目次
相続では、「相続分が無いことの証明書」を偽造や流用して、不正な不動産の登記を行うケースも意外に多いことが知られています。
相続分が無いことの証明書とは何か、偽造や流用した証明書は効果があるか、偽造や流用が発覚した場合はどうなるかなどについて、解説します。
「相続分が無いことの証明書」について
相続人である長男が、自宅を譲り受けて自分の名義に変更する場合など、不動産の登記申請手続きで、他の相続人に相続分がない証明書を作成する場合があります。
相続分が無いことの証明書とは?
遣産の分割では、特定の財産をひとりの相続人が譲り受けることがあります。
このような場合、不動産の登記においては、遺産分割協議書に代えて、「相続分が無いことの証明書」を作成することがあります。
「相続分が無いことの証明書」は、相続人のひとりだけが譲り受ける相続財産について、他の相続人が、「自分には相続分がないことを証明」するものです。
具体的には、それぞれの相続人が「自分は、特別受益や分割により他の相続財産の配分を受けているため、この物件について相続分がない」とするものです。
証明書は、決まった書式がなく、亡くなった方を住所氏名などにより特定でき、自分には「相続する相続分が無いことを証明する」との内容が書かれていれば良く、あとは、証明を受ける相続人の押印と印鑑証明書があれば足りるとされています。
ただし、偽造、流用でも、 この証明書を作成すれば手続き的には通用してしまうため、問題になります。
証明書は相続放棄と同じ?
証明書に記載されている相続人は、相続分がないことを証明することになるため、相続放棄とも受け取られる心配があります。
しかしながら、一般的に、証明書には、「別の相続財産を譲り受けている」などの記載があるため、相続放棄と扱われることはありません。
証明書の偽造と証明書の効果
相続分が無いことの証明書は、通常、特定の不動産の登記手続きについて作成される書面です。
しかしながら、証明書が偽造されることや、別の不動産に流用されることも多いことが知られています。
証明書の偽造や流用
証明書は、相続放棄や遺産分割協議書などとは異なり、証明が必要な本人の印鑑と印鑑証明書があれば、簡単に作成することができます。
このため、偽造や流用され登記手続きが行われることにもつながります。
流用の心配を避けるためには、「相続分がない」対象の財産を明記しておくことが大切です。
また、安易に印鑑や印鑑証明書を貸さないことが、重要です。
不動産の登記
不動産の登記手続きは、法務局で行います。
法務局では、提出された書類について必要事項が揃っていることが確認されれば、事務的に手続きが行われます。
たとえ偽造や流用されている場合でも、書類に不備がなければ、登記手続きを行うことができます。
証明書は、必要事項が記載され、本人の印鑑と印鑑証明書があれば通用するため、法務局で偽造や流用などを見分けることは困難です。
偽造と判明した場合、不正な登記は無効
ただし、偽造や流用など不正であることが判明した場合、登記は無効となります。
また、登記が無効となるだけでなく、印鑑や印鑑証明書の偽造、または盗取、流用などの不正入手もあったことになります。
偽造は刑事告訴や民事訴訟の対象
相続分が無いことの証明書の偽造などによる不正は、刑事告訴や民事訴訟の対象となります。
民事訴訟
不正は犯罪で、有印私文書偽造および行使罪、公正証書原本不実記入罪に該当します。
印鑑証明書についても、有印公文書偽造および行使罪、文書の流用については背任罪など、数種類の犯罪が成立することから、刑もかなり重くなると考えられます。
この場合は、民事訴訟事件として、抹消登記や所有権移転登記手続き、真正な登記回復手続きといった是正を求めることになります。
不正により放棄したことになった不動産について、相続回復請求権の対象になる場合もあります。
刑事告訴
証明書の偽造は犯罪であり、刑事事件として告訴することができます。
相続人同士の刑事告訴に踏み切るかどうかは別としても、不正を働いた当事者に対しては、交渉でも有利になります。
まとめ
相続分が無いことの証明書の偽造や流用による登記は、無効となるだけでなく、犯罪です。
不正が判明すれば、民事訴訟や刑事告訴の対象となり、裁判ともなれば無益な時間や労力がかかり、精神的なダメージも大きなものとなります。
身内を巻き込んだ相続でのトラブルを回避するためにも、軽率に印鑑や印鑑証明書を渡さないことが重要です。
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