この記事でわかること
- 養子縁組で代襲相続が起こった時の相続人
- 二重相続資格者の要件と法定相続分
- 代襲相続で相続税が2割加算になる条件
養子縁組が関係する代襲相続は、相続人の判断が難しく、トラブルの原因になる場合があります。
この記事では、養子縁組が関係する代襲相続の基本から、再代襲や相続放棄、二重相続資格者、相続税の2割加算など、具体的な要件と注意点を解説します。
この記事を読めば、相続に関するリスクを回避し、家族の相続問題をスムーズに解決するための知識を得られるでしょう。
目次
養子縁組しても代襲相続が発生する
養子縁組した親子や養子縁組による兄弟姉妹は、法律上はほとんど変わりませんが、養子縁組でも条件を満たせば代襲相続は発生します。
ここでは、養子縁組による代襲相続のしくみについて解説します。
代襲相続とは
被相続人が亡くなった時点で、以下の3つの条件のどれかに該当すると、対象の相続人は相続できませんが、相続権を失った元相続人の子(孫、甥・姪)が代わりに相続できます。
- 子や兄弟姉妹などの本来相続人が既に亡くなっている場合
- 相続欠格事由に該当した場合
- 相続人廃除を受けた場合
この一連の相続を通常の相続と区別して、代襲相続と言います。
たとえば、2023年に死亡した被相続人Aの実子Bが既に2020年に亡くなっていた場合、実子Bの子である孫Cが代わりに相続する権利、代襲相続する権利を持ちます。
しかし、代襲相続は子・孫といった直系卑属と、兄弟姉妹のみに発生し、親・祖父母が相続人の場合や配偶者については適用されません。
親が相続放棄すると、子は代襲相続しない
代襲相続が起こるのは前述した3つの場合に限られるため、相続放棄した人の子どもに代襲相続は発生しません。
代襲相続の条件に相続放棄が入っていないことに注意しましょう。
代襲相続人である孫まで先に亡くなっていると、ひ孫が再代襲できる
もし代襲相続すべき孫までが被相続人よりも先に亡くなっていると、ひ孫が再度代襲相続する権利を得ます。
このように、代襲相続すべき人に再度代襲相続が起こる場合を再代襲と言い、孫・ひ孫といった直系卑属については、理論上、何代先までも再代襲が認められています。
しかし、兄弟姉妹の再代襲は認められておらず、代襲相続は甥・姪の一代限りです。
養子縁組の関係でも原則、代襲相続できる
養子縁組を結ぶと法律上の親子関係が発生し、新たに法律上の兄弟姉妹という関係も発生します。
養子縁組により発生した身分関係は、血縁の親子・兄弟姉妹の関係と変わらないため、子・孫や甥・姪にも原則、代襲相続は発生します。
しかし、養子縁組のタイミングや状況によって、代襲相続できないという例外もあります。
次に、養子縁組でも代襲相続できないケースを解説します。
養子縁組でも代襲相続しないケース
既に述べたように、養子縁組は血縁関係と同等の身分関係のため、代襲相続は発生しますが、養子縁組前の子や、養子縁組解消後など、代襲相続できないケースも存在します。
養子縁組前の子(孫・甥・姪)は代襲相続しない
養子縁組前に生まれた子には、代襲相続が発生しません。
祖父母(養親)と父母(養子)の養子縁組後に父母に子どもが生まれるという流れに沿っていれば代襲相続が認められますが、養子縁組前に生まれていた養子の連れ子は代襲相続できません。
兄弟姉妹の代襲相続でも同様に、養子縁組前の子(被相続人の甥・姪)は代襲相続できず、養子縁組後の子は代襲相続できます。
養子縁組の前後で代襲相続できるかどうかが決まるため、同じ両親の子どもにもかかわらず、代襲相続できる子どもと代襲相続できない子どもに分かれる、というケースが起こり得ます。
このような事態が起こる状況であれば、代襲相続できない子ども(孫)に財産の一部を残す遺言書を書いておくのも、紛争を防ぐ方法です。
死後離縁後の相続は代襲相続しない
