば、遺言能力は認められにくくなります。
また、ほとんど交流のない人への遺贈など、動機や理由なく遺言に至る経緯も不明瞭な場合は、遺言能力に疑問が生じます。
無効になるケース2:証人として不適格な人が証人となっていた場合
公正証書遺言では証人が2人必要です。
ただし、以下のいずれかに該当する人は、証人になることができないと定められています。
- 未成年者
- 推定相続人、受遺者、その配偶者、直系血族
- 遺言を作成する公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員
上記に該当する人が証人の場合は、他の相続人から指摘を受ければ無効となってしまう場合があります。
未成年者
民法の改正に伴って、2022年4月1日以降は、18歳未満の人が未成年者となります。
それ以前に作成された遺言書については、遺言作成時に20歳未満の人が未成年者になります。
推定相続人、受遺者、その配偶者、直系血族
遺言の内容に関係する人は、証人になってはいけません。
遺言を作成する公証人の配偶者、四親等以内の親族、公証役場の職員
遺言を作成する公証人と関係のある人は、証人になることはできません。
無効になるケース3:詐欺や脅迫等で遺言者の真意に基づかない内容になった場合
詐欺や脅迫等によって書かされた遺言は無効です。
同様に、詐欺や脅迫等によって、遺言の撤回や、取消し、変更が妨げられた場合も無効となります。
ただし、無効にするためには、証拠が必要となります。
詐欺や脅迫等があったことを証明しなければならないため、実際には難しいと思われます。
公正証書遺言が有効となる条件
公正証書遺言は、その作成自体に条件があり、それを守ったうえで書かれたものであることが前提になっています。
つまり、作成自体の条件を守ったうえで、内容が遺言事項に関することであれば、公正証書遺言は基本的に有効となります。
主な条件は以下のとおりです。
公正証書遺言が有効となる条件
- 2人以上の適格な証人がいること
- 遺言書の内容は遺言者が直接伝えたものであること
- 遺言者、証人、公証人の署名捺印があること
- 遺言者の年齢が15歳以上であること
- 公序良俗に反していないこと
2人以上の適格な証人がいること
証人になるためには、特に資格などは必要ありません。
基本的には誰が証人になっても問題はないのですが、以下に該当する人は除外されていますので、注意してください。
- 未成年者
- 推定相続人、受遺者、その配偶者、直系血族
- 遺言を作成する公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の職員
遺言書の内容は遺言者が直接伝えたものであること
遺言書の内容は、遺言者から直接口頭で伝えることが条件です。
遺言者が公証役場に行く前に電話で内容を公証人に伝えたうえで、作成当日に遺言者、証人、公証人で確認をするという形でも、問題はないとされています。
遺言者、証人、公証人の署名捺印があること
公正証書遺言は、原本、正本、謄本の3種類があります。
このうち、原本が公証役場に保管されます。
捺印は原本のみで問題はありません。
遺言者の年齢が15歳以上であること
15歳未満の人については、遺言能力がないとみなされているので、遺言をすることができません。
遺言の内容が公序良俗に反していないこと
反社会的勢力に寄付をするなど、公の秩序に反する内容は、遺言書として認められない場合があります。
たとえば、配偶者がいるにもかかわらず、愛人に全財産を渡すという内容も同様です。
公正証書遺言の内容が遺留分を侵害していたら
遺言の内容が法定相続人の遺留分を侵害している場合は、相続開始後に遺留分侵害額請求がされることがあります。
遺言そのものは無効にはなりません。
しかし、公正証書遺言であっても侵害請求された遺留分には応じなければなりませんので、注意してください。
なお遺留分の侵害請求がされなければ、遺言の内容どおりに遺産分割をすることができます。
公正証書遺言の効力に期間制限はない
公正証書遺言の効力には、時効のような期間的制限はありません。
大昔に作成したものでも、それよりも新しい遺言書がなければ効力があります。
ただし、作成日時の異なる遺言書が複数あった場合には、より死期に近い日付の遺言書にだけ効力があり、他のものに効力はありません。
また、遺産分割後に遺言書が見つかったような場合でも、効力を有しています。
公正証書遺言の保管期間
公正証書遺言の保管期間は、公証人法施行規則に20年と定められています。
ただし、特別な理由があるために保管が必要となる場合には、この期間を超えて保管するものとされています。
そこで、現在は公証役場によっては半永久的に保管しているところもあるほか、遺言者が120歳になる年までとしているところもあります。
公正証書遺言の内容に納得できないときの対処法
被相続人が公正証書遺言を作成していた場合、基本的にはその内容にしたがって遺産分割を行うこととなります。
しかし、1人の相続人にすべての遺産を相続させるような極端な内容のため、その遺言に納得できないケースも考えられます。
公正証書遺言の内容に納得できない相続人は、どのように対処するといいのでしょうか。
相続人同士で話し合い
公正証書遺言が作成されていると、ほとんどのケースでその遺言書は有効に成立します。
しかし、遺言書が有効であったとしても、必ずその遺言書にしたがって遺産分割しなければならないわけではありません。
遺言書があってもすべての受贈者が納得している場合には、遺言書を破棄して遺産分割協議を行うことができます。
法定相続分と遺言書の内容に大きな差がない場合などは、遺言書によらず遺産分割協議を行うことに全員が同意するケースもあります。
まずは諦めずに相続人同士で話し合いを始めてみましょう。
話し合いで解決しなかったら裁判所で決着
遺言書にしたがって遺産分割を行えば、話し合いをした場合より多くの遺産を相続できる人がいるケースがあります。
このような場合には、遺言書を破棄して遺産分割協議を行うことに同意してもらえないことが多く、話し合いを始めることもできないと予想されます。
相続人同士の話し合いで解決できず遺言書の内容に不満がある相続人は、裁判所に遺言無効確認請求調停や訴訟を行うことができます。
まずは調停を行うことが考えられますが、話し合いが満足にできなかったことからいきなり訴訟を提起することもあります。
この調停や訴訟で遺言書の無効が確認されれば、改めて相続人による遺産分割協議を行います。
また、遺言書の有効性が確認された場合には、その遺言書にしたがって遺産分割が行われるため、遺留分に満たない相続人はその不足額を他の受贈者に請求することができます。
まとめ
いつかやってくる相続にあたって、後々争いにならないでほしいと願う気持ちは、誰もが抱いていることと思います。
公正証書遺言は、円滑に相続を行うための良い方法だといえます。
ただし、それはきちんと効力のあるものでなければなりません。
公正証書遺言の効力について正しく理解し、安心できる遺言をしておきたいものです。