目次
会社や農家などの遺産を相続する場合、会社や農家として事業を継続できるかどうかを考慮した遺産分割を行うことが重要です。
事業を継続するため、事業用の資本や資産、経営権などを相続する方法について、会社や農業、個人商店のケース別に解説します。
事業遺産の相続での分割方法や注意点
遺産の種類や分割方法、事業遺産を相続する際の注意点について解説します。
事業用の遺産
遺産を分類すると、預貯金や有価証券などの金融資産、土地や建物などの不動産、家具や自動車などの動産、機械や原材料などの事業用財産、特許権や商標権などの各種権利に分けることができます。
亡くなった方の遺産のうち、事業を営むための財産も相続の対象となります。
代表的なものとしては、会社の場合は株式、会社のビルや敷地、農業の場合は農地の所有権や利用権、農機具、個人商店の場合は機械や備品、原材料などがあります。
遺産分割の方法
亡くなった方の遺産を分割する方法には、現物分割、換価分割、代償分割の3種類があります。
現物分割
相続人それぞれが、自宅の敷地や建物、預貯金、株式といった個々の財産を分割する方法です。
事業を営んでいる場合には、事業用の遺産を分割してしまえば、のちにトラブルの原因になることがあります。
換価分割
現物の代わりに、遺産の全部または一部を売却した代金を分割する方法です。
使用中の不動産や未公開株式などは換金することができません。
代償分割
分割できない不動産や未公開株式など現物分割や換価分割を行うことができない遺産の相続人が、他の相続人に対して現金で支払う分割方法です。事業を継承する相続人は、事業用の不動産や株式を保有することができます。
事業を相続する場合の注意点
事業を相続する事業承継では、他の相続人との間で遺産をめぐるトラブルが発生したり、会社の業績が悪化するケースも多く、事業の存続が困難になるケースが存在しています。
このため、事業承継では、事業を相続する相続人と、他の相続人との間での遺産トラブルが起こらないように注意することが重要です。
中小企業の場合、事業に必要な資本や資産を、経営者が個人で所有していることも稀ではありません。
一般的な相続のように遺産を分割してしまえば、会社の経営や事業の運営に支障が出ることが懸念されます。
このため、事業の相続に際しては、後継者となる相続人に事業用の資本や資産を集中させる必要があります。
一方、後継者以外の相続人に対しては、事業用遺産の代償についての検討が重要になります。
会社を相続する場合
株式は、上場株式でも非上場株式でも、分割可能な遺産のため、遺産分割の対象となります。
しかしながら、株式が細分化されてしまえば、会社の経営に支障が出ることが問題となります。
一般的に、後継者には、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上の議決権を得られる程度の集中が望ましいと言われています。
遺産分割協議で合意があれば、後継者となる相続人が株式の全部を相続することが可能です。
後継者以外の相続人へは、代償分割によって配慮する方法を検討します。
このほか、議決権のない「無議決権株式」を発行して、他の相続人に遺贈する方法もあります。
農家の遺産を相続する場合
農家は、農業を営む企業です。
農地の所有権や利用権、農機具や施設などを総合的に利用して、農業を継続することができます。
農地を分割して細分化する相続が増え、農家の経営規模が小さくなったことで、作業効率や経営効率が低下したことが問題になってきました。
遺産分割は、相続人全員の合意によって成立します。
農地や農機具なども、遺産分割の例外とはなりません。
このため、分割については、事業用以外の遺産についての換価分割や、代償分割を行う方法があります。
なお、農地の相続評価額は、宅地などに比べかなり低いことが一般的です。
このほか、一定期間分割を禁止する方法や、相続人の共有財産にして農業を継続する相続人が、他の相続人に対して賃料を支払う方法も考えられます。
商店を相続する場合
個人商店も、事業を営む企業です。
電気店であれば、販売用の店舗、店舗に飾る電気製品の在庫や付属部品が必要です。
また、配達や修理には、運搬用の車両が不可欠です。
電気店を営むための事業用資産も、遺産分割の対象となることは間違いありません。
しかしながら、事業用の遺産が分割されてしまえば、事業を継続することが困難になってしまいます。
このため、分割については、事業用以外の遺産についての換価分割や、代償分割を行う方法があります。
なお、農業ほどは、事業を継続するための保護や優遇措置はありません。
他の相続人に対しては、経営を断念しないで済むよう、店の継承の事情や重要性を主張して考慮を求めることが考えられます。
まとめ
事業の遺産を相続する場合、事業を継続する観点からの遺産分割が重要になります。
しかしながら、事業の承継者は、後継者となる相続人以外から、事業用の遺産も分割対象として主張されることは避けて通れません。
このため、他の相続人に対する代償分割などの方法を検討するとともに、事業を継承するための事情や、亡くなった方が事業で築いた遺産への寄与分などを主張することも重要になります。
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