この記事でわかること
- 養子縁組した場合の相続について、全体像が理解できる
- 相続放棄の手続きがわかる
- 養子の場合に注意すべきことがわかる
血縁を重んじる日本人にとって、養子縁組は決して身近な制度ではありません。
従来、子どもがいない家庭や相続税対策など、ごく限られた場合に縁組が行われてきました。
一方で、特別養子縁組の成立要件の緩和や民間あっせん機関の増加により、養子縁組の成立数は近年増加傾向にあります。
養子を家族に迎える家庭が増えている状況において、相続についてもあわせて考えておくことは重要です。
養子縁組は相続にどのような影響があるのでしょうか?
実子(実の子)と養子で相続分は異なるのでしょうか?
ここでは、養子縁組した場合の相続について、詳しく説明していきます。
あわせて、相続放棄や代襲相続についても触れ、養子縁組と相続上の注意点もみてみましょう。
目次
養子が相続できる財産
まず、養親(養子縁組した親)からの相続について説明します。
実子と養子では、相続できる財産(法定相続分)に差はありません。
養親が亡くなった場合、血のつながらない子だからといって、実子より相続分が少ないということはありません。
このように、養子を迎えた家庭の相続は、実子と養子で分け隔てなく平等に行われます。
なお、養子縁組を解消(離縁)した場合は、養親との親族関係はなくなります。
そのため、離縁後に生じた養親の相続は受けられません。
ただし、離縁前に開始した養親の相続については、相続できます。
相続後に離縁した場合、養子は相続財産を返す必要はありません。
特別養子縁組では、実親からは相続できない
次に、実親(養子の実の親)からの相続についてみてみましょう。
養子は、養親だけでなく実親の財産も相続できるのでしょうか?
養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組があります。
まずは、両者を比較してみましょう。
普通養子縁組 | 特別養子縁組 | |
---|---|---|
成立要件 | ・養親は夫婦の一方、独身でも可(ただし、成人していること) ・養子の年齢制限なし ・実親の同意が必要 |
・養親は婚姻している夫婦で、どちらか一方が25歳以上であること ・養子は原則として15歳未満であること ・実親による養育が困難であること(同意が必要) |
手続き | 当事者間の合意(契約の締結) | ・家庭裁判所の審判 (許可が必要) ・試験養育期間6ヶ月 |
実親との親族関係 | 継続する | 終了する |
戸籍上の表記 | 養子、養女 | 長男、長女 |
縁組の解消(離縁) | 当事者間の合意で離縁できる | 原則として離縁できない |
特別養子縁組は、子どもの福祉の増進を図ることを目的とした制度です。
たとえば、実親による虐待やネグレクト(育児放棄)などが認められる場合に、子どもの安全な環境を確保して、愛情を受けられる家庭で育てられるように縁組が行われるケースなどが想定されます。
そのため、特別養子縁組では、家庭裁判所の許可や長い試験養育期間が求められるなど、普通養子縁組と比べて手続きが厳格になっています。
では、話を相続に戻しましょう。
上の表にあるとおり、普通養子縁組では縁組後も実親との親族関係が継続しますが、特別養子縁組では親族関係が終了します。
実親との親族関係が継続する普通養子縁組では、養親だけでなく実親からの相続も受けられます。
一方で、特別養子縁組の場合、実親との親族関係が終了するため、実親から相続は受けられません。
どちらの制度を選択するかによって、養子が受けられる相続範囲が異なることを知っておきましょう。
養子の代襲相続とは
次に、代襲相続について説明します。
代襲相続は、一定の条件のもと、相続人の子が相続人を代襲して相続を受ける制度です。
たとえば、祖父が亡くなった時点ですでに相続人である父親も亡くなっている場合、その子ども(祖父の孫)が父を代襲して相続人となるような場合が代襲相続の典型的な例です。
ここでは、養子と代襲相続について理解しましょう。
代襲相続の基本的なルール
その前に、代襲相続の基本的なルールを説明します。
代襲相続が発生するのは、相続人が以下のいずれかに該当する場合です。
- ・相続の開始以前に死亡した時
- ・相続欠格事由に該当した時
- ・相続廃除された時
1つ目は、上で説明した典型例が該当します。
2つ目の相続欠格事由に該当するのは、たとえば財産目的で被相続人を殺害(しようと)するなど、一定の違法行為があった場合です。