養子縁組後の子であれば代襲相続できますが、養子縁組が死後離縁された後の相続は代襲相続できません。
死後離縁とは、養子縁組している親子のどちらか一方が亡くなった後、家庭裁判所の許可を受けて養子縁組を解消する手続きです。
本来、養子縁組は当事者の死後も継続するため、養子の子(孫)と養親(祖父母)の関係は変わりませんが、死後離縁をすると養子縁組の関係が断たれるため、養子縁組でつながっていた孫と祖父母の関係もなくなります。
このケースでは、2020年にAの養子Bが死亡し、2021年に死亡離縁しています。
孫Cは養子縁組前の子のためにそもそも代襲相続できません。
また養子縁組後の子である孫Dは、死後離縁して被相続人Aとは他人になってしまったため、法律上の身分関係がなく、代襲相続できなくなります。
養子に代襲相続が発生したときの注意点
養子に代襲相続が発生したとき、相続権の有無、他の相続人との関係、相続税加算といった注意点があります。
ここでは、養子の代襲相続に関わる注意点を解説します。
死後離縁は既に発生している相続に影響しない
死後離縁で養親との関係を断てますが、既に発生している相続に関しては影響しない点にも注意が必要です。
たとえば、Aさんの実父が亡くなり、その後に実父の養母(祖母)が亡くなった場合、祖母の相続に巻き込まれたくないために死後離縁を行ったとします。
しかし、祖母が亡くなった当日時点でAさんは代襲相続人だったため、死後離縁が認められたとしても、相続する権利は残存しており、遺産分割協議に参加しなくてはなりません。
養子縁組で発生する代襲相続を避けるためには、養親が存命中に養親(祖父母)と実親との養子縁組を解消(離縁)するか、養親の相続を知ってから3カ月以内に相続放棄するかのどちらかを考えましょう。
代襲相続人も相続放棄できる
養子縁組による代襲相続人でも、通常の相続人と同じく相続放棄できます。
相続放棄は下の世代に再代襲されない点にも注意が必要です。
先に亡くなった実親の養子縁組でできた関係が不仲であり、相続に関してトラブルが考えられるという場合を考えてみましょう。
相続に関わりたくない人は、祖父母(実親の養親)が存命中に養子縁組を解消するか、もしくは祖父母の死後は相続放棄する、という方針をあらかじめ想定しておくとよいでしょう。
実の祖父母と養子縁組している場合は二重相続資格者
父方の祖父と養子縁組をした後、祖父より先に父が亡くなると、養子は二重相続資格者になります。
たとえば、父には姉と妹がおり、自分が一人っ子で祖父と養子縁組し、父が先に亡くなっている場合、祖父が亡くなった場合の相続分は、養子としての4分の1、代襲相続した亡父の相続分4分の1、合わせて2分の1が相続分となります。
相続分の計算をする時には、養子としての相続分と、代襲相続分(今回のケースでは亡父が受け取るはずだった相続分)の2つの計算を忘れないようにしましょう。
相続税の2割加算を受ける範囲
相続税の計算において、被相続人の配偶者、一親等の血族(父母、子)以外は算出された相続税額に2割加算されるというルールがあります。
養子縁組をしている孫については、孫の親(被相続人の子)が既に亡くなっていて代襲相続をしている場合(二重相続資格者)は2割加算なし、代襲相続していない場合は2割加算有り、とされています。
したがって、兄弟姉妹はもちろん、甥・姪は養子縁組の前後を問わず、相続財産をもらった人は上記の配偶者・一親等の血族と子の代襲相続人以外は全員が2割加算されます。
まとめ
養子縁組が原因で代襲相続が発生する場合、法律上の親子関係や兄弟姉妹関係は血縁と同様に扱われます。
養子縁組で代襲相続が発生している場合は、特有のポイントの理解がとても重要です。
特に養子縁組前後の関係や死後離縁の影響について注意が必要です。
養子縁組で代襲相続が発生した場合は、複雑でトラブルの可能性もあるため、弁護士などの専門家へ相談しましょう。