相続人が複数いた場合、一部の相続人が被相続人から生前に金銭的な援助などを受けていることがあります。
このような場合、相続人の公平性を保つために、相続分の調整を行います。
その際の具体的な計算方法と、多額な援助を受けていた場合の考え方について、詳しくご説明いたします。
特別受益とは?
複数の相続人がいた場合に、ある特定の相続人に対して被相続人が生前に、仕事のための資金を渡したり、結婚の際に結納金や結婚式のために金銭的援助をしたりすることがあります。
そのような場合、被相続人が亡くなり、相続財産を相続人で分配する時に、特定の相続人が受け取った財産を考慮して、相続をする必要があります。
このように、ある相続人が他の相続人よりも、被相続人から生前に特別に利益を受けた財産を「特別受益」と言います。
もし民法で規定された分け方で、相続財産を分配してしまえば、特別受益を受けた相続人と、受けていない相続人との間で不公平感が生じます。
ですから、その点を考慮した上で、相続財産を分けなければなりません。
ただ、被相続人から誕生日にプレゼントをもらったり、入学祝にお小遣いをもらったりする場合がありますが、それは基本的に「特別受益」とは言えません。
民法では、婚姻のための贈与、養子縁組のための贈与、生計の資本のための贈与の三つを「特別受益」の条件としています。
なお、生計の資本には、特別な学費も含まれます。
特別な学費とは、例えば、他の子どもの一人だけが親から大学医学部の学費を出してもらう等の場合です。
相続の計算
「特別受益」がある場合の相続分の計算ですが、まず被相続人の亡くなった時点での財産に、特別受益分を足したものを相続財産とします。
そして、この相続財産を法定相続分で分配して、それぞれの相続人の相続財産額を出します。
それから、特別受益を受けた相続人の相続分から特別受益の金額を引きます。
これを具体的な金額で説明しましょう。
相続人は、兄と弟の二人で、兄は大学、大学院にいくための学費「1,000万円」を親に出してもらっていて、弟は高卒で、大学、大学院の学費援助は受けていないとします。
そして父親が亡くなり、4,000万円の財産を残した場合には、民法に規定された法定相続分に従って、兄と弟は半分ずつ(2,000万円ずつ)を受け取ることになります。
しかし、兄だけが父親から1,000万円の特別受益を受けていますから、まず相続財産額の4,000万円に1,000万円を足します。
「(4,000+1,000)=5,000万円」となり、この金額を法定相続分(2分の1ずつ)で分けます。
「(5,000÷2)=2,500万円」となり、兄と弟が2,500万円を受け取ることになりますが、兄には1,000万円の特別受益がありますたら、実際に相続されるのは、「(2,500-1,000)=1,500万円」となります。
これが、特別受益があった場合の具体的な計算方法です。
もう一つ、別の例を挙げてみましょう。
母親が亡くなり、相続人は父親と長男、次男の三人だとします。
長男は、生前母親から、事業を始めるにあたり2,000万円の援助を受けましたが、次男は特にこのような援助は受けていません。
しかし次男は、生前母親から、結婚する際に、結納金や結婚式としての金銭500万円の援助を受けていましたが、長男は特にそのような援助は受けていません。
そして、母親が5,500万円の財産を残して亡くなったとします。
本来、民法の法定相続分で、父親(2分の1)、長男(4分の1)、次男(4分の1)となり、父親が2,750万円、長男と次男が1,325万円ずつを相続します。
しかし、長男、次男に「特別受益」がありますので、実際の相続額を算定するには、まず相続財産に特別受益額を足します。
つまり、「(5,500+2,000+500)=8,000万円」となります。
次に、この金額を法定相続分で分けると、父親が4,000万円、長男が2,000万円、次男が2,000万円となります。
そして最後に、特別受益分を引きます。
そうなると、父親はそのまま4,000万円、長男は「(2,000-2,000)=0円」、次男は「(2,000-500)=1,500万円」ということになります。
特別受益と遺言書との関係
生前に、特定の相続人に贈与すると「特別受益」になることは、既に説明したとおりですが、もう一つ、遺言書との関係を考える必要があります。
例えば、遺言書の中で、「長男に、○○を遺贈する」と書かれていた場合、それも「特別受益」とみなされます。
つまり、相続財産を相続人で分配する際には、遺贈された財産を含めて、法定相続分で分配することになります。
ただし、被相続人が遺贈する財産を「特別受益」として、差し引かない旨の記載をしていた場合には、相続人はそれに従うことになります。
しかし、これにも例外があります。
それは、遺贈される財産が、相続人の遺留分を侵してはいけないということです。
ですから、被相続人は遺言書を作る際に、この点を考えて、遺贈をしなければなりません。
まとめ
相続人の一部が、被相続人から生前「特別受益」を受けていた場合、相続財産の分配には、十分注意する必要があります。
ただ、「特別受益」には一定の条件がありますので、相続人間での情報交換を十分しておかないと、トラブルの原因になります。
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