3つ目の相続廃除は、被相続人に対する侮辱や虐待などの不良行為がある場合で、特定の相続人を廃除するには被相続人から家庭裁判所への申し立てが必要になります。
なお、2つ目の相続欠格事由に該当する場合と3つ目の相続廃除の場合は、相続開前だけでなく開始後に発生した場合であっても、代襲相続となります。
また、代襲されるのは被相続人の直系卑属(下の代)に限定されます。
直系卑属であれば、曾孫や玄孫など何代でも代襲されます。
一方、たとえ直系であっても尊属(上の代)には代襲されません。
養子縁組前に生まれた養子の子は代襲相続できない
ここで、養子の場合に注意することがあります。
代襲相続は、相続開始時点に代襲者が被代襲者の直系卑属であることが必要です。
祖父母(養親)と母(養子)が養子縁組をしている家庭の子どものケースで考えてみましょう。
この場合、養子縁組前に生まれた子は相続開始時点では祖父母の直系卑属にはあたらないため、代襲相続できません。
つまり、養子が縁組前と縁組後に子どもを産んだ場合、縁組後に生まれた子どもは代襲相続できますが縁組前に生まれた子は代襲相続できないことになります。
同じ親(養子)から生まれた子どもであっても、養子縁組のタイミングによっては代襲相続ができない場合があることを知っておきましょう。
相続放棄とは?相続したくない時の対処法
最後に、相続放棄について説明します。
相続は、放棄することもできます。
相続が開始すると、相続人は原則として被相続人のすべての財産(権利義務)を承継します。
しかし、相続財産には、不動産や金融資産などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産(負債)がある場合もあり得ます。
相続人にとっては、被相続人が亡くなったことで、ある日突然全く知らなかった多額の負債を背負わされる羽目になることもあるわけです。
そこで、法律では、相続人は相続する範囲を選択できることになっています。
相続人が選択できるのは、以下のいずれかになります。
- ・すべての財産を相続する(単純承認)
- ・相続財産の範囲を限定して相続する(限定承認)
- ・相続を放棄する(相続放棄)
負債が大きい場合や一人の相続人に相続分を集中させたい場合などは、相続放棄を選択することもあるでしょう。
親が相続放棄したら子どもが代襲相続する?
ここで、先ほど説明した代襲相続と、相続放棄の関係についても考えてみましょう。
親が相続放棄した場合、子は代襲相続するのでしょうか?
答えはノーです。
相続放棄した場合、代襲相続は認められないことになっています。
これは、実子の場合も養子の場合も同じです。
相続放棄の手続は3ヶ月以内に
相続放棄の手続きについて、説明します。
単純承認以外の方法で相続する場合、家庭裁判所への申述が必要になります。
相続放棄をする場合、相続が開始したことを知った時から3ヶ月以内(熟考期間)に家庭裁判所に申述する必要があります。
この点についても、実子の場合と養子の場合で違いはありません。
「相続が発生したことを知った時」とは、被相続人が亡くなった時ではなく、亡くなった旨の通知を受けて自分が相続人になったことを知った時点になります。
相続が発生したことを知った時は、熟考期間中に法定相続人と相続財産を洗い出し、自分の相続分について相続するかを決められなかった時は、相続を単純承認したことになります。
熟考期間中に決められない時は、期間経過前に期間の伸長を家庭裁判所に申立てましょう。
伸長される期間については特段の定めはありませんが、通常3ヶ月くらいといわれています。
いったん家庭裁判所に受理された相続放棄は取り消す(撤回する)ことができないので、十分に検討してから申述しましょう。
まとめ
養子の場合、養親の相続は実子と同様に行われます。
ただし、離縁した場合は、離縁後に発生した養親からの相続は受けられません。
一方で、実親の相続は、普通養子縁組と特別養子縁組のどちらかによって、分かれます。
特別養子縁組では、養子は実親から相続は受けられません。
相続開始の時に相続人がすでに亡くなっている場合などは、直系卑属に代襲相続されます。
養子縁組前に生まれた養子の子は直系卑属にあたらないため、代襲相続できません。
また、相続放棄した場合は、代襲相続されません。
相続放棄の手続は、相続が開始されたことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所への申述が必要です。
相続すべきか期間内に決めることが難しい場合は、期間経過前に期間伸長を申立てましょう。