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最終更新日:2024/12/25

遺産使い込みの時効は3~10年!返還請求や民法改正について

弁護士 川﨑公司

この記事の執筆者 弁護士 川﨑公司

東京弁護士会所属。新潟県出身。
相続問題は複雑なケースが多く、状況を慎重にお聞きし、相続人様のご要望の実現、相続人様に合ったよりよい解決法をアドバイスさせていただくようにしています。

PROFILE:https://vs-group.jp/lawyer/profile/kawasaki/
書籍:この1冊でわかる もめない遺産分割の進め方: 相続に精通した弁護士が徹底解説!

この記事でわかること

  • 遺産の使い込みに対する時効
  • 遺産の使い込みは回収できるのか
  • 遺産の使い込みで泣き寝入りしない対処方法

勝手に親の口座からお金を引き出されていた、いつの間にか不動産を処分されていた・・・。
相続が開始され、財産の調査をしていく中で使い込みが発覚し、どう対処すればいいかお困りの方もいることでしょう。

今回は、遺産の使い込みに対する時効と、相続財産が使い込まれていたと気づいた時にできる対処法を詳しく解説していきます。

遺産使い込みの時効は3~10年

遺産の使い込みの時効は3年~10年です。
なぜこのような開きがあるのかというと、遺産の使い込みに対して請求できる権利が2つあり、その時効が3年~10年であるためです。
共有財産の使い込みや遺産隠しなども、同じように請求できます。

ここでは、遺産の使い込みに対して請求できる損害賠償請求不当利得返還請求の2つの請求権について詳しく解説します。

損害賠償請求権の時効

遺産の使い込みは、本来他の相続人が取得できるはずの権利を侵害していることになり、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
損害賠償請求権の時効は、被害を知った時および加害者を知った時から3年です。
使い込みが発覚した時点から3年と覚えておくといいでしょう。

訴えを提起するには家庭裁判所に申立てる必要があります。
損害賠償請求で訴えるためには、証拠集めが欠かせません。
証拠の収集には時間がかかるため、訴えを起こす場合は早めに対応する必要があります。

不当利得返還請求権の時効

遺産は相続人全員で分け合うものであるため、合意を得ずに1人が多めにまたはすべてを取得することは、不当利得にあたります
不当利得返還請求権の時効は、請求できることを知った時から5年または請求できるようになってから10年です。
使い込みが発覚した時点から5年、使い込みが行われた時から10年と覚えておきましょう。

損害賠償請求と同様に、家庭裁判所に提起します。
弁護士費用は不法行為によるものであれば相手方に請求できますが、不当利得では請求できないことに注意が必要です。
訴えの提起を弁護士に依頼する場合は、その点も考慮するとよいでしょう。

使い込まれた遺産を取り戻しにくい理由

遺産を使い込まれていたことが発覚すれば当然、自分の権利として取り戻したいと考えるのが一般的でしょう。
しかし現実は、遺産を取り戻すことは難しいと言わざるを得ません。
特に生前、使い込まれていた財産を取り戻すことは非常に困難です。
その理由を4つ解説します。

使い込んだ証拠が見つかりにくい

遺産が使い込まれたかどうかは、証拠を集めて立証するしかありません。
証拠となるのは、以下のようなものです。

  • 被相続人の預金口座の取引履歴
  • 被相続人の株式、不動産など資産の取引履歴、契約書
  • 被相続人の介護記録、入院記録、支払い明細

すべての資料を集めて突き合わせることは手間と時間がかかりすぎるため、非常に難しいでしょう。

使い込んだ額がわかりにくい

たとえば同居の子が親から生活資金の管理を任されていたような場合、何にいくら使ったのか、引き出した金額と使った金額の整合性を立証することは困難です。
また、使い道が生活費の範囲内かどうかを判断することもハードルが高いといえます。

立証できなければ、たとえ使い込まれていたとしても遺産を取り戻すことはできません。

使い込みを素直に認める可能性が低い

使い込みをしていた本人に問いただしたところで、素直に認めることはあまり考えられません。

  • 親から頼まれていただけ
  • 手間賃として多めに受け取っただけ

このように言われれば、否定することは難しいでしょう。

遺産を取り戻すには、その主張を覆すほどの証拠をそろえることが必要になります。

そもそも使い込みに気付かない

元々、親がどれほどの資産を持っていて生活資金にいくら使っていたか、生活水準を把握していなければ、使い込まれたかどうかの判断は難しいでしょう。
さらに引き出し金額が少額の場合や、現金を使い込まれていた場合は気付くことは困難です。

もし親の認知機能が低下していれば、親自身も把握できていない可能性があり、使い込みかどうかの判断はより難しくなるでしょう。

遺産の使い込みで泣き寝入りしない対処法

遺産の使い込みは取り戻しにくいものではあるものの、泣き寝入りしないために使い込みが疑われる場合の対処法をご紹介します。
まず調査により遺産が使い込まれた事実を立証し、その後の対応を決めていきます。
順番に見ていきましょう。

遺産の使い込みを調べる方法

本当に遺産が使いこまれているのか、まずは証拠を集めて事実確認をする必要があります。
使い込みを調べるための3つの方法を具体的にみていきましょう。

被相続人の通帳を確認する

まずは被相続人の通帳の取引履歴を確認する方法です。
引出金額、頻度、時期などから不自然な取引がないかチェックします。

ただし、手元に通帳がある場合に限られます。
ネット銀行やWEB通帳を利用している場合は、アカウントにログインする必要があるため、まずアカウント情報を確認しましょう。

通帳が手元にない場合や、過去に遡って履歴を確認したいときは銀行に取引明細書を請求する方法もあります。
本来、名義人しか請求できませんが、相続手続きによる場合は相続人でも発行できます。
証券会社や保険会社でも、相続人であることを示せば必要資料を発行してもらえるでしょう。

専門家に依頼する

使い込みを調査する中で、膨大な資料の確認と突き合わせが必要です。
個人で行うには負担が大きいため、弁護士に依頼することも一つの方法でしょう。

弁護士は弁護士照会制度という、法律によって定められた制度が使えるため、金融機関などから資料を効率よく集めることができます。

資料集めと内容の確認まで任せられるため、相続人の負担軽減になります。

裁判所に依頼する

本来、使い込みの事実を調べるには、被相続人と相続人の取引を突き合わせて確認することが必要です。
しかし個人で取引履歴を照会しても、被相続人本人名義の口座しか調べることができません。

自分以外の相続人の口座は、個人情報保護の観点から金融機関は開示に応じてくれないのです。
これは弁護士に依頼しても同じで、被相続人本人の情報しか調べられません。

この場合、裁判所に依頼をすると、裁判所から金融機関へ照会を行い調べることが可能です。
ただし、民事訴訟(損害賠償請求または不当利得返還請求)を起こしたうえで手続きをする必要があります。

遺産の使い込みが発覚したときの対処法

調査の結果、遺産の使い込みが発覚した場合にできる対処方法は3つあります。
順を追って解説していきます。

本人と話し合う

最初にできることは、使い込みをした本人と話し合うことです。
本人が使い込みを認めれば、そのまま遺産分割協議を進めることができます。

遺産分割協議書には、以下の内容をはっきりさせ記載しましょう。

  • 誰がいくら使い込んだのか
  • 使ってしまっている場合は使途不明金として記載
  • 使い込み対象の精算方法

しかし相続人の間で、使い込みの認識に差があることは少なくありません。
普段、生活を共にしていない相続人からすると、通帳の記録を見て「こんな金額、一体何に使ったのか」と思う一方、同居しながら介護などを行っていた相続人は「生活費としての必要経費である」と考えるでしょう。

本人が使い込みを認めない場合も少なくないため、その場合は調停・民事訴訟をする方法があります。

遺産分割調停を行う

使い込みが発覚したものの、本人が認めない場合は当事者間で遺産分割協議を進めることが困難なため、遺産分割調停を起こすことになります。
調停とは、家庭裁判所に申し立てる方法で、裁判官と調停員で組織される調停委員会が間に入り、遺産分割を話し合いで円満に解決できるようにするものです。

原則、遺産分割調停では、対象となる財産に争いがないことが前提とされます。
そのため使い込まれた部分を除いた遺産について協議が行われることになります。

訴訟を行う

使い込まれた遺産を取り戻すには別途、損害賠償請求もしくは不当利得返還請求の訴えを起こす必要があります。
勝訴すれば、裁判所から遺産を使い込んだ本人に対し、賠償請求や遺産の返還を命じられることになり、他の相続人は遺産を取り戻すことができます。

遺産使い込みに関する民法改正

今までは遺産の使い込みが発覚した場合、まず遺産分割調停を行い、使い込まれた遺産を取り戻すために、また調停とは別で損害賠償請求もしくは不当利得返還請求の訴えを起こす必要がありました。

しかし2019年の民法改正により、使い込みをした相続人が同意しなかったとしても、残りの相続人の同意があれば、使い込まれた遺産を相続財産に含めて遺産分割することが認められるようになったのです。

これにより、請求の訴えを起こさずとも、遺産分割調停の申立てだけで解決できるようになりました。

解決方法の例

相続人が長男、長女の2人、相続財産が6000万円だとします。
長男が1000万円使い込んでいたことが発覚した場合、実際は5000万円に目減りしてしまった財産に使い込んだ1000万円を持ち戻し、元のとおり6000万円として遺産分割することが可能になりました。

これにより法定相続で3000万円ずつに分割するところ実質、長男は1000万円使ってしまっているため、長男2000万円、長女3000万円を取得することになります。

遺産の使い込みに関するよくある質問


自身が遺産を使い込んでしまった場合、こんな不安を抱くこともあるでしょう。

  • 使い込みはバレるのか?
  • 罪に問われるのか?

そのような疑問にお答えしていきます。

遺産の使い込みはバレる?

遺産を使い込んでしまった場合、発覚する可能性はあります。
遺産分割協議では相続財産を徹底的に洗い出すことから始まるため、その過程で発覚することがあるでしょう。

また、相続税の申告をしたあとに税務署から指摘が入る可能性も考えられます。
税務署は金融機関の取引履歴等、過去に遡ってお金の動きをチェックしているため、税務調査から使い込みが発覚する場合があります。
遺産隠しは刑事罰の対象とされ、過少申告加算税として追徴課税5~10%、故意に遺産を隠したと認められると重加算税で30~35%の税額となります。

親の通帳から使い込んだら罪になる?

他人が財産を使い込んだ場合、横領罪や窃盗罪など刑事罰に問うことができますが、親族の場合は犯罪が成立したとしても法律上、刑が免除されるという特例があります。

その代わり、他の相続人から民事訴訟を起こされる可能性があるため、刑法上の罪は免れますが、民事上の責任を負うことになる可能性があります。

まとめ

遺産の使い込みが発覚すれば、何とか取り戻したいと考える人は多いでしょう。
遺産の使い込みは、相続人の権利として民事訴訟を起こすことで返還される可能性があります。
ただし、請求権には時効があるため、気付いた時点でどのような請求が可能かよく確認しましょう。

民法改正により遺産を取り戻しやすくなりました。
使い込みの疑いがある場合、まずは事実の調査からはじめていきましょう。

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